『先生の休日3』




夕暮れ時のユクレスを襲う災難?
それとも?
一念発起、自由とを求めてジャキーニ一家は立ち上がった。

捨て身のボケなのか大真面目(マジ)なのか、オウキーニを人質にとってユクレス村の樹上の家々を繋ぐ通路を通せんぼ。
この時点で彼等が持つベクトルは大いに間違っていると思われる。


「やっぱりマルルゥも連れていけばよかったか? それともカルシウムが足りないのか」
はジャキーニを上回るボケをかまし真剣にマルルゥを見上げた。

ジャキーニの暴挙に正義感がメラメラ燃えているマルルゥを。
小さな身体に似合わず大きな声でジャキーニを説得というか、挑発というか、説教をしている。

「いや、小さいといわれているのが密かにコンプレックスじゃないのか?」
実体化したイオスが自分も経験があるのか、小さいといわれて剥れるマルルゥを擁護。

『ああ、手前ぇも騎士からすれば小さいからな』

喚くジャキーニとマルルゥ。
二人を前にしてオロオロするアティ。
下から眺めていつの間に実体化したのか。

バノッサが腕組みしてイオスの言葉を続けた。

「……兄上、イオスの劣等感を面前で突かぬでもよいではないか」
ジト目でバノッサを非難する にトドメを刺されたイオスは屈辱に顔を歪め片膝を付く。
こんな時でも様になるから美形は特である。

『悪い、口が滑った』
これっぽっちも。髪の毛の先、いや蜘蛛の糸程も悪いなんて考えちゃいない。
しれっと謝るバノッサに無言で怒りに打ち震えるイオス。
二人に挟まれ眉根を寄せる

ジャキーニの反乱をこれでもかと無視する三人にファルゼンとキュウマは何も言えないでいた。
アティが説得するも再戦を要求するジャキーニ相手では戦闘は必至である。

「少し真面目になって欲しいと考えるのは、わたしだけでしょうか?」
「イヤ」
苦悩の色濃いキュウマの苦言。
ファルゼンは否定する事無く控え目に彼に同意した。

「温泉と美味しい食事の後の一戦闘、悪くないわね」
逆に普段は客観的過ぎるアルディラが何故か戦う気満々、サモナイト石を手に密かにジャキーニへ狙いを定める。

「珍しいな、今日は。俺も解した身体を動かしたい気分だぜ」
グルグル腕を回しヤッファも珍しく気合満点。
明日はでも降るかもしれない。

「気分転換したからな」

 バッシ。

自分の拳を自分の手のひらで受け止めたカイルがニヤリと笑う。


「「………」」

本来ならジャキーニの茶番に呆れる筈のアルディラ。
見なかったフリをするであろうヤッファ。

カイルは……同じ反応かもしれないけれど。

意外性満点の温水休日組の態度にファルゼンとキュウマは互いに数秒間見詰め合って沈黙。

「楽しかったらしいですね」
誰が、何が、を音にしない。
キュウマは心底不思議そうにファルゼンに呟く。
「アア」
こっちはこっちで楽しかった。
でもあっちとは少し趣が違うの?

ファルゼンの態度を貫きつつ、ファリエルの頭の中は のピクニックに大きく気持ちが傾いていた。





「あら、これも美味しいのね」
湯上りの面々は頬を仄かに桃色に染めたまま、温泉近くの花畑近くに陣取って昼食中。
ウキーニ作のピクニック弁当、煮しめを口にしたアルディラは口元を押さえる。

「かっ〜!! やっぱりオウキーニの料理は最高だなっ」
昼から呑む酒は格別。
ヤッファと杯を交し合いつつカイルも魚のから揚げを摘み上げた。

モグモグ口を動かし は無言でオウキーニの作った料理を味わい中。
合間にイオスの好物を当人の口へ運ぶのも忘れない。

「ふー、休日か」
ヤッファも海風に揺れる花々を眺めひとりごちる。

青い空と現在は穏やかな海面。
寄せては返す波の音と空に浮かぶ白い雲と。
火照った身体を冷やす適度な海風。

美空を燻るのは微かに甘さを孕んだ花の香り。

それから気を利かせた が持参した弁当と酒と飲み物。

カイルとヤッファは、いやアルディラも。
が持参したどれもがこの風景に合っていて、なんだか逆にアティ達に申し訳ない気分になった。

 気持ちを解す事も大切だ、アルディラの気持ちの一端も垣間見た。
 ヤッファなりに張り詰めていたモノも、多少は溶けただろう。

 カイルは単に愉しんでおるだけだが……。
 この風景と温泉と料理と飲み物が一番の褒美なのだ。
 それから感謝の言葉、だろうな。

一番言いたかったのは二人への『有難う』
護人なのだから『当たり前』で片付けられてしまう行為でも からすれば『有難い』である。
島の者達もカイル達も考えていないだろうけど。

は適度に緊張を解いたアルディラとヤッファに向き直り深々と頭を垂れた。

「自身で望んで護人となったのであろうが、我は深く汝等に感謝する。ヤッファ、汝が護人でなかったら我はユクレスで暮らせなかったかもしれぬ。
アルディラ、汝が護人でなかったらここまでカイル達と、他の集落の者達と、打ち解けられなかったかもしれぬ。
感謝してもし尽くせぬ、我等リィンバウム側に住む者として礼を言う」

そのままの姿勢で が殊勝にこれまでの礼を口にした。

気配でアルディラとヤッファが見事に固まったのが分かる。

「そうだな、俺達をここまで受け入れてくれて有難いな。俺からも感謝するぜ」
頭を下げた に倣ってカイルも頭を下げた。
これは にとっては嬉しい誤算で、イオスにとっては面白くない事態である。
さり気にイオスも の隣を陣取ってカイルに負けじと優雅に一礼してみせた。

「改めてそんな事言わなくても……だって、お互い無視し続けるわけにもいかないし」
鳩が豆鉄砲を食らった顔で。
アルディラにしては珍しく弱い調子で、加えるならかなり照れてもいるようで言い訳じみた返答をする。

「放っては置けないだろう? 姫君をなぁ」
ヤッファは貫禄、ニィと笑って の頭へ腕を伸ばす。
その大きな手のひらで が苦心して整えた の髪をガシガシかき回し乱した。

「それから俺はもう一人にも『有難う』を言いたい。 に。 にも感謝してるぜ、俺の視野を広げてくれたんだ。本当に有難いと思ってる」
すかさずカイルは の手を握って熱い視線を送る。

白テコ姿のイオスが堪忍袋の尾を切らす前に、ヤッファがカイルの手の上に自分の手を重ねた。
アルディラにも促せば、アルディラもヤッファの手の上に自分の手を重ねる。

最後にアルディラの手の上に白テコ姿のイオスが乗っかれば手重ね出来上がり。

奇妙なメンバーによる青春ドラマの一ページの再現? が行われる。

「皆で心を合わせて頑張る、というか。全員が互いに感謝の気持ちを持ってるって事でチャラだ。褒めあいってのは体がこそばゆくなって敵わねぇ」
自身の行動をツッコまれる前に。
先手を打ってヤッファは行動理由を自ら明かした。

「主旨は分かるが、敢えてこうする必要があるのか?」
ヤッファの上手い処世術に気付かない には、ヤッファの行動が奇異に映る。
カイルも不思議そうに瞬きをしてヤッファを見遣るが、ヤッファは明言を避けた。

のニイちゃんに成敗されない為に必要な儀式なんだよ」
「理に適ってるわね。けど面白いわ、ヤッファが珍しく怠けないなんて」
「休日に血生臭い話はご免だぜ」
「そうね」
ヤッファの偽らざる本音にアルディラが愉快な気分になり、こっそり耳打ちする。

その返事としてヤッファも小さな声で言っていたのでカイルと の耳に二人の会話は届かなかった。
そうしてこうして。
話題転換したヤッファやアルディラ達と は楽しいひと時を過ごして心身ともにリフレッシュ。
食後のお昼寝オプションも効果あり。





「骨のある奴はいねーのかァ!!」
夕焼け小焼けのユクレス村。
夕日をバックに啖呵を切るカイルと「だから陸に上がるのは嫌なんじゃぁぁぁああああ」等々。
滂沱の涙を流し歯軋りするジャキーニの姿が数十分後には見受けられ。

普段より威力が高いアルディラの召喚術は何時もより派手で。
のらりくらり戦闘が売りのヤッファも今日ばかりはフバース族らしさを発揮。
野生の動きは鋭く力強かった。

「でも残念だわ〜、 と一緒に行っても楽しかったのねぇ。アルディラもヤッファも生き生きしてる。攻撃にキレもあったし」
残念そうにぼやくスカーレルは屍と化したジャキーニ一家の手下達を尻目に、顎に手を当てカイルの背中へ視線を送る。

スカーレルの視線に気づいたカイルが優越感から微笑めば、優しい毒蛇の異名を持つスカーレルの逆鱗数ミリ手前を刺激。
カイルへ笑顔で近づくスカーレルの手にはヒポタマの契約が結ばれた緑のサモナイト石。

「出てらっしゃい」
凍るような声音でスカーレルに呼び出されたタマヒポは、アッシドブレスをカイルへ吐き出し姿を消す。
毒に犯されたカイル、ぱったりその場に倒れた。
その後カイルは駆け寄ったアティとウィルに介護される。

「なーんとなく腹立つのよね、カイルの『俺の方が を理解してるぞ』ってあの顔」
ここ数日のカイルは特にそんな風。
最初なんかハリセンで叩かれて に怯えていたというのに。
自分の方が最初に彼女を認めて近づいたのに、何時の間にかカイルは を気にし始めている。

「まぁ、アタシが を気に入ってるのとはちょっと違うみたいだけど」
ジャキーニとカイルの呻き声、背に聞きながらスカーレルは一人締め括るのだった。



Created by DreamEditor                       次へ
 少々癒されたでしょうか? ヤッファさん。
 一応オウキーニのお弁当は毛抜け対策のバランスが取れたものです。
 で、スカーレルはやっぱり敵に回してはいけないというお話です(爆笑)ブラウザバックプリーズ