『招かざる来訪者4』




目の前で言い争うアルディラとファルゼン。
呆然と立ち尽くすアティ。

草陰でアルディラの探査に入らぬよう結界を張り、隣で目を丸くするヤッファを無視して はぼんやり今晩のおかず……ではなく、今後の部隊編成を考える。

 これで仲間は、メイメイ・ファリエル・フレイズ・ゲンジ・オウキーニ・シアリィ。
 もう一人、あ奴はどうするか分からぬが。
 戦闘要員ではないゲンジとシアリィを除き約四名は戦闘経験者。
 ならばオウキーニにも無限界廊を味わってもらうべきだな。

ふふふふふふ。
策士の顔でほくそ笑み は頭の中でこれからの算段をつける。

オウキーニとシアリィ、二人の危機感はまだ無いが への協力を誓ってくれた。
が基本的に嘘をついて愉しむ性格をしていない事と。
矢張り のような神がかった存在から助けを求められ悪い気がしなかったから、だろう。
それ以前にシアリィは『オウキーニ』という がぶら下げた餌に見事喰らい付いていたが。

「……うん? どうかしたのか?」
ヤッファからの不躾な視線をキャッチした が、傍らの『鬣禿げちゃうかも護人(ウィル談)』を横目で見る。

 アルディラが良からぬ電波をキャッチしておる。
 のは、昨晩と今日、ラトリクスへ赴き判明した。
 地球の姉上が持たせてくれた高性能探知機は役に立つな。
 あれがなければこの展開を危うく見逃すところであった。
 ここは護人しか入れぬ場所故、ヤッファも調達してきたことだし。万事支障はないな。

この場合 にとって支障がないのであり。
ヤッファにとっては自分の時間を削られ大いに支障を来たしていた。

「どうかしたかじゃないだろう?  、どうしてお前は次から次へと」

昼食後の惰眠を妨害する小さな嵐。
はヤッファの家に住居侵入を果たし最近は平和だったヤッファの身柄を拘束。
有無を言わせず集いの泉まで連行。

ヤッファとしては昼寝に戻りたかったのに、アルディラとアティの話を盗み聞きした時点で諦めた。

それから自然な流れ? で、喚起の門まで至り。
アルディラの要求を拒否したアティなのに、姿が抜刀スタイルになり苦しみ出す。

ピンチのアティを救ったのはファルゼン。
護人として掟を破ったアルディラに敵意を剥き出しにして攻撃してくるファルゼンと、応じるアルディラ。

午前の仕事(見回り)を終えて休む間もない。
老体(?)には堪えるのだ。

愚痴りかけるヤッファを は手のひらを当てて止める。

「騒ぎを起こそうとしているのはアルディラだぞ。融機人は知的好奇心の塊なのだな。
アルディラと同じ種族の我が友、ネスもこの島に住んでいたなら。間違いなくアティを喚起の門へと連れ出し共鳴実験を起こしたであろう。
好奇心は身を滅ぼすと申すが、アルディラは無邪気に危険だな」

アルディラの行動の裏までは知らない風を装う。
はファリエルから聞いて知っているのに、大胆にもしらばっくれ、ヤッファへ反論し意見を口に出した。

「…………」
本当はそうじゃない。
言いたい口をグッと閉ざし、ヤッファは眉間に皺を寄せ険しい顔つきで を睨む。

「しかしファルゼンが止めてくれて、事なきを得たではないか? アティを無闇に喚起の門に近づけねば良いのであろう? そのような些事ならば我も手伝える」
これまでの過程を傍観していた が見当違いの返事をあえて寄越す。

苦しむアティを助けたファルゼン。
基、ファリエル。

ファリエルが自分で暴露したようにアルディラはハイネルの恋人だった。

だからハイネルに再び会う為、遺跡を復活させるかもしれないと危惧したファリエルの予想はドンピシャリ。
大当たり。

頃合を見計らい偶然を装いアティを門へと近づけるアルディラ。
見張っていたファリエルがファルゼンとして門へ乗り込みアティは危機を脱し。
それから門が一際大きく震えてソレが姿を現した。

ジルコーダ、だとヤッファは言う。

「ああ、アティを門に近づけるわけにはいかねぇ。アルディラが暴走しそうなら止めてくれ。あとキュウマのニイチャンもな」
ジルコーダの残骸に目を移しヤッファは必要最低限の情報を へ与えた。

ジルコーダと戦うアルディラ・ファルゼン・アティを黙ってみていたのは卑怯だと感じる。
だが、ヤッファがこれを認識しているとアルディラに悟られたくない。
よってヤッファは動かず、つられて もその場で動かず戦いを静観していた。

の思惑もヤッファと似たり寄ったりである。

「キュウマ?」
ヤッファが、意外に砕けているように見えて、それでいて相手を探って動くヤッファが。
自分に至極アッサリもう一人の名を持ち出した。

秀麗な眉を寄せ は小首を傾げる。

この の演技は完璧。
ヤッファは の反応に一先ず胸を撫で下ろす。

最近自分に隠れてなにやらコソコソ暗躍している だが。
まだ核心へとは到達していないらしい。
ならそのままでいて欲しいとヤッファは思う。

優しいが横暴すぎる理論を振りかざす彼女がマジギレしたら島は……。

誰よりも正しく を認識しているヤッファである。

「キュウマのニイチャンはシルターンへ帰る方法を探しているんだ。だから、さ。鬼姫様もいる。早々変な真似はしねぇと思うがな。保険だ」

ヤッファは深く説明しない。
詳しく説明したら最後、 は自分から首を突っ込み納まるものも納まらない惨事を巻き起こす。
それは容易に想像がつくヤッファだ。
尤も、ハイネルによって呼び出された時点で手遅れなのだが。

「キュウマもだな? 承知した。門自体は壊れておって不規則にしか動かぬ物騒なモノだ。アレに関わると碌な事が起きない気がする」
アリに似た虫モドキ、メイトルパの召喚獣でジルコーダ。
もジルコーダへ顔を向けしみじみ言った。

顎が発達したジルコーダの噛み付き攻撃は強力で、ファルゼンの鎧に一部歯型が残るほどである。
喚起の門は対象を選ばす召喚獣を呼ぶと聞いたが見るのは初めて。
は改めて遺跡の危険性を実感した。

「まぁ、なんだ。 の言う通り碌な事しか起きてねぇな」
ジーッと の顔を見詰め、ヤッファは真顔に戻って呟いた。

「? ヤッファ、何故そこで我をじっと見据えるのだ」
「自覚がないなら良いさ……はぁ」
ヤッファ曰くの『碌でもない事』には の召喚も含まれている。
察しの良い に自覚があるかカマをかけるも反応ゼロ。

 自分の事は碌な事じゃないのか……。
 まったく、これだけ島を掻き混ぜておいて自覚ナシとは恐れ入るぜ。

哀愁を漂わせる、訳にもいかず。
ヤッファは を伴い一足先に集いの泉へ足を向けた。





ジルコーダ発生のニュースは瞬く間に島を駆け巡り、ジルコーダの巣を叩くべく準備が進められる。

銃を与えられ喜ぶのはソノラと

「へぇ〜、それが 専用の銃なんだ〜」
ソノラは の手に治まった銃をしげしげ見詰めた。

シルバーを基調とした、外見だけはロレイラル製に見える銃。
実はサイジェント&ゼラムで使用したものよりバージョンアップがなされている。

光線の威力が上がっているのは勿論、手ブレを防ぐ照準機能も搭載された優れもの。
時間を司る の姉(女神)が の為に新しく誂えた銃だったりした。

「長年愛用している我の銃だ。この島では銃は駄目だと言われてな、今迄ヤッファに預かっていて貰っておった」
腰から銃を収める皮製のホルスターに銃を下げ、 は感触を確かめる。

「そうだったの……。私達ロレイラルの銃だとは思うけど、ちょっと違う部分もあるのね? 機会があったら調べてみたかったわ」
アルディラが目を輝かせて の銃をロックオンするものの、 は明言を避け曖昧に笑って誤魔化した。
現在敵対する間柄であるアルディラに手の内は曝せない。

「これでアタシも活躍できる!! 頑張っちゃうv」
やーっと信用して貰い銃を与えられたソノラは弾んだ声で宣言。
小躍りして集いの泉周囲をスキップして回る。

浮かれたソノラを視野の隅に収め、黙々と戦闘の準備をしているのはマルティーニ姉弟・ベルフラウとウィルだ。

「あの程度で喜べるなんて幸せね、ソノラも」
弓矢の数をチェックしベルフラウがウィルに耳打ちする。

ウィルと共に挑んだ無限界廊の試練。
半端じゃなくキツかった。
何度死ぬかと思った事か。

武器の威力も大切だが戦闘に勝利する為に大事なのは本人の意思。
生き残りたい、己の矜持を譲れないと踏ん張る心があるかないかで左右されるのだ。

「本当だよ。この場所、嫌じゃないけど例の門を思い出すから……。あんまりアレ以外の目的で行きたくない場所だよね」

戦いに対する認識の甘さは崩れた。
が再三言っていた『島も帝国も甘い』という意味を、身を持って味わったウィルである。
綺麗事では生き残れないが、綺麗事が必要なのも戦いで。

熾烈な戦場を潜り抜けたウィルは小声でベルフラウに応えた。

秘密の特訓なので が認めた者以外は無限界廊には行けない。
要は との秘密の約束なのだ。
だからベルフラウとウィルは小声で喋りあっている。

「ミャー、ミャ〜」
「ピー」
テコとオニビも同じ意見らしい。
やや疲れた様子で泉へ身体を向けている。

「気合を入れジルコーダを殲滅。マルルゥの夕飯を食べるぞ、メイメイ!!」
マルティーニ姉弟の会話を他所に一人気合を入れる と。
「え〜!! メイメイさんとしては、宴会の酒よ! 酒〜!!」
矢張り場違いな気合を入れる酔いどれ店主の誓いが、集いの泉に響いていたのだった。



Created by DreamEditor                       次へ
 いや〜、話数を重ねるごとに長くなる。ドリームっていうか、名前変換小説。
 今後もじわじわ長くなっていくんですよ……。恐ろしい。ブラウザバックプリーズ