『話題休閑・招かざる来訪者5後1』




満点の星空の下の宴会。
宴もたけなわドンチャン騒ぎ。

「にゃはははははは♪ 酒、酒〜vvvv」

シルターン製の杯。
といっても、メイメイの顔の大きさと同じ位大きい漆塗りの杯である。

並々注がれた清酒を一気飲みしてメイメイは上機嫌だ。

上機嫌というか、出来上がっているというか。
やや微妙な部分はある。

「店主、良い飲みっぷりじゃ。ほれもう一杯」
しかもこれを面白半分に煽っているのがミスミ。

女武者だったミスミ、長刀も強ければ酒にも強い?
そこそこ飲んでいるにもかかわらず、顔色一つ変えずにメイメイの杯に新たな酒を注いだ。

立ち込める酒臭にパナシェは戦線離脱。
スバルも空気だけで酔っ払い、呂律の回らない怪しい喋りをしていて。
肩を落としたベルフラウに隔離されている。

「どうしたキュウマ、緊急避難か?」

ミスミを宥めていたキュウマが疲れきった表情で、メイメイとミスミの付近から逃れてくる。
メイメイから大分離れた場所を陣取った はやって来たキュウマをからかった。
案の定、根が真っ直ぐなキュウマは僅かに眉を顰め の無礼? を受け止める。

「こう見えてもこいつは五千歳なんだと。護人のキュウマよりかは格上だと思うぜ?」
ともすれば険悪に陥りかねない とキュウマの空気を解すのがカイル。

少し酔いが回り気分も解れてきたのだろう。
普段交流を持てないキュウマを考慮して、カイルなりに を説明した。

「ご、五千歳……ですか?」
はミスミを呼び捨てにし、他に対して妙に偉そうな態度を取る。

キュウマから感じた の印象はこの様なモノだ。

カイルの発言にキュウマは背筋に嫌な汗をかく。
恐らくミスミは から聞いたか自分で察して彼女の態度を彼女なりに受け止めたのだろう。
外見がなまじ美少女なだけに……小生意気に感じられ、いや、自分の修行不足だ。
キュウマは内心潔く認め小さく息を吐き出した。

「ああ、そうだが? 名も無き世界のゲンジとは少々寿命が異なっておってな。こう見えても我は五千歳、正しくは五千と四歳だな」
ニッコリ笑って はキュウマが座る分のスペースを譲る。
が空けた場所に座りキュウマは口を真一文字に結ぶ。

「あ〜、自分が無礼だったとか思わない方が良いぜ? これから厭でも に振り回されんだ。キュウマのニイちゃん」

 無礼だったのか自分は?
 それとも知らなかったから仕方ないのか?

グルグルと渦巻く思考の底へ落下していくキュウマを気遣いヤッファが口を挟む。
ちびちび酒を飲むヤッファは野生の勘を生かしてメイメイやミスミの魔手から早々に逃れていた。

「振り回される方が悪い。修行が足りぬ証だ。サイジェントにおる友人達は器用だぞ」

ガゼルを筆頭としたサイジェントの親友達。
あのアカネだって の性格を理解していて面倒事からなんとか逃げている。
モナティやガウム、スタウト等の自分から面白い事件に と一緒になって首を突っ込む面々も居る。

まぁ各々の判断だ、 と一緒にスリルを味わうか。
平穏な日常を愉しむか。

その時の気分次第、という訳である。

「付き合いの年季が違うだろ、そりゃ。ところで の兄貴とイオスはどうしたんだ?」

苦笑いするカイルが、宴会場を見渡して の保護者ズが居ないのに気がつく。
てっきり を護る為にそこら辺で時間を潰していると決め付けていたのだ。

さり気なさを装い彼等が今何処に居るのかを に尋ねる。

「騒がしいのが好きではないのだ。静かに飲む方が性に合っておると申して先に帰った」
宴会が始まって数分間はお付き合い程度に周囲の者と挨拶を交わし、食事を取ったバノッサとイオス。

イオスは文字通り休憩の意味で寝に。
バノッサは騒がしいのが好きではないので、サモナイト石の奥に引き篭もっている。

詳しく説明するのも面倒なので は大事な部分を大幅に省いてカイルへ説明した。

「え? 俺はてっきり」
姿や気配を消してそこら辺りに。
なんて答えだと断定していたカイルは出鼻を挫かれた。

妹なら自分にも居るのでそれなりに兄としての気持ちは分かるつもりだったのに。

「過保護、でもない。我は確かに思う儘に行動する故、被害を出しやすいらしい。
だがな? 兄上やイオスは我が護りたいと願う相手と笑い合うために戦うと信頼してくれておる。でも時には兄上に怒鳴られたりもする」
がバノッサを語る時。
無意識に表情を和らげ、外見相応の愛くるしさをばら撒く。

凛とした空気が一瞬にして消え穏やかな雰囲気を身に纏う

カイルとキュウマは普通の少女らしい の態度に戸惑った。
どちらかというと超然とした空気を持った しか頭に無かったので頭を殴られた位の衝撃を受ける。

「家族だから喧嘩もする。我が家出する時もあるし、兄上に頭を冷やしてこいと家を追い出される時もある。
カイルが想像しているよりは普通の兄妹だぞ? おかずで喧嘩したりもするからな。我がただ護られておるだけではない」

なりにアティの言質を観察し、アティを受け入れたカイル一家を観察して得た結論。
きちんと話し合うこと。他愛のない世間話や身の上話でも、沢山話せば話しただけ相手との距離が縮まる。
全て言葉で解決できるほど島を取り巻く状況は綺麗、でもない。
ただ、 は仲間となりうるカイル達とは一回このように話しておきたいと考えていた。
一見すれば些細な誤解と受け止められる の間違った印象を払拭する為に。

「ただ、護られてる……か。確かに人間出来てるよな、 のニイちゃんは」
個人的にバノッサと多少の交流があるヤッファが口を挟む。

バノッサは を甘やかしているようで肝心な部分では甘やかしてはいない。
の操縦法を心得ている彼を半分茶化し、半分真剣に褒める。ヤッファなりの冗談だ。

「おかずで喧嘩……家出……、なんだか思ったより平凡だな」
カイルは正直に へ感想を伝える。

海賊育ちで海上の生活が長いカイルは陸の暮らしを知らない。
基本的には海賊の暮らしがカイルの日常を量る目安であり、一家の掟がカイルにとっては常識。
それが破られない生活をカイルは送ってきていた。

他の世界に排他的だったわけではないが接点が無い。

それが今回アティを客人として迎え入れ、ベルフラウも預かり。
島の連中と知り合って帝国と戦っている。

身分や生活や価値観が違う相手、自分の中にあった先入観にカイルは内心でほろ苦く思う。

は常に感じた事や考えた事を口外し、相手の言い分も、時々は無視しながらも大方は聞いている。

アティが三度の飯より好きな『対話』だ。

カイルが思い返す範囲では はちゃんと『対話』していた。
自分達や島の者達と。

それに引き換え自分はどうだ?

なんだかんだ云って未知の存在を恐れ無自覚に逃げていたのかもしれない。

触れ合う事から。
カイルはこの少女と向き合おうと今この瞬間自身の誇りにかけて誓う。

最初の出会いが悪すぎた、というツッコミを誰も入れてくれないのは、カイルにとっても にとっても良いのかもしれない。

「すまないな? スラム育ちの兄上は平凡が一番だと知っておる。一昔前はそれなりに悪ぶっておった時期もあったがな。今は質素な毎日を愉しんでおるぞ」
はカイルへ律儀に言葉を返す。

「スラム、ですか?」
聞きなれない単語にキュウマが反応。
思わず正座して の真正面を向き、目上の者に対する態度で に伺う。

ヤッファはキュウマの律儀な態度に呆れた笑みを浮かべた。

「ああ。孤児達が集まる不良の吹き溜まりだ。貧しい者達が貧困に喘いで住む、端的な表現だがどこの都市にもそのような場所がある。
貧しさ故に罪を犯し相手を傷つけ金品を奪う。力が支配する世界、それがスラムだ」
キュウマに誤解を与えないよう、極力主観を取り除き がスラムについて講釈。
端的な の物言いにカイルがなんだか真剣な顔になった。

はただの『自分の理論を勝手に振り回す凶暴美少女』ではなく『話が分かる割に暴走しやすい美少女』なのだ。

自分の考えが正しいと受け止めるカイルは小さく息を吐き出す。
相談役であるスカーレルがああも容易く を受け入れたのは、 が素直な(素直すぎる)存在だから。

カイルの葛藤? を他所にキュウマと の会話は続く。

殿の兄上様は苦労されたんですね」
非力(?)な人間が力だけを頼りに生きていく。
キュウマは想像してみて、あまり心地良い光景とは告げがたい想像を喉元に押し込め。
妥当だと思われる相槌を打つ。

「さてな? 兄上だって人には云えない悪さもしておったであろう。その分、ある悪人に騙されて危うく死に掛けたからな。信賞必罰。
己を取り巻く境遇だから、己に非がないといっても悪事は悪事。いずれ別な方から罰が下る。天に唾すれば、というヤツだ」
大人びた仕草で髪を払いのけ、 は皮肉気に哂う。

「耳に痛いな」

 自分に対するあてつけか!

悟ったヤッファが表向きは殊勝に喋った。

自他共に認めるナマケモノ、ヤッファの腰は普段でも非常時でも重い。
もう少しフットワークを軽くして揉め事を減らせ。
の暗に含ませた嫌味だ。

「ふふふふ、分かってしまったか?」
小さく舌を出し誤魔化す

「バレバレだ。マルルゥの手を煩わせないよう努力する……後はどっかの誰かさんが大人しくしていてくれればもーっと楽、なんだがな」
ジト目で を見遣りヤッファは頭をガシガシ掻く。

「善処はしておる、善処は」
「口先だけならなんとでも言えるだろ? 違うか」
あっという間に立場が逆転。
ニヤニヤして を追い詰めに掛かるヤッファと、ぐっと黙り込んでしまう

の心底悔しそうな顔がなんだか可笑しくて、カイルとキュウマは控え目な声で笑ったのだった。



Created by DreamEditor                       次へ
 この辺りに来るとキャラが勝手に歩き出してしまいます。カイル、最初はこうなる筈じゃなかったのに……。
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