『話題休閑・もつれあう真実4後2』




遺跡騒動から約一日が経過したその日。

ゲンジに呼び出された とアティは、盛大な親子喧嘩をかましたミスミ・スバルの立会人を務めていた。

「スバル君、人質になった自分が恥ずかしくて悔しかったんでしょうね。ベルフラウさんやウィル君は戦闘に参加しているし」
神社で向かい合うミスミとスバル。
遠巻きに眺めアティがスバルの心情を慮る。

「そうじゃな。鬼姫殿の心配も分かるが、わしはスバルの実力を信じても良いと思うぞ」
親子喧嘩を とアティに伝えてきた張本人、ゲンジが顎を擦ってスバルを援護した。

「キュウマも認めた力なら、恐らくはな。ミスミからすれば可愛い我が子だ、夫のように戦死されたら……そのような恐怖心があるのだろう」

戦闘参加を要望したスバルの頬を叩いたミスミ。
彼女らしくない激昂した態度は不安の裏返し。

冷静に見抜いていた が長刀を構えるミスミの頭からつま先までを順に眺める。

「だが無視するわけにもいくまい。スバルの事だ、下手したら後をつけて助太刀に現れるかもしれん。母親が心配なのはスバルも一緒だろう」
逆にゲンジは斧を構えるスバルを見守りながら応じた。

「そうですね」
ミスミに叩かれたスバルを追いかけたアティが素直にゲンジに同意する。

そんなこんなで三人が呑気に語っている間に儀式は開始された。
風を操りスバルを翻弄するミスミに対しスバルは早くも全身傷だらけ。
ミスミに斧の一撃一つ繰り出す事も出来ずに顔を顰める。

「あ、あの……儀式って」
圧されに圧され、ボロボロになっていくスバルにアティがオタオタと今更ながらに慌て出す。
詳しく聞いてなかった儀式がこんなに厳しいものだとアティは考えてもいなかった。

「うむ、父親に自身の力を示す事で鬼人は一人前とされるそうじゃ。戦って父親を越える力があると証明するんだそうだ。
まぁスバルの場合は父親が死んでおるから、鬼姫殿が代理を務めているがな」
事も無げにゲンジがアティへ詳しく儀式について教えた。

「え、ああ、そうじゃなくて!! スバル君がミスミ様に勝つなんて無茶苦茶です」
アティは驚愕して大声を出しかけて、口を閉ざし、胸に手を当て小声でゲンジと に抗議した。

「親を超えてこその一人立ちだろう。致し方あるまい? 生ぬるい口上だけでスバルが戦場を生き残れる武者に育つと思うか。相手は帝国、アズリアなのだぞ」
各々に掟がある。
自身も掟を抱える者である。
文化の違いは謙虚に受け止め、相手を尊重していくのも時には必要だ。

「それは……」
がアティを宥めればアティは目を伏せた。

アティだって冗談半分の能力だけではアズリアが率いる帝国には勝てないと理解している。

「ミスミが見極めるのが一番だろう? これまでスバルの近くで、その成長を見守ってきたミスミが確かめるのが」
駄目押しで が告げる先では、追い詰められるスバルに追うミスミ。

何度目か、地面に伏したスバルを感情のない瞳で見下ろしミスミは言い放つ。
「スバル、立つのじゃ」

 ブゥン。

ミスミが持つ長刀は、スバルが倒れこむ地面スレスレに横なぎに払われる。
「くっそぉ」
スバルは歯軋りして立ち上がった。

近づけば長刀で威嚇され、遠くから攻撃しようにも母親が操る風が邪魔して斧の軌道は外れる。
ナイナイ尽くしのスバルの攻撃はミスミに掠りもしない。

「負けたくない!! オイラだって戦える!! オイラだって……オイラだって!」
間合いを詰められ再び追い詰められながら。
スバルは口内で己の気弱を叱咤するべく、ブツブツ呟き。
キッと顔を上げ母親を睨みつけ自分の中の何かを解き放った。

「オイラは父上の子供なんだ!!!」
叫ぶスバルの身体が光だし、その頭上には黒い雷雲が急速に集まっていく。
ミスミが避ける間も与えず、スバルが呼んだ雷雲は激しい稲妻の一撃を彼女へ注いだ。

「見事じゃ……スバル」
スバルの強烈な雷の一撃を浴びたミスミが、こう言って背後に倒れこむ。

「は、母上!?」
まさか自分の一撃で母親が倒れる時がやってこようとは。
一人立ちの嬉しさよりも母親の身が心配でスバルは慌ててミスミノ元へ駆け寄った。

「大丈夫、気を失っているだけです。念の為に召喚術で癒しておきますね」
ミスミの手首、脈を測ったアティがスバルに伝える。
サプレスの召喚術を操りミスミに治療を施すアティの姿にスバルは胸を撫で下ろした。

「ふむ、これでスバルの参戦は確定だな。良かったのう、スバル」
「おう!」
ゲンジが乱暴にスバルの髪を乱し、スバルに祝福の言葉をかける。
ゲンジに髪を乱されながらスバルは顔をくしゃくしゃにして笑った。

アティの召喚術のお陰で早くに回復したミスミも起き上がり、スバルを認め、アティ達に加わる事を許可する。
後味サッパリの清々しい空気が漂う中、 はほくそ笑む。

 スバルの参戦は我にとっては好都合。
 キュウマ、アルディラ、我の怒りの根深さたっぷり味合わせてやるぞ。
 覚悟いたせ。

の脳内コンピュータは、素早くキュウマ限定の『お仕置き』策を作り上げる。

「……さて、汝等の家庭問題のもう一つ。一気に解決する良い案があるのだが、ミスミ、スバルよ。一口乗ってみぬか?」
は策士の顔つきでミスミとスバルを手招き。
近づいてきた二人にしか聞えないよう、ゴショゴショゴショと内緒話を始める。

「え!? それをキュウマに?」
「しかし…… の読み通りになるか、わらわには判断が付かぬぞ。キュウマは何処かへ姿を消したきりじゃ」
ギョッとして後ずさったスバルと、表情を曇らせるミスミ。
二人のノリの悪さに はもう一度二人の耳元で再度ゴショゴショゴショ。
説明という名の悪知恵を仕込まれる、ミスミとスバルの表情が徐々に明るくなっていく。

「成る程、その展開なら納得がいく。わらわ達が懇願してもあの石頭じゃ、そう簡単に主旨換えするとは思えぬ」
満面の笑みを湛えたミスミがポンと手を叩いた。
「キュウマって真面目だもんなぁ」
スバルもスバルで、したり顔を浮かべ腕組みしてしみじみ納得している。

「どれだけ汝等がキュウマを家族として大切に考えておるか。手痛く知らしめるには効果的であろう? 灸を据えねば目を覚まさぬぞ」
アティやゲンジには聞えない位置で は断言した。

「でもさ! それじゃぁ、キュウマだけ大変じゃないか」
暗にアルディラの件を持ち出してスバルが に反論する。

キュウマに『お仕置き』するのは必要だと感じながらも、キュウマ一人が悪者になったらそれはそれで厭なのだ。

「案ずるなスバル。ラトリクスでは既に別の計画が作動しておる。クノンが担当しておる故、あちらもあちらでかなりの見物になるはずだぞ」
ククク……。
喉奥で哂う の姿が敵ではなくて本当に良かった、心の底から実感するミスミ・スバル親子。

「あちゃ〜……クノンが?」
額に手を当ててスバルが呻く。
怖いものは見たい気がするが、夜、魘されそうな気がするのはスバルの勝手な思い込みだろうか。

「どちらを選ぶかはキュウマ自身に委ねられておる。そうであろう? キュウマが正しい道を選んだのなら行わなければ良い」
問答無用で仕置きをする程 だって腐ってはいない。
ある条件をキュウマが無意識に崩したなら発動する罠である。

「そうじゃな。まだキュウマが仕置きされると決まったわけではない」
ミスミが承知すれば全てが の思い通り。

この会話をアティが聞いていたなら絶対に止めるのだが、人間であるアティの聴覚には届かない小さな会話である。

こうして母親公認の元、スバルはアティ達と共に帝国と戦う運びとなったのであった。



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 お仕置きは次回に明かされる筈。ブラウザバックプリーズ