『話題休閑・陽気な漂流者1前2』
朝食に使った食器類を片付けていると、 の小屋を訪ねてくる二つの影。
ノックも断りも無しに小さな少年は小屋の入り口を開け放った。
「頼もう!! 今日こそは
から一本取るからな!!!」
人とは違う僅かに尖った耳。
衣服はキモノと呼ばれるシルターン風。
瞳もシルターンのサモナイト石と同じ赤。
全身から元気を放出する子供は
を指差し宣言する。
「朝から元気ね、スバル君」
子供をスバルと呼びのほほんと笑う女性。
人間なら耳がある位置に耳はなく。
頭から生えている長いウサギのような耳を持つ、メイトルパの亜人の女性。
褐色の肌と軽装が特徴的。
手に野菜や果物が入った篭を持参しての登場である。
「ヤンチャさん! ナガミミさん! お早うです〜。そうそう、昨日から新しいお友達が出来たんですよ〜、ボウシさんとネコさんです。あっちはシロネコさんです」
マルルゥがスバルという少年と、ナガミミと呼んだ女性にウィル達を紹介。
紹介といっても顔を指差して順繰りに自分が覚えた名前を勝手に呼んでいるだけだ。
「初めまして、ウィルです。こっちは僕のパートナーでテコ。あっちは
の知り合いでイオスさんだそうです」
「あ、わたしはシアリィっていいます。
さんに料理を教わってるんです、興味があって。こっちは風雷の郷の子供でスバル君。郷を纏める鬼姫ミスミ様の息子さんよ」
深々、深々。
互いにお辞儀を交し合いウィルと女性・シアリィが頭を下げあう。
そんな二人を他所にスバルは慮外な視線をウィルへ浴びせる。
「ニンゲンだろ、アンタ」
瞳に警戒の色を浮かべたスバルの指摘。
敢えて口に出さなかったシアリィは怯えた風に耳を動かし、ウィルは二人の反応を‐かなり腹には据えかねるが、仕方がない部分もあるので‐謙虚に受け止めた。
その点では、昨日ヤッファに散々人間は厄介だと言われた事が役に立っているかもしれない。
「うん。船でこの近くを通り過ぎる途中、嵐に巻き込まれて島に流れ着いたんだ。ヤッファが助けてくれなきゃ、他のはぐれ達の餌食になってたかもね」
ニンゲンが居ないはぐれ者達の島。
招かざる訪問者の自分は一人ぼっちでも、却って自分の身分や境遇を知る者が居ないのは気楽で。
自然と肩の力が抜けたウィルの気負わない返答にシアリィとスバルは黙り込んだ。
「実際助けたのはテコで、次に我が助けたではないか」
ヤッファの石頭をかなり根に持っている が口を挟む。
事実、ウィルを助けたのはテコで次が 。
逗留の許可を出したのはヤッファでも、助けた訳ではない。
「でも、この村に居ても良いって許可してくれたのはヤッファだろう? だったら彼に感謝しなきゃいけないよ」
道理を説くウィルと、片眉を持ち上げ少々不機嫌そうな面持ちの 。
好対照の二人の間にマルルゥが突っ込み声高に言った。
「マルルゥだってシマシマさんを説得したですよ〜」
「ご免、マルルゥ。ヤッファを説得してくれて有難う。本当に助かったよ」
膨れっ面のマルルゥへ、ウィルは笑顔で感謝の気持ちを伝える。
こんな状況で素直になれる自分が居る事に新鮮さを感じながら。
「えっへん!」
空中で逆海老反り? 踏ん反り返りすぎのマルルゥと、歳相応の子供の顔で笑うウィル。
雰囲気は友達が持つものでシアリィは釣られて微笑。
スバルはバツが悪そうに顔を背け鼻の頭を擦った。
折角正義の味方みたいに格好良く登場できたと思っていたら、こっちが悪人役とは骨折り損である。
「説得というか、単に汝が五月蝿かっただけではないのか?? しかもそこは威張る所ではないと思うぞ? のう、テコ」
「ミャーミャ」
反り返ったマルルゥの背中を人差し指で『つー』となぞり、意地悪く がテコに話を振り、テコが腕組みして尤もらしい声音で鳴き。
マルルゥは小さな身体を小刻みに震わせて「ひゃぁ」なんて裏返った声で叫んだ。
「ひ、酷いですよう〜!! アオハネさん意地悪です」
頭から湯気を噴きそうな勢いでマルルゥはカンカンに怒り出し、 の耳元でギャンギャン騒ぐ。
シアリィは手にした籠をスバルに押し付け
へ会釈。
「また日を改めてきます。また今度、
さんのお知り合いが作るパイの作り方を教えてくださいね。楽しみにしてます」
礼儀正しく挨拶するシアリィに
は片手を上げた。
「すまないな、シアリィ。この埋め合わせは必ずする」
「いいえ。ウィルさんに知り合えただけでも、わたしにとっては収穫です。……先入観って良くないのかもしれないですね」
悪戯っぽく笑ってシアリィは首を左右に振る。
根が大人しい彼女は、比較的他種族に寛容で闖入者である にも直ぐ慣れた経緯を持つ。
シアリィの発言にマルルゥと
は互いにニンマリと笑い合った。
「な、なんだよ!?」
次に穴が開けとばかり、 とマルルゥに熱く見詰められスバルはたじろぐ。
少し後退して必死に手と頭を左右に振る。
「良いか、スバル。ニンゲンは大まかに分けて二種類」
は顔から感情を消し、一歩、一歩ゆっくり歩いてスバルへ近づいた。
滲み出るシリアスな空気にスバルも無意識に唾を飲み込む。
「自分の人生に役立つか否か。こちらの言い分を聞くか否か、だ」
口角を持ち上げ断言する
と静まり返る小屋内部。
「成る程!!」
ポンと手を叩いて感心するスバルと、首を捻るマルルゥ。
シアリィは呆気にとられ、ウィルとイオスは「違う(ミャ)!!!」と声高に叫ぶが。
「少なくとも我はこれで危機を乗り切ってきたぞ」
飄々と言ってのけた傍若無人な美少女に
「「「それは だからでしょう(ミャーミャミャミャミャ)」」」
と今度はシアリィまで加わって息の合ったツッコミが入ったのは。
至極当然な成り行きなのであった。
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