可愛い子には旅を


思案顔のナルトは里から距離を置いた本来の家の庭で。
白と土いじりをしながらぼんやり流れる雲を見上げた。
浮雲が上空を流れる風によって里から離れていく。

「先達達は良い言葉を残している」
綱手探索の折に入手した短冊街の名産の果物。
林檎に似た風味を持つ果実をつける、その苗木を植えつつナルトはひとりごちる。

「可愛い子には旅をさせよ。良い言葉だわ。サスケも煮詰まってしまっているのかもしれない。そろそろ頃合ね」
サスケが入院している木の葉病院の方角へ眼球だけを動かし、数秒だけ目を遣り。
ナルトは再度苗木に目線を戻す。

綱手をつれてきて治療をして尚且つ、五代目火影まで調達して帰って来た主。
に対して下僕二号は反旗を翻した。

サクラという第三者が居る前でナルトに勝負を申し込みカカシに態よく止められた。
後に、下僕二号の反抗期と名づけられた事件を起したのである。

「比較対照がナルトさんなら余計焦りますよ」
白もナルトと一緒に苗木の周りにジョウロで水を遣りつつ。
当たり障りなくナルトの独り言に相槌を打った。

「困ったものだわ、サスケにも」
そこで初めて白の存在を視野に入れたナルトは頬に手をあて、と息を吐き出す。
健康的な肌色の頬が薔薇色に染まったナルトの仕草は相変わらず美しく隙一つない。

「強くなってナルトさんのお役に立ちたい。という意思の表れでは?」
サスケの涙ぐましい変態っぷり(ストーカー?)を間近で見てきた白が、遠巻きにサスケのフォローへ入った。
なんだかんだ言ってナルトもサスケは目にかけて育てている……筈だから、ナルトがサスケを嫌っていないだろうと考えて。

「どっちかってゆうとな。ありゃ、手前ぇの兄貴に対する反発心だ」
白の苦しい擁護を察し再不斬が冷たく言い切った。

エリートの証である血統を生かせず、己の野望だけで力を求めれば駄目になる見本のうちは兄弟。
兄もそれなりに『強い』がナルトと九尾から比べれば赤子も同然。
血に頼り能力に頼っては何れその能力と血によって自滅する。
脆い硝子のうちはの末裔を再不斬は歯牙にもかけていなかった。

サスケは白と再不斬の存在を少なからず快く思っていなかったようだが。
ナルトと己を阻む障害として。

「なら丁度良いわ。サスケを里子に出しましょう」
ナルトは明日の天気と……木の葉の暗部に成りすまし、SSSランク任務をこなしてこいと命じるのと。
まったく同じ調子で言った。

「里子ですか?」
ナルトの口から出るとは想像もしなかった単語を聞き、咄嗟に白は尋ね返してしまう。

「ええ。私も体験してみたかったし」
にっこり微笑むナルトに詳細を尋ねる勇気と度胸を、白と再不斬は持ち合わせていなかった。







サスケはナルト自らの誘い(病院からの外出)を断った刹那、鳩尾に一発くらい意識を手放した。
気が付けば木の葉の里を出ていて、見知らぬ空き地に見知らぬ四人の忍とナルトに囲まれ座り込んでいる。

「やっと起きたわね」

 よしよし。

サスケの呆然とした顔にナルトは笑みを浮かべる。
ナルト以外の四人。
彼等の人からはなれた風貌と額当てにある♪マーク。
見咎めサスケは眉根を寄せた。

「ナルト様……その、本当に」
頭が二つある男がおずおずとナルトに問う。

腫れ物に触る態度でナルトに接する頭二つの男にサスケの困惑は止まらない。
否、ナルトが大蛇丸と……九尾が大蛇丸と故知なのは知っている。
だがナルトが単身自分も連れて音と接触している理由が分らない。

「構わないわ。面白そうだもの」
ナルトは表情一つ変えず理由を音に出した。面白そう、と。

「……ですが、兄上殿に知れたら」
頭が二つある男が慎重にナルトへ問いを重ねる。
ナルトの機嫌を損ねるのも嫌だし、自分の上司に怒られるのも嫌だし、何よりナルトの背後(九尾)に殺されるのも嫌だった。

「殺されるのはお前達だけだから心配は無用よ。いざとなったら私が止めてあげる」
「「……」」
さらっと言ってのけたナルトに巨漢の男と唯一の紅一点が絶句する。

「大丈夫よ。兄様は私の演技もしなければならないんだもの。忙しいし、怒りの矛先はサスケとオの字に向くだけだから大丈夫」
ナルトは涼しい顔をして続けた。

「それは……余計に性質が悪いぜよ、ナルト様」
ここで躊躇いがちに蜘蛛腕男がナルトに勇気を持ってツッコむ。
「なら、今、ここで死にたい?」
ナルトは鼻歌交じりにクナイを取り出し刃先を蜘蛛腕男へ向ける。
目に宿した剣呑な光を輝かせ顔は笑みを形作り、それが余計に恐ろしさを増す。

「え、遠慮しておくぜよっ!! 謹んで」
蜘蛛腕男は泡を食って腕を左右に大袈裟に振って五歩きっちり背後へ後退した。

「サスケ」
四人との話にケリをつけた(ナルトはそう判断したし、四人も諦め顔だ)ナルトはサスケに向き直り彼の頬を両手で包む。

「悪いと思っている。力を求めるお前を鍛えられなかったのは私が不甲斐無いから。矢張り生温いあの里では限界があったわ、お前を育て上げるには」
目を見張って驚くサスケの瞳に自分の姿が映っている。
微笑を湛える自分が。

サスケが強くなれなかったのは里の空気もある。
しかしサスケ自身に根本的な問題があるから、でもある。
ナルトに心酔(というより腑抜けている)しきっているサスケ自身に。

「だからサスケ、お前を音の里に里子に出す。サスケは音に誘われ力を求め里を抜けたという設定でね、表向きはオの字の『器』として」
ナルトは表情とは裏腹の己の考えなど微塵も感じさせず。
サスケを強くするべく流れる水の如く説明してやった。
サスケの今後の『身の振り方』を。

「なっ、さ……里抜け!? 俺が? 俺がか!?」
裏返った声でサスケは絶叫した。

何が悲しくて自分の意思とは別に『里子』とやらに出されなければならないのか。
しかもナルトの傍を離れ、木の葉と敵対する『音』へ。

そんなサスケを気の毒そうに音の里の四人が見詰める。
激しく己が同情されているのが視線から察せられた。

「昔から言うじゃない。可愛い子には旅をさせよって」
酷く楽しそうに告げたナルトの一言に。
反論できる甲斐性をサスケはこれっぽっちも持っちゃ居なかった。


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 コミックを見ていて思いついたネタ序章です。
 樽漬のナルコが見たかっただけなのです。
 ソレを追う兄と一緒に樽漬けされるサスケも……。

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