『海から来た暴れん坊2』




アティが剣を手にした経緯を話していれば、堪忍袋の尾が切れたとばかり。
ベルフラウが を睨みつけ怒鳴りつける。

「一体どのような権利があって貴女は口を挟んでくるの!? もし何も知らないウィルを騙しているなら……容赦しないわよ!!」
ぎゅと両手でスカートを握り締め を睨みつけるベルフラウの精神状態は脆い。

落ち着かせようとスカーレルが手を出す前に、逆にウィルがベルフラウを睨みつけた。
少年らしくない冷たい瞳にソノラが息を呑む。
アティも尋常ではないウィルの雰囲気に慌てて口を閉ざし不安そうな顔をする。

は砂浜で、はぐれ召喚獣に襲われそうになった僕を助けてくれたんだ。その後だって僕をユクレスの村に連れて行ってくれて。
護人のヤッファと喧嘩して、一回は一緒に村を出てくれた……。 は僕に色々な事を教えてくれた大切な友達だ」

実の姉に向ける視線ではない。
射抜くような鋭い視線を送るウィルにベルフラウは瞳を潤ませてそっぽを向く。

「シリアス中悪いが、我は帝国出身ではない。汝が心配するマルティーニの家財にも興味はないし恩を売る気もない。ウィルが申したとおり、我とウィルは友だ。
まぁ、厳密に申せば我はリィンバウムの出身でもない。今は島暮らしだが本来は聖王国サイジェントに住む。兄達や姉達と暮らしておるぞ」
が静かに発言すると、漸くベルフラウの意図を察したソノラとヤードが手を叩く。
そんな二人を横目にウィルは心底疲れきった口振りでぼやいた。

を異性として意識できるようになったら、僕としてもお終いかな〜って思うよ」
「ミャ〜」
ウィルの嘆き? に、テコが同情した態度で鳴く。

破天荒な の態度は『友』として好ましいが。
彼女を少女として見るのは、逆立ちしたって無理である。
何があっても背筋を伸ばして凛としている彼女とは対等な友達でいたい。
自分を上回る強さを持つ に憧れはするものの愛は生まれない。

ウィルにだってそれなりに女性に対する『好み』というものが存在するのだ。

邪推は勘弁してもらいたい。

「ウィルは遠慮しない部分が潔いな。無論我とてウィルを異性として意識など……悪いが、したくないぞ。親友にならなれそうだが」

育ちがしっかりしているウィルは、他人との壁はあるものの基本的には良い子だ。
マグナやトリスのように生い立ちが悲惨なわけでもなし。
ある程度は恵まれて育った彼とは良い意味での友達にはなれそうだが。

愛情となれば としても別問題。

種族からして違うのにどう穿ったらそうなるのか、逆にベルフラウに聞きたいくらいである。

「アンバランスな部分が可愛いのに。ウィルはタイプじゃないんだ?」
スカーレルがすかさず の背後に回りこみ、頭を撫で撫で。

「そういう問題じゃないです。勝手に飛び出して騒ぎを起こして帰ってくるし、悪びれもせずに他人を巻き込むし……はぁ……」
ウィルは心底ウンザリした声音で言い捨てて、盛大なため息をついた。

が暴走するたびに後始末に走るヤッファ。
本当にこのままではヤッファの鬣が禿げてしまうのではないかと。
ウィルなりに案じていたりする。

「うわ〜、羨ましいな。性別を超えた友情かぁ」
自分の周りが男だけ、だからか。
ソノラが羨望の眼差しを とウィルへ送る。

「違うぞ、ソノラ。正しくは種族を超えた友情だ」
はマイペースにソノラの台詞を訂正し、ベルフラウの顔色を窺う。

まだ納得していなさそうなベルフラウだったが、ウィルの手前これ以上追求も出来ず。
踵を返して去って行ってしまった。

「まぁ……船の修理が済んだらこの島を離れるつもりだ。先生達も送り返す予定だから、ウィルも一緒に送り届けられてくれるだろう?」
ベルフラウの遠ざかる背中を眺めカイルが話の筋を元へ戻す。

ウィルは黙って首を一回縦に振った。

ヤードとスカーレルが笑い合っていると、緑の物体が超高速でやって来る。
「先生さんはいらっしゃいます……あれれ? アオハネさんにボウシさんじゃないですか?? どうしてココに?」
マルルゥが森から現れ見知った顔に疑問符を飛ばす。

「ウィルの姉がこの船に厄介になってるからな。ウィルの無事を知らせる為に来たのだ。スバル達から聞かなかったか?」
はマルルゥに驚いているカイル・ソノラ・スカーレルをスルー。
世間話を展開。
このあたりの切り替えの素早さは凄いと考えつつ。
もうちょっと周囲の気持ちを察してやれともウィルは思う。

「ヤンチャさん達とはまだ会ってないです。シマシマさんを起こして、他の護人さん達にお使い頼まれてきたんですよ。先生さんはいらっしゃいますか?」
「あ、はい。多分、私の事だと思います」
ほのぼのしたオーラを放出するマルルゥにつられて和み。
慌ててそうじゃないと首を振るアティは何だか可愛らしい。
は黙って目を細めウィルはちょっぴり頬を紅く染めて顔を背けた。

「先生さん達にマルルゥ達の住んでいる場所を見てほしくて、お誘いに来ました。皆さんいらっしゃいますか?」
マルルゥが無邪気に問いかければ、奇妙な顔つきになって黙り込むカイル・ソノラ・スカーレル・ヤード。

ウィルは彼等の意外な反応に内心だけで驚き、腕の中のテコの耳を弄る。
テコは気持ち良いのか目を閉じて「ミャー」なんて鳴いている。

「仕方あるまい? ウィル、汝とて一人で踏み込むには躊躇するであろう」
こっそりウィルの隣に移動した が小声でウィルに耳打ち。
「大人になれば成る程、誰しもが保守的になるのだ。良くも悪くもな」
の更に付け加えた台詞に感心して、ウィルは黙って彼等の返事が出されるのを待つ。

アティはそんな仲良しのウィルと を寂しそうな瞳で一瞥し、気取られないように素早くマルルゥへ顔を戻したのだった。





結局。
カイル達も見知らぬ世界へ足を踏み入れるには躊躇いがあるらしい。
明言はしなかったが、アティだけが村々を見て回る事となりマルルゥ・ ・ウィルと歩く。
ベルフラウも念の為誘ったのだが遠まわしに断られた。

「互いに馴染みのないモノばかり、打ち解けるまでには時間が掛かるだろう」
沈むアティを慰める
労わる の言葉にアティは何時もの笑顔を以てして応じた。

 無理のある笑顔。
 いや、カノンが浮かべていたのと同じ笑顔。
 辛くとも自分が笑っていれば周囲も笑ってくるかもしれぬ。
 そう考えて自分の辛さを押し隠す悲しい笑顔。
 だからこそ剣の持ち主となりえたのかもしれんな……。
 この、強すぎる精神力が剣の力を引き出しているのだとしたら。

アティに微笑み返し、 は頭の中ではまったく違う思考を組み立てる。

「僕の時は問答無用だったじゃないか」
ウィルはアティの視線を気にしつつ、それでもしっかり自己主張。
恨みがましいささえ漂わせて暗に を非難した。

「あれは非常事態だ……ウィルの生命がかかっておったのだぞ?」
しれっとして言い切る の性格も中々なのだろう。
外見と漂う魔力に気を取られていたアティは、 の自然体を間近に見て改めて感動を覚える。

「とか言いながら、 はしっかり愉しんでいたけどね……まったく……」
ウィルは元々観察眼に優れた少年だ。
ここ数日で の気質を輪郭程度には理解してきていて、動じる事無くツッコむ。

適応性にも優れているのかもしれない。

「愚痴の多い男(おのこ)はモテぬ。肝に銘じよ」
涼しい顔でウィルのツッコミに逆方面からの皮肉で逆襲する

漂う雰囲気は同じ学校に通う級友同士の気安さ。
自分はマルティーニの当主に頼まれた『教師』なのに、ウィルは心を開いてくれない。
種族が違うらしい にはあんなに簡単に開いているのに。

アティは ではないし、 はアティではない。

理解しているが本当は悔しい。

無意識にアティは歩みを進める靴の先へと視線を落としていた。

「あ〜、マルルゥも話しに混ぜて欲しいです〜」
和やかな友達組。
ウィルと の会話にマルルゥが耐え切れず騒ぎ出す。

マルルゥからすれば、 が何を謂わんとしているのかまったく分からない。
でもウィルは理解しているので疎外感を味わい、その気持ちを正直にぶつける。

「「マルルゥにはまだ早い」」
とウィルは澄ました顔でユニゾン。
二人にはマルルゥが何を考えているか全てお見通しで、直接的に言っても良かったが。

の瞳が『アティを除け者にしてはいけない』と語っているのでウィルも言明を避ける。

一人ぼっちの心細さ、味わったからこそ分かるし。
それに……無意識ながらもウィルはアティを気にかけていた。

「そんな事無いですよ、ねぇ? 先生さん」

 むぅ。

頬を膨らませたマルルゥが助けを求めるべくアティへ話を振る。

場違いな助けだったが は咎めない。
アティとも早く打ち解けなければならないから。
打算的と罵られようが譲れないモノを は抱えている。

「え!? あ……マルルゥさんにはちょっと……早いかも? しれませんね」
自分の思考に耽っていたアティは慌てて返答を返す。

「ひ、非道いです〜!!! 教えて貰えばマルルゥにだって分かります!!」
「「分からないと思う……」」
憤慨するマルルゥを他所に、 とウィルはまたもやハモって答えたのであった。




Created by DreamEditor                       次へ
 アティはウィルを気になる生徒として見ていて、ウィルは無自覚にアティを異性として意識。
 今後ウィルが男前になっていくと思っておいて下さいませ。ええ、男前になります!!
 ベルフラウがトゲトゲしいのは主人公がウィルを利用しようとしているか。心配だったからです。
 ブラウザバックプリーズ