『話題休閑・陽気な漂流者1前1』



器用そうで実は不器用? ヤッファの精一杯の誘いに乗ったウィルは、心地良いベッドでの朝を迎えていた。

高床式のメイトルパ特有の小屋に大量の繊維を敷き詰めた屋根。
木の息遣いが感じられる、温かみのある窓から飛び込む朝日。

「……ゆ……め……じゃない……んだ」
幾分水分不足で掠れた声音で呟き、ウィルは無作法に自分の唇を舐めて潤した。

まるで問答無用。
こっちの意思も関係無しに滝下りにでも行かされた気分。
乱高下する人生にウィルは気の抜けた深呼吸をして傍らの友達、テコへ顔を横たえ……横たえ、恥も外聞も自尊心もかなぐり捨て絶叫。

ウィルの絶叫は小屋の同居人、 を起こすのには十分で、尚且つお隣さんであるヤッファを起こすのにも十二分であった。

「どうしたのだ!! ウィル」
「おい、どうしたんだ?」
ノックもなしに乱暴にドアを開け放ち乱入する とヤッファ。

常のウィルなら彼等の非礼を咎めるだろう。
しかしウィルを襲う未曾有の怪奇現象は、彼から本来の落ち着きを奪っている。

「テ、テ、テ、テ……テコが……」
ウィルは上擦った声で震える指でソレを指す。
とヤッファはウィルの指差した方角へ同じタイミングで顔を向けた。

「テコが分裂増殖してる!!!」
ウィル本人は大真面目に言ったつもりでも、 とヤッファの緊張を解かせるには効果的な台詞である。

敵襲でもあったのかと考えていた は片手を腰に当て、ヤッファはベッドに近づき二匹のテコを片手に持ってしげしげと眺めた。

「こっちは昨日俺等が見たテコ、だよな?? この白い毛並みを持ったテコは今日現れたテコだな……言っとくが、ウィル。
メイトルパの幻獣達は、こんな風に分裂したり増殖したりしないぜ」
驚愕するウィルにやんわりとヤッファが告げる。
言ってから、昨日遭遇したオレンジ色の毛並みを持つテコをウィルへ放って返した。

「え? じゃ、じゃあ……その、真っ白なテコは一体!?」
なんだか自分の早とちり?? 失態に気づき狼狽していても、きちんと疑問点を纏めるのは天晴れである。
ウィルは目を覚まして己を不思議そうに見上げてくるテコを腕に収め、新たな来訪者? 真っ白いテコ(仮)を凝視した。

真っ白いテコ(仮)は、ウィルの知るテコと違い眼鏡をしていない。

二匹の違いを観察し暫くすると真っ白いテコ(仮)が目を覚ます。

特徴的な深い紫色の瞳。
何度も瞬かせ、それから の姿を確認すると彼女へまっしぐら。
他は目に入っていないようで躊躇いもなく の腕へ飛び込んだ。

「……我は何もしておらぬぞ……」
ヤッファ・ウィル両名から疑惑の眼差しを頂戴し、 は腕の真っ白いテコ(仮)を盗み見てぼやく。

真っ白いテコ(仮)は周囲の困惑を他所に一頻り に擦り寄った後、ためらいがちに「ミャ〜?」と鳴いた。
刹那、 の頬は見事なほどに痙攣、ヒクヒクと頬を引き攣らせ彼女らしくなく慌てて真っ白いテコ(仮)をジーッと見詰め。
真っ白いテコ(仮)と見詰め合うこと数分間。

「……何もしておらぬが、我のせいなのか……。どうやらこのテコ、我の知り合いが誓約により姿を封じられた結果の出で立ちらしい」
とても疲れきった調子で はウィルとヤッファに伝え、がっくり肩を落とした。

一先ず着替えと朝食。
途中乱入してきたマルルゥも加えて和やか? な、メイトルパの朝の風景を演出しつつ全員の視線は真っ白いテコ(仮)に釘付けである。

「彼の名はイオス。元帝国軍人・現フリーの騎士で修行の旅を続けておる。祖国を捨てた形になってしまった為、帝国とは縁が切れておるそうだ」
が口を開き、色とりどりの果物・カットフルーツの皿をテーブルに載せた。

真っ白いテコ(仮)改め、イオスは器用に立ち上がり騎士風の会釈を一つ。
隣でウィルのテコが真似しようとして背後へひっくり返っていた。

「現在は聖王国に住まいを移しておるのだが……イオスは人間で、ここへ来られるような資質を持ってもおらぬし……。何故、イオスがここへ来たのか我にも分からぬ」
の説明にヤッファは頭を抱え、事態の重さを分かっていないマルルゥはシロネコなんてあだ名をイオスへつけ。
ウィルは非常識そうな島だし、それくらいアリかも。
なんてそれぞれ勝手に考える。

「あ〜、まぁ、何だ。来ちまったモノは仕方ない。還す方法がないこの島で当分暮らしてもらうしかないな……面倒だ……」
最後の一言はヤッファの偽らざる本音である。

机に伏したヤッファの頭に座りマルルゥはウィルへ果物を取ってもらえるよう頼み、ウィルもそれに応じた。

子供? 二人は順応性が高い。

はつらつら考え、自分も新鮮野菜で作り上げたサラダを口に運ぶ。
テコとイオスが物欲しそうな顔をするので、リプレ直伝のパンを千切り二匹の口へ放り投げる。

「テコは僕のパートナーだから、僕がやるよ」
友達と言い切れるまでにはもう少し時間がかかる。
ウィルは少々ぶっきら棒に言って、テコを自分の近くのテーブル上に座りなおさせた。

「そう云えば、ネコさんの名前あったんですか? ボウシさん」
から千切ったパンを受け取り、ふと疑問に感じてマルルゥはウィルへ尋ねた。

「ううん。元々テコは『はぐれ』だったみたいなんだ。砂浜で最初に僕を見つけてくれたのがテコでさ。名前は僕が勝手につけたんだけど、気に入ってくれたみたいだから」
ウィルは照れ臭そうに経緯を話し、テコと自分のスープを分け合って食べる。

最初はあれだけ人間だと騒いでいたマルルゥも、相手がウィルだったからなのか。
なんだかんだ云ってすっかり馴染んでいる。
適応力はマルルゥ・ウィルともに抜群だ。

「ミャーミャ」
ウィルの発言に応えてテコもマルルゥへ自分の気持ちを身振りで伝え。
マルルゥは下のヤッファのどんよりを無視して嬉しそうに笑った。

「仲良しなのは良い事です、楽しい事ですよね。笑顔があるのはマルルゥ、とーっても嬉しいです! ねぇ、シマシマさん」
「おー、そうだな」
ペチペチとマルルゥにつむじ部分を叩かれ、ヤッファがおざなりに返事する。
微笑ましい朝の風景は、ヤッファの一人気疲れで幕を下ろしたのだった。



Created by DreamEditor                       次へ
 主人公を取り巻くスペシャルゲストはイオスさんでした。
 そしてすっかり馴染んだマルルゥとウィルに挟まれ楽しそうな主人公と、疲れるヤッファ。
 ヤッファに安息の時は訪れるのか!? ブラウザバックプリーズ