『話題休閑・自分の居場所2後1』
スカーレルとのお茶の後、三々五々と散ってそれぞれの日常へ戻っていくアティ達。
は一先ずウィルを伴ってメイメイの店を訪れていた。
「にゃははははは♪ 嬉しい差し入れねぇ〜」
の差し出したユクレス村特製果実酒。
酒瓶を抱えてメイメイは上機嫌で とウィルを出迎える。
余りの酒臭さに倒れかけるウィルだが己のプライドに駆けてこちら側へ踏み止まる根性をみせていた。
「受け取った以上、あの時申しておった例の場所の確保が出来たのだろうな? メイメイ、勿論汝も同行するのだぞ」
動ける範囲で四方へ手を回す の策士振りはここでも健在。
の頭上のイオスはウィルを見遣ってメイメイを見遣って耳を垂れた。
マルルゥの案内で店に入った 。
時間の流れが過去だとハイネルに教わっていたので、メイメイが自分を知らない事には驚かなかった。
ただ、未来のメイメイが仕込んだ過去の自分への手紙には一杯食わされた気もする。
の協力者となる道を選んだメイメイ。
理由が『未来のわたしが、 は
大事な酒づるだって言ってるし〜、にゃははは♪』である。
メイメイが訴える『大真面目に
をサポートする』発言、微塵も説得力が無い。
「分かってますって。メイメイさんの手紙を持ってた
のお願いだもの。しっかりばっちり聞いてあげるv」
殊勝な言葉を吐くメイメイの顔に表れるのは『
酒』の一文字。
見て取って は微かに眉根を寄せるも直ぐに元の無表情へ戻る。
良くも悪くも嘘はつかないメイメイの態度は今の にとっては有難い。
使える手練が少なすぎる今は。
「
、話が見えないよ」
メイメイと話を進める の意図が明確に分からない。
ウィルは
の身に着ける着物の袖を掴みぐいぐい引っ張った。
「ウィル、汝は我の兄上に剣術を教わっただろう? 元々汝は基礎が出来ておったから、要は実践経験さえあれば即戦力となる。我が申している意味が分かるか?」
暇を見つけては無口なバノッサから剣術指導を受けるウィル。
ウィルも口数が多いほうではないので、それなりに相性の良い二人。
淡々と剣を振るう様はマルルゥやヤッファにとっては馴染みの光景となりつつあった。
「凡そは。でもちゃんと説明して欲しいね」
マグナとウィルの決定的な違い。
それは世の中を知っているか知らないか、かもしれない。
蒼の派閥である意味世間ズレせず育った素直なマグナと、子供心に世の中を見てきたウィル。
表向きは素っ気無く言い返すウィルに
はメイメイが用意した剣を差し出した。
「アティが得た剣。カイル達は海軍から奪還するつもりだったと申しておった。加えて、帝国軍がこの島に上陸しておる。
最悪、得体の知れないアティ所有の剣を巡り戦いが起きる。その時に何も出来ず歯痒い想いをするつもりは、ウィルにはなかろう?」
はちゃんと説明する 。
ウィルは息を飲み込み、表情を引き締めて から剣を受け取った。
ジャキーニ一家と戦う 。
はぐれ召喚獣と戦った 。
影ながらアティ達を帝国の魔手から守った 。
その
がウィルを認めて剣を渡した、という事は。
子供だから戦いに加わらない。
なんて綺麗事で済む問題じゃなくなるのかもしれない。
おぼろげながら嫌な予感を胸に抱くウィルに、 はウィルの顔色を眺めながら沈黙を守る。
ウィルに戦う意思が無いなら強制は出来ない。
ここで袂を分かつまでだ。
「遅かれ早かれベルも僕も戦いに巻き込まれる。先生に近い人間だから」
ウィルにしては珍しく、自身が考えた言葉をそのまま音に出す。
冷静に自らの立場を理解すると同時に が剣を持ち出してきた理由も悟る。
唇を真一文字に引き結ぶウィルに敢えて背を向け
はメイメイとの会話を再会させた。
「ゼラムでメイメイに開いてもらった戦闘訓練場。無限界廊への扉がこの島でも開けるなら我は失った戦いの勘を取り戻すべくそこへ赴く。
イオスや兄上も久方振りの真剣な戦いを前に肩慣らしがしたいだろうからな」
の宣言に白テコ姿のイオスが二つに割れた尾尻を振った。
どれだけ強くても実戦を離れれば人の腕は鈍る。
神の腕だって鈍る。
平和ボケは嬉しい事なのだがここは遠からず戦場になる島。
事前に自分を鍛える術があるなら使う。
「そうね〜。あそこはぁ〜、ロレイラルにシルターンにサプレスにメイトルパ、四つの世界の兵達が一堂に会してるもの。
しかも戦うことを前提に来てもらってるから、遠慮も容赦もいらないわよ〜。向こうも殺る気満々だしねぇ、にゃははははは♪」
メイメイは の差し入れを早速煽って酒焼けした表情をだらしなく崩した。
深く深く思考の海へと沈むウィルに時間を与え、メイメイの店でのんびりする予定、だったのに。
珍客によってウィルの熟考は一時中断される。
「た、大変だよ!! !! フレイズさんって天使さんがピンチだって、マルルゥが騒いでて
を捜してたよ」
軽い足音を店内に響かせ、メイトルパの亜人・パナシェがやって来る。
むわっと漂う酒気に鼻を押さえつつ、モゴモゴ、くぐもった声音で へ訴えた。
パナシェ、外見が犬だけあって鼻は良く利くのかもしれない。
「フレイズが?」
仮にもフレイズ、天使である。
アメルもそうだが高い魔力を誇る天使が早々簡単にピンチになるとも思えない。
思わずパナシェの口から出た人物名を復唱して、
は疑問系に変えた。
「うん。迷子のタケシーを助けて、その仲間が他のはぐれに襲われてるらしくて。えっと手伝い? じゃない、助っ人に先生が行ったみたい……なんだけど。
ボク、サプレスの集落って行ったことがないから」
きっとマルルゥの説明は要領を得なかったのだ。
考え考え懸命に事情を口にするパナシェの苦労はいかばかりだろう。
やれやれと頭を左右に振り
は考え込むウィルを顧みる。
「ウィル、ゆっくり考えよ。汝の島での生活が一変するやも知れぬからな。我はメイメイと共にアティとフレイズの応援に向かう。
パナシェ、ウィルと店番を頼まれてはくれないか? 換気もしておいて欲しいのだ」
最後の一言をパナシェの耳元で囁く 。
パナシェは何度も頭を縦に振って肯定の意を示し、ウィルの隣にまで下がった。
「では参るか、メイメイ」
は腰から下げた短剣の感触を確かめ、刀を取り出したメイメイに告げる。
「にゃははははは♪ 任せて頂戴!」
己の胸を軽く叩いてみせるメイメイの、腰から下げた酒瓶がタプタプ音を立てる。
酒が絡むと何処までも頑張れる気質は昔から、らしい。
あんまり任せる気にもならなかったが、メイメイの戦力は正直アテになるので
は黙って狭間の領域に向かうのであった。
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