『話題休閑・自分の居場所2後3』




フレイズ事件の後、 はアティ達と別れメイメイと共に店に戻る。

パナシェは の頼み通りウィルと一緒に店番をして待っていた。

パナシェに礼を述べ、軽い混乱に陥っているウィルを伴い先ずはユクレスへ戻る。

フレイズの事件があったり色々で段取りが狂ってしまった。
それにウィルが結論を出せるまでもう暫く時間が掛かるだろう。

こう が判断したからである。



その夜遅くフレイズとファリエルが の家にやって来た。
『ごめんなさい、どうしてもこの姿で来たかったから』
結界を張った に対してファリエルが謝罪する。

「いや構わぬ。だが二人が不在で大丈夫なのか?」
二人にハーブティを振舞いながら は狭間の領域の現状を憂う。
護人と副官不在の狭間の領域の安全を危惧して。

「ええ、大丈夫です」
の少ない言葉から意味を理解したフレイズがすかさず答える。

目線だけで がファリエルに訪問の目的を尋ねると、ファリエルは眉根を寄せた顔で をジッと見詰めた。

『どうしても……忠告、したくて。わたしの思い過ごしなら、わたしの勝手な被害妄想ならそれで良いの。でも心配で不安で』

明らかになっていく の実力と性格。
比例して重なっていく在りし日の兄と

姿形も力も違うけれど似ている魂の輝き。

胸騒ぎを覚え、ファリエルはある事実を確かめようとフレイズを伴って に会いに来たのだ。
心を落ち着けようと深呼吸を繰り返してからファリエルは乾いた感じのする唇を動かす。

は名も無き世界の、何? わたしはサプレスの護人をしていて、フレイズは副官で天使よ。 の魔力の性質を誰よりも的確に捉えていると考えているわ』
震えるか細いファリエルの声音だけが小屋に響く。

小屋の外では南国の気候に相応しい鳥や虫が大合唱をしていた。

神々しい の魔力・強靭な精神力。
考慮すれば兄を上回る適格者となる。
がタダの人間ではない以上、確かめておかなければならない。
悲劇を繰り返さないために。

「貴女の魔力はどちらかというと、サプレスの天使、いえ神に非常に近いのです。神といっても召喚師が契約できるレベルを遥かに越えた存在です。
わたしとファリエル様の見立ては間違っていますか?  様」
フレイズも静かに喋り始めた。

ファリエルの不安は、生前の彼女の護衛召喚獣だった己が一番良く理解している。

「事情をある程度話すのは吝かではない。だが、見返りとして汝等にも共謀を担いでもらわねばならぬ。それは我の本意ではないのだが……」

ファリエルとフレイズが『まっとう』だとは理解できる。
それでもハヤトとトウヤの安全を考えると極力不確定要素を弾いておきたいと は願っていた。
この二人がハイネルとどのような関係にあるかも謎なのだから。

『ここまで乗り込んで良い子ぶるってのはらしくねぇな、

躊躇う の胸元の何か。
紫色の輝きを発して表れるのは一人の青年。
とは真逆。
禍々しい空気を身に着けた人間なのに人間以外の気配も併せ持つ黒髪のバノッサである。

初対面だったフレイズは咄嗟に背中の羽を広げ、バノッサを威嚇した。
天使としての本能がバノッサに対して拒絶反応を起こしたのである。

「兄上」

 むぅ。

頬を膨らませる と、その頬を手でそっと撫でて微笑むバノッサ。

フレイズの威嚇行動をきれいすっぱり無視した とバノッサに、ファリエルはフレイズに悪いなぁと頭の片隅で考えながらも笑い出す。

種族は違っても固い絆で結ばれたこの兄妹。
フレイズが気にする事などこれっぽっちもない。

『遅かれ早かれ、こいつ等もお前の暴走に巻き込むんだ。ちょっと早いか遅いかの差だろう? ハヤトとトウヤを心配するなとは言わねぇよ.
ただな? 下手な護りに入るなんて馬鹿な真似はするな。勘違いもするな、最終的な敵はあいつ等だ』

親の敵のように己を睨むフレイズは無視。
バノッサは だけを真っ直ぐ見詰めて諭せば、 は情けない顔になってバノッサへ抱きついた。
ぐりぐり顔を押し付けバノッサへ甘える を見たフレイズは固まり、ファリエルはやれやれと頭(かぶり)を振る。

『フレイズ、誤解しないでね?  と、 のお兄さんは誰よりも深い絆で結ばれている兄妹なの。確かに のお兄さんはちょっと悪魔チックだけど』

高圧的でもないのにバノッサの雰囲気は威圧感たっぷり。
ファリエルも本当は少しだけバノッサを怖いと感じていた。

フレイズに慌てて説明したファリエルへ視線を向け、バノッサは直ぐに のつむじへ目線を落とす。

『俺へ憑依した召喚獣、主にサプレスの悪魔だな、の魔力と能力を奪える特異体質だからだ。普段は面倒を避けて魔力が低い戦士系の戦い方をする。
一見すると召喚師としては無能に見えてな。だから母親と共に捨てられた……実の父親から。今となっちゃ笑い話だ』

バノッサの決して自嘲的に感じられない淡々とした喋り口。

表情も過去の事実だけを語るもので感慨なども含まれない、潔い語り方だ。
バノッサの告白にファリエルとフレイズは口元に手を当てて悲鳴を堪える。
そんな能力を保持していてこの雰囲気、だとしたら?

『中程度の魔王と、喧嘩売ってきた何体かの大魔王の能力を保持している。俺に戦うつもりがなくても、この御転婆が無駄にトラブルの種を拾ってくるからな』

クツクツ喉奥で笑うバノッサと、ギューッとバノッサにしがみ付く腕に力を込める

その事件を思い出して笑っている兄と、己の恥部を曝したくない妹。
仲睦まじい二人にファリエルとフレイズは意識せず大きく息を吐き出していた。

「普通なら魔王の魔力に中てられて正気を失って身体を乗っ取られますが……。貴方は何処から見ても自我を失っていないようです」

『逆に魔王達の力をちゃんと制御できてるもの! 凄いわ』

世界は広い。
自分達の素性もぶっ飛んでいたけれど、眼前の兄妹もぶっ飛びすぎだ。
勝負していたわけではないけれど、負けた気がする。

ファリエルとフレイズ、揃って心持ち肩落とす。

『話を聞く、聞かないは手前ぇ等の自由だ。だが の素性を聞いたらもう後戻りは出来ないぜ。
最初に断っておくが俺達の目的はある集団の悪事を食い止めることだ。この島のものには興味がない、誓って』

片手で を抱きとめ、バノッサは空いた片手を己の心臓の上に置く。

選択を迫られたファリエルとフレイズ、真摯な顔つきのバノッサを数分間たっぷり眺めて頷いた。

どの道一回は駄目にした人生、この兄妹が自分達と同じ轍を踏まないとは限らない。
ならば出来るだけ彼等の力になるべきだ。
諮らずとも同じ事を考えるファリエルとフレイズ。
覚悟を決めた二人の瞳に宿る強い光、バノッサは眺めて薄く笑う。

は名も無き世界の結界を護る神だ。名も無き世界からリィンバウムへ事故で召喚された二人の青年に付き合ってこの世界に来た。
それが俺達の時間軸で約四年前。
青年二人は魔王召喚儀式の失敗から召喚された、その身にサプレスのエルゴの力を宿してな』

本来は赤いバノッサの瞳。
現在は漆黒色のソレが理知的な光を宿し、過去を、この島においては未来を語り出す。

『俺は青年と を保護したスラムの奴等と敵対する集団の頭をしていた。自然とこいつ等と小競り合いを繰り広げたりもした。
当時の俺は自分の特殊体質を知らなかったからな。ぽっと出の“はぐれ”が知識も無しに召喚術を操るのが癪に障ってたんだ』

バノッサの心は自身も驚く位凪いでいる。
当時は闇雲に全てを恨んでいた自分が酷く子供に感じられて可笑しくも感じていた。

『俺も、“はぐれ”も、“はぐれを誤って召喚した奴”も。全てがある人物に踊らされていた。俺と“はぐれを召喚した奴等”の父親に。
あいつは自分の子供を器として魔王を召喚しようと試み、”はぐれ”を誤って呼び出した。
知らずにリィンバウムで暮らす“はぐれ”達はさまざまな事件を通して成長し、事件の黒幕、父親の予想を裏切った。
だから父親は何も知らない俺を利用し、魔王を召喚しようとした』

怯えて震える
バノッサは を抱きとめる片腕に力を込め、もう気にしていないと伝える。

全てバノッサの中では過ぎ去った過去で、頭には単純な事実が残っているだけ。

『その過程で“はぐれ”達は身に取り込んだサプレスのエルゴと、神である の助力を得てリィンバウムのエルゴと接触。
誓約者たる資質を得る。暴走した俺と俺の父親の野望を食い止めるために』

感情の篭らないバノッサの説明口調。
聞き手二人は大人しくバノッサの話を拝聴する。

『野望は食い止められ、その際召喚された魔王の力を俺は取り込み特殊体質を悟る。“はぐれ”二人は誓約者になり、俺には弟と妹が出来た。
父親は死に、全てはある程度平和的に解決、した筈だったんだがな?
ハイネルという奴が に助けを求めに来た。この島で起こる争いが誓約者に良くねぇ影響を及ぼし、二人の命を危機に曝すと』
から聞いた話だが、今の にそれを説明する余裕がない。

なんだかんだ言ってオニイチャン、オネエチャン子の が、ハヤトとトウヤの状態を案じてないわけがない。
バノッサは分かっているからこそ敢えて語り部を引き受けたのだ。

『兄さんが…… に助けを……』
バノッサの話を呆然として聞いていたファリエルは、堪えきれずに言葉を零して目尻に涙を溜める。
涙ぐむファリエルを眺めバノッサは尚も喋り続けた。

『これから、島で起きる争いを平和的に解決できなければ。誓約者二人が死ぬ。俺と はそれを防ぐ為にこの島に居る。完全にこっちだけの都合だ』

『構いません。ハイネルは………彼は、わたしの実の兄です。わたしは兄の妹として……いいえ、サプレスの護人として事件を解決する責務を担っています』

正直、ファリエルはバノッサがココまで語るとは考えもしなかった。

それは逆に自分達をバノッサの計画に引き込む為の罠だとも理解している。
でも、聞いてしまった事を後悔はしない。
この段階で 達の目的を知っておけるのは、どう考えても幸運、だから。

『兄から概要は聞いているかもしれません。でも、妹のわたしから見たあの事件を話させてください。他の護人がどうして護人になったかも、説明させて下さい』
ファリエルが身を乗り出してバノッサと を見詰める。
フレイズは止めない。

バノッサは雰囲気を裏切り、出来た性格を持つ青年らしい。
何より が無条件で受け入れている存在だ。

 島を揺るがす事件。
 不思議と何れはこうなる気がしていたのも事実。
 ファリエル様が傷つかなければ良いと、利己的に考えていましたが。
 杞憂でしたね。

語り出すファリエルの横顔を見下ろし、フレイズはしみじみと思ったのだった。



Created by DreamEditor                       次へ
 フレイズとファリエルって異種族兄妹みたいにしか見えないんですけど、私だけでしょうか??
 ブラウザバックプリーズ