『招かざる来訪者5』




少し意外そうな顔をしたヤッファの背を思い切り叩き、 はニンマリ笑った。

「心配は要らぬ。安心して汝等はジルコーダの親元を叩け」
は親指立てて爽やかに微笑む。

破天荒な の性格を熟知しているカイルとヤードは、ハリセンの存在も知っているので賢明にも揃って口を噤み。
「ええ、頑張っちゃうわv vv」
しなを作ってスカーレルは速攻で言い。
「助かります、 さん」
のほほんアティも の好意? に、素直に感謝の気持ちを伝え。
「お願いね、 !! アタシもバッチリ活躍しちゃうんだから!」
何気に と仲が良いソノラも銃を撃つ真似をしてやる気満々である。

ヤッファは痛み始めた胃の上を擦り呻く。
鬣が禿げる心配をする前に胃に穴が開かないか心配した方が良いのかもしれない。
因みにメイメイは酒瓶片手にアティ組へ手伝い参加を表明していた。

「ヤッファ、諦めが肝心だよ。僕だって をココに残していくのは心配だけどさ。非常事態だし、いざとなったら のお兄さんとイオスさんに止めて貰おう」
ウィルは労わるようヤッファの腕を叩き頭を左右に振る。

「そうね。 って本当に頑固だもの。ああ言ったら梃子でも動かないわよ」
ベルフラウも腕組みして、居残り組みに名乗りをあげた へ顔を向ける。

まだじっくり話し合っていない相手だが、ウィルの言った通り『案外単純』なのは当たっているようだ。

居残ってアティ達の帰還ルートを確保しようという
無論ソレは女王ジルコーダを倒して疲れたアティ達を安全に助けだす、と が考えていると置き換えられる。

ぶっちゃけ、強い自分が退路を護っとけば安全度が高いだろうという安直な思考。
あれで五千歳だというのだから世の中は不思議に満ちている。

「でも が強いのは確かだから、わたし達楽して戻って来れられるんじゃない? 女王を叩く事だけに専念すれば良いのだし」

このような時女は強い。
諦めるより前向きに事態を受け止める。

ベルフラウは大人びた仕草で肩を竦め、呻くヤッファをベルフラウなりに宥めに掛かった。

は基本的に場を弁える少女だ。
矢鱈滅多に暴走しているわけでもない。
しかも彼女が安心してジルコーダの巣を叩けなんて言っている。
ならば退路をやる気のある彼女に任せるのが妥当な判断であろう。

ならさ、怪我一つしてなくて出迎えてくれそうだよね」
一応はヤッファにフォローの言葉をかけたつもり。
ウィルは笑えない冗談を飛ばし、自分で想像してガックリ肩を落とす。

なら絶対やってのける。
奇妙な確信がウィルの胸に宿った。

「はぁ……」
慰めてくれるのは嬉しいが一向に気分が晴れない。

呻くヤッファという珍しい光景にキュウマも内心で驚いていたが。
それ以上に の実力とは? 等と頭の中で想像を張り巡らせていたのだった。





打ち捨てられた炭鉱に巣を張ったジルコーダ。
その繁殖能力は目覚しいものがあり、倒しても倒しても横穴からジルコーダ達は溢れ出る。

『塵も積もれば山となる、か。雑魚が群れやがって』
バノッサが気だるげに剣を縦に振り下ろし、ジルコーダを正面から真っ二つ。
まるっきりやる気がゼロなのに戦っているのは、一重に妹が居るからだ。

「一応は島の危機なんだ、真剣にやらないと に恨まれるぞ」
と意見しつつイオスもテンションが低い。

真剣なアルディラとファルゼン、それから とは違い槍を使った遠距離攻撃でジルコーダを串刺し中。
バノッサのぼやきを耳で拾って忠告を発する。

『手前ぇはな? が俺を恨んだりするかよ、ああ見えてもお兄ちゃん子だぜ』

 フン。

唇の端を持ち上げての笑い方は とそっくり。
否、バノッサのこの笑い方が に感染ったのだ。
余裕綽々のバノッサにイオスは思わず殺意を覚えてしまう。

のお兄さん、何時見ても思うのだけど。本当強いわね」
口先ではなんやかんやと悪態をつき、バノッサとイオスはジルコーダを退治していく。
アルディラは小休憩を入れるとファルゼンに合図し、 の傍らに立った。

「我の兄上だからな、強いぞ」
バノッサを褒められて嬉しくないわけがない。
は満面の笑みをアルディラへ向ける。

頬に手を当て小首を傾げ、アルディラは何度か瞬きをした。
腰元まである柔らかな茶色い髪がアルディラの首の動きにあわせて揺れる。

「血は繋がってないのに、戦い方とかは矢張り似るものなのね。兄妹だからなのかしら? あら、ごめんなさい。別に観察とか、そのような類のものじゃないの。ただなんとなく」

別に が理由を求めてはいないのに、アルディラは自身の気まずさを払拭するように口早に彼女なりの訳を説明した。

「一緒に暮らし始めてもう四年になる。仕草とかも似ておると友人達には茶化されるぞ」

顔立ちも雰囲気も違う。
それでもお祭りや、野盗退治や、畑仕事や。
様々な経験を通しバノッサと は兄と妹になっていった。

当初から相性は良かったが、万事が万事、上手くいっていたわけじゃない。
沢山喧嘩もしたし、その都度、クラレットやキール、それからカノンの仲裁を受けて仲直りしたりしていた。

「ふふふ、分かる気がするわ。スバル君、知っているでしょう? ミスミさんとリクトの子供の。
彼も無自覚でしょうけど仕草はリクトそっくりなのよ。父親の顔も知らないのにそういう部分だけはしっかり受け継がれていく、素敵ね」
アルディラから羨望の混じった眼差しを受け、 は恥ずかしいような申し訳ないような気持ちになる。

幸いなところ、セルボルト兄姉は元気だし、誓約者ズもこの争いさえ治めてしまえば元気になるだろう。
繋ぎたい絆を失ったアルディラに指摘されると少しだけ胸の奥が痛む。

 絆が欲しかったのだろうか、アルディラ。
 ハイネルとの明確な絆が。
 本人が意識していないだけでアルディラは沢山の絆をハイネルから貰っておる。
 自覚がないから求めてしまうのだな。
 核識を、遺跡を復活させてハイネルに遭いたいと。

気の毒だとは思えども。
が望むのは名も無き世界の誓約者・ハヤトとトウヤの命。
ハイネルの意識は残っていても当人は既に死んでおり、 としては彼を優先出来ない。

沸き上がる嫌な気持ちに蓋をして は話題を逸らす事にした。

「それを申せば、ネス……融機人の親友、ネスティと汝もそっくりだ。しかも仕草も似ておる。
ネスティは事情があり蒼の派閥に籍を置くが、弟・妹弟子がおってな? その弟子二人は少々抜けておる部分があり。常にネスティに叱られておるわ。君は馬鹿か、とな」

喋っていて は思わず怒れるネスティを脳裏に思い出し、小さく噴き出す。

三年経った現在でも頭痛が治まらないネスティとボケ属性のマグナとトリス。
クスクス一頻り笑ってから は目尻に浮かんだ涙を指で拭った。

「その時の怒るポーズがアルディラと似ておる。腰に手を当てて眉間に皺を寄せて、眼鏡奥から鋭く眼光を飛ばすのだ」

キョトンとした顔のアルディラと。
聞き耳を立てていたファルゼンの鎧が小刻みに揺れる音と。
イオスがつい『似てる』なんて表情で首を縦に振るのと。

全てが同じタイミングで、 は堪えきれず大声を上げて笑い出してしまう。

が指摘したアルディラの怒れるポーズも不思議とネスティに酷似している。
あれは融機人の共通仕草かと は最初に勘ぐった程だ。

『笑い死にはするなよ、今は人手が足りねぇからな』
小刻みに震えるファルゼンにそっと耳打ちしてバノッサは口角を持ち上げる。
「アア」
ファルゼンはバノッサの冗談に気合を入れて頷き返した。

カタカタ震える鎧の振動は誤魔化せない。
ファルゼン(ファリエル)の本来の姿と性格を考えると仕方ない部分もある。

バノッサはイオスに顎先で方角を示し、自分達は爆笑する と笑いの衝動に耐えるファルゼンと。
自分の怒った時に想いを馳せるアルディラを護るべく最前線に立つ。


先程よりも出てくる量が減ったジルコーダを倒し続ける事、約三分間。
「たっだいま〜vv  〜vv ってあら?」
そこへスキップしながら戻ってきたスカーレルが立ち止まり。

「有難う御座いました、 さん。 さん?」
スカーレルの後を歩いていたアティがお辞儀をするも、 の笑い声が炭鉱に響くだけで。

見れば もバノッサも、イオスも。
当然ファルゼンやアルディラも怪我はしていない。
掠り傷一つないという状態だ。

ウィルとベルフラウは笑う を見なかったことにしてヤッファと一緒に外へ逃げた。
カイルとヤードもヤッファ達に続いて炭鉱を出て行く。

「どうしたんですか? 殿は」
キュウマは立ち止まりバノッサに問いかける。

バノッサの性格を知らないというのはある意味幸運かもしれないキュウマだ。
彼の実力と気質をしっていたなら、早々気安くものを尋ねる事はキュウマだってしない。

ただこの時点でキュウマはソレを知らなかった。

『一寸な』
無邪気なキュウマの疑問にバノッサは言葉を濁し、ノーコメント。
それから笑い続ける の背後に立って耳元へ何かをボソボソボソ。
そうしている内に、 が深呼吸を始めれば笑い声は収まる。

「等身大の姿見の場所、どこだったかしら」
アルディラは真剣にラトリクスの物置に仕舞ってある、等身大を映せる鏡のありかを一生懸命思い出そうと一人奮闘していたのだった。



Created by DreamEditor                      次へ
 呆れ方は結構似てると思いますよ、ネスとアルディラ。
 アルディラさんは一回、レックス先生でプレイ時にラブラブEDを見ました。
 いいですよね〜、レクディラvv ブラウザバックプリーズ