『自分の居場所4』




不可思議な姿になったアティと、黒髪の凛々しい顔立ち、帝国軍人服を身に纏った女性が対峙。
崖近くの岩場、剥き出しになった何かの骨が不気味さを醸し出す。

「そうかアティ、貴様がその剣を持っていたのだな!! どこまでも邪魔をする」
忌々し気に呟く女性。
彼女の背後を巨漢の男と刺青の青年が固めている。

「ち、違うんですアズリア!! 私は……」
碧色の輝きを放つ『碧の賢帝』を手にしたアティは懸命に女性の誤解? を解こうと試みるが剣もほろろ。
女性に一刀両断され項垂れた。

「あら〜、遅かったじゃない 。どこ行ってたの?」
最後尾でアティと、女性の遣り取りを傍観していたメイメイは の肩へ手を置く。

「うむ、我の為の、島の為に動く精鋭を集めにな。暗躍は我の得意分野なのだ」
アティの姿を食い入るように見つめるアルディラ。
そんなアルディラを不安そうに見詰めるファルゼン(外見が鎧なので誰にもそうは思われていない)
護人二人の様子を観察して は声を潜めメイメイへ応じた。

「ふぅ〜ん? 暗躍、しちゃうんだ?」
唇だけで笑みを形作りメイメイは底が知れない神様に探りを入れる。

「その方が沢山酒が飲めるぞ、メイメイ」

にとってメイメイの探りはノーダメージ。
痛くも痒くもない。

疑問には答えない の台詞にメイメイは考えるフリをした。

答えなど最初から決まっているのに。

「さて先ずは情報収集がRPGの王道だな。一体何がどうなったのだ? スカーレル」
腕組みする店主は無視。

は呆然と立ち尽くすアティと、アティにしがみつき泣きじゃくるベルフラウとウィルの背後を通り抜け。
が来た道とは逆側に立つスカーレルの隣へ並んだ。

「それがねぇ、先生ったら無茶しちゃって! ベルフラウとウィルが帝国の人質になったの。あの刺青の男・ビジュのせいでね。
で、ビジュは先生に子供達の命が惜しければ武器を捨てて、身代わりになって死ねと云ったのよ〜!!!」
些かオーバーな手振り身振りを付け加え、スカーレルが にこれまでの話を聞かせる。

「危うく先生死にかけたんだけど、あの子達護衛召喚獣で帝国の包囲網をなんとか脱したの。アタシ達の援護も間に合って今回は事なきを得たわ。
でも先生の自己犠牲的思考はマズイわよね〜」

スカーレルは人差し指と中指の間に挟んだ、首に巻きつけた毛の飾りを抓み左右に振った。

口調は軽くてもスカーレルの認識能力は も一目置いている。

スカーレルだからこそココまで軽く語れたのであって、他の面子に話を聞いたならまた違った話が聞けるだろう。
は茜色に染まる空を見上げ最後に大欠伸を洩らした。




疲れた様子の とウィルを考慮してカイルが海賊船へ二人を招待してくれた。

カイルなりの精一杯の配慮。

ベルフラウとウィルの壁が薄くなっている今だから、姉弟の間をもっと親密にさせてやりたいのだろう。
も取り立てて反対する要素が無いので、お言葉に甘えてカイルの船に一晩厄介になることにする。
召喚獣のプニムを使いに出しヤッファにその旨伝えカイルの船へ向かう。
アティはベルフラウ、ウィルと片手ずつ繋いで嬉しそうに始終ニコニコ。

余談だがメイメイは店番があるからと早々に引き上げていた。

 これで一つハードルはクリアだな。
 ベルフラウとウィルの存在があれば、アティも早々自分を粗末に扱うまい。
 気になるのは、あのアズリアという猛者の存在だ。
 アティと顔見知りであったようだな。

帝国軍というのは凛々しい性格が無ければやっていけないのか?
なんてボケた事を考えつつ、 はアズリアを筆頭とする帝国兵達を思い浮かべる。

 巨漢の男は問題ない。
 典型的軍人だ。
 音も多少は乱れておるが、慣れない島の生活にストレスを感じておるだけだろう。
 アズリア自身も表向きはまだ大丈夫。
 軍人として己を厳しく律する事に手馴れておる。

 問題は……刺青の男、ビジュ。

完全悪人面。
敵にしては天晴れなほど卑劣な手段を平然と取る男。

軍に綺麗事を持ち込む方が愚の極みなので、ビジュがとった行動はまっとうとも云える。
自軍が勝利する確立を挙げるために布石を打つ。
人質作戦は功を奏さなかったものの、彼だけが悪いわけではない。
アズリアもそこが分かっていたからこそビジュを非難はしていなかった。

 ここまでは良くあるパターンだがまたか。
 死相が浮かんでおる。
 確実にこの島で死ぬと。
 帝国軍全員に死相が出ておるわけではないが……。
 帝国が第三の勢力に潰されるのは大方想像がつく。
 だとしたら引き抜くか。

既存のリィンバウムの枠に囚われない。
これが、今回の戦いにおける最大の勝因に繋がると は確信している。

宿命だとか運命だとか、正義だとか悪だとか詭弁は要らない。
自分が生き残って幸せになりたいか、否か。
ただそれだけが島の運命(歴史)を変える。

封印の剣が、持ち主にアティを選んだ時点で少なくともそう考えられるのだ。

 その点で人選すれば、あ奴ほど条件に当て嵌まる人材もおるまい。
 カイルの船でアティにアズリアとの事を聞いたら早速行動開始だ。

空の端から競りあがる夜。
深い紺色が茜色の空を侵食し、その身を徐々に広げ闇が生まれる。

闇を払拭しようと競りあがる月と、瞬く星々。

木々を通り抜ける風は多少の湿度を孕んでいたが、日本生活が長い には不快ではなく。

ある種、郷愁めいた感情さえ呼び起こしてしまう厄介な微風である。

船に到着した時には夜になってしまっていて夕飯の支度も遅くなった。

けれど今日起きた出来事は確実にベルフラウとウィルの心を開かせていて、とても和やかな夕飯の風景がカイル一家の海賊船では見受けられた。

潮風に髪を揺らす は何時見ても神秘的にして不可侵的イメージを受ける。
こうして面と向き合うと何故かアティは照れてしまっていた。

「あの女性ながらに凛々しい指揮官、汝の知り合いか?」

 ザザーン。

船体に叩きつけられる波の音だけがバックミュージック。
一人挙動不審なアティに目を細め、見なかった事にして は本来の話題を持ち出す。

「はい。彼女はアズリア、アズリア=レヴィノス。帝国では名の知れた家系で、優秀な軍人を輩出するレヴィノス家の跡取りです。
今は海軍の部隊の隊長をしていると言っていました」
目を左右に泳がせていたアティは背筋を伸ばし、丁寧に へ説明した。

が出身を聖王国と云っていたので、帝国の世情には疎いだろうというアティの判断である。

「ほう? 隊長か。してアティとはどのような繋がりだ? 同じ隊におったのか?」
は小首を傾げアティの顔色を窺う。

アズリアは、ベルフラウやウィルのように良家の子女といった雰囲気を持っていた。
スラム育ちの自分達にはない、上品な空気だ。
(恐らく のこの意見を聞いたら、サイジェント&ゼラムの面々は揃って首を横に振るだろう。上流階級と神の威厳を同次元で比べるなともツッコむだろう)

素性を聞けば彼女は名門の出。

は自分の見立てが正しかったと感じる。

「いいえ、違います。同期だったんです、軍学校の。入試試験でわたしがトップでアズリアは二番でした。
レヴィノス家出身の彼女としては負けられなかったのかもしれません。事ある毎に勝負だと云われて……でも、人を思い遣る気持ちを持った優しい人です」

アティは極力アズリアが悪印象を抱かれないよう、言葉を選んで発言する。

そんな一生懸命なアティの様子を横目に は天井を彩る星に一瞬だけ視線を向けた。

 大切な学友、だったのか。
 アズリアという存在が軍学校で暮らすアティの支えとなっていたのかもしれぬな。
 元々が人懐こいアティの事だ。
 本当はアズリアともっと仲良くしたかったのかもしれん。
 この辺りはトリスにそっくりだ、アティは。
 トリスも育ったら将来アティのようなボケボケに育ちそうだがな。

自分は度外視して考える だって十二分にボケボケだ。

しかしアティに の考えが読める訳も無く、アティは にアズリアを理解して貰おうと話を続ける。

「実はアズリアには弟さんが居るんですけど、とても身体が弱いんだそうです。跡取りとして認められるような状態では無い。軍人になるというのも無理で……。
それでアズリアは軍人への道を選んだんです。アズリアは弟さんの為に自分が優秀な軍人になって、出世すれば良いと考えてます。口癖のように言ってましたから、アズリアは」

懐かしい思い出が去来し、アティは無意識に微笑む。

何かにつけアティに突っかかってきたアズリア。
でも基本的に彼女は己を弁えていたし、無茶苦茶な因縁はつけてこなかった。
軍を退役するあの時までは。

「アティもアズリアも優しすぎるのだな。他人の為に軍人を目指し、他人の為に全てを捨てようとする。殊勝な心がけだとは感じるが感心はせぬ」
「え?」
急に険を湛えた の鋭い視線に貫かれ、アティは間抜けな返答を返す。

「我はアティの友だ。友がおめおめ自己犠牲をして我を助けてくれたと、そのような事があって、果たして残された我は幸せになれるのだろうか?
汝を忘れて呑気に笑っていられるほど我は図太くは無いぞ」

暗に今日の戦いを踏まえて釘を刺す に、たちまち青ざめるアティ。

「ご……、御免なさい、 さん」
身体を縮ませて謝るアティに は表情を和らげる。

恐らくあの時はアティもベルフラウとウィルを助けたくて必死で。
何も考えず、ただただ、二人の事を考えたから自分が疎かになっただけ。
常に自分を犠牲にする程アティも愚かではない……と信じたい である。

対象がアティだけに断言できないのが痛いところだ。

「同じ事がアズリアにも当て嵌まる。弟を大事にする余り、逆に弟を傷つけておらぬと良いがな。こればかりはどうにも出来ぬ」

イオス・アズリア・アティ。
性格も考えも違うのに、一途で思い込みが激しくて誰よりも真っ直ぐすぎる。

帝国の軍人採用基準に疑問を抱きつつ、 はアティへさり気なさを装ってこう零したのだった。



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 さり気なく情報収集に走る主人公。アティは一人で大照……だけど、ボケボケレベルは一緒の二人。
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