『話題休閑・砕けゆくもの1前1』




無色の派閥到来で島を覆う閉塞感。
耐え切れない者も数名点在するが、島は概ね長閑な空気を保っている。
各集落から距離を置いた密林、何かが落下する音とロレイラル製の銃器の音が交互に響き渡った。

「アタック、ヒット」
冷静な掛け声と共に撃ち出される銃弾。
ヴァルセルドの一撃に無色の派閥兵が樹上から落下してきた。

ヴァルセルド自身は大地に仁王立ちし、フレイズと の回復援護と攻撃援護を受けつつヒットマンをこなしている。

「敵兵を追払ってばかりでもキリがないように思われますが?」
フレイズが加護の力でヴァルセルドのダメージを回復し、傍らの へ顔を向ける。

同じ羽を持ちながら色も形も違う。
魂の輝きから彼女が高貴な存在だとは分っても。
実際の を知るにつれ良い意味で己のイメージが壊されていく。

ファリエルとも良好な信頼関係を構築しなおせたフレイズ。
精神的にも落ち着きを取り戻していた。

表立ってアティ達と行動を共にするファリエルは、休息も兼ねて本日はお留守番である。

「無色にもこの島の正しい文献はなかった。即ち島の地形を把握されておらぬ、そう考えられるであろう? 憂さ晴らしも兼ねて暴れるのもまた一興だ」
はヴァルセルドが落とした無色の派閥兵をギョロメで石像へ変えながら、口元だけで笑った。
そこはかとなく漂うスッキリした の態度にフレイズは長めの前髪を払って笑い返す。
「アタック、ヒット」
ヴァルセルドもアズリアに『地獄だった』と謂わしめた、無限界廊経験者。

ガラクタ山でのヴァルセルドではない。
同行したバノッサのさり気ないサポートもあって高レベル・高攻撃力&防御力を手に入れた猛者である。
四つの世界と界の狭間の戦士達と戦い、様々な戦闘データを入手したヴァルセルド、向かうところ敵は無い。

「帝国との争いが終わり、その後息つく間もなく無色に襲撃されてますからね。血の気の多い者は苛立ちを募らせているでしょう。……あ、いえ、決して 様の」
「我の血の気が多いのは兄上譲りだ。それに向こうにも血の気が多いのがおるだろう。そ奴を炙り出したいのだが」

ヴァルセルドに物理的な攻撃を一任し、フレイズが天使の笑みを浮かべ言葉を発し。
余計な口を滑らせかかり焦って噤む。
はフレイズの意見を否定も肯定もせず本来の目的をフレイズへ告げた。

「女暗殺者ですか? まさか、首領のあの男ではないでしょうね!?」
の最近の行動を回想してフレイズが声を荒げる。

無色の派閥の面々は、何故か濁った魂の輝きを持っていて。
少しの間だったが見かけたフレイズは不愉快になったものだ。
この美しい輝きを持つ が、あの連中、特に濁った魂を持つ女暗殺者や首領に興味を持つなんて許容範囲外。
意識せずフレイズは に詰め寄った。

「安心しろ。我が炙り出したいのはあ奴、ウィゼルだ。ヴァルセルドに攻撃を許さず間合いを計っておるな。フレイズ、行くぞ」
が懐から紫のサモナイト石を取り出す。二人の視界にお目当て人物が映っていて、丁度ヴァルセルドと接触を果たしていた。
「お任せ下さい」
フレイズに合図すれば、フレイズが の魔力に自分の魔力を重ねあう。
俗に言う『協力召喚』で とフレイズはホーンテッド船長を召喚。
ホーンテッド船長はウィゼルをも巻き込んで魔力が込められた爆発を起した。

「これで戦力を削げると思っているのか?」
爆風が収まった の眼前。
大怪我を負っているにもかかわらず、ウィゼルは冷静を保ったまま へ問いかける。

彼の右腕は負傷していて使いモノにならない。
なのに辛うじて使える左手が刀の柄にかけられていて、 はウィゼルらしい立ち居姿に目を細めた。

「まさか! 我が望むは島の平和。汝等の命ではない」
はウィゼルの挑発をさらっと流した。
「酔狂だな」
の言葉に嘘が無いのを見て取り、ウィゼルは苦い笑いを以て感想を述べる。

「汝もだろう? ウィゼルよ。オルドレイクの何を汝は欲しておる? 汝ほどの剣の手練があ奴に同行しておるのだ、理由(わけ)があろう」
物静かな剣匠に回りくどい言葉は要らない。
は単刀直入に疑問をウィゼルへぶつけた。

未来の彼が後悔していたにもかかわらず、どうしてオルドレイクの元へ身を寄せていたのか。
当時のウィゼルから直接話を聞きたいと は願っていた。
無色の派閥、オルドレイクの関係者が茶番劇の舞台に出てきた直後から。

「………オルドレイク=セルボルト。狂気に満ちたあの男の気質を剣に込められたなら、一体どんな剣が出来上がるだろう? わしの興味は尽きん」
ウィゼルは数秒の逡巡の後、答を口にする。

「ふむ。頭の螺子が沢山飛び散ったであろう、オルドレイクを体現する剣とな。また物好きな命題に取り掛かるものだ……汝は。
剣を作成する過程でオルドレイクの傍らに立つか。ならばそれも良いだろう、汝の選択の一つだ」
が最初に出会ったウィゼルとは違う、在りし日のウィゼル。

瞳に宿る剣匠としての野心が彼の若さを物語る。
武器の作り手としての己を模索するウィゼルの道は、ウィゼル自身にしか決めれないもの。
は改めてウィゼルと正面切って向き合い痛感した。

「………」
ウィゼルは不思議な少女の人を喰ったような物言いに気分も悪くならず。
それが逆に気味が悪く感じられて黙り込んだ。

高飛車で実力を鼻にかけた愚者なら何人も見てきたウィゼルである。
少女もその様な愚者の一人かと思いきや、何かが違う。
決定的に違う何かをウィゼルは判断しかねていた。

 若きウィゼル、汝の音はまた面白い。
 道を極めんと欲する者だけが放つ強欲な音が聞こえておる。
 剣匠の道を極めた汝が見た景色はきっと……。

はウィゼルの未来について考え即座に考えを断ち切った。
想い馳せようともウィゼルの選んだ道は が曲げて良いものではない。
ならば黙って見過ごすだけ。

「武器の音が聞えぬ汝に用はない。せいぜいその腕磨くのだぞ? それから島を自由にしたいのなら我等を倒してからにしてはくれぬか?
一々小競り合いを繰り返すのは効率が悪すぎる」
ウィゼルの沈黙を意に介さず。
はウィゼル一人を誘き出した本来の目的を持ち出した。

小競り合いを重ねても時間の無駄である。
どちらかに負傷者が出て怪我を癒して戦って。
これを続けていけば、紅の暴君を手にしたオルドレイクが暴挙に出ないとも限らない。

遺跡を復活されようモノならアウトだ。
彼等は寸断されたハイネルの精神の凶暴性を知らない。
最悪島の滅亡を促すだけになってしまうかもしれないからだ。
ならばその前にオルドレイク達と決着をつけるのが賢明である。
この面子の中で一番マトモなウィゼルに は掛け合ってみることにしたのだ。

「伝えてみるが、相手はオルドレイクだ。保障はせん」
内心では仰天しているだろうに、顔色一つ変えないウィゼル。
は表情を一瞬だけ緩めて踵を返した。

石化した無色の派閥兵に囲まれたウィゼル一人を残し、フレイズ・ヴァルセルドを伴い帰路に着く。




「「「姐さん!!! 大変でさ!!」」」
運動後の休憩を取るべくユクレス村へ方向転換し、数メートル歩いたところで は野太い声音に捉まる。
ユクレス村の警護を任せられているジャキーニ一家の子分達が、息を切らしてこちらへ駆けてくるではないか。
珍しい光景にフレイズが思わず一歩後退した。

「どうしたのだ、汝等」
ジャキーニの子分達に『姐さん』と呼ばれて は立ち止まる。
同じユクレス村に暮らす仲間同士で尚且つ、オウキーニが の仲間でもあるので、それなりにジャキーニの子分とは仲が良い。
「へい! 無色の奴等がこっちに来たんです。丁度シアリィさんが自宅へ戻る方角で、副船長に会いに来たシアリィさんを途中まで見送ったんですよ、あっし等が」
険しい顔の子分Aが重々しい口調でこう切り出した。

「なんとユクレスの外れに無色が!? それで? シアリィは無事なのか?」

今朝出掛けに『オウキーニさんと料理を作るのv』なんて。
ハートマークを沢山浮かべたシアリィが 達の家に寄ってお裾分けの果物を置いていった。
相変わらずシアリィは熱心だと感心したのがつい数時間前。
彼女の顔に死相はなかったし特に危険な気配も感じなかったけれど。

スカーレルとヤードの件もある。

「それで船長と副船長がシアリィさんを保護しに。居合わせたアティ先生も一緒です」
生真面目な顔をした子分Bが の疑問に答える。
「あっし等は狼煙台へ向かう最中なんで! 姐さんも助太刀、御願いします。それじゃ失礼しやす」
ユクレス村は広い。村に設置した狼煙台への近道は村を一端出て迂回した方が早い場合もある。
子分Cは狼煙台へ向かうA・Bを追いかけて茂みの中へ消えた。

「ウィゼルへ言伝を頼んだばかりなのに、これか」
裏工作が徒労に終わりそうだ。
は心底うんざりした口調でぼやく。

「仕方ありませんよ、 様」
張り巡らせた策が常に上手く運ぶとは限らない。
フレイズは考え、落胆の色濃い の頭を撫でて慰める。

一人で器用になんでもこなす の姿からは想像もつかないが。
は頭を撫でられたり手を繋いだり、といったスキンシップを好むのだ。

「せんさーニ反応アリ」
いじける を慰めるフレイズの手前、センサーで戦闘反応を探っていたヴァルセルド一人が。
やけに冷静に方角を指し示すのだった。



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