『すれ違う想い2』



考えを纏める時間と、フレイズと相談する時間をファリエルに与え は狭間の領域を辞した。

次に向かうはカイル一家の海賊船。
船が見えてきた浜辺で はオニビと釣り糸を垂れるベルフラウを発見する。

「こんにちは、 。ウィルならスバルに連れられて風雷の郷よ」
最近は角が取れ丸くなってきたベルフラウ。
釣道具を片付け の元へ近づく。

ベルフラウが足を出す度揺れるワンピースの裾。
オニビがフヨフヨ漂う様。
が南国の青に鮮やかな赤を落とし込み、ベルフラウもオニビも大分島でのリズムに慣れてきたのが窺い知れる。

「我はウィルとは大概別行動だぞ? ベルフラウこそ良いのか? やっと姉らしい事をしてやれるチャンスだろうに」

アティが行うマルティーニ姉弟に対する本来の授業。
授業後、ウィルは海賊船でお茶をご馳走になり時にはベルフラウと勉強や戦闘訓練をしていたりする。

当初の姉弟からすれば目を見張る進歩と歩み寄りだ。
が茶化せばベルフラウは目を細めた。

「ウィルに? してあげたいのは山々だけど、今の状況で素直に受け取るようには見えないわね。最近特に強さを求めるのだって先生に認めてもらいたいからだし」
ベルフラウがぶら下げた青色のバケツから魚が暴れ、尾尻がはみ出す。
それに構わずベルフラウは片眉を持ち上げ、少々辟易した口調でぼやく。

「矢張り気付いておったか」
が唇だけを持ち上げ笑む。

大人びた思考を持つウィルだって歳相応な部分を持っている。
子供が強さに憧れるレベルを超えた憧憬、いや、恋愛感情と表現しても差し支えない。
ウィルはどっからどうみてもアティに『恋』をしていた。

「当たり前でしょう? わたしはウィルの姉なのよ。上辺だけの言葉しか交わせなかったけど、ウィルの視線なんて見ていてバレバレ。
一緒に授業を受けるわたしが苛々するくらい他人行儀なのが悩みよね……先生もウィルも。夜はちゃーんと会って話してるのに」
大袈裟にため息ついてベルフラウは頭を左右に振る。

アティは最近ウィルの元へ夜になると喋りに出かけていた。
それはベルフラウが気付けなかっただけで、もっと前からアティはウィルと夜の会話をしていたのかもしれない。
二人の夜のお喋り? デート?
に気づいた時、ベルフラウは妙に納得している自分に気付いた。

この二人、案外お似合いじゃない? 自然とお互いに無い部分を埋めあってる。と。

最初に港でアティを見た時からベルフラウ自身が感じていた何か。
これだったのかと漸く自覚したベルフラウである。

「矢張り当初の目的が軍学校への進学だからではないのか? アティは汝とウィルを護る事で頭が一杯だろうしな。
ウィルとて親へ連絡が取れぬ状況で全てを決めてはいけないと。一族に対し遠慮しておるのだろう」
は苦い口調で二人の頭の中を推察して言った。

恋愛に疎い( も他人の事を言えない)アティと奥手というか自分に素直じゃないウィル。

前途多難なカップル?

アティに好感触を持つ島の面子も考えると微笑ましく見守っている場合でもない、感じもする。

「あ〜、分かるかも……まったく。変なところで律儀よね、ウィルは。マルティーニはわたしが継ぐとして、ウィルには自由に選ばせてあげたいの。
先生が島に残るならあの子が島に残っても構わないってわたしは考えてる」

不本意で島へ流れ着いて、変な争いに巻き込まれて。
怖い思いもしたけれど、ベルフラウは曖昧な自分を見詰めなおす良い機会を得たと逆に開き直った。

ウィルが軍学校に行くと決めたから自分も一緒に行く事にした。

でも今は違う。
誰かを護る力を得る、とても大切な力だと痛感したから軍学校へ進学する。

仲間を友達を家族を護る力。
習得して将来の糧にしたい。
堅実的にベルフラウはこれからを考え始めている。

となれば必然的に残る問題はただ一つ。
将来不確定なウィルが唯一執着する現象(人? )との関係改善・発展。

、貴女はウィルを応援してくれる?」
ベルフラウは不意に真顔に戻り、真剣な声音を以てして へ確認する。

「無論だ。アティにその気が無いなら止めるつもりだったが、アティもアティでウィルを個人的に気にしておるようだしな」

オウキーニとシアリィのほのぼのカップル(オウキーニが の視点を知ったら間違いなく猛抗議するだろう)は見ていて楽しい。
人が誰かと新しい絆を作り暖めていく作業。
神である自分とは絆の作り方は違うけれど、とても胸が温かくなる美しい音色が響く素晴らしい行為である。
すっかり気分は恋のキューピット。

はウキウキした調子で答えた。

「……あんまりウィルをからかって遊ばないでね? 多感な年頃なんだから」
頬を引き攣らせベルフラウは に釘を刺す。
「遊ばぬぞ」
少し胸を張って言い返す へ『信憑性に欠けるのよ、その態度』なんて言いかけて口を噤み。
ベルフラウは のこの性格については諦める。

釣り上げた魚を海賊船に持っていかないといけないので、ベルフラウは の肩を指先で叩いてから歩き出した。


徐々に大きくなっていく海賊船の前、カイルが所在無さ気に立ちつくしている。
常にハキハキとした一家の大黒柱・カイルらしくない。
とベルフラウは視線を交差させ、胸中だけで盛大に首を傾げる。

「カイル、どうしたのだ?」
「ん? あ、あぁ!? ……と、ベルフラウ?」
ぼんやりしていたカイルは に声をかけられて初めて他者の存在を認識した。

つまりはそれくらいぼんやりしていた、ようである。
ついでで名前を呼ばれたベルフラウは眉を顰めた。

「今日の釣り当番はわたしでしょう? あそこで釣りをしていたら が来たの。そういえば は何しに来たんだっけ?」

朝に釣り当番の話題を持ち出したのはカイルだ。

あれから数時間しか経っていないのに、自分で忘れるとは何事か! 内心憤るも、カイルの様子が一寸変なのでベルフラウはさり気なく話題を変える。

「お裾分けだ。実りの果樹園の果物から作ったジャムと、妖精の花園で分けてもらった花から作ったジャムだ」
はここで籠からジャムの瓶を二つ取り出してベルフラウへ示した。

「うわ〜、 って料理できるんだ」
歓声をあげベルフラウは からジャムの瓶を二つ受け取り、一つはポケットに無理矢理押し込む。
「あら? まだ瓶があるのね? 他にもお裾分け?」
の手にした籠の中身を目敏く確かめ、ベルフラウがまたもや話題を変える。
「これからラトリクスへ赴き、ジャムのお裾分けだ。前回は漬物を風雷の郷にお裾分けして好評だったのでな。紅茶があるラトリクスへはジャムが良かろうと思って」
「そうかもね。う〜ん、良い香りv」
ベルフラウは腕にバケツをぶら下げたまま器用に瓶ジャムの蓋を開け、中から漂う甘酸っぱい香りを胸に吸い込む。
うっとりしたベルフラウの顔に も相好を崩し、ニコニコ幸せそうに微笑んでいる。

「…… 。悪いが俺もラトリクスへ付いて行って良いか?」
「?? 構わぬが? どうしたのだ?」
は唐突にカイルに問われ、やや戸惑いながら疑問で言葉を返す。

が見る『島』を俺も見てみたい、そう考えたからだ」
努めて真摯にカイルは告げた。

の視野は驚愕する位広い。
広くても見るべき部分はしっかり押さえている。
生まれながらに上へ立つ事を周囲に望まれたとしか考えられない。

の行動と言動は、同じ上に立つ者であるカイルの好奇心を甚く刺激していた。

好奇心と同時に に対する判別の付かない感情がカイルに存在することも。
大人なカイルはしっかりと自覚していた。
感情を確かめる為にも と時間を過ごしてみたいとカイルは考え、こうして行動に移している。

「そうか?」

 分かっちゃいない。

カイルの真意の底の に対する気持ちなんて、毛先程も気がついていない。
何度も瞬きして相槌返す を横目にベルフラウはジャムの蓋を閉める。

「…… だって自分の事になるとコレだもんねぇ。ジャムはわたしが預かるわ。有難く食べさせて頂きます。それじゃぁね!」

 バンッ。

ベルフラウはバケツを地面に再度置き、勢いをつけて の背中を叩く。
ウィルと 、どうして波長が合うかイマイチ謎だった。

でもこのどうしようもない『鈍さ』を目の当たりにすると。
ウィルとは良いコンビかも。

頭の片隅でベルフラウは考えた。

「???? ベルフラウ??」
予想外の衝撃に は一歩だけ足を踏み出し、その姿勢で背後のベルフラウを顧みる。
「いいのいいの。わたしの気合を に入れただけだから」
入れるだけ無駄かもしれない。
ベルフラウは手を左右にヒラヒラ振って誤魔化した。
は尚も不思議そうにジーッとベルフラウを蒼い瞳で見詰める。

「ほら、色々微妙でしょう? 帝国のこともあるし」
有無を言わせない強い断言的な物言いをして、ベルフラウは の背中を押す。
は訳がわからなかったが、ベルフラウに逆らわずカイルと共にラトリクスへ向け歩き出した。


「こういう慣れって、わたし嫌いかも」

自分は元来世話焼きで姐御肌である。
自覚はある、自覚はあるけどなんとなく損している気もするベルフラウ。

少しうんざりした調子で零した。

「ピピー?」
疲れた顔のベルフラウを見上げ、オニビは何度も瞬きを繰り返す。

「大丈夫よ、オニビ。さぁ、わたし達は今晩のおかずを作りに船へ戻りましょう」
ベルフラウは気持ちを切り替え、オニビと共に船へと戻って行った。



Created by DreamEditor                       次へ
 最初カイルはウィルとアティを取り合ってもらう予定だったのに……。
 気が付いたら主人公側に靡いていってくれました(哀)何故!? ブラウザバックプリーズ