『話題休閑・砕けゆくもの1前2』



とフレイズ、ヴァルセルドが駆けつけた時には既に樹上の小道で戦闘が始まっていた。

シアリィを庇いながら戦う凛々しいオウキーニ。
オウキーニを助けて動く珍しいジャキーニ。
二人を追いかけていたアティ。
それから恐らく偶然ユクレス村に居合わせたであろうソノラとカイル。
乱入するのもタイミングが大切なので はフレイズと顔をあげ戦いの様子を見物中である。

「いやあああ」
そんな中、シアリィを攫おうとする無色の派閥兵が魔手を伸ばす。
身を捩って悲鳴を上げたシアリィの手前、オウキーニが仁王立ちして鋭い拳を派閥兵の鼻面へお見舞いした。

「うむ、絹を切り裂く悲鳴とはこの事を申すのだな」
落下してくる派閥兵を半身を背後に下げて避け、 は感心した風に呟く。
「きぬ、ですか?」
聞きなれない単語にフレイズが反応する。
「名も無き世界に伝わる布の一種だ。布を裂く音がうら若き乙女の悲鳴に例えられる」
は更に落下してくる派閥兵を横目に講釈した。
「はぁ……」
フレイズが の講釈に少々間抜けた相槌を返す。
樹上での戦いを気にしているのか、目線も少し泳いでいた。

「お前等!! 何悠長に喋くりあっとるんじゃ〜!!!!」
とフレイズのなんとも間延びした空気を嗅ぎ取ったジャキーニ。
樹上の小道から拳を振り上げ に文句を飛ばす。

ジャキーニの大声は無色の派閥兵達にも届き、新たな標的として とフレイズ、それからヴァルセルドが追加されてしまう。

「アタック、ヒット!」
ジャキーニの余計な一言に が額に青筋を浮かべ、ヴァルセルドへ目配せ。
命令を受け取ったヴァルセルドは銃口をジャキーニに向け撃った。
瞬きする間の早業にジャキーニの海賊帽が吹っ飛び背後の派閥兵を直撃する。

「わしを殺す気か〜!!!!!」
口から泡を吹く勢いで怒鳴り散らすジャキーニの顔は真っ赤である。
別の小道で銃を撃っていたソノラは乾いた笑みを漏らし、カイルはジャキーニを無視して戦いに専念。
極力ジャキーニの行動を追わないようにしている始末だ。

「死ななかったか」
対する はしれっとしたもので。
盛大に舌打ちまでしてみせ、これみよがしに息を吐き出す。
隣のフレイズは らしい悪戯に、ただただ曖昧に笑うだけ。

「召喚!!」
アティがオウキーニとシアリィに聖母プラーマを召喚し、傷を癒した。
下を見れば手で何かを合図する が居て隣ではフレイズもある方角を指差している。

方向を確かめたアティは顔を輝かせ とフレイズに手を振り返し背後のオウキーニとシアリィへ向き直った。
フレイズは気配を殺し木々の間を縫って上昇を始め、 はこちらに近づいてくる気配を待つ。
下で待機する は騒ぎを聞きつけてやってきた貧乏籤を引く名人、ヤッファとマルルゥを見遣りニヤリと笑う。

飛んで火にいるなんとやら、基、貴重な戦闘の助っ人である。

「無色が来たってのは」
「マルルゥ、実は我も最近協力召喚を嗜んでおってな? 汝と我ならかなりの威力になると踏んでおる。試してはみぬか?」
喋ろうとするヤッファの出鼻を挫き はマルルゥに話しかけた。
ヤッファの額に照準が合わせられた銃を握り締めて。

「アオハネさんとですか?? そうですね……マルルゥ、最近強くなってきた気がするんです! 試してみる価値はありそうですっ」
黙り込んだ(沈黙させられた)ヤッファを他所にマルルゥが小さな胸を張る。
「では参るぞ、マルルゥ」
「行くですよ〜」
緑のサモナイト石を取り出した と、殺る気(?)満々のマルルゥほど性質の悪いものは無い。
ヤッファは流れる動作で が己に向ける銃口の位置をずらし、自分はその場に座り込んだ。
どうやら戦闘において出番はなさそうだと見越して。

眩い光が とマルルゥから放たれ、普段はヤッファと行う協力召喚『ジュラフィム・聖獣の怒り』が発動。
元々魔力の能力に長ける とマルルゥが行う協力召喚、威力はフレイズとのを上回る。

縦横無尽に駆け巡るジュラフィムの魔力と便乗して、召喚術を空中から放つフレイズ。
途中正確に敵位置をセンサーで把握したヴァルセルドの銃弾と。
立て続けにジュラフィムを召喚(よ)ぶ とマルルゥ。
恐怖の召喚術攻撃地獄、阿鼻叫喚の絵図の出来上がり。

そんな中で沈黙を守り気絶してゆく派閥兵は天晴れとも言える。

とマルルゥの参戦で軍配はあっという間にアティ達へと上がった。


戦い終わって落ち着いて。
は樹上から降りてきたシアリィ達と合流してまったりした空気を、味わっている場合じゃない。
そもそもの原因であるオウキーニとシアリィの恋の行方に が決着をつけようとしていた。

「海の男が陸に柵を残したらあきまへんのや。だからシアリィはんとは。等と我等に言い訳してみろ? オウキーニ。我からどのような仕置きを受けるのか分っておろうな」
は完全に腰が引けて逃げの一手を打とうとするオウキーニの先手を取った。
「せ、せやかて」
凄む は怖い。
それ以上に思考を完全に読まれていて怖い。
オウキーニは弱々しい声音で反論を口にしようとするが。
のハリセンが振りかざされて口を貝の様に閉ざす。

「問答無用!! いい加減認めぬか。シアリィの気持ちは嬉しいのだろう? 察してやれぬ汝ではあるまい。ジャキーニ、汝もなんとか言ってやったらどうなのだ」
が次にオウキーニの上司であるジャキーニに話を振る。

「悔しいが の言う通りだ、オウキーニ! オウキーニの嫁さん候補は健気じゃ。わしも似合いだと思うぞ。種族の違いがなんぼのもんじゃ!! 乗り越えんか」
ヴァルセルドに撃ち抜かれ丸い穴の開いた、海賊帽子。
被りなおしてジャキーニが熱弁を振るう。

珍しくまともなジャキーニにカイルとソノラは兄妹揃って感嘆し、シアリィは驚きの視線を浴びせる。
狭まる一方のオウキーニ包囲網に突破口を開いたのは……。

「あの……お気持ちは大変嬉しいです。でもやっぱり、気持ちも一番大切だと思うんです。だからオウキーニさんを責めないで下さい」
意外にも当事者の片方であるシアリィだった。
「シアリィ、汝」
はシアリィの殊勝な態度に合わせ怪訝そうな顔を形作る。
表向きは。

「確かにオウキーニさんのお嫁さんになれたら、私はとっても嬉しいし。凄く幸せになれると思います。でも気持ちは強制するものじゃないですから。
オウキーニさんが悪いわけじゃないですし」
はにかみ困った顔で笑ってシアリィはオウキーニを擁護した。
「シアリィはん」
オウキーニも思わぬ援護射撃に目を丸くする。
てっきり常の態度で迫られるかと身構えていたオウキーニからすれば青天の霹靂だった。

「助けて頂いて有難う御座いました。ご迷惑もおかけしましたけど……。ここに居ても危ないし、そろそろ私は帰りますね」
羞恥に顔を紅くしてシアリィはすっかりこのまま帰る気持ちになっているらしい。
この騒動を巻き起こしたのは己の不注意からなので、当然といえば当然の反応である。

「シアリィはん、ほら」
シアリィの控えめな態度にオウキーニは厳しい顔をして、彼女に背中を向けてしゃがむ。
おんぶしようとする姿勢だ。

「え、でも」
徒歩で帰ろうとしていたシアリィは戸惑いうろたえる。

「ええから! また襲われんとも限らんし、うちが送っていきます」
オウキーニは毅然とした態度で言い切りシアリィをおぶった。
小麦色の頬を桃色に染めたシアリィの姿がなんとも初々しい印象を周囲に与える。

「ほな、失礼しますわ」
男前度をアップさせたオウキーニ、ペコリと に頭を下げてシアリィの家のある方角へ歩き出す。
オウキーニの歩調に合わせて揺れるシアリィの耳が。
二人の今後を暗示しているように見えた。


「矢張りな。押して駄目なら引いてみろ、か。先人はよき言葉を残す。ジャキーニも珍しく我の考えに協力的であったな」
二人が完全に消えてから が唇の端をクイっと持ち上げる。
「場合によるわい!!」
ジャキーニは照れ隠しに噛み付かんばかりの勢いで に食って掛かる。
それすらオウキーニとシアリィの醸し出したほのぼのオーラの前では色を失くすが。

「怖い恋のキューピットだな、ありゃぁ」
頭の髪を掻き毟りヤッファが悶える。
が優しいのは分っているヤッファだが、こういう を見るのは気持ちが悪いのだ。
むず痒くてしょうがない。

「そうでしょうか?  様の魂の輝きは益々満ちていますよ」
ヤッファの偽らざる本音にフレイズもまた、偽らざる本音で応じる。

「………そうかよ」

どいつもこいつも、尺度がイカれてやがる。

ヤッファは素っ気無い返事を返しながら、深々と。
そりゃぁ、山より高く海よりも深い。
魂のため息を吐き出したのだった。



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 シアリィが無色に襲われたのは偶然ですが、押して駄目なら引いて……は、ジャキーニ船長も公認です(笑)
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