部日誌15  『登場!初代王』



32世紀。場所は地球の日本。
舞台は横浜関内の私立。
海央学園(かいおうがくえん)中等部。園芸部部室真向かい。

『目安箱』なんて箱が部室前に鎮座する『よろづ部』

海央の象徴たる王(キング)の名を与えられた二代目王の少年。
彼をサポートする面々が集う文字通りの『よろづ部』
受けた依頼は完全解決をモットーとする何でも屋だ。

学年も上がった四月の始業式・後。


 初代王が現れた!!


その突拍子もない唐突なニュースが学園内を駆け巡っていた。
そんなよろづ部部室にて。

「ドキドキする〜」
胸を押さえるのは有志メンバー。
初代王と面識がない京極院 彩(きょうごくいん さい)。
落ち着かない様子で右往左往。

「はう――――!!」
彩の彼女。
同じく有志メンバーの京極院 未唯(きょうごくいん みい)は耳を押さえてぐったりしている。

浅黒い肌がトレードマークの坊主頭。
同じく有志メンバー・麻生 辰希(あそう たつき)は無意識に唾を飲み込む。
体全体が心臓になったかのよう。ドクン・ドクンと波打つ。
もうすぐ会えるのだ、本物の王に。
これがドキドキせずにいられようか、いやない。

「ちーっす」
フシュー。

よろづ部の部室扉が開いて現れたのは一人の少女。
ショートボブの黒髪。
やや左跳ねした前髪が特徴的で、左右の瞳が色違い。
赤と黒色の不思議な瞳を持つ少女だ。

「やあ、久しぶり」
まず部室にいた海央の王子こと、星鏡 和也(ほしかがみ かずや)が立ち上がる。
少女は和也に笑顔で応じた。

「「せーちゃん!?」」
続いて素っ頓狂な声を発するのは彩と未唯。
海央の制服に身を包んだ少女を指差し、仲良くユニゾンで叫ぶ。
少女は目を細めて笑って自分を指差した。
「そう、せーちゃんです♪」
楽しそうに肯定する少女。

せーちゃんというのはこの少女の愛称で、幼い頃は彩達、京極院の人間にはそう呼ばれていた。
京極院家とは近所の家に住んでいた少女で、彩とは幼馴染。
未唯と知り合うきっかけを与えた少女でもある。

「なんで海央に?」
何度も瞬きを繰り返し彩は一年ぶりに再会した幼馴染の顔を見た。
「ほえ?だって去年の春に『じゃ、またね』って言ったじゃん」
不思議そうに言い返す幼馴染の少女の言葉に、
「・・・確かにそうだけど」
頭の中の記憶を辿り。
そんなこと言われたっけなんて思い出し。彩りは口篭る。

「去年のうちに来年の、つまり今年交換留学で転入する手続きとか。諸々とってたんだよね〜」
説明してなかったけ?なんてとぼけた台詞を口にして、少女は笑顔になる。
少女の視線が二代目王・よろづ部部長、霜月 涼(しもつき りょう)とかち合えば涼はなんだか疲れた顔で笑っていた。
「お前かよ・・・」
「失礼な。仮にも命の恩人に向かってそれはないっしょ」
少女は人懐こい微笑を湛えて涼の言葉に律儀に突っ込む。
「あ、アレは非常だろ」
「え――――!!一緒に誘拐された仲じゃんv」
反論した涼に良く分からない反論をして、それから少女は和也へ向き直る。
「あ、トモと悠里はもうちょっとしてから来るってさ〜。カズ、あたしは『いつもの』ねv」
顔見知りらしい和也に平然と何かを要求した少女。
「了解」
仮にも海央の王子である和也。
矢張り平然と当たり前の如く少女の要求を受け入れている。

辰希は何度か瞬きをして少女をマジマジと観察した。

身長も標準的だし体つきだって太めでもない。
外見が少し目立つ意外はごく普通の中学生のように見えるが。
顎先で王子を使っているのは何故に??

「せーちゃん・・・どうしてココに?」
彩が不思議そうに少女に尋ねる。
少女は逡巡してから「ああ」と手を叩いた。
「彩は知らなかったっけ。あたし幼稚園は海央の付属だったんだ〜。だから戻ってきたって表現が正しいのかな。京極院ツインズに聞いてなかったの?」
簡単に説明し、少女は彩の顔を覗き込む。
「ううん、初めて知った」
彩は驚きの顔のまま首を横に振った。

「ではでは。新顔もいるようなので改めて!
あたしはセラフィス。
セラフィス=ドゥン=ウィンチェスター。
日本人名は『石田 透子(いしだ とうこ)』
今回はウィンチェスター姓で留学中〜。名前長いからセラって省略。
交換留学で1年間海央に通いますっ!実家は横浜港南台近く。
今はすっごく遠縁の親戚が住む東京から通ってます。そんで・・・あぁ!初代王でーすっ!」

「「「「!?」」」」

よろづ部室内に衝撃が走る。←和也以外。

この時。和也だけがニコニコ笑っていて。
彩と未唯は再び驚いてそれから尊敬の眼差しを向け。
涼は持っていた書類を取り落とし。
辰希は我が耳を疑った。

五者五通りの反応を一通り観察し少女は、セラフィスは唇の端を持ち上げた。

「今後一年間はきっちり責任を持ってよろづ部で働きますので、どうぞよろしく!」

あはははは〜。

ユルーイ笑顔でご挨拶。
初代王と名乗ったセラフィスは呑気に笑っていた。
凍りつく場の雰囲気に逆らって。

「って、お前女じゃねぇーかよっ」
勢い余って椅子を背後に転がし。辰希は立ち上がった。

「ほえ〜。君さぁ?そーいう差別発言は今後差し控えた方がいいと思うよ?
王が男だなんて誰も言ってないでしょ?
カズだって悠里だってトモだって。
ナニ勘違いしてんだか知らないけど、王ってのはあたしの行動に対する敬称であって性別を示してるわけじゃないんだな〜」

ん?

熱血少年辰希相手に挑発行動。
恐らく知っていて敢えて茶化すあたりは、心臓が強いとしか言いようがない。
セラフィスは辰希の反応を探るように講釈。

「もしかして例のテープを君は見てないのかな?どーなん?」
最後の問いかけは丁度よろづ部へ入ってきた悠里へ向けて。
「見てねーよ。麻生は転入生だからな」
セラフィスは和也が淹れた湯飲み(緑茶)を受け取り席へついた。
「そっか。ならしょうがない。アレを知らない人に、あたしが意見を押し付けちゃマズイし。ごめんごめん、気にしないでね〜」
手を左右にヒラヒラ振ってセラフィスは辰希に詫びる。

辰希は訳も分からず、しかもこのモヤモヤ気分をどこへ落ち着かせればいいか途方に暮れ。
彩と未唯はただただ尊敬目線で。
和也は傍観決定か。
何も言わずに自分の席へ。

セラフィスは涼と向かい合う形で椅子を引っ張って、座った。

「涼?怒ってる?」
神妙な顔つきでセラフィスは涼へ言葉をかける。
涼は少し複雑そうな顔つきのまま首を横に振った。
「怒ってるってゆーか?なんちゅーかさ、仕組んでたのか?」
涼らしいストレートな質問。
セラフィスはゆっくりと首を横に振る。
「いや〜、因縁だね。にしてもさぁ?涼が親の都合で地球の・・・しかも日本に引越しで住む場所が下永谷っしょ。マジ驚きましたよ?」
ニマニマ笑いつつセラフィスがおどけた調子で口を開く。

「一つ一つ説明させてね。

カズと涼が知り合って。そして横浜が危機に陥っていた四年とちょい?前。
あたし達学年の人間が小5の時。
あたしの血族は時空そのものの干渉を受けない特殊な一族だから、あの場を管理しているの。
てゆーか、管理させられてるってゆうかねぇ。ま、ここら辺は色々ふかぁーい事情ってやつもあるし。
巻き込みたくないから省略。
兎も角、カズと涼とで時空に穴を開けちゃったでしょ?だからあたしが塞いだ。
あの場を管理する者として。

んで涼に対する貸し一つ」

セラフィスの言葉は分かるが内容が壮大すぎて、辰希にはさっぱりだった。
他の皆の反応はまちまちで。
それでもセラフィスは言葉を続ける。

「中1の時。

あたしは正義の魔法使い協会からある依頼を受けたの。

でもあたしとしては彼等の意見に反対だった。
魔法使いの友達、アンジェリカの協力と、涼の協力を得て事を起こしてみた。
尤も彩と未唯を巻き込んじゃうなんて予想外。

本当にこれに関しては申し訳ないって思ってるよ、ごめんね。
二人とも」

彩と未唯へ改めて謝罪するセラフィス。
先ほどまでのヘラヘラした態度ではなく、真面目に二人へ申し訳ないという気持ちが込められている。
彩と未唯はほぼ同時に微笑を湛えた。

「そんなことないよ。せーちゃん・・・セラは間違ってないって思う。少なくとも僕はセラに感謝してる。ありがとう」
彩の返事にはにかみ笑うセラフィス。
「うん。セラがいてくれたから、あたしも自由になれた。彩の側にいられるんだもん。すっごく嬉しい。だから、ありがとうv」
未唯も彩と同意見。
けれど一つ違うのはきちんと自分の考えで、自分の言葉でセラフィスに感謝を示していると言う事。
彩の瞳が優しく未唯を見守るのを見て。
セラフィスは悪戯の成功した子供の顔つきになった。

「後は特に何も、なんだ。
悠里から涼が二代目として指名されるって聞いて。目茶目茶慌てたよ、ホントに!だって王は『よろづ部』兼任でしょう?
システムを知ってるのは兄世代だし、悠里やあたし達だって被害者側だったから・・・いざシステムを入れるとなると、色々準備もあったりして。大変だったよ〜」

よよよよ。

と形だけ泣真似して肩を落とすセラフィスと悠里。
息ぴったりのコンビに涼は頭をかく。

「学園の総意を覆すなんて絶対無理。だから極力無駄なく動けるような感じで立ち上げたんですよ、よろづ部を」
セラフィスは少し不満そうな調子で唇を尖らせた。
「友達を見捨ててはおけないっしょ。学園の王にされた挙句よろづ部創設だかんね」
ここでいったん言葉を区切りセラフィスはお茶を啜る。
「いちおーさ、言っとくけど。
あたしが来たからって涼が王なのには変わりないからね。あたしの肩書きって過去の栄光みたいなもんだし、今とは関係ないから。
かつてのあたしが王たる資質を持っていただけって事。それはそれ、これはこれって感じですヨ」
「わかんねーぞ、お前の喩え」
「いや〜、それほどでも」
なんてわざとらしく照れるセラフィスに。
「褒めてねーよ」癖なのか?すかさず涼が突っ込んだ。

「セラ、お前・・・涼と知り合いだったのか?」
個々に質問したいのは山々だが。顔見知りらしい涼とセラフィスの会話に悠里が割り込む。
セラフィスは小首を傾げた。

「知り合いってゆーかね?さっきも言ったけど一緒に誘拐された仲なんだ」

ケロリ。

平然と非常識な発言をするセラフィスに辰希は口を開けたまま固まる。

「涼とは剣術のライバルなんだけど・・・稽古の帰りに誘拐されてさ〜。あはははは、参っちゃうよね。涼の家も案外お金持ちだったらしくてセットで誘拐されたんだよ」
緑茶を美味しそうに啜ってセラフィスが答える。
「そりゃ災難だったな」
のんびり悠里が呟く。
微塵もセラフィスが災難だったとは思っていない口調で。

 普通、誘拐されたこの初代王ってヤツが災難なんじゃないのか?

すっかりセラフィスのペースに乗せられ、口を開くタイミングを完全に失った辰希。
会話を聞いて一人首を傾げる。

「でしょ?誘拐犯が組織していた異星人密売組織を壊滅に追い込んで、警察から感謝状貰っちゃったよ〜ん。ね?」
「遠い昔は忘れることにしてんだ、俺は」
同意を求めるセラフィスの言葉に涼はそっぽを向く。

再度、辰希は大口を開けて固まった。
誘拐された先で盛大に暴れたらしい初代王。
王を知る誰もが王を『最凶』だと評した理由。

 分かる気もするぜ・・・。

初対面の人間にも。
久しぶりに会う人間にも。
平等で普通に接し、平然として。

自分のペースを貫くその姿勢。
押し付けがましいわけじゃない。
現に今だって空気のような気安さでよろづ部の雰囲気に溶け込んでいる。

辰希は初代王が女なのが多少不満だったが、人柄を見る範囲では王に相応しいと思い、1人納得した。

「スケール大きすぎだよね、相変わらず」
ご近所繋がりの発言は彩から。
昔から大騒動を兄達と巻き起こしていた在りし日のセラフィスの姿を思い出す。
「そう?フツーにしてるつもりだったけど、なぁんか向こうからトラブルがやって来るんだよ〜。お払いとかすればそれなりに運勢変わるかな?」
真剣にセラフィスが問いかければ、和也は首を横に振る。
「セラの場合は無理なんじゃない?究極のお節介焼きだから、君は」
少しばかりの皮肉がスパイス。
和也が笑顔のまま言い切る。
「そーかも。ま、でも。これが性分なんで仕方ないですね〜」
気負いなんて一切ない。
スッキリしたセラフィスのあっさりした態度に、以前のセラフィスを知る男の子達は少し驚き。
そして妙に安堵する。

昔はひたむきに前だけ見て我武者羅だった、初代王。
守るべきものに、守るべき立場に振り回されて子供らしくなくて。
弱音を吐かなかったそんなカリスマ。

久しぶりに再会した彼女はどこまでも自然体。

寧ろ何かを吹っ切ったようで、底抜けに明るく全てを楽しんでいるように見受けられる。

「だから帰ってきたんだ?」
「うん」
和也の普通の問いかけに素直にうなずくセラフィス。
以前は見えない壁一枚隔てて接しあっていたお互いの壁が無い。
「何時の間に打ち解けてたんだ?お前ら」
悠里の記憶が正しければ。

和也とセラフィスの仲はこんなに良くなかった。
仲が悪いというわけじゃないが、和也の人当たりのよさに反比例した他者を受け入れない無意識の防御。
それは当時の王であったセラフィスにも適応されていて。
セラフィスだって敢えて和也の内面に土足で踏み込むような真似もしなかった。

有態に表現すれば『放置』または『放任』である。

「「ナイショ」」
含みのある微笑を湛えてにっこり笑いあう、和也とセラフィス。
「それは変わらねーんだな」
「お褒めに預かり光栄至極?」
人懐こい笑みを浮かべて悠里の口真似をする。
結構似ていて未唯と和也、それに彩が遠慮なくクスクス笑った。

「セラッ!!」
よろづ部最後の一人。生徒会兼任の有志メンバー・笹原 友香(ささはら ともか)が扉を開け放ち叫ぶ。
素早くセラフィスも立ち上がって友香に抱きついた。
「ひさしぶり〜!!!トモ!」
「うん・・・久しぶり」
ギュー。と抱き合う女子二人。
「あたしも混ざる!!」
未唯も宣言して友香とセラフィスの抱擁の輪に加わる。
女の子が持つ特殊な友情構築。
なんだかすっかり三人仲良しのような雰囲気に。


「これでアイツの協力の申し出断ったら恐ろしいよな」
悠里が涼に耳打ちする。
「これもある種拒否権ねーよ」
涼は抱き合う三人に聞こえないように小さく返事をしたのだった。


海央シリーズ影の主役セラフィス登場〜の巻きです。
ここまで読んでいて、時空の間の管理人=せーちゃん=セラフィス=初代王だと分かった方はスバラシイ!!
しかも初代王はなるべく男に見えるよう書いていたつもりなので、そう見えてたらラッキーです(笑)オマケ文あります。文中の誘拐へポインタ合わせてくださいまし。ブラウザバックプリーズ