可愛い子には旅を 3
何も知らず帰宅した九尾は怒っていた。
いた、で過去形である。
演技をした白と再不斬に不手際は無く。
サクラという格好の目撃者までこしらえてサスケは華々しい『里抜け』劇の主演を勤めることとなった。
これにも腹は立っていない。
あの小五月蝿い下僕二号が消えれば益々静かな生活を『愛しい妹』と堪能できる。
願ったり叶ったりだ。ただ唯一問題なのは。
《ならぬ!! 我がナルトのフリをする。手出しは無用だ》
白がナルトのフリをしてサスケを追いかける。
これに難色を示した九尾、白と再不斬に言いつけて自分が『ナルト』としてサスケを追う(どさくさに紛れてサスケを始末する)と宣言した。
ついでに可愛い妹のお茶目な『お願い』を断らなかった阿呆(音四人衆)への制裁も含む。
「正にシナリオ通りですね」
誰の。とは言わない。
ナルトに変化して怒りを振り撒く九尾の背中を見詰め、白が小さな声で隣の再不斬へ囁く。
「……行くぞ、白」
木の葉の暗部装束に身を包んだ再不斬はコメント拒否。
こんな低俗(妹馬鹿やその妹)に負けた己の不甲斐無さに涙が出てきそうだ。
悔しさを隠し白に次なる行動を促す。
九尾の暴走に備えサスケと共にいる本物のナルトをフォローすべく木の葉を後にした。
これは、ナルト(九尾)暴走の『記録の一部』である。
出発前。木の葉の里・正門前。
「ナルト……私の一生のお願い。サスケ君を、サスケ君を連れ戻して」
涙に暮れるサクラをナルト(九尾)は慈愛に満ちた表情で見詰め、頷く。
《大丈夫。サスケは必ずアタシが連れ戻すってば!!(尤も屍と成り果てるかもしれぬが? 次第によっては連れ戻してやらぬでもない) 約束するってばよ》
ナルト(九尾)が力強く『ナウなポーズ(リー談)』を決めサクラに約束する。
「ナルト……」
何時に無く凛々しいナルトの対応にサクラは胸を打たれる。
友情(と、サクラは考えている)がより一層深まった気持ちになって、衝動に任せるままナルトの手を握り締めた。
「珍しいね、ナルトが真面目なの。熱血するナルトなら理解できるんだけど」
チョウジは菓子を口に運ぶ速度を落とさず器用にこうコメントした。
ある意味真理を突く少年である。
「そーかぁ??」
がっしと手を取り合っているナルトとサクラを遠巻きに眺め、キバは応じる。
「!?」
この隊の責任者・シカマルは突如物凄い悪寒に襲われ身震い。
胸も緊張とは趣の異なる鼓動を刻む。
俗に言う動悸だ。
胸に手を当ててひたすら首を傾げたシカマルだが。
原因が数メートル先のナルトに化けた九尾だとは流石に考えつかないのだった。
同じタイミング・樽の中。
「さむい」
全身を駆け巡る悪寒にサスケは身震いし、まどろむナルトへ抱きついた。狭い樽の中で。
ナルトは薄っすら目を開くも黙ってサスケにさせるがまま。
息さえも一つになる錯覚を覚える暗闇の中サスケはナルトを堪能し始めた。
この悪寒が九尾の殺気だと察知できないサスケ。
サスケの命運は尽き掛け……尽き果て、ともすれば負の領域へ傾きかかっている事をサスケは知らないのだった。
対 四人衆初接触時。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ……以下エンドレス。
音の四人衆は顔にこそ出していないが心底恐怖していた。
元気よく突っかかってくるナルト(九尾)の眼差しに。
《簡単に死ねると思うなよ?》
四人衆にだけ見せ付ける赤い禍々しい血の瞳。
殺気に混ぜて矢張り四人衆にだけ贈るナルト(九尾)の台詞に鳥肌を立てる。
「「「「……」」」」
要注意なのはナルト(九尾)只一人。
残りは木の葉の雑魚。
年端も行かぬ子供に引けを取る四人衆ではない。
無言のアイコンタクトを終了させた四人衆はナルト(九尾)に合図を送ってから行動を開始する。
樽を背負った次郎坊が無言で土遁の術を発動させた。
「あの方(九尾)には大したダメージにはならないだろうが、他には通用する」
悲壮感たっぷりの次郎坊の呟きに、樽を担ぎなおした鬼童丸が唇の端を持ち上げる。
じゃんけんで予め決めておいた残る順番。
自分は二番手だが九尾の怒り具合からして恐らく滅せられるのはコイツ(次郎坊)。
内心ほくそ笑み鬼童丸は樽を背負って、左近・多由也と共に音へ向けて移動を再開させた。
対 鬼童丸編。
「今度は俺にやらせろよ!! 左近! 多由也!! お前等は先行ってろ」
じょ、冗談じゃないぜよ!!!!!
表向きはニヒルにナルト(九尾)達を見下しつつ、内心は冷や汗ダラダラである。
鬼童丸は慌てて次郎坊のチャクラを探るも手ごたえはなし。
辿り着いた結論に心臓は高鳴り嫌がおうなしに自らの末路を見せ付けられ。
死を本気で覚悟していれば、ナルト(九尾)としては早く樽(妹)を追いかけたいらしい。
後を態良く白眼の餓鬼に押し付けて去っていく。
少しだけホッとした鬼童丸とネジの真剣勝負は……再不斬によって中断させられ、鬼童丸は呆気ない最後を迎えるのだが。
これは余談である。
対 左近編。
樽を木の枝に置き移動を止めた多由也に左近は己の番だと震え上がる。
「次郎坊と鬼童丸の馬鹿は何やってやがった!!」
叫ぶ多由也の怒りに、左近は内心だけで大いに賛同した。
木の枝に落ちるナルト・シカマル・キバの姿に左近はいち早く飛び出す。
向こうもフォーメーションらしきものを組み、連携攻撃を主にこちらへ挑んできた。
樽を背後に守りを固める多由也が恨めしい。
先ず殺すにしてもナルト(九尾)だけは後回しにしなければならない。
助かる道は樽の中の彼女が自分達を助ける言葉を吐くかどうか。
背後の多由也も静観する構えは無く戦いに参戦する。
こうして小競り合いを始めて数分後…。
「ワンじゃねーぞ!! 犬っころがぁ!!」
己の殺気に当てられて動けない子犬に満足し左近は速度をあげる。
起爆札の爆発に乗じて……同僚には悪いが……戦線離脱を図ろうと腹積もりを決めた左近。
誰しも我が身は可愛いのだ。
相手がナルト(九尾)なら尚更の事。
これ幸いとばかり、犬を助けに入った少年と共に起爆札の暴発に巻きこまれる。
砕けた木の枝と共に崖下へ逃走。
左近は崖下へと落下しながら安堵の息を吐き出した。
対 多由也編。
《くっそー! どうなったんだってばよ》
ナルトの演技は完璧。
ナルト(九尾)は消えた左近のチャクラを追いながら、傍に控えている白と再不斬に指先だけで合図を送った。
ちなみに次郎坊も鬼童丸もトドメは再不斬に打ち込まれ既に絶命している。
白と再不斬が消えたのを確かめナルト(九尾)は唇の左端だけを僅かに持ち上げた。
「もう一匹(多由也)がきやがった!」
シカマルは眼前にいる多由也を見張るので精一杯。
ナルト(九尾)が放つ少しの違和感にはまったく気付いていない。
左近!!!
女であるウチを見捨てたな!?
後で絶対ブチのめす!!!!
一瞬の油断が命取り。
多由也は奥歯をギリギリ噛み締め己の不運を呪う。
「くっそ共ォォ!!!」
叫び、樽(というより、この場では一番弱いシカマル)を狙って飛ぶ多由也は、己の命を半分諦めかけていた。
幾ら相手がナルトのフリをした九尾としても分が悪すぎる。
樽を背後に何事か喋りあっている餓鬼(シカマル)とナルトに突っ込みながら。
命運尽きたと自棄を起しかけた多由也に奇跡? が舞い降りた。
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