『海から来た暴れん坊3』




集いの泉で待ち構えていた各集落の護人が云う。

『アティが自ら各集落へ足を運び、自分の姿を集落の者に見て貰う。同時に、アティ自身も集落を見て蟠りを徐々に減らしていこう』

要は姿を互いに曝しあい免疫をつけようという腹積もりだろう。

泉で一旦追い出されたマルルゥが再び仲間に加わった状態で歩く一行。
はマルルゥと楽しく話しているアティの横顔を盗み見る。

 集落を見て周り、集落の者に自ら姿を曝して安全だとアピールか。
 いつぞや流行ったどこぞの大臣の食品安全宣言のようだな。
 テレビの前で食べてみせれば事足りると思っておる……だがこの場合は効果的か。

アティは護人達の本心までは知らない。
そこがまずは問題で、アティに告げればそれでお終いと言う問題でもない微妙な部分。

護人は誰しもがあの島の遺跡と過去の事件に深く関わっていた面々らしい。
という部分までは も推測済み。

そこへ飛び込む子羊。
かつてハイネルを封印した剣の一振り。
碧の賢帝を扱えるアティがやって来た。

ウィルは船旅の途中、嵐が突如起きたと表現していたが。

 偶然ではあるまい。
 分断されたハイネルの核識が剣の接近に触発され、剣を呼んだのやもしれん。
 だとしたら剣の主であるアティや、その場に居合わせたカイル一家や。
 剣を運んでいた帝国軍が島におっても不思議はない。
 寧ろ……態よく舞台に乗せられた気もするがな。

 三文芝居の舞台に。

ウィルはアティを意識しつつなんだか接触を避けている。
歳相応、思春期真っ只中の少年らしい反応に は笑いを噛み殺す。

気になるからこそ冷淡に振る舞い。
気にして欲しいからこそわざと素っ気無い喋り方をする。

子供じみたウィルの衝動、でも、他人行儀のウィルよりずっと彼らしいと は感じていた。

当の本人・ウィルは無意識の所作であったし、ウィルと出会って日が浅いアティにはまったく理解されていないけれど。

「ミャー」

の頭上でイオスが小さく鳴く。
外見はどうあれ、イオスは良い歳した大人、に分類される。
当然ウィルがどうしてアティに冷たく当たるのか分かり過ぎるほど。

お節介がトレードマークの が黙っているのが不思議でつい尋ねる。

「今は未だ良いではないか。事件が深まるにつれお互いの心も近づくというもの。暫くは静観だ」
マルルゥの案内で先ずはユクレスへ足を向けた はイオスにだけ聞えるよう、囁き返した。





ユクレス。

船を扱ぐ勢いで欠伸を飛ばすヤッファはごくごく普通の対応をアティへみせた。

「どこまで協力できるか分からないが、それなりに協力するぜ。普段はこいつ等の暴走の後始末だけで精一杯でな」
ヤッファの小屋。
風通しの良いその場所で胡坐をかき、ヤッファは目線を に向けて開口一番こう切り出す。

「はぁ……、大変ですね」

が強そうなのは分かっている。
けれどこれから自分も巻き込まれるとは想像していないアティ。

曖昧に返事を返し背後の を振り返る。

ヤッファの本音は聞えていたが は聞えないフリ。
ウィルとコソコソ話し合いながらアティがヤッファとの話を終えるのを待つ。

「ま、なんだ。気楽にいけや」
ヤッファは当たり障りの無い励ましをアティへ送り話を打ち切った。

ヤッファの野生のカン、が外れていなければ。
の行動はエスカレートするだろうしアティ達も遅からず巻き込まれるのは必死である。

だが事前忠告してもしなくても。
きっと対して結果は変わらないだろう。
どうせ尻拭いをさせられるのはこちらなのだから。
だとしたら黙って見ていた方が楽というモノ。

そんなヤッファの思惑なんて微塵も察せないアティは、ヤッファの言葉を文字通り受け取り。

「はい、有難う御座います。ヤッファさん」
ほややーん、と笑ってみせてユクレスを去っていった。





ラトリクス。
マルルゥ曰く、人形さん。
とアルディラが統治するロレイラルの集落。

溢れる機械と修理される建物。
近代的でリィンバウムには馴染みがないそれら。

物珍しげにあっちをキョロキョロ。
こっちをキョロキョロ。

挙動不審のアティと、表面上は冷静なウィルにテコ。
無関心な とイオス。

微苦笑してアルディラは彼女達を迎えた。

「アティ、ウィル、 。改めてようこそ、ラトリクスへ。この子はクノン。看護医療用機械人形(フラーゼン)よ」
コントロールパネルや精密機械が並ぶ管制室? アルディラは執務室の椅子に座り、傍らに立つ無表情の少女を 達へ紹介した。

「初めまして、アティ様、ウィル様、 様」
紹介されたクノンは顔色一つ変えず、とても丁寧な言葉を遣い頭を下げる。

マルルゥが『人形』と表現したクノンは一見すれば機械仕掛けの人形だ。
合点がいったアティとウィルの表情とは対照的に は眉根を寄せる。

「アルディラ、融機人はリィンバウムの病気に免疫がないと聞いている。この島で薬を調達する事は出来るのか?」
「え? ああ、クノンが調合してくれるわ。でも、何故?」
不躾な の問いに驚き、それでもアルディラは律儀に答を返してくれた。

「知り合いに融機人が居る。名はネスティ。略してネス。直情型の眼鏡をかけた冷静でいて静かに混乱する、頼もしい我の親友だ。今はそうだな……ゼラム辺りにおると思うが」

融機人がリィンバウムに存在するリスク。
身体の事だけでなく、かつてロレイラルがリィンバウムを侵攻しようとした禍根。

知らないアルディラではない。

驚愕の感情を瞳に浮かべたアルディラに は口角だけで笑みを浮かべる。

「いずれ改めてネスについて汝に話そう。数少ない同胞だ、気になるだろう?」
アルディラに対し口戦に持ち込む も相当な狸。
顔に出さず感心するクノンと、なんともいえない気持ちに陥るアルディラ。

アティ達は、そんな彼女達と二言三言言葉を交わしてラトリクスを後にした。





狭間の領域。
サプレスの面々が暮らす魔力に満ちた静寂の世界。

マルルゥが云う『ヨロイさん』と『パタパタさん』が仕切る場所である。

森に点在する水晶の紫色が木漏れ日を浴びて光を反射していた。

「わたしはファルゼン様の副官、フレイズと申します。どうぞ宜しく」
ファルゼンが魔力の消費を防ぐため休憩中。

なので対応に出たフレイズだが、最初からヤバかった(ウィル視点)

を見るなり十数秒はしっかり固まってそれから、アティもウィルも眼中にいれず。
の手をしっかり掴んで一人ハイテンション。
熱い視線を頂戴した も何処か困っていた。

アメルが に激しく惹かれたのを考慮すれば、フレイズの行動も致し方ないのである。
天使は魂が美しい存在を好むとアメルとギブソンが以前に言っていたから。

 しかし……こうも歓迎されてもな。
 フレイズの期待を裏切るようで悪いが。
 それ程高貴な存在ではない。
 我がここに居るのは己のエゴで、だ。

頭上のイオスが威嚇の唸り声をあげフレイズに警告を発する。
イオスの正体を知らないフレイズは当然無視。

奇妙な盛り上がりをみせるフレイズを他所に、アティとウィルは自分達のついていけない世界を目の当たりにし。

ついつい、顔を見合わせ肩を竦めあってしまっていたのだった。





風雷の郷。
島の探検を行っていたカイル達が紛れ込んでしまった場所。

鬼人族の子供、スバルの母で鬼姫ミスミが郷を取り仕切り。
ミスミの夫に仕えていたキュウマが護人を勤めるシルターンの郷。

亜熱帯を想像させるユクレスとは違う、和風的な田園風景がアティ達の眼前に広がっていた。

「良い名じゃ。そなた等、困った事があれば何でも申せ。出来る限りは手助けしよう」
鬼の御殿。
優雅に正座するミスミと、なんだか によって慣らされたウィル・アティも平気で正座。
としても久方振りの畳の感触に心和ませている。

「にしても、名も無き世界とは驚いた。この郷にも と同じ名も無き世界から召喚されたご老体がおってな? さえ構わなければ後で顔を出して欲しい」

「ふむ、我が庇護せし対象者か……この島にも居ったとは意外だな。時間を作って顔を出すとしよう。感謝するぞ、ミスミ」

ミスミから挨拶が終わった後出された言葉に は静かに応じる。

がただならぬ存在だと察するミスミとは対照的にキュウマは に対し少々不満気だ。
自分が使える主の妻に対して無礼だとでも考えているのだろう。

「キュウマ、中途半端に感情を出すのは止めよ。心ある以上、何者も機械にはなりきれぬのだぞ? 尤も機械にも感情はあるがな」
はキュウマの心情を理解した上で棘のある言葉を放つ。
キュウマは目の色を変えた。


 特色ある四人だな。
 誰もが音を乱し欠けてしまった昔を追いかける。

 時だけが残酷に島を避けて通り閉ざされきっていた。

 そこへ吹く、アティという名の風。

 碧の賢帝は吉と出るのか凶と出るのか。
 だが吉と出さねば兄上達は助からぬ。
 気が進まぬ先達役だが引き受けぬわけにもいかんな。


アティに便乗して各集落を回り、再度集いの泉へ戻った
達を待ち受けていたのは、以前にマルルゥも零していたユクレスの野菜泥棒退治の正式な依頼であった。



Created by DreamEditor                       次へ
 足早に四つの集落を駆け抜けるアティ達。
 まぁこれからのイベントで色々と関わっていくので初回は簡単に、という風ですね。ブラウザバックプリーズ