『昔日の残照4』
ギャレオが最終戦だと息巻き、イスラは相変わらず島の住民を茶化し、アズリアはアティの持つ剣を奪還すべく。
これまでと変わらぬスタンスを貫き戦いに挑んでくる。
正面きって宣戦布告だ。
喧嘩を売られた形の海賊達も面子がある。
互いに譲歩の余地がない空気が流れる中、アルディラとファリエルが強制参加して戦いは激しさを増していた。
「ふむ……拙いな」
まったくやる気はありません。
そのような態で銃を適度に撃っている は最後尾で零した。
頑張るアルディラとファリエル(この場合はファルゼンの姿)、ミスミとスバル(キュウマを呼びに来て偶然帝国と遭遇)、アティ、ウィル、ベルフラウ。
それからカイル一家。
島の暮らしに慣れて顔色も良いアティ達に比べ帝国兵の疲れきった顔は青白く唇は土気色である。
お世辞にも快適島暮らしを楽しんでいるようには感じられない。
長期戦となって疲労の色が濃いのだ。
「何が?」
スバルがキョトンとした顔で を見上げる。
帝国との戦いは初めてのスバル、大事をとってミスミと後方支援に回っていた。
「そうよねぇ〜、拙いわねぇ。にゃはははははは♪」
酒盛りの気配を嗅ぎつけ人を超えたスピードで海賊船へ馳せ参じたメイメイも、酒焼けした顔を緩ませ場違いに笑う。
「疲れておるだろう? 帝国の連中が」
は、動きの鈍ってはいない帝国兵の顔色と瞳を顎先で示しスバルへ教える。
「そりゃぁ、先生にやっつけられてばっかりだからじゃないのか? 絶対にオイラ達が追い出してやる!」
ニシシシ。
斧を構えニンマリ笑うスバルに は首を横に振った。
重々しい調子で否定する
にミスミも近寄ってくる。
「良いか? 汝も将来郷を背負って立つなら、観察眼を持つ事だ。帝国兵は島の環境……汝等の存在を受け入れられず、精神的に疲れ果てておる。
追い詰められた手負いの獣がどのような行動に出るか、スバルには分かるか?」
他の仲間達は良い動き。
最前線で戦うファリエルとカイルのコンビネーションは抜群で、合間を縫ってアルディラが召喚術で帝国兵に毒や痺れを与えている。
数が多い帝国兵達にやや押され気味でも、ヤードが回復に専念し、ウィルとベルフラウはそれぞれの相棒と共に攻めの一手。
気迫においては帝国兵に引けを取らない。
は自分が出る幕はないと決め付け、スバルに語りだした。
「あっ……」
紅い瞳を丸くしてスバルが言葉に詰まる。
「うむ、
の言う通りじゃな」
長刀の先を地面へ突き刺し、ミスミも
の考えに感嘆した。
「メイメイさんもそう思うわ〜。なーんだか、お疲れって雰囲気じゃない? あの子達」
クピクピ酒瓶から酒を喇叭飲みするメイメイが最後に付け加える。
・ミスミ・メイメイの言葉を聞いたスバルは腕組みして難しい顔で唸り出す。
「アズリアとイスラ、ギャレオとビジュは流石に顔には出さぬが。焦りや苛立ちで安定した精神を欠いておるだろう。帝国は任務を放棄して逃げる軍人を許さぬからな」
は槍を振るうアズリアと、召喚術の前に倒れるギャレオを横目に尚も会話を続けた。
イオスの件もある。
それから初めて見(まみ)える帝国軍でも、アティから話を聞き齧ったし知識においては基準を満たしている だ。
アズリアと話す機会も掴み、件(くだん)の人物からの話も兄とイオスを通し情報は得ている。
「なんと!? 命あってこその次であろう? ……わらわ達とは違う理を抱えておるということか。必死になるのも道理じゃな」
ミスミが目線を向けた先には非力な召喚兵士がソノラの銃に体力を奪われ、地面に倒れていく瞬間が映る。
体力がありそうで魔力防御が低そうな、剣を持った兵士もアティの召喚術に歯を食いしばって耐えていた。
「潰しちゃうのは簡単だけど、島から追い出せるかは微妙よねぇ。先生は剣を封印したけど? 今度は遺跡に剣を抜きに行っちゃいそうじゃない?」
メイメイは軽い調子で喋り、空になった酒瓶を前方へ無造作に投げ捨てる。
ガラスが割れる音と帝国兵の誰かの悲鳴が響き渡った。
「オイラ達が頑張っても、向こうが諦めてくれなきゃ駄目じゃないか〜!!!」
地団太を踏むスバルへミスミは慈愛に満ちた眼差しを送る。
「そうなのだ、スバル。加えて彼等にも家族がおる、という部分を忘れてはならぬ」
澄ました顔で
はスバルの考えを肯定し関連性がある話題を持ち出した。
「「……」」
予想外の の話題転換に、ミスミとスバルは互いに互いの顔を見詰めあう。
唯一の家族である相手の瞳に互いの間抜けな顔が映っている。
「お父さんも居るでしょうし〜、お兄ちゃんだったり、弟だったり〜、息子だったりするわよねぇ」
空瓶の行方を歯牙にもかけずメイメイは指折り数えた。
「軍人を目指す位だ。最悪の事態は覚悟しておるだろう。しかし家族を失う痛みはリィンバウムの住民であっても、残り四界の者であっても変わりはない」
の教え? 第二弾にスバルは口を真一文字に引き結ぶ。
覚悟を決めた男の子の顔で。
グローバルスタンダード、だな。
アティからは基礎的な常識や勉学を教われば良いだろう。
が、いずれスバルも外との折り合いをつけなければならぬ。
ミスミを支えられる男(おのこ)になるよう我がヒントをやろう。
汝ならキュウマの阿呆とは違い、道を違(たが)えたりはせぬ筈だ。
キュウマがこれ以上馬鹿をしないようにする為には、スバルが一人前になれば良い。
キュウマの主であった父親を越える存在に成ればキュウマだっていつかスバルを主と認めるだろう。
先まで読んで動いてしまう
は矢張り根っからのお節介焼きなのかもしれない。
「戦い、とはその様なものだ。だが間違えてはならぬ。スバルが護りたいもの、母上殿であるミスミや保護者のキュウマ、郷の者達。
彼等を助けるのは勿論、決して安易に特攻をかけるでないぞ? 死んでは何も残らぬ。
戦死の名誉など生(せい)の前では霞む」
戦場教育は大切だ。
マルルゥと同じく精神年齢が低いスバルを教育しておけば、非常時に暴走されずに済む。
スバルが無謀な行動をとればアティは必ず助けるだろう。
そのリスクが計れない現在は危険の芽を早急に摘むに限る。
「おう! オイラ、ちゃんと長生きして母上に親孝行するんだ!」
「スバル……」
の語る言葉を正しく理解してスバルが拳を振り上げ、息子の逞しい成長にミスミが目尻の涙をそっと拭う。
最後尾だけにほのぼのとした空気が満ち溢れた。
「そこ!! 和んでないで助けて頂戴!!」
そんな鬼の親子を睨みつけるのがスカーレル。
隙の出来たアティを援護すべくアティの前に躍り出て帝国兵を真横に切りつける。
返り血もそのままでスカーレルはミスミとスバルへ声を張り上げた。
「あ、はーい」
スバルは悠長に返事を返し、最前列目掛け走り出す。
「今参るぞ、スカーレル」
長刀を地面から引き抜き、ミスミもスバルを追いかけて駆けて行った。
もメイメイも、スカーレルに睨まれ互いに舌を出し苦笑い。
ビジュの投具に苦しむベルフラウの援護で、 は召喚術を放ち。
メイメイはイスラと対峙するウィルの援護用にノロイをイスラへ憑依させる。
「でも拙いのよねぇ、色々と」
新たな酒瓶を開封し、中身を数十秒で飲み干して空瓶を放り投げる。
またもや、帝国兵の誰かの悲鳴が聞えるがメイメイは無視した。
「アティはアズリアにトドメは刺さぬ。確実にだ。となると、追い詰められたアズリアは玉砕覚悟で次なる戦いを画策するだろう。
その後イスラがどう動くか……あ奴からの情報が正しいなら、そろそろ中ボスが島にやって来るやもしれぬ。気が重い」
胃の上を手で押さえ
は身体をくの字に曲げる。
「窮鼠猫を噛む、だったっけ? なんにしても波乱は必至かしら」
メイメイが三本目の酒瓶を懐から取り出し格闘し始める。
すると戦闘終了の勝ち鬨がアティ達から湧き上がった。
疲れた風に敗北を認めるアズリアがアティに何かを問いかけている。
内容は聞き耳を立てるまでもない、剣の事だろう。
「来るか」
遺跡の方角を静かに睨み呟いた 達の頭上、雲一つなかった空に突如として現れる黒い雲。
微風の風も強風へ変わり、轟々と音を立てて砂浜に立つ者々の耳を襲う。
そうこうしている内に雨が降り始め、アティの手に見間違いようもない、碧の賢帝が戻る。
剣を呆然と見下ろすアティを他所に一人盛り上がり撤退していくアズリア。
ゴロゴロ遠巻きに鳴り始めた雷と強まる雨脚は全員を濡らしていく。
ウォオオゥォオオウゥゥウ
誰かの雄叫びのような、叫びのような、不思議な地鳴りが島全体を包み込み、やがて止まる。
はアズリアやアティを見向きもせずずっと遺跡に目をやっていたが、ソレを指摘したのはヤードだった。
遺跡の中央から真っ赤な血のような光が天へ向け一直線に伸びている。
「小癪な演出をしおる、小賢しい」
雨宿りをしつつ酒を煽るメイメイをバックに、
は一人険しい顔をして呟いた。
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