『話題休閑・彼が願ったこと1前1』
アティは大きく息を吸い込んで吐き出して。
にっこり微笑んで全員を見渡した。
全員、というのは に協力していた仲間達、オウキーニ・シアリィ・ゲンジ・クノン・ヴァルセルド・ファリエル・フレイズ……それから何故か、カイル。
当たり前だが とバノッサ、それから白テコ姿のイオスも居る。
果てしなき蒼を手にいれ無色に決定打を与えてから早二日。
落ち着きを取り戻しつつある島の空気に後押ししてもらい。
アティは今度こそ『対話』をしようと彼等を招いたのだった。
青空教室を借りたアティの打ち明け話。
黒板にも『アティの告白』なんて題が書き込まれている。
「本当は凄い事じゃないんです。アズリアも言ってたでしょうけど」
青空教室での講習会。
なんだか初めて青空教室を開いたときの緊張感に似ている。
アティは上擦る声を騙し騙し第一声を放った。
「私の両親は私の目の前で殺されました。血塗れの両親の傷を手で押さえるしか出来なくて。力が無くて、子供で。
そのショックから私は心を閉ざし、村に帰っても家で一人引き篭もっていたんです。怖くて苦しくて」
それも今となってはアティの心の中、懐かしきセピア色の向こうに沈む風景。
アティは穏やかに話し始める。
「そんな私を見捨てず、村の人達は家族代わりに私を励ましてくれたんです。殻を作って篭っていた私に何度も話しかけてくれました」
ここまで語ってアティは水差しからコップへ水を注ぎ喉を潤す。
「先生……大変だったんですね……」
シアリィが目尻に涙を薄っすら浮かべ指先で拭う。
ウルウルするシアリィに注がれるのはオウキーニの柔らかい眼差しだ。
「でも代わりに、互いを理解しあう事の大切さを学びました。言葉にしなければ相手を想う気持ちが伝わらない事もあるんだって。
村の人達の言葉で私は救われた……だから、です。私は島の皆さんともカイル達とも。沢山喋って分かり合いたいって願ったんです」
心の中だけに秘めておいた過去。
同情されるから嫌だったのか。
それとも。
本当の意味で自分の中では過去になっていなかったのかもしれない。
改めて現在の自分と関わりある人々に告白してからアティは気付かされる。
「結局、私一人が無理してニコニコしてただけで。
とも誤解しあっちゃったままだったんで……。なんとも言えないんですけど」
アティの名指しに は頬を膨らませ首を左右に振る。
明らかに剥れた に笑いを堪えるアティと、全員。
バノッサだけは兄としての気遣いか、無表情を保っていた。
「そうじゃな。以心伝心なぞ、ヒヨッコには十年早いな」
タイミングよくゲンジに痛い部分を突かれて、アティは首を竦めて心底困った顔で笑う。
常のアティではない。
いや、これが本来のアティなのだ。
困った時には困った顔をする。とても大切だ。
「やっと答を見つけました。例え損をしても私は護りたい人達の為に剣を振るいます。碧の賢帝は消えてしまったけれど……」
「形ある物は何れ朽ち果てるのがセオリーです、アティ様」
クノンが絶妙なタイミングでアティをフォローする。
初期のクノンからは考えられない肌理(きめ)細やかな配慮である。
「ええ、クノンの言う通りだって思いました。碧の賢帝はあくまでも道具だったんです。皆を護る為の。私の力の具現した形じゃなかったんです」
アティはクノンの言葉を受け自分の反省すべき点を言う。
『そう。先生が強いのは碧の賢帝があったからじゃない。先生自身の願いが、心が強かったからだわ。
普段から忘れていたわけじゃないのに……戦闘の度に先生を頼ってたんだもん。駄目ね』
ファリエルは己の頬に片手を当てホーッと息を吐き出した。
頼りがいのあるアティと に頼りきっていた自分を反省しながら。
「なまじ強い心を持つから誰もがアティを頼ってしまったのだ、無意識にな。時にはアティの好きな対話で気弱を見せるのだぞ? せめてウィルには」
先程の意趣返しとばかり
が意地悪くツッコむものの……。
「ウィルには見せますよ?」
ケロッとした顔で言ったアティに場が静まる。
顔を真っ赤にして逆に照れるファリエルと呆れた風に笑うフレイズ。
小首を傾げるクノンとヴァルセルドに。
開き直ったアティに安堵する 。
バノッサとイオスとカイルは嘆息していた。
「……ま、負けませんよ!! 先生」
惚気自慢ならわたし達が先なの!!
謂わんばかりの反応を示し、シアリィが人目を憚らずオウキーニへ抱きついた。
「シ、シアリィはん!?」
抱きつかれてギョッとするオウキーニの声は悲鳴混じり。
上擦った声で叫ぶオウキーニに周囲からは失笑が漏れる。
「がはははははは!! 若いのう」
一番ツボに入っているのはゲンジだ。
大きく口を開き豪快に笑い始める。
島での教え子、アティの取り戻した元気と。
昔ゲンジが生活基盤を置いていた地球の神様が取り戻した笑顔。
どちらも見ていて嬉しい事この上ない。
ゲンジは思うまま笑った。
「うむ。奇をてらったつもりはないが、我の恋のキューピットもあながち間違ってはおらなかったようだ」
自分の事は蚊帳の外か。
一人妙に満足げに腕組みして微笑む
。
『そうだな』
兄としての責任か。
他の誰かが に意見する時間を与えず即座にバノッサが相槌を打ち、幸せそうな
の肩をそっと抱き寄せる。
「……ミャァ」
というより自分へ向けられた恋心はどうしたら受け入れられるのか。
壁(バノッサ及び兄姉ズ)の力が強いからなのか。
イオスは落胆して耳を垂れつつ『
もね』なんて鳴き声だけで付け加える。
「俺はどっちかってーとイオスの考えに賛成かな」
同じ気持ちを抱える同士? カイルも渋い顔して重々しい口調でぼやく。
不思議とイオスの気持ちが分ってしまう自分が恨めしい。
自分の爆弾発言に驚く仲間に含み笑いを漏らしていたアティは咳払い。
緩やかになった空気を引き締める。
「だから果てしなき蒼を掴んだ事を後悔していません。戦いを止めるために振るうのが力しかないのは残念ですが、この期に及んで綺麗事は言いません。
私は私の理由を以て戦うだけです…… 、だから
も無理しないで下さいね?」
アティは取り戻した本当の笑顔を へ向けた。
ウィルの支えがあるからなのか、アティの表情からは憂いが消えている。
しっかり
に注意できるまでになって成長の程が窺える発言だ。
「無理はせぬ。約束する」
アティから聞える音は心地良い。
既に が干渉すべき心の問題はないだろう。
確信して はアティと約束した。
の返事にアティは目尻を下げうんうんと満足げに頷く。
「あ、それから。バノッサさんもイオスさんも無理しないでくださいね。
に悲しまれたら今度は私でも慰められませんから」
爽やかな笑顔でアティはさり気に の保護者にまで注意を促す。
バノッサは肩を竦めて返事をし。
「ミャッ」
イオスは帝国式の敬礼を返して返答とした。
凡そ、そんな流れでアティ達は改めて互いの絆というモノを結び。
確認しあっていたのだった。
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