『話題休閑・黄昏、来たりて4後2』



カイルの海賊船まで無事辿り着いたアティ達とアズリア+生き残った帝国兵。
知らせを受けたシアリィ&オウキーニが各集落の面々に助けてもらって大量の食材を運び込む。
ウィルやアティ、 にミスミ。
料理が多少出来る者達で協力し合い、暖かで心に染みる料理が次々と出来上がる。

互いに蟠りはあっても共通の敵と戦った者同士。

おっかなびっくりマルルゥから椀を受け取る帝国兵や、ソノラに飲み物を渡す帝国兵がいたり。
ぎこちなく互いを認識し始めた。

酒盛りの気配を嗅ぎつけたメイメイの乱入によって酒盛りが始まり、メイメイの酒癖の悪さを知らない帝国兵達が次々に撃沈され。
ギャレオも早々に潰され、治療があるとクノンに引き取られラトリクスへ運ばれていく。

久方振りのまともな料理に涙ぐむ帝国兵をファリエルが慰め、ミスミによって揶揄される。

スバルは食べるだけ食べて夢の中。
キュウマが留守を任せたゲンジに状況報告を兼ねてスバルを背負って郷へ帰って行った。

三々五々、家がある者は己の家に帰り。
傷ついた帝国兵はアティやアズリアによって多少の怪我は癒され急ごしらえのテントの中で眠りに付く。

夜は誰の頭上にも平等に訪れ、更けていった。

食器の片付けも終わり、泊まっていけと誘うスカーレルの頬に口付けをし、お詫びとした は家路を辿る。
イオスは不機嫌そうに眉根を顰めて の腕に収まっていたが、人気のないところでご褒美(額にチュー)を貰いご機嫌だ。


「……どうしたのだ、夜襲に失敗したのか?」
静まり返る島。
夕刻、あれだけの争いがあったなんて夢だと錯覚しそうな静けさ。
はユクレス村へ続く小道を歩いていた。

歩みを止め海賊船のあった方角からやって来た影へ言葉を放つ。

「さあね。君には関係ないよ」
何かで斬られた跡を隠さずイスラは大法螺を吹いた。

「だろうな。今の我等は多くを語る術を持たぬ……しかし、納得できん。何故ああも姉であるアズリアを追い詰めるのだ?」
はイスラがカイルの海賊船で何をしでかしたか。不問にする。
問い質したところでイスラが真意を語るとは思えない。
だから敢えてアズリアの話題を持ち出した。

「気になるかい? だったら姉さんに直接聞くと良いよ。お涙頂戴の悲しい、悲しいお話さ。レヴィノス家の悲劇、といったところかな」
両腕を広げておどけるイスラ。
は小さく息を吐き出し、少々苛立ったようにイオスの頭を乱暴に撫でる。

 悲劇、か。
 汝の身体に潜む根深い何かが関連しておるのだろうが。
 甘えるのも大概にせい。
 アズリアは汝を守ろうと必死だったのは誰の目にも明らかだぞ。
 気持ちを踏みにじり己の目的だけに邁進する。
 それがどれだけ愚かな事か、イスラには分かるまい。

月明かりに照らされたイスラの青白い頬。
アティによればイスラは元々病弱だったという。
島に来てから陽に当たり少し焼けたけれどイスラの肌は太陽を知らない、白い肌だ。

闇に溶けて消えてしまいそうなイスラを前に は考える。

 頼る事を知らない。涙する事を知らない。
 表面上の絶望や落胆など沢山だ。
 本当の汝はどこにいて何を求めるのだ?
 叶う、叶わないは別として願っても良いではないか。
 汝が真に願う夢を叫んでも良いではないか。
 己の不幸に浸り頑なに心を閉じても時間と宿世は待ってはくれぬ。

イスラの魂が自由と開放を求め悲鳴を上げる。
の耳にはイスラの魂が奏でるSOSが届いていた。

日に日に強くなっていたイスラの悲鳴はオルドレイクを前に最高潮を向かえ、今も叫んでいる。

助けてくれと。

見てみぬフリが出来るほど だって冷酷じゃない。
イスラの頼る対象がオルドレイクと知ったなら尚更だ。

「次に会うときは面白いモノを見せて上げられるかもね。君にしてやられてばかりじゃ僕の気が治まらないよ。僕の面目躍如となれば愉しいね」
寡黙な は珍しい。
今回は常とは逆でイスラの方が饒舌だった。
が立ち去らないようにイスラは仁王立ちしている。

「汝は我にとっては敵ではない」
黒幕が現れた現在イスラは の敵には成り得ない。
彼の自由を求める音色が に確証を与えていた。

「相手不足かい? 君は強い……オルドレイク様の私兵や派閥の兵を一掃した手際は鮮やかだったと認めるよ。だけど切り札を持っているのは君だけじゃない」
即答した にイスラは獲物に狙いを定めた獣の輝きを瞳に宿し、 の髪を一房手に取った。
イオスが毛を逆立て、イスラの手に爪を立てようとするが に止められる。

「いや、言葉通りの意味だ」
敵にしたくない。
言外に含ませた の希望を打ち砕くように、イスラは軽薄な笑みを浮かべ。
小馬鹿にした調子で手にした の髪に口付けた。

「嫌でも敵と認識するさ、君は僕を。せいぜい爪を砥いでおくんだよ? 他の誰かに首を掻かれないように。
君を大地へ打ち倒すのはこの僕だ。他の誰でもない。僕は君に立ちはだかる敵だ、今迄で最大のね? 忘れないで」
笑いながらイスラは恭しいお辞儀をして去っていく。
は月明かりに溶けて消えるイスラの頼りない背中を黙って見送った。


イスラの気配が完全に消え去ってから、見計らったタイミングで傍らの草木が大袈裟に揺れる。

「あらあら、振られちゃったわね〜。にゃはははは♪」
草の間から顔だけ出してメイメイが突き出した酒瓶を左右に降った。
「メイメイ、盗み聞きとは良い趣味だな」
は嘆息して酒焼けが一段と激しいメイメイの顔を拝む。
「ぐ、偶然よぉ〜。お酒が足りなくなってヤッファを頼ろうと歩いてたの♪」
メイメイは少しばかり言葉に詰まってから酒瓶を腕に抱え込む。

宴会の席で既に二十本近くは酒瓶を飲み干しているメイメイだが。
本人の弁を借りればまだ呑み足りないらしい。

「草の中をか?」
ジロリと がねめつければメイメイは慌てて草の中から飛び出した。

「ん、ゴホン。まぁ、一先ず一山は越えたじゃない? 女神様は最終的に何を望むのかちょーっと知っておきたくてねぇ。メイメイさんの死活問題でもあるでしょう」
喰えない笑みを浮かべ酒瓶を再度左右に振るメイメイは、ある種の兵といえよう。

が思わず腕の中のイオスと顔を見合わせた。
すると が肌身離さず持ち歩く、バノッサを召喚するサモナイト石が輝きを放ち始める。

『酒なら浴びるほど呑んでるだろうが。手前ぇは最後まで傍観者でいればいい、俺等とは無関係だ』
バノッサは出現すると答えあぐねる妹に助け舟を出した。
冷たくメイメイを斬って捨てる台詞でもバノッサなりの配慮が込められている。

「いざとなれば汝は島から逃げられるだろう? 最悪幾人かを預かってもらわなければならん。最後まではアテにせぬ、安心しろ」
もバノッサの許しを得た形となり喜々としてメイメイへ言う。
「にゃははははは♪ 既にお見通し……なのねぇ」
メイメイは酒瓶を片手にトレードマークの眼鏡を外した。
所謂、マジ話モードである。

『手前ぇには初対面でも俺はそうじゃねぇからな。何でもかんでも手伝えって喚く子供に見えるか? 少なくとも手前ぇに後始末は任せねぇよ』
バノッサは顔色を変えず断言する。

無色とセルボルト、しかも過去の父親が加担した悪事ならば挫くのは己の仕事だ。
リィンバウムの流れを傍観する酔いどれ店主の仕事ではない。
バノッサの考えが分かるのかメイメイは所在なさ気に立ち尽くす。

「兄上の言う通りだ、気にするな? メイメイ」

 ポムポム。

慰めるようメイメイの肩を二回叩いて、 はフォローになってない台詞を口にした。
神妙な顔つきになってメイメイは思わずバノッサを凝視する。

『逃げたい時に逃げれば良い。但し消える時は事前に教えろ、 の言った通り避難させなければならない連中がいたら連れて行ってもらう。当然タダとは言わないぜ?』
バノッサが薄く笑い含みを持たせてメイメイの注意を引く。
効果的に。

「え?」
『欲しいんだろ? 明日あたり帝国の隊長やらを連れて鍛える予定だからな。多分持って帰るつもりだぜ、アレを』
バノッサは交渉術も長けてきている。
メイメイを釣るには『酒』が一番で、しかも彼女の好物ならちゃんと押さえてあった。

「未来の汝も好きだぞ。ゼラムからサイジェントに戻る折に我が置いて行った銘酒だな」
はバノッサの台詞を肯定して駄目押し。
メイメイのからシリアスモードが四散した。

「う、嘘……無限界廊と聖王都でしか入手できないレアなアレ? メイメイさんにプレゼントしてくれちゃうの??」
『人運びを請け負ってくれたらな?』
瞳にハートマークを浮かべたメイメイにバノッサが釘を刺すものの。
メイメイの聴覚にバノッサの声が届いているか怪しい。

「にゃは、にゃは、にゃはははははははははは♪ まっかせなさ〜い!!!! もう、大船に乗った気持ちで! メイメイさんにどーんと任せなさいね」
裏返った声で笑い転げるメイメイは初めて見る。
頭の螺子が飛び散った如く、笑い転げるメイメイにバノッサと は早まったかと互いに肩を僅かに落とす。

「兄上、我は不安になってきたぞ」
『奇遇だな、俺もだ』
丸い月とメイメイの奇声。
不可思議な組み合わせに仲睦まじい未来の兄妹は、人選ミス? に早くも不安を募らせていた。



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 大船っていうか泥舟? (爆笑) メイメイさんは良くも悪くも自分に正直。ブラウザバックプリーズ