『すれ違う想い5』




なんだか毒気を抜かれた様子で去っていくアズリア。
気配が完全に消えてから、カイルが木々の間から現れる。
カイルもなんだか毒気を抜かれたようだ。

「究極のお節介だな」
を見下ろしてのカイルの第一声。

「我の性分だ、今更変え様もない」
カイルの視線を受け止めニッコリ笑い は悪びれもせず断言した。

「彼女が関わり無い只の帝国軍人ならば、後に被害者側になるのだ。
無駄に煽るよりは、この島や彼女を取り巻く状況に疑念を抱いてもらった方がこちらには有利。格段に動きやすくなるであろう?」

イスラがああだからといってアズリアまでとは考えにくい。
アズリアと会話を交わし、彼女の音を聴く限り不審な点は一つもなかった。

「まぁ、な……。正面からガツーン、って行くよりマシだな」
拳と拳をぶつけ合いカイルは渋 の意見に同意する。

「ヤードから多少聞いてはおるだろうが、無色は危険な集まりなのだ。カイルは知らぬから実感がないだろうがな。甘く見ていると敗北するのは我等の方だぞ」
は納得いかないカイルの顔色に、自分の経験から油断するなと忠告した。

比較的まともな海賊のカイルにはきっと驚天動地の集団となる。
無色の派閥は。
しかもセルボルトの誰かが加わるとなれば益々油断は出来ない。

「完全な世界、世界の改革、か。俺には遠い話だぜ」
アズリアが消えた方角へ目をやりカイルが呟いた。

海を自由気ままに航行し、時には危ない橋も渡り。
それでも曲がった事をせず手下達を養ってきたカイル。
世界をどうこう、なんて考えたこともない。

「誰にとっても遠い話であろう? リィンバウムの者達が望みもしない理想を掲げ、真剣に暴挙に及ぶ、しかも己達が正しいと信じて疑わぬ。
あのような集団ほど悪辣な連中はおらぬ。出来る事なら我も金輪際係わり合いたくない」
頭痛がしてきた は額に手を当てて頭(かぶり)を振った。

「目的は果たした。カイル、汝も帝国が生粋の悪だとは思うまい? ただこの島や剣に対する考えの方向性が違うだけなのだ。有益だっただろう」

ここで一人凹んでいても仕方がない。
時は着実に流れていくのだから。

は気持ちを切り替えカイルの視野を広げる事も出来たと内心だけでニヤつく。

「しかしな? お高い授業料だった気がするのは、俺の気のせいか?」
カイルはぶっきら棒な口調で に言葉を投げかける。
精一杯の、カイルなりの嫌味を込めて。

細身の外見に不釣合いな筋力を持った から繰り出された蹴り。
痛いなんて単純な言葉で表現できるほど安いモンぢゃなかった。

「気のせいだ」
カイルに背中を向け、今度こそ本当にユクレス目指して は歩き出す。

口をへの字に曲げたカイルは未だジクジク痛む脇腹を擦りながら の後を追ったのだった。




その日の午後少し過ぎ。
宣戦布告をご丁重にかましてきたギャレオ。
アティを他所に盛り上がる海賊一家(カイルは表向き)&護人達。

まずは説得を試みるアティに全権を委任しての帝国との話し合い?
アズリア相手にこの島の成り立ちを説明するアティだが……。

「ふふふふ、感謝するぞアティ。本国に戻りこの島を報告すれば、旧王国に対する強力な武器が出来る。剣諸共有効に活用させて貰う」
アズリアは軍人として模範的回答をアティへ与えた。

そこにアズリア個人の見解や意思はない。
帝国の軍人として正しくてもアズリア自身はどう感じているのか。
不敵に微笑む彼女からは心情が垣間見えない。

「そんな!? アズリア……」
ショックを隠しきれない顔でアティはかつての級友の名を呼ぶ。

「私は帝国軍に所属する軍人だ。国益を第一に考える」
アティと対峙するアズリアは静かに言葉を続けた。

「……でも、私は諦めません!! 戦うだけが全てじゃないと信じているから!!」
握り締めた自分の拳に力を込め、アティは本心をアズリアに訴える。

「世迷言を。総員、配置に付け!!」
当然の如く目的を違えるアズリアにアティの心は届かない。

交渉はアッサリ決裂。
アズリアの合図を受け、副官のギャレオを筆頭とした帝国軍がアティ達を取り囲むように広がる。
思い描いたとおりの結果に は小さな欠伸を漏らした。

「本気で命の遣り取りをするにはまだ早い。アズリアもこちらの力を推し量っておきたいと考えておるようだしな……適度に力を抜けよ? ベルフラウ、ウィル」
飛び出していくカイルやスカーレル、キュウマにファルゼンを横目にのんびり が釘を刺す。

最近は自主訓練も増えたけれど、無限界廊での訓練は健在だ。
オウキーニを加えての他称『地獄の訓練命がけ(ウィル命名)』は行われている。

お陰でアティ達の預かり知らない分部でベルフラウ、ウィル、ファルゼン、フレイズ、メイメイ、オウキーニは驚異的な成長をみせていた。

「妥当な判断ね。先生が全力で戦いに行っちゃってるから、こっちは爪を隠しておかないと。人質事件のときみたいな醜態はご免だわ」
弓の手入れを行いベルフラウがやけに冷静に戦況を観察。
傍らのオニビになにやら耳打ちしてから後方支援のソノラへの元へ移動を始める。

「そうだね。界廊で訓練したのはファルゼン達以外には内緒だし、適度にしておくよ」
ウィルも細身の剣を抜き放ち、至って気楽な調子でゆったり歩き出す。

「では我も適度に暴れるとしようか」
ベルフラウとウィルを見送り、 は自身も懐から愛用の銃を取り出した。

帝国軍と接触した面々……アルディラとアティの召喚術が帝国兵を押し出し始める。
キュウマが高い機動力を利用して弱った兵士に決定打を加えていた。

「死にたくなくば避けよ!! メイメイ、準備は良いか?」
最初の発言は敵味方全員に向けて。
後半は隣で準備をするメイメイ個人に向けて。
大声で告げた に敵味方の視線が集中した。

「にゃははははは♪ まっかせて頂戴v メイメイさん頑張っちゃうわよ〜」
タプタプ音のする酒瓶(ひょうたん型)を人差し指と親指で抓みあげ揺らし、メイメイは人懐こい笑みを浮かべる。
はニヤリと悪人面の笑みを浮かべ徐に撃った。

、味方まで殺す気か!!!!」
真っ先に反応するのがヤッファで、額に何本もの青筋が浮かんでいる。

何故なら が撃ちはなった光線はソノラの頭上を越え、ファルゼン・キュウマの間を抜けたからだ。
最終的に光線はギャレオが手にした緑色のサモナイト石へ吸い込まれてゆく。

「ば、馬鹿な……」
黒焦げになり砕け散るサモナイト石。
手のひらに残った欠片を見下ろしギャレオは呆然とした。

無造作に片手で銃を構えた は唇の端を持ち上げる。

「帝国軍流に解釈すれば。戦いは勝ち残った者の理論が正論となる。ならば我の理論を正論とさせて貰うぞ、今回はな?」

 ガス、バシュゥゥゥ。

立て続けに三発。
銃を撃ち は帝国軍を挑発した。

一瞬動きの止まった召喚兵は杖を砕かれ、弓兵は抜き放った弓矢を撃ちぬかれる。
文字通り早撃ち電光石火。
瞬きする間に帝国軍の兵士の武器が次々と壊されていく。

「ぷは〜vv にゃははははは♪」
間髪いれずメイメイがシルターンの召喚獣・ノロイを召喚。
中範囲の攻撃を行うノロイが五寸釘(巨大版)を地面に打ち込み、中へ囲った敵へ最後の五寸釘を打ち込む。

「「「「うがぁああああああ」」」」
五寸釘に囲まれた帝国の兵士達は成す術もなく、メイメイの召喚術の餌食となった。
野太い悲鳴が周囲に響き渡る。

「楽しそうね、
混ざりたかったのかスカーレルは羨望の眼差しをメイメイへ送る。

詰まらなそうに云ったスカーレルの横で、敵兵を払ったキュウマが薄っすら口を開いて立ち尽くしていた。

その整った顔立ちには『あり得ない』といった態の感情が浮かんでいる。
そうこう適度に が場を乱していれば決着はつき、アズリアが本気を出していない事もありアティ達の勝利。
そのままアズリアに詰め寄るアティ達だったが、思わぬ罠が一つ。


「ひゃーはははは!! 喰らえっ!! 化け物が」
戦いに参加していなかったビジュが大砲を用意していて、アティ達へ砲弾を撃ち込む。

逃げ惑い右往左往するアティ達の様が可笑しくて仕方ない。
肩を揺らして笑うビジュの先方は卑劣そのもので、アズリアも自身が助かったとはいえ、手放しにビジュの行動を褒めもせず喜びもしない。
難しい顔をしながら後退する。

「させません!!!」
馬鹿正直に立ち向かっていくのがアティで が止めるまもなく抜刀・変身。

見慣れぬ姿で碧の賢帝片手にビジュの隣の大砲を真っ二つに叩き斬る。
驚異的な力を見せ付けたアティに腰が引けるビジュ。
は深々と大きく息を吐き出した。

 熱くなりすぎだ、熱く。
 アズリアもアティも似た者同士。
 一度拾った子犬は見捨てては置けない性質(たち)を持っておるのだな……。
 だから波長が合うのか、あの二人は。

「引け、アズリア。命の遣り取りをするならば、もう少々頭を冷やしてから来い。互いの手札は未だ互いの手の内。小手先だけの争いは無用だ」
静まり返る戦場に撤退を勧告する の声が響く。
了承して去っていく帝国軍の一団の中、 と目があった件(くだん)の人物は僅かに口元に笑みを浮かべてみせた。



Created by DreamEditor                       次へ
 戦闘シーンが削られ、不思議な具合で成長したマルティーニ姉弟コンビも慣れた風に戦場へ。
 これも全てカイルのせい(え?)主人公にひっつくから……。ブラウザバックプリーズ