『話題休閑・もつれあう真実1前』
心ここに在らず。
朽ち果てた海賊船の残骸と戦うジャキーニ&オウキーニ+カイル一家の面々。
ぼんやり頬杖ついて眺め は波間に漂う波ではなく。
恨めしげな目線でアティを上目遣いに見詰める。
「あの、わざとじゃなかったんです。本当ですよ?
さん」
アティは両手を左右に振って懸命に弁解するも、
は視線を外してはくれない。
「
にしては珍しい、どうしたんだろう? イオス、何か知ってる?」
ウィルはアティを守りながら戦い、近くに待機していたイオスへ声をかけた。
ジャキーニがミスミの屋敷の物置から見つけてきた胡散臭い宝の地図。
調べてビックリ、古くにその名を轟かせた大海賊の宝が眠るという。
宝に目が眩んだジャキーニと、地図にあった『呪い』の文言に驚くオウキーニ。
軍配はジャキーニに上がり? 手下と砂浜を宝探しをしていたらお約束とばかり、宝を護る海賊の幽霊達が現れた。
こうなったらなし崩しで海賊幽霊と戦闘……である。
「ミャミャー」
話を振られた白テコことイオスは首を左右に振り、これ以上突っ込むなとジェスチャー。
ウィルは露骨に嫌な顔で斜め斬りをして海賊幽霊にトドメを刺した。
「だって変じゃないか」
「
にだって色々事情があるんでしょう。ウィル、センセが気になるのは分かるけどね? 深追いは駄目よ」
ぼやくウィルの背後に素早く回ったスカーレルが笑顔で脅迫、ウィルはスカーレルの身のこなしに脱帽しつつ口を噤む。
イオスは紫色の瞳に警戒の色を浮かべスカーレルを一瞥し自身は の近くへ移動を開始する。
が勝手に島を移動し、交流を持つようにアティも似たような行動を取っていた。
島の面々と『話し』合い相互理解を深め、不必要な争いを排除していく。
誰もが笑っていられる場所を護りたいと願うアティらしい行動である。
その過程でアティはラトリクスのスクラップ場で、ある不思議な出会いを体験した。
「ヴァルセルドはスクラップの下に埋もれてて、声が聞こえた時はとても驚いたんです。狙って隠していたわけじゃないんですよ?」
尚も疑惑の目が向けられる中、アティは必死に弁解中。
蛇に睨まれた蛙? 状態のアティを他所に戦いは続く。
スクラップの下に埋もれていた機械兵士。
エネルギー切れを起こしていた自称:ヴァルセルドの声をキャッチしたアティ。
その場の流れでヴァルセルドを掘り起こす。
更にクノンに頼んでエネルギーを補充し、ヴァルセルド自身も陽光をエネルギーにバッテリーを溜めるべく低電力モードへ移行。
損失したユニット回路補充をアティに頼み現在に至る。
「我も会ってみたかった……ヴァルセルドと申すのか……」
切なそうに胸に手を当てて萎れる は珍しい。
珍しいというか、多分、いや絶対に拝めない。
アティは金魚のように口をパクパクさせて文字通りパニックに陥った。
アティとて意地悪をしたわけじゃない。
完全に修理が終わっていない機械兵士を皆に説明するのは気が引けた。
どうせなら完全に修理されてから、こう考えただけ。
ましてや、アティは がかつて非常に懐いていた機械兵士の存在を知らない。
勝手に が剥れて がいじけているだけなのに……、 にソレをやられると、捨てられた子犬に見詰められる気分になるのは何故だろう?
額に冷や汗をかきながらアティは頭の片隅で思った。
口が苦くなって申し訳ない気分が頭一杯に持ち上がってくる。
笑顔の やニヤリ笑いの
は違和感がないのに、こんなに悲しそうな顔をされると対処に困る。
「す、すみません」
深々と上半身を折って頭を下げるアティとしんみりする 。
くどいようだが現在はジャキーニの軽率な行動から『海賊幽霊』が目覚め、戦闘が巻き起こっている。
アティと
が対峙しているのは戦場である浜辺だ。
「なにやっとんじゃ!! あの二人」
額に張り付く汗を拭いジャキーニは自分が悪いのに悪態を付く。
「まぁまぁ、あんさん。取り合えず幽霊達を眠らしてやらな」
オウキーニは憤慨するジャキーニの肩を叩き、岩陰に隠れていた海賊幽霊へ拳を打ち込む。
その間もアティは の視線にたじろぎながら弁解を繰り返し。
は
で、戦いを手伝うわけでもなくぼんやり考えに耽っている。
「
って機械兵士に思い入れでもあるのかな?」
丸い魂の姿をした海賊幽霊の右半分を撃ち壊してソノラは疑問を口に出す。
「何かあったのかもしれませんね、
さんは自分のコレまでを深く語りませんから」
リプシーを召喚しつつカイルの怪我を癒したヤードがソノラに応じた。
「え? って聖王国のサイジェントの街に住んでたんでしょ? 自分でお兄さんやお姉さんと一緒に暮らしてるって言ってたじゃん。
名も無き世界から召喚された特殊な『はぐれ』だとも言ってたけど」
ヤードの言葉が変に聞えてソノラは銃を操る手を休める。
「ああ、彼女の身分はそうでしょう。ですがあの戦い慣れした様子は尋常ではありません。一般市民が通常あそこまで戦い慣れているでしょうか? しかも召喚術まで使えますし」
自身も無色の派閥で正規の召喚師として育ったわけではない。
しかし『はぐれ召喚獣』とは遭遇した経験がある。
彼等に対する知識があるといっても、それでも
が備える強さは『はぐれ召喚獣』の立場を逸していた。
「へぇ〜、そうなんだ」
ソノラは初めてマトモに聞いたであろう召喚師そのものの情報に、感嘆の声を上げた。
「わたしの戦い方やカイルさんの戦い方。どちらとも違う
さんを見ていただければ納得できるでしょう、ソノラさん」
ヤードも戦いの手を止め自分が持つ紫色のサモナイト石を軽く掲げる。
「うんうん、確かに。アニキやスカーレル、先生と違ってヤードは召喚術がメインだもんね。 はどっちでもないような、両方みたいな……?
でも召喚術も良く使ってるし?? ねぇ、ヤード、召喚師って武器は使わないの??」
短剣で戦っていた 。
護人から許可が下りてからは銃。
その他に『はりせん』なるものも時折使う。
召喚術の他に多彩な攻撃を繰り広げる の異才は一際目立つ。
はぐれ、だからだと言われてしまえばそれだけだが。
彼女のこれまでは何一つ分かっていない。
ヤードに指摘されてソノラは戦闘スタイルや、それを何時 が身に着けたのか。
について考え始めた。
「集中力を高める為の道具として杖を使ったりします。軽い護身術程度の棒術……勿論杖を使ってのですが、その程度しか学びませんよ。普通は」
滅多にお世話にならない杖。
自分の長い上着の中に忍ばせているソレをソノラに見せてヤードは苦笑した。
「ふぅ〜ん、そうなんだ。じゃぁ、 は完全に召喚師みたいな感じじゃないんだね。だからって剣士にも見えないし。
アタシ達みたいな海賊家業をしてるわけでもないし。っていうか、お兄ちゃんを召喚術で呼べるって変じゃない??」
ソノラはすっかり戦いに参加する意欲を失くし、ヤードを手招きして砂浜に座り込む。
ソノラとヤードの近くには海賊幽霊はおらず、粗方が退治されている。
遠くでは海賊幽霊船長と兄・カイルが激突していた。
「通常ではありえませんよ」
女だてらに海賊をしているだけあってソノラの飲み込みは早い。
考えたソノラの発言にヤードはソノラの前に腰を下ろし即答する。
「 の家族って何なんの!? しかも
も一体何者なの〜?? よくよく考えたらこの島よりずーっと謎じゃない」
頬に両手を当てて首をブンブン左右に振るソノラにヤードは再度苦笑い。
尚もヤードは自身が抱える疑念を声に出そうと口を開きかける。
しかし回り込んできたベルフラウの鋭い瞳に射抜かれ、ヤードは口を閉ざした。
「良いじゃない、そんな事はどうだって」
大層機嫌の悪いベルフラウの声音がソノラの頭上から降ってくる。
「ベルフラウ?」
向き合っているヤードには姿が見えても、ソノラには見えない。
ソノラは動きを止め背後のベルフラウの名を呼ぶ。
「 は敵じゃないんだから、どうだって良いわよ。基本的に話したくない話題なのかもしれないし、時間が経てば話してくれるかもしれないし。
無理矢理聞いたり、勝手に想像するものじゃないわ」
ベルフラウも現在では正式なマルティーニ本家の娘だ。
しかし自分がマルティーニの家に入るにあたり『それなり』の軋轢は生じている。
体験済みなベルフラウとしては当時を思い出し、急降下する機嫌と八つ当たりのはけ口としてヤードとソノラにきつく言った。
「自分がそうされたら厭じゃない」
付け足しのように呟いたベルフラウの言葉にソノラは困った顔でヤードへ目配せ。
「すみません、ベルフラウさん」
ヤードが発言しながらカイルが海賊幽霊船長に打ち勝ったのを視野の隅に認める。
「
は謎だらけで気になるのは分かるけどね」
ベルフラウが顧みた先、薄っすら涙ぐみ始めた に呆然とするアティと、アティ救出に向かうウィル。
を宥めるべく重い腰をあげたスカーレル。
その一団だけが賑やかで後は戦闘も終わってヘトヘト、疲労困憊である。
「ワシ等、こんな奴等に負けたんか……」
チームワークも何もあったもんじゃない。
勝手に自分の都合を優先しまくるアティ達に、血染めの海賊旗を手にしたジャキーニがこう零したのも無理は無かった。
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