夜 明 け の 同 窓 会 


★ エピローグ 1998年12月 ★

 

「そっか、ようやく終わったんだな…」
送られてきた写真を感慨深げに眺めながら、弘希はつぶやいた。あれから一月ほど経っていたが、もう遠い日の出来事のような気がする。
今、弘希が手にしているものは、夜が明けたあと、みんなで集まった記念に撮った写真だ。そこには、あの日集まった全員のすがすがしい笑顔がある。
あの日、夜が明けたあと、沙希たちが作ってくれた軽食を片手にみんなで昨夜のことを話し合ったものだ。
その朝、みのりたちから再び連絡があった。あの大出現のときに順番が当たったバンドは、パニックのため途中で演奏を中断しなければならなかったそうだ。後で聞いたところによると、その結果、コンサートはその日の午前中までずれ込むことになったらしい。
同時観測を行っていた、智香子たちのチームからも電話があった。彼女の話によると、CCDカメラの限界ギリギリまで観測を行っていたそうだ。データを突き合わせるのが楽しみだと嬉しそうに話していた彼女の声が、今でも鮮明に蘇ってくる。
解散の前に、みんなで夜明けのコーヒーで乾杯をした。結局、二台あったCCDカメラの一台は、智香子の元にいくことになった。おそらく、今後も彼女のもとで大活躍することだろう。
その後、旧科学部と同窓会のメンバーはすぐに帰路につき、サークルのメンバーはそこで仮眠を取ることになった。そこにいた全員と再会を約束して、弘希は彼らと別れたのだ。




そして、今、弘希の手元には、一枚のDVDディスクと、三十六枚撮りフィルム一本分の写真がある。DVDディスクは先にやってきたもので、写真はついさっき届いたものだ。ちゃんとアルバムに編集されているあたりに、篤志たちの感謝の気持ちが感じられる。みんな、あの日の思い出だ。
DVDディスクには、あの後篤志の大学で解析された、あの日のデータが焼き付けられていた。これを見る度に、解析を終えた篤志たちから電話がかかってきたときのことがまざまざと思い出される。
"あの流星雨を三次元的に解析できるなんて、ほんとに夢みたい。ありがとう、冴草くん。みんな、あなたの作ってくれたCCDカメラのおかげよ……"
おそらく泣いていたのだろう、受話器の向こうで、智香子は声を詰まらせながら、何度も弘希に礼を言っていた。そして、ほどなく送られてきたのがこのDVDディスクなのだ。弘希がその意味を知ったのは、それを再生した後だった。
そう、彼らはあの日、CCDカメラで記録された60万あまりの膨大な数の流星の軌跡を、すべて解析することに成功したのだ。
その結果は、衛星画像から作成された三次元マップにブロットされた、あの日の動画にすべてが込められている。
日本上空が見る、あの日のしし座流星群。科学的な意義もさることながら、あの日のことを思い出すには、まさに最高の素材だ。
篤志からの手紙は、最後にこう結んであった。
"しし座流星群は、来年も見るチャンスがあります。この次は、ヨーロッパが最高の条件ということなので、今年ほどの大出現は期待できないかもしれません。
けれども、僕たちは、来年も観測をするつもりでいます。そのときは、この前集まったみんなも含めて、また一緒にしし座流星群を見ましょう。また同窓会ができる日のことを、楽しみにしています…"
そうか、また来年、か…。手紙と一緒に送られてきた写真を見ながら、弘希は微笑した。あの日集まったメンバーが再び出会うとき。その時、一体何が変わっているだろう、あるいは、何が変わらないままだろうか? おそらく、あのとき会えなかった旧友たち、そして今はまだ三年生の好雄の妹の優美やみのり、鈴音達後輩にも、この次は…。
流星群はともかく、同窓会は大騒ぎになるだろうな。そんな事を思いながら、弘希はアルバムを閉じるのだった。





                                                  …fin

目次に戻る  後書きに進む