『海から来た暴れん坊1』




「野菜泥棒の癖にその態度!! 恥を知れ!!! 恥を!!!」

 ばっちこーん。

から容赦なく繰り出されるハリセンの一撃。

スカーレルは「素敵よv  〜」なんて呑気に手を振り。
カイルはあの音を聴き顔を顰め。
ソノラとファルゼンは聞かなかった振りをして。
初めて見る武器にアルディラは興味津々でアティとヤードに詰め寄る。

「だから陸に上がるのは嫌なんじゃ〜!!!!」
滂沱の涙を流し悶える髭親父。
頭の後ろは によって作られたタンコブが痛々さを演出。

髭親父の背をそっと擦るエプロン姿の人の良さそうな青年の後頭部にも立派なタンコブがあった。

『お目出度い奴等だな』
バノッサの手によって打ち倒された野郎達。
ヒクヒク痙攣し、砂塗れになった彼等を一瞥しバノッサは深々と息を吐き出す。

朝から に振り回されているウィル。とその姉。
アティ達に気付かれないよう岩陰に潜伏中である。
二人は意識せずに、同じタイミングで肩を落とした。

「はぁ……なんだかな……予想を裏切らない行動だよね。
「ミャーミャ」
岩陰のウィルは想像を違わない の行動に乾いた笑みを漏らし。

「信じられないわ」
傍らの金髪の少女は心底呆れた顔つきで仁王立ちする を眺めていた。





ユクレスの朝は穏やかで……。

「たのも〜!!! 、今日こそオイラと真剣勝負だ〜!!」

 バッターン。

ヤッファの怠惰な眠りを突き破る、お隣さんの小屋から聞える騒々しい音。

俺は何も聞いていない。

頭の中で三十回は唱えヤッファは無理矢理眠りの淵へと舞い戻っていった。
尤もその眠りもマルルゥによって数分後には崩されるのだが。

そのお隣さん。
出かける支度をしていた は眉根を寄せ、怪訝そうな顔でスバルを眺める。

「すまないがスバル、今日は駄目だ。ウィルの姉が無事で、例の海賊達の船に厄介になっているらしいから会いに行く。それともスバルも来るか?」
頭にイオスを乗せた が尋ねると、スバルは即座に腕をクロスさせバツの字を作った。

「ごめん、スバル。帰ってきたら と一緒に剣の型をお兄さんに見てもらう予定なんだ。よかったらその時一緒に訓練しないか?」
ウィルは腕にテコを抱え、身だしなみをチェックしながらスバルへ謝る。

お兄さん、とは名を明かせないバノッサの呼称。
ウィルが を純粋に友達だと考えていることを見抜いたバノッサ。
イオスは時折牽制してもウィルは牽制していない。

バノッサの強さを知ったウィルは、今更アティに教えを請うのもなんだか嫌で。
バノッサに頼み込んで剣の修行だけはつけて貰える事になっていた。

「う〜ん、じゃぁ今日は皆が帰ってくるまでパナシェと遊んでる。修行する時にパナシェも誘ってみるよ」
考え込んだスバルが結論を出し、入ってきたのと同じ具合に入り口を開け放って走り去る。
パナシェ、とはユクレスの村に住むバウナウという種族の少年で犬型の亜人。
マルルゥからは実も蓋もなく『ワンワン』さんと呼ばれていた。

「パナシェは戦い向きではないと思うがな」
温厚なパナシェの性格を知る は、腰に手をあててゆっくり頭を振る。

スバルにかかれば大抵の些事が大事になるから不思議だ。
とスバル、類は友を呼ぶという関係に当て嵌まる。

だが二人を知る者が少ない今、それを指摘してくれる存在はいない。

「バウナス族のパナシェか。僕はまだ会った事がないから挨拶できると良いな。同じ村に住んでいるんだし」
ユクレスの空気にすっかり馴染んだウィルが呟き、小屋から村へ一歩を踏み出す。

と、テコと。
友達と一緒に辿る道は、最初に村に来て出て行った時と同じ道。

つい三日前の事なのに随分昔のように感じる。
アティから教えてもらった海岸線、果たしてその船は少々痛んだ様子で海岸に船体を乗り上げていた。

「おう、早かったな、 。そっちが?」
船の外で出会ったのがカイル。
訓練でもしていたのか? 汗が陽光を浴びて光る。

「初めまして、ウィル=マルティーニです。姉のベルフラウがお世話になってます」
カイルの視線を受け、ウィルが丁寧にお辞儀をしながら挨拶した。
人に対する警戒心むき出しのウィルにカイルは僅かな時間目を見開き。
は微苦笑を浮かべるだけ。

 矢張り頑なな気持ちを開放的にせよと申しても。
 ウィルの立場を知る『人間』相手では分が悪いか。
 何も知らないマルルゥやヤッファ、スバルだからこそウィルは心を開けたのだな。
 ……振り出し、でもないが似たようなモノか。

「彼はカイル。汝等の船を襲ったカイル一家の頭領。事情があって船を襲ったらしいから、その事情も合わせて聞くことにしよう」
カイルをウィルに紹介しつつ、平然と爆弾を落としカイルを硬直させる。
の思わぬ発言にウィルも驚き、まじまじとカイルを見てカイルを困惑させた。

これはアティ情報。
アルディラとの話し合いの後、アティがこっそり教えてくれた。
ウィルにも関わりのある事だから、と。
も今回は身内の生命が掛かっているだけに、悠長に傍観姿勢を取る真似はしない。

積極的に『攻め』に回るつもりだ。

「やっほ〜、 !」
、いらっしゃいv」
立ち竦むカイルから見た船向こう側。
船の修繕をしていたらしいソノラとスカーレルが、手に螺子やトンカチ等の工具類を持ってこちらに近づいてくる。

「ソノラ、スカーレル。彼がウィル。腕のはテコ。ウィルの護衛召喚獣だ。ウィル、こっちはカイルの妹・ソノラ。もう一人はカイル一家の相談役でスカーレル」
役立たずのカイルを放置。
はさっさとソノラとスカーレルにウィルを紹介。
互いにぎこちなく挨拶を交わした彼等を眺めて胸の裡は複雑。

 ウィル……少しはこの島の生活を経て変われると良いがな。
 あともう一人、先程から我に鋭い視線を送っている金髪の少女。
 ウィルの姉か?
 あの者の音も乱れておる……この二人が姉弟として和睦出来れば頼もしいのだが。

から見て今のウィルは礼儀正しいだけのただの人形だ。
マルルゥやスバル、ヤッファにバノッサ、イオス。
仲間達と喋っているのとは格段に違う態度。
ウィルの個人的な事情がウィルを他人行儀にしているなら、 としても表立って口は挟めない。
友達として出来るのは、なるべく多くの判断材料をウィルへ与える事。
カイル達を信用できるか、できないかの材料を。

「お早う御座います、 さん」
最後にヤードが金髪の少女を伴ってやって来て。
その後を帽子押さえて駆けてくるアティ。
一応、全員が海賊船をバックに砂浜へと集結した。

ウィルの姿を認めて涙ぐむアティと嬉しさと怒りが混じった金髪の少女の顔。
沈黙するウィル。
シンと静まり返る砂浜に寄せては返す波の音。
聞きながら は横目でカイルを睨んだ。

「金髪のお嬢さんはベルフラウ。ウィルの姉さんだ……あの紅いのはオニビ。ベルフラウの護衛召喚獣。んでもって、俺達が船を襲った原因だよな?」
気まずさを払拭すべく、カイルが精一杯の威厳を持って口火を切った。
その間も金髪の少女・ベルフラウから値踏みする視線を浴びる

「それはわたしから説明します……実は、あの船にはわたしが運んでいた剣が帝国軍によって保管されていたのです。とても危険な二振りの剣が」
カイルの言葉を引き継いでヤードが言葉を選んで話し始めた。

「わたしはかつて無色の派閥に所属していました。そこでわたしの師が、派閥に伝わる剣の文献を手に入れたのです。
剣に眠る巨大な力を利用しようと、派閥は様々な実験を繰り返し……一定の力を引き出すことに成功しました。ですが……」

「無色が危ない思想を持った団体だってのは知ってるわね? ヤードはこれ以上剣が悪用されるのを恐れて、剣を奪って逃げてきちゃったのよ。
で、追っ手に負われている所を幼馴染だったアタシが偶然発見しちゃったわけ」
一人どんより暗くなるヤードの言葉尻を奪い、今度は軽い口調でスカーレルが説明を続ける。
は顎に手を当ててヤードとスカーレルを交互に見、頭の上のイオスを腕の中へ移動させた。

「つまり、ヤードが持っていた筈の剣が帝国軍に渡ってしまい、剣を奪還する為に船を襲ったらここへ流れ着いた訳だな。結局二つの剣はどうなったのだ? 共に海の底か?」
は無意識にイオスをきつく抱き締め言った。

無色と聞いて心穏やかではない。
ヤードは大丈夫でも、ヤードの逃走ルートを辿ってくれば彼等はこの島へやって来るかもしれない。
それでなくとも、帝国がその剣を知っているというだけで厄介なのに。

 デグレアの時もそうだったが、軍隊ほど厄介な相手は無い。
 個の理由で戦う事はないし、目的を遂行せねば国には戻れぬからな。
 イオスもそう申しておった。

イオスは身動ぎし、表向きはポーカーフェイスを保つ を心配そうに見上げる。

「一つは行方知れずです……一つは、碧の賢帝は私が所有しています」
アティが固い決意を秘めた瞳を へ向け、自分から名乗り出る。

 霞がかっていた島の秘密、剣の所有者、これからの争い。
 ハイネルの願いが絡み合う戦いの場が出来上がろうとしておる。
 我の行動は褒められたものではないが。
 曲げられぬ。
 こうなったら全て纏めて叩きなおしてやろう、こ奴等の捩れた音を。

「そうか……無粋な事を聞いたな」
は殊勝に謝りながら、ベルフラウが眉間に皺を寄せる様を視野に納めていた。



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 ウィル、海賊達に会う&ベルフラウ主人公と見(まみ)えるの巻〜。

 それと一寸した2のトリック気付かれた方いらっしゃいますか??
 そう、波乱の港で主人公がジャキーニに遭遇していないというトリックです。
 あの時はマグナ達と別行動でモーリンとも知り合ってないです。

 それは何故か。

 実はこの時3をプレイしてたので敢えて主人公と2のジャキーニを遭遇させなかったのです(笑)
 主人公は勘が鋭いからジャキーニの言葉の端端から3を推察してしまうかもしれないので。
 会話をさせる事、顔を見る事自体を避けました。

 逆に言うと3の下地として2の前半は敢えて王道ルートを主人公に歩ませなかった、とも言えるんですけどね。

 以上、管理人のつまらぬ蛇足でした〜。ブラウザバックプリーズ