可愛い子には旅を 2


ナルトは惚けるサスケの頬を軽く叩(はた)き正気に戻らせる。

「左近、例のものを」
女王の貫禄を以てしてナルトが命じれば、二つ頭の男が懐から小瓶を取り出す。
威嚇顔のサスケになんとも言い難い表情をしつつ、ナルトへ恭しく小瓶を掲げてみせた。

「大蛇丸様が編み出した禁術の一つ。呪印には各段階があり、サスケ様は現在状態1の力を行使しています。この丸薬は呪印のレベルを状態2に引き上げるものです。……多由也のあれが状態2」
左近が手全体で紅一点の女・多由也を示す。

顔半分をサスケのものとは違う文様が浮き出た多由也の様相が、体全体が見る間に変化していく。

「状態2……。使い続ければ、溢れ出るチャクラが身体に与える負担が多すぎるわ。今のサスケなら確実にあの世逝きね」
ナルトは興味深そうに多由也の状態2を観察する。

話に聞くのと実際に見るのでは矢張り印象が違う。
頤に手を当てナルトは左近へ確信を持った言葉をかける。
左近は真顔で頷き「恐らく数秒であの世かと」等と付け加えた。
サスケは自分をネタにされて面白くないが、ナルトの不興を買うのは本意ではない。
よって黙り込みつつも、険しい眼差しで殺気を左近へ送り続けている。

「それを抑えるのが我々です」
小瓶の蓋をあけ丸薬をナルトの手のひらに二粒転がし左近が続けた。

「ナルト様達を仮死状態にし、その間に呪印・状態2レベルに身体を慣らして頂きます。封印術によって仮死状態を保持しますのでご安心を」
左近は腰から下げた巨大な巻物を自分の右手でポンポンと叩く。

ふんふん、なんて相槌を打つナルトと話の流れに流されているだけのサスケ。
ナルトと背後(九尾)が恐ろしいのか言葉を発しない残りの三人。
一種異様な空気が場を支配する。

「当然このまま我々が……責任を持って音までお供いたします。我々の力で何処まで移動できるかは。ナルト様の兄上殿のお怒り具合にもよるでしょうが」
左近は自分から九尾について話題にしながら、最悪の事態を想定してしまい、見る間に青ざめた。

「ナルト、お前は呪印を持っていな」
「仮死状態。極限状態を味わった身体は飛躍的に能力が上がる。凡人や普通の忍が行ったのなら、逆に身体に負荷がかかる愚行だわ。
けれど私は違う。お兄様のチャクラは常に私の身体に蓄えられ私の身体へかかる負荷を治癒していく」

サスケはナルトに意見しようとするも。
途中でナルトに遮られ、挙句、軽く無視されて益々取り残される。

「ナルト様は呪印よりも遥かに強力な呪印をお持ちだと言う事ですね」
ナルトが死なない=九尾は怒らない。
一先ず身の安全は確保されたかもしれない。
僅かに灯った光明に左近は希望を見出す。

「綱手の五代目就任までは無事にこちらの思惑通り。兄様と私の作り上げた手筈通り里は新たな火影を迎え益々発展していく。
……けれど、これからはそうもいかないでしょう。暁の動向がどうも怪しくなってきた」
ナルトは地面に座り込んでいるサスケを一瞥し、また視線を左近へ戻した。

「大蛇丸様の元居た組織?」
左近は丁寧な物腰ながら眉を顰める。

一体木の葉の影の女王は何処まで何を知っているのか。
忍であり大蛇丸の側近として、つい探りを入れる意味合いが濃い発言をしてしまう。

「勿論、木の葉の里の『うずまき ナルト』からすれば。三代目を殺し里を襲撃した大蛇丸に連なる者も『敵』なのだけど、ね」
嫣然と微笑みきっちり四人にだけ殺気を送ってナルトは小首を傾げる。
左近の無礼で無粋な探りに対する報復だ。

「ははははははは……」
頬を引き攣らせる左近をフォローするように。
巨漢の男が愛想笑いを始める。

ナルトは醒めた目つきで巨漢の男へ視線を移したが取り立てて咎めはしなかった。

「どちらにせよ。静かな生活を手に入れるのは私。願いを果たすのは私と兄様。他の五月蝿い蝿は時期を見計らい叩き落すとするわ。お前達には関係のない話だもの」
ナルトは掌の丸薬を指先で抓む。

「始めなさい。うちは一族の末裔の里抜け劇を! 私が描いたシナリオ通りに」
丸薬の一つを無理矢理サスケの手に握らせ宣言するナルトに、音の四人衆が準備を始める。


「尤も、とてつもない茶番だけれどね」
小さな小さな声で呟かれたナルトの独り言。
運悪く耳でキャッチしてしまったサスケは身震いする。

 これでは俺の人生真っ暗だ。
 ナルトの傍に居られない人生なんて!!
 五月蝿い蝿と同類の大蛇丸の部下になったら……。
 俺の一族復興(ナルトと結婚して子宝に恵まれる)の野望はどうなるんだっ!!

ここまで考え逃げ出そうと半身を引いた処で、サスケはナルトに腕を掴まれたのだった。







同時刻。


ナルトから『言い付かった』任務を果たそうと任務が記された巻物に目を通していた白。
一瞬だけ絶句して巻物の文字をもう一度黙読した。

「ナルトさんの演技……ですか。ナルトさんが考えた通りなら、僕は途中までの演技になるでしょうけど」
ナルト手ずからの台本『サスケ里抜けへの道』を手にした白は途方に暮れる。

サスケと私闘をもう一度サクラの前で行い。
音の忍に誘われたサスケを取り戻す演技。
恐らく激怒した兄(九尾)がナルトの演技権利を白から奪い、サスケを追う。予測込み。
事細かに記された巻物を思わず白は手から畳みの上へと落としていた。

「サスケの演技!? 俺がか!?」
同じく台本を持った再不斬が頭を抱える。

対象になりすまし周囲にさも当人が行為を行った風に見せかける。
これは忍である再不斬にとっては朝飯前だ。内容が内容でなければ。

「でも演技しないわけにはいきませんよね……。ナルトさん、サスケさんを連れて出かけちゃいましたし」
「演技っつうか、まぁ、俺達には容易い仕事だが。本当に良いのか? あいつが知ったらあの餓鬼(サスケ)も音の馬鹿共も無事じゃすまないだろう」
再不斬の言うあいつとは言わずもがなシスコン妖狐・九尾の狐である。

「僕も一応それを心配はしてますけど……」

 どちらにせよ、もう手遅れです。

力無く足元に転がった巻物を白は拾上げ空を見上げる。
こんなに澄み渡った美しい青空。
下手をしたらもう拝めないかもしれない。


 どうか事態が変に大きくなりませんように。


ここには居ないナルトへ願って、それから諦めに近い気持ちを胸に白が深々とため息を吐き出した。


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いよいよ次から兄の猛追撃が始ります(予定)
ここのナルコは自分より弱いもの(下僕除外)をあまり人として認識していないっぽい。です。

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