瞬殺。


仮面の妖は悲鳴を上げる間も、恨みごとを言いう間も、忠告をする間もなく。
消滅。


「僕の覚醒を巡り誰かが悪巧みをしている。僕は妖撃者長の息子として、これを見過ごすわけにはいかないんだ」

和也は悪戯っ子のようにニヤリと笑い、コマへと歩み寄る。
笑う和也の頬にえくぼが浮かんだ。
その様を怖いと感じるのは氷と少年。
二人して頬を引きつらせている。

「か、和也様〜」


 はうううう〜!!


感動したのはコマ一人。感極まり言葉に詰まる。
和也を力いっぱい抱き締めて和也の頬に己の頬を摺り寄せ。・・・大袈裟な喜びようだ。


「僕のダイスキな横浜を滅茶苦茶にした罪は重い。諸悪の根源をとっちめないと気が済まないよ〜」

強くなる瘴気。

膨らむ邪悪な意志を感じ、和也は大きく深呼吸。

「敵の狙いは分かってるから、師匠は瘴気の浄化をヨロシク」


 にこぉ。

無邪気の微笑む弟子に眩暈を覚える師匠。


「師匠なら出来るよね?この横浜に充満した瘴気を取り除く作業。僕はラスボス退治に行くから、その間の時間稼ぎを頼みます」

事も無げに告げる和也。師匠へ対する嫌味ではなく、その実力を信頼するからこそ口に出来る言葉。
和也の雰囲気に気負いはない。

「半人前が大きくでるもんだな」

茶化す口ぶりでも真顔の氷。
すっきりした顔の和也を覗き込み、その意志の強い瞳を確かめるように見る。

「僕が僕らしくあるために、降りかかる火の粉くらいは蹴散らさないと」

「はいはい。責任は俺が取らさせて貰うさ。気をつけて行ってこいよ?俺は他の妖撃者と連携して瘴気を浄化して歩くから」

ため息混じりに呟く氷。
師匠の了解を取った和也は喜色満面。

「じゃ、レッツゴ〜」

この切迫した外の状況をさて置いて、和也はパジャマ姿のまま出陣。
少年の腕を掴んで公園の外へと歩き出す。

「え?俺もか??」

展開の速さに驚く少年。

「だって、君も当事者でしょ?僕の手伝いしても罰は当らないよ」

ゴーイングマイウェイ。
良くも悪くもマイペースな和也の辞書に『人様の都合を伺う』なんて言葉は存在しない。


 正義の味方とされる妖撃者が、このようにマイペースで自分本位で良いのだろうか?


常識を持ち合わせる帽子少年。
ほんのちょっぴり人間不信に陥った。

『待って下さい、和也様〜』

慌てて二人の後を追うコマ。身軽に振舞えるよう、本来の犬の姿に舞い戻る。

「無茶できるうちが華ってことだな」

頼りないながら歩き出す弟子。


子供には子供が護りたいものがあり。大人には、簡単に手放せぬ至高の存在があり。

それぞれの戦う理由を胸に駆け出す。

二人の子供と犬の影を見送りつつ、少しだけあの無鉄砲を羨ましいと感じる氷だった。

 



一面の暗黒色。空全体に広がる瘴気を孕んだ黒い雲は拡大の一途を辿る。

「希蝶と華蝶が呼び込んだ瘴気に、誰かが力を注いでいるね」

道を歩く人々は倒れ込み、意識を失っていた。
他の妖撃者がどのように動いているかは不明だが、このような濃い瘴気の中で正気を保てる人間は少ない。

和也は足早に歩きながら、周囲をキチンと観察した。

『それより・・・和也様?』

気遣わしげにコマが和也の名を呼ぶ。
和也は先頭を歩いていたが、そのままコマの方を振り返る。

「感知能力はあんまり強くないけど。僕から奪った『生』の気配くらいは追える」

即答する和也は自信に満ち頼もしく見える。

「いざとなったら退魔師もいるし。へーき、へーきだって」

「・・・用意周到な奴」

嫌味を込めて少年が突っ込んだ。

「仕方ないよ〜。横浜を滅ぼしちゃったらそれこそ大問題でしょ。君は都市が滅亡しても無関心でいられるの?」


暖簾に腕押し。糠に釘。


少年の嫌味を受け流し和也は不敵に笑う。
ムッとした表情で少年は口を噤んだ。


「なんで希蝶と華蝶を止めないのか不思議だよね?妖撃者と妖の力は反発を起こしやすくてさ〜。正面切って彼女達を封印しようとすると、物理的反作用が起きるから無理なんだ」

少年の機嫌はお構い無し。
和也は親切(?)に状況説明を始める。

『つまり。町の一つや二つが簡単に消えてしまうのです』

コマが控え目に補足説明。

「今回はラスボスを叩いた方が手っ取り早いってワケ。君だって妖に狙われなくなるし、妖撃者に恩も売れるし。一石二鳥でしょ〜?魅入られとしての立場で考えれば」

和也、正論を吐いているが表現はキツイ。


おっとりした気質に隠され、大人達が見落としている事実。
和也は毒舌家。良くも悪くも自分に正直なお子様である。

「浄化作用で門の歪みがおさまるまでは・・・敵を蹴散らさないと、進めないみたい」


 《ギョギェェェェェ》


 三人の上空を飛ぶ怪鳥。顔は人の形だが、身体が鳥。
数十匹が群れをなし、下の三人を威嚇する。

「なんだありゃ?」

緊張感の欠片もなく、少年は鳥を指し示した。

「えーっと、『偶(グウ)』っていう中級くらいの妖。そして僕らを取り巻いてる幽霊みたいなスケスケ妖は、『透(トウ)』。上級の部類に入る妖だよ」

帽子の少年は口許を引き締める。

「戦闘は避けられないから、しっかり蹴散らそうね」

『はい』

コマは尻尾をフリフリ和也へ元気良く返事を返す。少年は疲れた表情のまま刀を構えた。


「我は対極をなす者なり!理(ことわり)望む陰と陽を統べ我は紡ぐ・・・激花香影殺(げっかかえいせつ)!」

前回は華蝶にはなった陰の術。

自己の立ち居地が明確になった今は、威力は格段に上がっている。
黒き花に包まれ、鋭い鍵爪を振りかざしていた『偶』の群れが消滅。

『させませんっ』

『偶』と入れ替わりに瘴気を吐き出し攻撃をする『透』を光弾で弾き返すコマ。

「らすと〜」

ヤル気ゼロの少年が退魔の太刀で『透』を切り刻んで一先ず戦闘終了。

「うんうん。いい感じだね、正に冒険って感じでさ〜」

戦果に和也は満足げに腕組までしてうなずく。
少年から白い目線を向けられるが、反省する兆しはない。


瘴気の力と人の負の感情を糧に無限増殖を繰り返す妖。


『影』が道のいたるところに散らばり、電線には『偶』がとまっており、ビルや建物の影には『無音』が張り付き一行の隙をうかがう。


「一寸面倒かな?蹴散らすの・・・あっ、そうだ!」

無数に増殖し続ける妖に、早々と『ダルダル』モードへ移行する和也。
少し何かを考えてポンと手を叩いた。

「先を急ぎたいから。移動速度を上げるよ〜」

妖達を己の力の波動で威嚇しながら和也が移動を開始する。
影月としての『力』を放出すれば怯んだ下っ端は、大人しく和也に道を譲った。

「さぁて。仕事の時間だよv」

ウキウキとはしゃぐ和也はスキップで移動。

「いつのドラマの決め台詞だよ」

ブチブチ愚痴を零しつつも和也に従う少年。

『和也様。思慮深く冷静な判断を下されるまで成長されて』


感無量。

和也が真実を知った時どうなるのか、非常に心配していたコマであるが。
和也なりに優先順位を着け、自身の中で決着を着けた様だ。


 非常な運命に翻弄されつつも気丈に立ち向かう主。


コマが鼻を啜れば、

「いや〜それほどでも」

和也は照れて頭を掻く。

「一生やってろ。迷コンビめ」

そっぽを向いた少年が小さく悪態をついた。

 

なんか話の展開が無理矢理ですが直す方法が見つからず恥を偲んでこのままゴー。
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