可愛い子には旅を 5


君麻呂を塵程度にしか見なさないナルト(九尾)の言動は、ナルト(九尾)が発するチャクラによって証明された。

器(サスケ)を逃したは良いものの。
君麻呂はナルト(九尾)のチャクラの壁に阻まれて攻撃を打ち出す機会すら掴めていない。

「一体お前は」
二人のナルト。
樽から現れたナルトはこのナルト(九尾)の事を『兄様』と呼んでいた。
ならばこれは変化で、本来は男性の筈。
膨れ上がるチャクラによって齎される風圧に耐えながら君麻呂はナルト(九尾)へ口を開いた。

《雑魚に答えてやる義理はないが、妹のたっての願いだ。聞いてやらんでもない》
対するナルト(九尾)俺様発言炸裂である。

演技という皮を脱ぎ捨てたナルト(九尾)は不遜な態度で君麻呂へ返した。

《所詮はオの字の捨て駒、用済みの人形よ。人形、お前は何を望む》ナルト(九尾)は人の悪い笑みを湛え君麻呂に言葉を発する。

棘を沢山含む、君麻呂にとっては許しがたい単語をふんだんに使った、言葉の刃を。

「!? 何が言いたい」
捨て駒、人形呼ばわりされた君麻呂は、掌から出した骨を構えたまま目尻を釣り上げる。
一歩踏み込みたいのは山々でも、ナルト(九尾)のチャクラは高圧密度。
下手に近寄ればチャクラの渦によって肢体をバラバラにされるのは火を見るより明らかだった。

《我は事実を申したまでだ。人形ではないか。死してその魂がオの字に寄り添えるとでも考えたか? 笑止。
オの字にとってお前はただの捨て駒。忘れ去るるガラクタに過ぎぬ》
淡々とナルト(九尾)は現実的に君麻呂の立場を指摘する。

餓鬼から漂う死臭は確実に当人の寿命の短さを示している。
恐らく、餓鬼が健康であったなら新しい大蛇丸の器にでもなっていたのだろう。
だがコレはただの死にぞこない、死にかけ。
ならば大蛇丸にとっては最速、心に残りもしない『ただの捨て駒』として忘却されていくのだ。

「違う!! 僕は大蛇丸様の望みを達成する一翼を担う」
ナルト(九尾)の安い挑発に君麻呂は怒りを顕にして掌から骨を引き抜き構え、ナルト(九尾)のチャクラの壁を突き破る。
そのままナルト(九尾)目掛けて骨を振り下ろす。

《一翼だと? その程度の能力でほざくな、餓鬼が》
対するナルト(九尾)は顔色一つ変えず、人差し指だけを持って君麻呂の骨の一撃を受け止めた。
そのまま人差し指を振り上げれば、君麻呂は空を後方に飛び、ナルト(九尾)と間合いを取る。

 ピシリ。

音がして君麻呂が再び構えた骨が真っ二つに崩れた。

《可愛い攻撃だな? 餓鬼。他愛もない。所詮は捨て駒の限界がソレか》
驚愕する君麻呂に薄く笑いナルト(九尾)は再度チャクラの壁を作り上げ、壁の圧力を以てして君麻呂を押し潰す。
強靭な骨の鎧を纏ってもミシミシと軋む身体に、君麻呂は僅かな恐怖を覚え始めていた。

「捨て駒、という点では当たってますね。
四人衆の紅一点は、砂の里の風影の長子に任せてきました。彼女なら負けないでしょうから。他任務は全て終了しました」
暗部装束で、おまけに面を被った白がナルト(九尾)の傍らに冷気を纏って現れた。

キバとカンクロウに気取られぬよう左近と右近を退治してきた名残だろう。
片膝を付きナルト(九尾)に自分達の任務完了を告げる。
ナルト(九尾)のチャクラが荒れ狂っているにも関わらず、その傍らに自然な動作で膝を付く。

君麻呂の目にも、この暗部は優秀だと思わせる。

「もう直ぐおかっぱ小僧がこちらに到着する」
続いて再不斬も暗部スタイルのままナルト(九尾)を挟み、白とは逆側に姿を現す。
当然、再不斬もナルト(九尾)のチャクラを平然と受け流していた。

《おかっぱ?》

 誰だソレは。

言いたげにナルトは白へ目線を落とす。

基本的にナルト一筋シスコン九尾。
木の葉の里のその他(火影含み)など眼中にない。

「確か名前はロック=リー。五代目様の手術は無事に終了したらしいです」
白がナルト(九尾)の疑問に応じて適切な情報を口にした。

ともすればナルト以外には無頓着な九尾。
彼に適切な情報を齎すのも最近の白と再不斬の仕事となりつつある。

ナルトが『優秀な手足』と二人を呼ぶだけあり、白と再不斬は更なる鍛錬を重ねながら着実に能力をまだ伸ばし続けていた。

《ふむ、我等の加勢にやって来た積もりか》
「恐らくは」
顎に手を当ててナルト(九尾)が呟く。
その小さな声音すら丁寧に拾上げた白が律儀に相槌を打った。

《ならばおかっぱとやらがココへ来るまで餓鬼を足止めせよ。良いな》
適度に動揺している君麻呂を一瞥し、暗に殺すなと伝えナルト(九尾)は踵を返す。

結構な速度で遠ざかるサスケのチャクラを捕まえ唇の端をニィと釣り上げる。

分不相応の下僕は捨てれば良い。
大蛇丸に染まるか、染まらず、まだ妹を求めるか。
それはあの下僕の『自由』だが、現段階で妹を巻き込む事だけは認められない。
木の葉という、可愛らしくも愚か者が集う箱庭を愛でるのが妹の愉しみなのだから。

「「御意」」
無駄な言葉は必要ない。
短く了承の意を示した白と再不斬は、姿の見えないサスケに内心だけで合掌をし君麻呂に向き直るのだった。




自分の欲望に正直なのは『うちは』共通の血らしい。

ナルトはサスケにお姫様抱っこされたまま流れる風景を見詰め吐息を吐き出す。
いかにも『大蛇丸にとってはポイ捨て同然です』と謂わんばかりの、あの毛色の変わった少年は無事だろうかと思案しながら。

「サスケ? 音に行くの?」
急に主旨換えしたサスケにナルトは純粋に不思議に思って尋ねた。

里子に出すのは決定だったけれど、こうもあっさりサスケが納得するとは予想外だった。
もう一つ意外と謂えば、四人衆が余りにも弱かった事だろうか。
適度に強いなら生かしておくように白・再不斬に命じてあったが四人衆の気配がないところを見ると、案外、四人衆も名ばかりであったらしい。

 サスケが四人衆の影響で変わるかと思えば。
 木の葉の忍びにも負ける程度だったとは興ざめも良いところだわ。  万が一、あの四人が生きていたとしてもサスケの役には立たない。
 ならばこのタイミングで始末しておいた方が後々楽だもの。

大蛇丸には後でお詫びも兼ねて禁術の一つでも伝授しておこう。
ナルトは一人今後の段取りを考え始める。

尤も大蛇丸にとっても中途半端に強いだけの四人衆なら、いずれは捨て駒として扱っていただろうが。
大蛇丸につけいる隙を与えるつもりなど、ナルトにはなかった。

「ああ。俺は強くなる。もっと力が欲しい」
ナルトをお姫様抱っこしたままサスケは駆け抜ける。

腕の中のナルトの温もりに表情を和らげながらナルトの疑問に答えた。
体から漲る力が、チャクラがこれまでの自分とは違うとサスケに伝えている。
少々の酩酊感、若しくは高揚感を味わいながらサスケはこれからの自分達の人生設計(子供は何人)を立てていた。

「そう」
ナルトはサスケの真剣な問いに気のない返事を返す。
頭の中ではどの禁術が良いかを選別中である。

「他の誰にも渡したくないんだ、ナルト」
「私は誰のものでもない。私だけのもの」
熱弁を振いそうなサスケの口を黙らせるため、ナルトはピシャリと言った。


                                      次へ

 サスケは束の間の幸せを堪能し、ナルトはやや無関心。
 そして漸く兄が移動を開始しました。ブラウザバックプリーズ