『話題休閑・もつれあう真実4後1』



今回の最大の被害者はなんといっても彼、である。
『ご免なさい、本当にご免なさい』
土下座するファリエルを前にウンウン呻いているのはヤッファだ。

マルルゥに持ってきてもらった薬を飲み飲み、真っ青な顔色のまんまでファリエルの謝罪を聞いている。

「ヤッファ……気の毒に。最初に を拾ったのが誤算だったんだろうな」
腕組みしたウィルが同情気味に呟き、アティも苦りきった顔で笑う。

「何を申す。遺跡に係わりのあった碧の賢帝を持っておるアティが島に来た時点で、ヤッファが腹を括っておらぬからこうなったのだろう。自業自得だ」
が尊大な口振りで言い切ればヤッファは虚ろな視線を宙に彷徨わせる。

『ヤッファは辛そうだから誘うのを止めようって、 と相談したの。でも余計具合が悪くなっちゃったみたい……大丈夫?』
魂を半分放出しているヤッファの顔を覗きこみ、ファリエルはひたすらヤッファを案じる。

かつて兄と共に騒いだ大切な仲間、ヤッファ。
彼にだけ黙っているつもりもなく、ファリエルは休息をとってからユクレスへ事情を説明しにやって来ていた。

「え? ヤッファさんは具合が悪いんですか?」
始めて聞くヤッファの状況にアティが誰よりも早く反応する。

『ええ、アルディラ義姉さんみたいに遺跡から指示を受けていたみたいなの。先生を遺跡に連れて行くようにって。
逆らうと誓約の力でヤッファにダメージが溜まっていく、とても厭なモノなのよ』
ファリエルが沈痛な面持ちでヤッファの身体に施された誓約の呪いを説明した。

驚くアティとウィルを他所にマルルゥはシリアスモードについていけず。
少しいじけて に分かりやすい説明を求める。

「酷いです!! それじゃぁ……ヤッファさん無理して私達に協力してくれてたんですね。何も知らないで、私」
アティはあからさまに顔を曇らせた。

「誓約の力を悪用した召喚獣に与えるダメージ……つまりは……」
ウィルは顎に手をあててブツブツ理論を立て思考の海へ沈んでいく……。

「遺跡の誓約の力は我が考えておったよりも手強い。ヤッファの痛みを取り除くまでは出来ぬが緩やかにはなる。案ずるな」
マルルゥに一通りの解説を終えた が会話に割って入る。
あっさりと聞き捨てならない台詞をのたまった に全員の視線が集まった。

「ふーん、って。 ……知っててヤッファを助けなかったね」
ウィルが納得しかけて慌てて にツッコむ。
「アオハネさん、なんで最初にシマシマさんを助けてあげなかったんですか!? シマシマさんとっても痛そうでしたよ」
マルルゥもギョッとしてから鼻息も荒く へ詰め寄る。

「自業自得だ」
問答無用とばかりに同じ単語を繰り返し口にした
『でも……ヤッファはヤッファなりに島の平穏を守ろうとしてたんだし。悪気があったわけじゃないと思うけど』
ファリエルが真っ青なヤッファを一瞥し、彼を擁護し始めた。

「だが一つだけ間違いがある。アティが島に来てからのヤッファの行動だ」
「間違い?」
が得意げに断言するとアティが小首を傾げる。

「リィンバウムの人間は信用ならない。召喚術を編み出した面々で、残り四つの世界の者者からすれば傲慢な存在だ。油断してはいけないのは分かる」
うんうん唸るヤッファの言いたげな視線は却下。
は人差し指を立て、この場に集まった全員の注意を自分へ引き寄せた。

「ヤッファの距離を置いた付き合いは正しい。我も同じ立場であったなら、剣の主であるアティとは付かず離れずの距離を保つ筈だからな」
が静かに喋り始める。

「だがヤッファは、ファリエルの件は知らなくとも。ハイネルとリクトを知っておった。
アルディラがハイネルを慕っておったのも知っておっただろうし。リクトがキュウマの主であった事も知っておった筈だ」

鋭い の指摘にウィルとアティが「「そうだ(です)ね」」なんて綺麗にハモって反応を示し。
ファリエルも感心して頷き。
マルルゥは不思議そうに首を捻り何度か瞬きをした。

「アルディラとキュウマが企みを起こすと薄々察しておきながら、誰も頼らぬ。我を頼れと申しておるわけではない。
ヤードに忠告するなり、マルルゥに援護を頼むなり、誰かしらは頼れた筈なのだ。勝手に一人誓約の呪いを抱え込み、自分だけが我慢すれば良いと考えておる。
傲慢だとは思わぬか? 一人で成しえる事などたかが知れよう」

人差し指でヤッファを示し、 が遠慮なくヤッファの行動を非難した。

ファリエルよりも大人な分、より慎重に動いていたヤッファ。
時には誰かに助けを求め協力することも大切である。
理解していながらあくまでも単独行動を選択したヤッファにお仕置きは必要だ。

考えた はわざと自作した遺跡の攻防戦にヤッファを巻き込まずに居た。

結果、ヤッファがどれだけ肝を冷やすか、理解していながら。

 甘いわ、ヤッファ。
 我が汝を出し抜いたのは覚悟させるためだからな?
 失ったものは二度と手には帰ってこぬ。
 ハイネルを失って心底後悔したのだろう?
 ファリエルが死んでしまったと考えて絶望したのだろう?
 だからこそ影で動いていた汝が護人となる事を選んだ。
 なのに……ココで重い腰を上げなければ二の舞だぞ。

猫の目のように半月に細められた の瞳に移るヤッファの仏頂面。
痛いところをグサグサ斬りつけられヤッファはグゥの音も出ない。

『わたしも一人で、ううん、フレイズと二人だけで頑張ってたから耳に痛いけど。確かにヤッファは一人で頑張り過ぎかも』

護人の中で一番の面倒臭がり。
でもヤッファの『モノグサ』は周囲を誤魔化す仮面でもあり、その影でどれだけヤッファが苦労していたか。
知っているファリエルは一人で頑張るヤッファを脳裏に浮かべ呟く。

「そうですよ〜!! シマシマさんって直ぐどこかに消えちゃうんです」
マルルゥは両腰に手を当てて小さな身体を踏ん反り返らせ、不満をぶちまける。

「それとなく忠告くらいは欲しかったかな」
お隣さんとして良好な関係を築き上げているウィルが恨めしい目でヤッファを睨み。

「困った時はお互い様、助け合いが肝心ですよ! ヤッファさん」
アティはアティで少し的の外れた励ましをヤッファに送った。

……俺の寿命を縮める気か」

本気で禿げないよう薬を作ろうか。

頭の片隅で考えて、それからヤッファは初めて自分から発言した。
に自分の後悔を見抜かれていたのも悔しいが、自分を除け者にして粗方を片付けた の嫌味に悪意すら感じる。

「まさか、その逆だ」
の瞳が悪戯っぽい輝きを湛え揺らめく。

後悔する前に動け、手を出せ。

ヤッファには酷だろうが乗り越えてもらう。
あるべき先(未来)を取り戻す過程で必要な通過儀礼なら。
御託はいらない、正義の旗もいらない。
イスラに告げた通り必要なのは『悪足掻き』だけだ。

「ミャ〜」
どっちもどっち。告げた気なテコがウィルの足元で小さく鳴いた。

を拾った時点でヤッファの命運って尽きてたのかも」
冗談とも本気とも付かないフィルの台詞。
ヤッファと のこれまでを間近に見てきたウィルだから言える言葉でもある。

『ある意味そうかもしれない』
ウィルの洩らした言葉にファリエルが重々しい調子で、ウィルの考えを肯定した。
「………」
ウィルの台詞を否定できない。
アティの強張った顔にそう書いてある。

「はぁ………老体に鞭打ってんだ。今晩はもう休ませてくれ」
ヤッファは手を左右に振り、力なく懇願して目を閉じ、浅い眠りの海へ沈んでいく。

心底疲れきったヤッファの姿にある者は笑いを堪え、ある者は同情の眼差しを送り、ある者は複雑な顔つきで。
それぞれの立場に立ってヤッファの早期回復を願い解散するのだった。



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 別に狙って苛めた訳じゃないのですが、ヤッファひたすら貧乏籤?? ブラウザバックプリーズ