『話題休閑・昔日の残照4後1』
ラトリクス。
薄っすら笑う と共にゾロゾロ移動するカイル一家とアティ達。
何故、 達が自分の謝罪に同行するのか分からないアルディラ。
彼等を待ち受けていたのはラトリクス入り口前に、でん、と置かれた巨大な機械である。
手前のコントロールパネルで最終チェックを行っていたクノンが、アルディラに気付きゆっくりと背後を振り返った。
「お待ちしておりました、アルディラ様」
クノンは相変わらずのポーカーフェイスで深々とお辞儀する。
「クノン?」
その機械はなんなの? 尋ねようとして何故か の黒い笑みを目撃してしまうアルディラ。
厭な汗が背筋を伝う。
「クノンと我が編み出した最高傑作だ。今生の別れとなるのは残念だが幸せになるのだぞ、アルディラ」
「え?」
アルディラの脳内で警鐘が鳴り響き嫌な予感が高まる。
何故か
に餞別の言葉、らしきものを貰ってアルディラは頬を引き攣らせた。
「アルディラ様のデータを電子対応レベルにまで分解、遺跡に存在するサプレス・メイトルパ・シルターンの術を制御するロレイラルの機器へ転送します。
そうすればアルディラ様はハイネル様と永久に暮らすことが出来ます」
無表情のクノンの背後には怒りのオーラが蜃気楼のように揺らめいている。
アルディラはクノンの剣幕に圧されて一歩後ろへ下がった。
「………へ〜」
そういうオチだったのか。
白々しい相槌を返し、ウィルは自分も手伝って組み立てた怪しい機械の端から端までを眺めた。
「でも要はアルディラ、今の身体を捨てるって事でしょう?」
狙ったわけじゃないのにソノラがアルディラのこれからを要約する。
「あら、良いんじゃないの? 先生を犠牲にしてまで恋人に逢いたかったんだから。これなら被害もアルディラの命一つだし」
物見遊山とばかり、
にひっついてきたメイメイがきっぱり言い切った。
「合理的と表現するならそうでしょうね」
ヤードも
の笑顔を見て諦めたのか、棒読みに近い口調で意見を述べる。
「アルディラ、汝の事は忘れぬ。
歪んでしまったハイネルの精神と末永く幸せにな?」
サーっと青ざめたアルディラに寂しそうに微笑みかけ、
がファリエルに目配せした。
『大丈夫よ! 兄さんは、
人形とかアルディラ義姉さんの事を呼んでたけど……。きっとまだ愛している筈だから』
の目配せに気付いたファリエルも、満面の笑みを湛えてアルディラの背中を押す。
「え? あ、私はね?」
逃げ腰のアルディラの手首をクノンが掴み、カプセル状の容器の中へアルディラを引きずっていく。
外見は少女でも中身は機械、クノンは抵抗するアルディラを容器へ収めた。
「遠慮なさらず、アルディラ様。クノンはアルディラ様の願いを護りラトリクスをずっと守っていきます。どうかハイネル様とお幸せに」
ガチ。
カプセルの上からご丁寧に鍵までかけてクノンが再度お辞儀をする。
「待って!! 待って頂戴!! クノン!
!! ファリエル!! 私が悪かったから!! 誤解よ、誤解なのよ〜」
涙目になって叫ぶアルディラも珍しい。
カプセルの中に数本の金属の管が出てきて、アルディラの足首と手首、頭と首に巻きつく。
「
誤解よぉおおぉぉぉおおお」
恐怖に引き攣ったアルディラの悲鳴だけが周囲に響き渡る。
しかし
とクノンが怖いせいで、アティやベルフラウ、ソノラはカプセルに近づけないでいた。
「どうかお幸せに、アルディラ様」
ニッコリ笑ったクノンがスイッチを押せば、カプセルの中に煙が立ち込める。
「まさか本当に遺跡に接続するなんて、してないわよね?」
手痛い意趣返しにベルフラウが
へ聞いた。
「当たり前だ。あれは催眠ガスというもので、眠くなる薬の一種でな。融機人であるアルディラにも害がないようクノンに調合してもらっておる。良い夢でも見れるだろう」
は唇の端だけを持ち上げ大人びた仕草で肩を竦める。
アルディラからすれば二度と味わいたくない恐怖体験であってもクノンからすれば正当な悪戯だ。
裏切られたクノンの悪戯にしたら可愛い方だ……恐らくは。
「悪夢じゃないと良いですけど……」
自分が同じ体験をさせられたらトラウマになってしまう。
二の腕に出た鳥肌を擦ってアティが小さく震えた。
「まぁまぁ、アルディラもこれで懲りただろう? クノンを、家族を怒らせたら怖い目に合うってな? 次はキュウマの番だぜ……あっちも見物だな」
一部始終、笑いを堪えて眺めていたカイルが、今度は風雷の郷を指差して移動を促した。
一時間後の風雷の郷。
厳粛な空気が漂う中、ミスミの屋敷中庭に設置された一畳分の畳と白い屏風。
襷がけしたミスミが珍しく刀を構え、スバルが短刀をキュウマへ手渡している。
気絶中のアルディラを担いだクノンは興味深そうに青ざめるキュウマを見詰めた。
「
様、あれは何でしょうか?」
白装束のキュウマも珍しい。
クノンは小刻みに震えるキュウマの背後、白い屏風や全体を指差し
に説明を求める。
「切腹という。己の不始末を清算する為にある習慣で、名も無き世界にも過去にはこのような習慣があった。
シルターンにも同じ習慣があると知ってな? キュウマを殺し、リクトの元へ送ってやろうと考えたのだ」
はしれっと何食わぬ顔でクノンへ答を与えた。
アルディラへの『お仕置き』を目撃したアティは最早差し出す言葉もない。
ウィルもヤードも止めるだけ無駄だと悟り、キュウマがどうなるか興味津々で最前列を陣取る始末である。
「そうですか。キュウマ様は幸せになれるのですね?」
クノンも機転が利くタイプ。
わざとキュウマに聞えるよう、少し大きな声で発言した。
クノンの言葉を聞きつけたキュウマの悲壮感が一層強まる。
「ああ、汝にとっての研究課題であるキュウマの笑顔を見られるやもしれんぞ」
人の感情について勉強中のクノンに。
というよりかは、矢張りキュウマに聞えるように意地悪く付け加える
。
「なるほど、一つ学習しました。実に興味深いです」
クノンは気絶中のアルディラを縁側に横たえ、自分は隣に座り真顔で に応える。
とクノンが会話を交わす中、キュウマに対するお仕置きは続いていた。
「すまなんだ、キュウマ。そなたの気持ちを考えてもやらんで。わらわとスバルの事は心配するな? あの世で夫に宜しく伝えてくれ」
所謂介添え役、を勤めるミスミがアカデミー賞並の演技力を持ってキュウマへ詫びる。
「父上に会ったらオイラは元気だって伝えてくれよな! キュウマ」
親が親なら、子供も出来る。
スバルもにっこり無邪気に笑ってあの世にいる父親への伝言をキュウマへ託した。
「い、いえ……わたしは」
キュウマは縋る目つきで咄嗟に郷の住民であるゲンジを凝視するものの。
「遠慮はするもんじゃないぞ、若造」
頼みの綱のゲンジもこの通り、取り付く島もない。
却って逆に切腹を容認されてしまいキュウマは四面楚歌。
正に360度、回りは敵だらけだ。
「さあ、キュウマ! 潔く腹を切れ」
刀の柄を握りなおしミスミがキュウマに迫る。
「キュウマ、オイラはキュウマの事忘れないからな!」
スバルは迫真の演技で何処までもにこやかにキュウマへ自害を促す。
「で、ですから!! ミスミ様、スバル様」
「問答無用、早く腹を切らぬか。主との遺言を果たせなく無念であろう? ミスミとスバルに遠慮する事はない」
ここで
が有無を言わせぬ口調でキュウマに命令し、キュウマだけを包む緊迫感が否応なしに高まっていく。
「
ううぅう……」
キュウマは涙目になってアティ達へ助けを求めるが、誰も目線を合わせてくれない。
スバルから受け取った短刀は綺麗に磨かれていて切れ味は良さそうだ。
「……南無」
無念の涙を流し自分の脇腹に短刀を付きたてるキュウマの首に、ミスミが素早く手刀を叩き込むのがほぼ同時。
前のめりに倒れ込むキュウマを見下ろし、ミスミとスバル、ゲンジに
がニンマリ笑い合う。
「安心するのじゃ、アティ。キュウマが手にしておった短刀は仕掛けがしてある。刃を潰しておる短刀で、刃が柄の中に引っ込む構造なのじゃ」
ミスミが複雑な顔をしているアティへ短刀を放り投げる。
飛んでくる短刀を慌てて受け止めたアティは短刀が武器として使えないのを確かめ、深々と息を吐き出した。
「こうでもせねばキュウマは何が大切か、白黒つけられぬだろうからな。意趣返しじゃ」
ミスミがニコニコ笑って言葉を続ければ、マルルゥが飛んでやって来る。
なんでも の指示で作った宴会場が出来あがったとの事。
用意周到な の策に全員が、
を敵にするのはやめようと新たに誓ったのは特筆すべきもない。
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