可愛い子には旅を 4


多由也は何も知らない元同僚、現死にかけに心持ち安堵して小さく息を吐く。
樽を取り戻してくれた事は元より、何よりこの事態の起爆剤に成ってくれた事実に感謝だ。
元同僚の君麻呂からは殺気立った眼差しを頂戴するも、そんな事は気にしない。

「遅すぎるよ……多由也。それに他の三人はどうしたんです? 元五人衆ともあろう者達が」
目の下の淵に沿って赤く色づけられた闖入者(九尾視点)はナルトとシカマルを一瞥する。
路傍の石を、木々の枝に止まる虫を見下ろすのとまったく同じ態度で。

《……良い度胸をしているな。ニンゲンの分際で》
 構えるシカマルの隣。
シカマルを迂回したチャクラで二人を刺激してみる。

「「!?」」
多由也と君麻呂はナルト(九尾)のチャクラにいち早く反応し、微かに目を見張り身構えた。

多由也は君麻呂の行動が手に取るように予測できる。
大蛇丸様一筋十数年。
君麻呂なら絶対に。

「あそこのゴミ二匹、頼みましたよ」
ナルト(九尾)が放つ差異を暴く事無く、現段階での最優先事項・器を音へ届ける。だろうと。
君麻呂は選び樽を抱えて音の里方角へ高速で遠ざかっていく。

 よっし!!

多由也は脳内だけでガッツポーズを決めた。

ナルト(九尾)は演技をしながら確実に君麻呂を、樽を追う。
少なくとももう一人のガキが立ちはだかったとしても、多由也の敵ではない。
そんな多由也の読みは火を見るより明らかに『当たる』

一斉攻撃と見せかけ、シカマルはナルトだけを先行させた。

「くそ!! 騙しやがったな! 何がチームワークだ……」
残された多由也がシカマルに食って掛かりながらも、内心、シカマルの奇策に深く感謝していたのは特筆すべきも無い。



一方少しの異物感を覚える樽を抱き締め、君麻呂は家路を辿る。
大切な器(カブト談)を崇拝する彼(大蛇丸)へ届ける為に。

《また会ったってばね……》
森から一転開けた草地に着地したナルト(九尾)敢えて変化を解かず、ナルトの姿のまま君麻呂と対峙する。

「さて、どんな風に殺そう?」
奇妙な違和感を感じながら君麻呂はナルト(九尾)をもう一度挑発した。
単純そうな思考を持っている小娘には十分だと腹裡で算段して。

《分っておるくせにそのような大口を叩くか? オの字の捨て駒》
一気に膨れ上がるナルト(九尾)のチャクラ。
肌を刺す禍々しい赤いチャクラがナルト(九尾)のツインテールのゴムを破壊し、チャクラの風圧に乱れた髪が周囲に金色の残像を残していく。

「…………お前……」
ナルト(九尾)の存在を知らされていなかった君麻呂は警戒の色を浮かべた。
並の人間では放てないチャクラ量を一気に放出したナルト(九尾)のチャクラコントロールは、緻密かつ大胆。
先ほどまでは一介の忍が放てる程度のチャクラしか放っていなかった、その小娘が一気に何かを解いた。
そんな風に見える。

《器が欲しいならくれてやる。我も邪魔だと思っておったところだ》
ナルトの演技を剥ぎ落としナルト(九尾)はサスケの処遇を君麻呂へ告げた。

目の前の餓鬼が纏う死臭が一段と濃くなってきた。
さっきの大蛇丸の手下との会話を総合するとこの餓鬼は余命幾許もないのだろう。
ナルト(九尾)は読みを外さない。
何千年と生きてきた経験がモノをいっている。

「? では何故邪魔を。彼は不要なのだろう?」
この樽に入っているのは大蛇丸の新たな器なのだ。
それを要らないと言っておいて、こんなに殺気立つのは明らかに可笑しい。
噛みあわない会話に君麻呂は眉根を寄せる。

《だが……返してもらわなければならん。我が最愛の》
「フフフフフフフ!! アハハハハハ!!」
語るナルト(九尾)の言葉を遮るは樽の崩壊音。
高笑いを浮かべるサスケと隣でしゃがみ込み迷惑顔をしているナルト。

二人のナルトに君麻呂は一瞬虚を突かれた。
手にした骨を持ったまま行動を止める。

「兄様……やっぱり追ってきたの?」
見事に割れた樽と周囲にいない四人衆の気配。
チャクラを探り、彼等のうち二人が消えた事実に冷笑を浮かべ。
それからナルト(九尾)に無邪気に微笑みかけ、樽の中から現れたナルトは第一声を放った。

「フン!! ナルトを返して欲しければ追ってこい!!」
一方復活を果たしたサスケは有頂天。
呪印の状態2が齎す力に酔いしれ、気までもが大きくなっていた。

しゃがみ込んでいたナルトをお姫様抱っこして九尾を挑発する。

このまま木の葉にいられないなら、ついでにナルトを連れて音に行こうとでも結論を下したらしい。
ナルト(九尾)は額に青筋を浮かべ血の眼でもってサスケをねめつけた。

《どのような口を我に叩いておる!! 痴れ者めが!!》

 ブワッ。

全身の毛……産毛が総毛立つチャクラの渦がナルト(九尾)を中心に発生し、周囲から獣達が慌てて逃げ出していく。

「え?? サスケ??」
矢鱈と強気なサスケにナルトも思わず下僕の名を呼ぶ。
ナルトとしても予想していなかった展開に意外を覚えたようだ。

「俺は音へ行く」
一人盛り上がるサスケは勢いのまま口走る。
「それはもう決定事項。里子に出すと教えたでしょう?」
ナルトは眉を顰め宣言したサスケを見上げた。

サスケが異を唱えようと、肯定しようとナルトの計画は変わらない。
あの里でこれ以上この下僕を飼うのは不可能だ。

うちはとはナルトが考えるより不思議な思考回路を持った一族らしい。

木の葉での成長を見込めないサスケを音の里へ放出するのを決めたのは他ならぬナルトだ。

樽に納まる前まではサスケだって散々木の葉残留を求める態度を取っていたのに。
丸薬の効果というのは精神錯乱効果も追加されているのか?

小首を傾げたナルトにサスケ自身から答が齎された。

「ナルト、お前も一緒だ。絶対に離すものかっ」
抱えたナルトの頬に口付けを落としサスケは確実に己の今後を左右する台詞を、その口から、堂々とのたまった。

下僕如きの世迷言に惑わされる九尾ではない。
格の違いをこれまで見せ付けてきたのに納得していない三下(サスケ)に小さく息を吐き出す。

「……兄様? そこの子、苛めては嫌だからね?」
ナルトは、なんだか一気に疲れきった風な兄に向け最低限の『お願い』を試みる。

君麻呂を一目見て気付いた。
彼を取り巻く死の匂い。
捨て駒の気配。
それから白に感じたのと同じ特別な血の匂い。
闇に沈みきった彼のココロは脆く強固で幼い。
使えるようだったら再利用しない手は無い。

胸中で考えを纏めナルトは君麻呂を名指し(名前は知らないので)して兄へ殺さぬよう頼んだ。

《……善処しよう。下僕二号め……少しばかり呪印の力を扱えるようになったからと、天狗になりおって。
矢張り捨て置けぬ。我が直々に殺してやるぞ!!》
ナルト(九尾)の瞳孔が縦長に細まり、ナルト(九尾)を取り巻くチャクラが足元の土を抉っていく。

「????」
君麻呂は目の前で展開される『何か』についていけず、手にした骨を持ったまま立ち尽くしているのだった。


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 サスケ開眼。相変わらず方向性は間違っておりますが、原作に沿っているので。
 これはこれで楽しいかなと思います。
 ブラウザバックプリーズ