『楽園の果てで3』




メイメイが島を去ってから半日後、の翌朝。
均衡は破られた。
吹き荒れる風に蘇る亡霊兵。
無差別に各集落の住民を襲う黒い亡霊達の魔手から住民を救い、アティや護人、各集落住民はカイル海賊船へ集結している。


「すまんが小娘、立会人になってくれんか?」
がカイルの海賊船で行われる『遺跡封印大作戦(スバル命名)』の打ち合わせに向かおうとしたところ、何故かジャキーニに呼び止められた。
首を傾げる を手招きして隣に立つオウキーニとシアリィの手前に立たせる。

「……オウキーニ」
口髭を親指と人差し指で整えジャキーニが切り出した。
「はいな?」
つい数分前まで集落の住民と避難完了の確認をしていたオウキーニ。
何故この場に呼び出されたのか分らない。
怪訝そうな顔でジャキーニに応じる。

「お前は……今日限りでジャキーニ一家を追放とする」
人口密度の多い砂浜で突如言い渡されたジャキーニからの一言。
他の作業をしていたジャキーニの手下達も動きを止めた。

世間話で盛り上がっていた他の集落の住民も思わず会話を止めてしまう。

「!?」
オウキーニは突然の追放宣告に目を見開き動きを止めた。
「ジャキーニさん!? どうして?」
オウキーニの隣に立たされたシアリィも驚き、胸に手を当てて思わずジャキーニに問いかけた。
本当は詰め寄りたいが、 が間に立っているのでその場で踏み止まる。

「海の男は陸に柵を残してはならん! だがオウキーニ、お前はもう見つけただろう? 嫁さん候補のこのお嬢さんを。
よってお前は追放とする。島に残ってわしの代わりに菜園を拡大しろ。立会人は小娘だ」
顎先で を示してジャキーニは一方的に捲くし立てた。
「うむ、引き受けるぞ。ジャキーニ」
ジャキーニが顔を真っ赤にして一世一代の大芝居を打つのだ。
理解した は極上の笑みを浮かべてジャキーニに了承してみせる。

「あんさん……ウチは」
「駄目だ、オウキーニ。いいな」
険しい顔で言い切ったジャキーニの目尻の端に浮かぶ涙。
微かに光ったソレを見て見ぬフリをして は手を叩く。

「名も無き世界の神にして、新生セルボルト家の末子、 =セルボルト。我が名に於いてジャキーニ一家より副船長オウキーニの追放決定をここに認める。
我の立会いの元、副船長オウキーニは任を解かれ追放。しかと聞き届けたぞ、ジャキーニ」
自分の左胸に手を当て、ジャキーニを真っ直ぐ見据え喋る の声だけが奇妙な静けさに囲まれた砂浜に響き渡る。
あっさりと がオウキーニ追放を容認してしまったので焦るのがオウキーニ本人だ。

はんっ!? ウチはっ……」

シアリィは好きだ。
大切な女性(ひと)だ。
それでも。

躊躇いが残っていたオウキーニの未練を断ち切るジャキーニの英断と の素早い決断。

感謝はあるけれど突然の別れに頭は混乱し、気持ちの上では納得が行かない。
オウキーニは咄嗟に反論しかける。

「船長ジャキーニの厚意を受け取りシアリィと末永く幸せに、な」
しかし、振り返った に諭されれば反論も喉元で引っ込んでしまう。

ここで漸くオウキーニにもジャキーニの目尻の端に光る何かが視野に納まった。
眉を八の字に曲げて悲しそうな顔をするオウキーニとジャキーニの温情に深々と頭を下げるシアリィ。
矢張りお似合いの二人である。

「ふんっ、勝手に取り仕切りおって!!」
ジャキーニは の勝手な宣言に怒った風を装って去っていく。

シアリィと共に深々と頭を下げるオウキーニ。
良く見ればオウキーニはトレードマークのエプロンの端をきつく握り締め、震える身体を堪えている。

 オウキーニ、漸くシアリィを選んだのだな?
 辛いだろうがその分の幸せをシアリィと分かち合うのだぞ。

 そしてジャキーニ……汝も海の漢なのだな。
 汝には面と向かって忠告しなかったが。
 ジャキーニ一家が悪さをしない限りは我の加護があろう。

 一家の良心であるオウキーニを失くしても海賊らしくあれ。
 くれぐれも悪役に成り下がるでないぞ。

ほんの少しの危機感を抱く だったが、実は未来で見るも無残にボコボコにされたジャキーニの存在を知らなかったりする。
はファナンの港を襲ったジャキーニの末路を知らなかった。

別のタイミングで再会した二人は盛大に驚いたり、呆れたりするのだが、それは余談である。
は一つの別れに立ち会ってから、カイル海賊船の船長室へと向かった。




が極力静かに扉を開けると、眼鏡を光らせたアルディラが喋りながら全員の顔を見渡していた。

「悔しいけれど遺跡の力は強大だわ。私達、護人の力とアティの剣の力で仮封印したのがやっとでしょう?
こうなったら本当の意味で遺跡を封印しなくてはいけないわ」
半日で激変した島の姿と遺跡の咆哮。
アルディラが集めた情報から尤も効果的な遺跡への対処法を提案する。

「つまり、かつての無色の派閥が行ったとの同じ封印をするのね?」
椅子に座るスカーレルが挙手して発言した。

『ええ、他の解決策が無いのが悔しいけど。先生の剣で核識の座を封印するのが一番だと思います。紅の暴君の主も……イスラも、あんな事になってしまったし』
ファリエルがスカーレルの言葉を受けてこう応じる。

「そうですね」
キュウマもあの時の戦いを経験した一人だ。
実感を伴って首を縦に振る。

「となると……あの時とは逆の立場になるわけか」
顎を擦ってヤッファが感慨深く零す。
守り手だったあの時と、攻め手になる今回と。
どちらが分が悪いかは。
腕組みを始めたヤッファの隣に座るファリエルは下唇を噛み締めた。

「でもやるしかないよ」
静かに皆の意見に耳を傾けていたウィルが口火を切る。

「そうだろう? 確かに遺跡の力は凄いと思うけど。でも指を咥えて黙っていられないじゃないか。先生の剣で遺跡が封印できるなら僕はすぐ遺跡に向かうべきだと思う」

島に来て誰が一番成長したか? この問いに対して全員が『ウィル』と答えるだろう。

の嫌味に耐えヤッファをフォローして、アティとベルフラウ。
協力者を得たウィルは心身ともに驚異的速度で成長していた。

強い輝きを放つウィルの瞳が皆を捉える。

「そうよ! 皆で議論してたって結局名案なんて浮かばなかったんだから。行くしかないでしょう? 自分達の未来と命がかかってるんだから」
弟のアイコンタクトに応じ立ち上がるのが姉。
ベルフラウもウィル程ではないが自身の視野を広げ着実に成長していた。

「それに恩返しもしなきゃ、だしね」
「恩返し? なのか未来に繋がる大事な局面なのか。曖昧だけれど……必要だもの」
ウィル→ベルフラウの順に発言し、マルティーニ姉弟は揃って壁に凭れて会議を拝聴している に視線を移す。

欺瞞から始まった触れ合いかもしれない。
だけどアティと自分達だけじゃ築けなかった深い絆を結ぶ切欠を与えてくれた女神にして、何処か間抜けた友達。
彼女が助けてくれたから目標を見つけることが出来たのだ。
ウィルもベルフラウも。

その点で姉弟の意見は一致していて に感謝していた。
姉弟の動作につられ全員が一斉に へ視線を送る。

のお兄さん、即ち誓約者を助けなきゃ。未来が暗くなっちゃうじゃない」
ニッコリ笑ってベルフラウは全員に視線を戻す。
「誓約者の力でオルドレイクの野望が砕けるなら、絶対に助けないと」
ウィルは握り拳片手に力説。
「ここで負けてなんかいられませんね! 楽しい未来の為に」
教え子二人の成長が嬉しくて仕方がない。
アティが全員を代表してベルフラウとウィルへ言葉をかける。
ベルフラウとウィルは顔を輝かせ頷いた。

「うう……なーんか、ウィルもベルフラウも成長したよね。アタシ、負けてる気がするんだけど」
テーブルに上半身を押し当ててソノラが置いてけぼりを食らった気持ちを赤裸々? に告白する。

本当なら妹と弟が出来て喜ぶべきなのに。
気が付いたら二人とも精神的に逞しく成長してしまって。

 ……あれ? アタシより二人って大人!? いつの間に!?

という印象しかソノラにはない。

「まあまあ、気の持ちようですよ。ソノラさん」
ぶーたれるソノラだってきちんと成長している。
ただウィルやベルフラウ程じゃないだけだ。暗に含ませたヤードの慰めのような? そうではないような。
どちらでも解釈できるフォローの台詞にスカーレルが忍び笑い。

「ぶーぶー!! それって慰めになってないよ! ヤード」
頬を膨らませたソノラが反論すれば場の空気が和らいで、全員が苦笑いを浮かべる。

「避難はほぼ完了しているからな? 船の留守番を決めてから出発しようぜ」
妹分の拗ねた様を微笑ましく見守っていたカイルがその場を締めて会議は終了する。
全員が最後の打ち合わせをしにそれぞれ相手を探しに散っていくのだった。



Created by DreamEditor                       次へ
 ジャキーニの末路を知らない主人公〜。でも会う機会はあるので大丈夫(笑)
 馬鹿者! とかいって再会一番ハリセンしそうだけど(爆笑)ブラウザバックプリーズ