『招かざる来訪者3』




クノンとの友情? 交流を深めアルディラに退出の断りを入れ、 はユクレス村へ戻ってきた。

ウィルがまだ戻ってこない小屋。
訝しい顔色のオウキーニと、小麦色の頬を薄っすら桜色に染めたシアリィが とお茶をしている。

「なんでウチなんですか? はん。あんさんなら畑にいまっせ?」
隣に座るシアリィを意識して居心地が悪いオウキーニ。
何度も椅子に座る位置を訂正して忙しない。

女っ気がない彼にシアリィでは少々刺激が強すぎである。

「残念だがオウキーニ。ジャキーニでは用が足りぬ。決してジャキーニの器が悪いわけではないのだが、あ奴は良くも悪くも悪目立ちするからな」
心の中でオウキーニに両手を合わせ、 はオウキーニを個人的に呼び出した第一の理由を説明した。

「ジャキーニさんは声も大きいですし、内緒話には不向きかもしれませんね」
大真面目なシアリィはさり気にジャキーニに対して暴言を吐く。

彼女なりに気になる存在(オウキーニ)と長く一緒に居たくての台詞だろうが。
シアリィのボケに は失笑し、オウキーニは乾いた笑い声をたてた。

「それに汝にはシアリィと共通した特技があるだろう? そこを利用し、一つ我の計画に乗ってはくれまいか? 等と余裕で申せたら良かったのだがな。
オウキーニよ、厭でも計画に乗って貰いたい。でなければ島の住民が全滅する」

 ゴホン。

咳払いをしてから は用件だけをまず先に持ち出した。
それからシアリィが差し入れてくれた果物ジュースが入った木の器を手に取る。

「なんでやねん!!!」

自分の協力拒否=島の住民全滅!?

シルターン自治区生まれの血が騒ぐ。
オウキーニはしっかり裏手つきで遠慮なくしかも間髪いれず へツッコんだ。

「なんですって!?」
これは流石にシアリィも度肝を抜かれる。

やや裏返った声で叫び思わず椅子から立ち上がった。
が、自分のオーバーリアクションに恥ずかしくなって顔を真っ赤にして、慌てて椅子へ腰を落ち着ける。

「オウキーニ。汝が協力を拒めば島を災厄が襲い、島民全員が死ぬと申しておる」
次に は、軽食用にオウキーニが作ってきてくれた魚の唐揚げとおにぎりを摘む。

「それってテイコクグンっていう人達が攻めてきてるから? それならマルルゥちゃんも言っていたけれど大丈夫よ。
ヤッファさんだって居るんだし。先生さんだってわたし達を助けてくれる筈よ」
口をもぐもぐ動かす にシアリィは反論した。

「残念ながらシアリィ。帝国などは赤子よ、赤子。隊長が比較的筋を通す性格をしておってな、彼女相手なら大々的な戦闘にはならぬ。
それよりも性質(たち)が悪い最悪の連中がこの島を狙っておるのだ」

 もぐもぐもぐもぐ。ごくん。

シアリィとオウキーニが固唾を呑んで見守る中、自分のペースを崩さない はオウキーニの差し入れを有難く頂戴し。
口に含んだ食べ物を飲み込んでからシアリィに答を与える。

「帝国より性質の悪い連中? なんでっか、それは??」
オウキーニはぐっと身を乗り出した。

島での生活はアティ達より長いオウキーニ。
でも最近までは島の住民を恐れてもいた。

だがアティの計らいもあり、温情をかけて貰い、現在は実りの果樹園で野菜や果物を作る穏やかな日々を送る。

種族の違いなんて些細な事。
色眼鏡さえ自分が外してしまえば、ユクレスの村人達は海賊であるジャキーニ一家に優しかった。

オウキーニには徐々に島の一員としての意識が芽生えつつある。

「無色の派閥。世界の改革と変革を求める為には手段を選ばぬ集団だ。時には己の血を分けた子供でさえ道具として使う。
この島を見たら彼等はこう思うだろうな? 四つの世界からの標本が沢山ある『実験』には持ってこいの島だ、と」

は嘘をつかない。
喋れる部分は喋るし、喋れない部分はその時まで黙っているだけ。
未来を掴むために全員の力で闘う。
しかも の願いを理解してくれる、アティとはある程度の距離を置く面々が必要なのだ。

が発言すればシアリィは真っ青になって怯え、海賊家業のオウキーニも言葉をなくす。

「この島に縁(ゆかり)のある青年が我に助けを求めてきたのだ。無色の派閥によってこの島が危機に瀕すると。是非助けて欲しいと。
我は青年の呼びかけに応じ、喚起の門を通りこの島へやって来た。島の危機を回避する為に」

黙りこむ二人へ畳み掛ける
我ながら姑息な手段だと感じるも、イスラの登場を考えればこれでも遅い。

「俄には信じられぬだろうがな? 我も昔無色に家族を殺されそうになったことがあり、他人事とは思えず……。引き受けてしまったのだ」
は自分が島へ来たあらましを『はしょって』説明し二人の反応を待つ。

この島に来た理由もまだ二人には話せないので、もう一つの理由を先に告げる。

「もし……それが本当なら、島は、島は戦場になるの? お母さんが教えてくれた昔話と同じ? 昔この島は戦場だったんでしょう? あの時と同じになるのね?」
青ざめた顔色は変わらずシアリィはショックを隠せない。
震える声で恐る恐る に問いかける。
は黙って瞬き一つを返した。

「平和なこの島が戦いの場になるなんて! 信じられん!! なんでや、なんでなんや」
オウキーニも瞬間我を忘れて叫ぶ。

この平和な島が自分の知る血塗れの戦いの場になるなんて考えたくもなかった。
身の毛がよだつ。
憤りにブルブル身体を震わせるオウキーニの手にシアリィは自分の手をそっと重ねた。

「わたしも詳しいことは知らないの。お母さんが言っていたわ……ここは昔、無色の派閥が作った島だって。
理由は知らないけど、無色の派閥内部で争いが起き戦争になったわ。
無色の派閥の、とても正義感の強かった人がこの島を命がけで護ってくれたんですって。だから島は結界に阻まれて誰も入ってこれないって、集落に住む者ならこの程度は知ってるの……あの、ごめんなさい。
オウキーニさんにお料理教わってるのに、教えなくて」

自分の言葉を噛み締めながらシアリィが知りうる情報をオウキーニに伝える。

「い、いや、構わへん。シアリィはんかて、悪気があったわけやおまへんやろし」
島の成り立ちより今はシアリィの手が気になる。
額から汗をかくオウキーニと、申し訳なさそうにオウキーニだけを見詰めるシアリィ。

 二人の世界を作るなら、我の提案を呑んでからにせよ。
 だが中々相性の良い、よき夫婦になりそうだ。
 ふふふ、余計なお節介ついでに恋のキューピットと洒落こむか。

オウキーニのヘルプ視線をすっぱり無視して は含み笑い。

「来るべき災厄、無色の襲撃を退け島の安泰を我は願う。それには島の者達が心をひとつにすることが大切なのだ」
は言いながらオウキーニの二個目のおにぎりへ手を伸ばした。

「わたし…… さんや、マルルゥちゃん、ヤッファさんのお役に立ちたいです。でも、わたしなんかじゃ皆さんの足手まとい」

「早計だ、シアリィ。戦いは矢面に立ち戦う者と、戦う者を助ける者がおるだろう? 汝等にはそれとなく周囲に気を配っておいて欲しいのだ。
島の気持ちを一つにする利点と、戦いになれば最前線に立つであろうヤッファ達の支援になる利点もある」

おにぎりを口に頬張りかけ、シアリィらしい思慮深いコメントに、ついおにぎりを元の皿へ戻し。
シアリィとオウキーニに助けを求めた理由を明かす。

「オウキーニ、汝の料理の腕前我でも脱帽する。非常に美味だ。その料理を以て、戦う者の疲れた気持ちを解して欲しい。食べる物をきちんと食さねば力が出ぬからな?」
は一旦おにぎりへ未練の視線を送り。
自分の空腹を我慢してオウキーニへ詳しい説明を付け加えた。

食べ物の有難さが分かっているオウキーニだからこそ任せられる。
美味しい楽しい食事は心を和ませ、連帯感を高めるのだ。
海賊一家の台所を預かるオウキーニならばこの重要性が理解できるだろう。

「成る程、それは……あんさんには出来まへんな」
オウキーニはどうして自分に誘いが掛かったのか。
その理由だけは納得し頭を掻く。

「それと戦いにおいて一番厄介なのは『仲間割れ』だ。和を乱す輩がおったなら、それとなく動向を見定めシアリィへ報告。シアリィ経由で我が情報を得る。見事であろう」
オウキーニなら料理を振舞う名目で各集落を回れる。
そう踏んだ のプランである。

 この二人は音が乱れておらぬ。
 というより、護人がだらしがないだけの話しだがな。
 普通の考えを持つ普通の民が島を案じ救うために立ち上がる。

 何も可笑しな話ではない。

 自身が住む場所を護りたいと願う気持ちは誰にでもある。
 住民を無視して己のエゴで動く護人達には良い薬となるだろう。
 選ばれた者だけが世界を救うと、誰が決めたのか。

は護人やその周囲の古い考えを打ち崩そうと目論んでいたりする。
「だったら! 直接ウチが はんに……」
オウキーニはなんだか自分の意見が無視されそうな気がして、口を挟むも。

「接点が薄い汝と我では怪しまれる。如何にも『何か企んでます』等と勘ぐられるのがオチだ。その点シアリィは我の友だし、料理を習いにココへ来ておる」

 ぴしゃり。

に理路整然と応じられ、ぐうの音も出ない。

彼女の言っている事は自分が部外者だったら同じ様に疑問に感じるだろうと分かるだけに、オウキーニは反論できなかった。

「ええ、怪しまれませんね。わたし、オウキーニさんの料理をもっとお勉強したいので、こらからも頻繁にお邪魔する予定ですから。そっちも怪しまれないと思いますv」
シアリィはなんだかとっても乗り気になって、ニコニコ微笑み頷く。

これで漸くおにぎりが食べられる。

は皿に戻したおにぎりを今度こそ口いっぱいに頬張りモグモグ食べながら、喜ぶシアリィと、焦るオウキーニをただただ眺めていた。



Created by DreamEditor                       次へ
 実はオウキーニ×シアリィ大好きですvv 平凡だけど幸せな二人は番外編でもラブラブっぽかったので。
 主人公に事前にくっつけて貰いましたvv ブラウザバックプリーズ