『ひとつの答え7』





例え朽ち果てても誰も困らない。
自分だって困らない。

負傷したオルドレイクを見上げヘイゼルは恐怖すら浮かんでこない己の心にささくれ立つ。

雑魚ほど群れるというが、懲りずにオルドレイクへ挑んでくる島のはぐれと海賊達。
剣を砕かれたあの女は居らず、ヘイゼル達無色の圧倒的有利な雰囲気が濃くなる中、戦闘は続いている。

ツェリーヌが放った召喚術を受けてよろめく海賊の頭、を横目にヘイゼルは目の前に立つ敵の疲弊した姿を己の眼に映す。

後一押しで彼等を殲滅できそうだった。





アティは息を弾ませて走る。
皆が待っているなら、皆が待っているから。
ハイネルの願いを聞いてしまったから。

だからアティは戦う。

皆の笑顔を護りたいから。
護る為に戦う、剣を振るう。
誰かを傷つけるためじゃない、救い出す為に戦う。

だからもう迷わない。

「皆!!」
一緒に走っていたウィルが声を張り上げる。
遺跡最深部の壁にウィルの声が反響した。
「ウィル!! 先生!! 遅いじゃないのよ」
泣き笑いの顔でベルフラウが怒鳴って弓矢を振り回す。

遺跡に向かったベルフラウ達は予想通り無色と遭遇して戦いに突入。

オルドレイクに遺跡を渡してはいけない。
皆で考え決意して立ち上がったのだ。
負傷していても相手は無色の派閥の大幹部・分が悪いのは分っている。

それでも……ベルフラウは諦めずに戦っていた。

弟と弟が見込んだ女性が来る事を信じて。
カイルも、アルディラも、誰もが信じて待っていた。
アティとウィルを。

この中に が含まれないのは戦闘に参加してもらいたくないから、である。
に、女神に。人
間の力を、はぐれの力を証明する為の戦いでもあるから。

「ご免なさい、お待たせしました。これが……私の答えです」
肩で息をしてアティはウィゼルに鍛え直して貰った剣を取り出した。
「え? これは……」
雰囲気こそ碧の賢帝と似ている。
だが波動が明らかに違うソレ。
アルディラは何度か瞬きを繰り返しアティの剣を凝視する。

「綺麗!! 不思議な蒼い色……なんか、 みたいだね」
戦いの疲れなんて一気に何処かへ飛んでいった。
ソノラがアティに近づきまじまじと剣を観察する。

「新しい私の剣、果てしなき蒼です」

ウィルの気持ちと自分の決意。
篭った新しい剣にメイメイが名前をつけてくれた。
別に との関連を狙っているつもりじゃないだろうが。
澄んだアティの心が常にこの剣と同じ状態であるように。
隠されたメイメイの願いも篭った果てしなき蒼。

掲げてアティは剣の力を解放した。

一見すれば以前の抜刀スタイルと同じだが、アティの瞳は何処までも力強く。
美しい蒼を滲ませたアティの瞳が輝いていた。

歓声が沸き上がる。

「待たせたな」
「ウィゼル貴様!! あの剣は」
アティ登場と時を同じくしてオルドレイクに合流したウィゼル。
新たなアティの剣を前にオルドレイクがウィゼルに詰め寄るも、ウィゼルは黙して多くを語らない。

「遺跡を貴方達に渡すわけにはいきません!! 退いてもらいますっ」
アティは果てしなき蒼の剣先をオルドレイクに向け力強く言った。
「ふん、死にぞこないが! ほざけ」
愛用の杖で空気を左右に切り払いオルドレイクが嘲笑する。
「どっちが死にぞこない、だかな」
力を温存して後方で戦っていたビジュが先頭に踊り出た。

飛び上がり投具を放つも直ぐに敵兵の剣に弾かれる。
が、ビジュの背後でタイミングを計っていたギャレオが力強い一撃を敵兵へ叩き込む。

「負けるわけにはいかぬのだ!!!」
正眼に構えた長剣で繰り出されるアズリアの必殺剣・紫電絶華が続けて同じ敵兵に打ち込まれれば全てが終わる。
限界まで踏ん張っていたカイル達とは戦い方の違う帝国組。
前哨戦をカイル達に任せていたと言えば聞えは良いが。
実質の体力の温存である。

「我との誓約に応じよ……」
先陣を切ったアズリア達を頼もしく感じながら、ヤードは全員に改めて癒しの召喚術をかけた。
怪我の癒えたカイルも遅れを取り戻そうと駆け出し、キュウマは素早い動きを取り戻す。
スバルは母親を護りつつ、母親と協力召喚。
親子が呼び出した龍は遺跡内部を縦横無尽に駆け巡り敵を殲滅していく。

「行くですよぉ〜!!」
宙に浮かぶマルルゥが円を描き一回りして召喚するのはジュラフィム。
マルルゥだけが召喚できる回復の召喚術がヤッファを癒した。
「召喚!!」
最後尾で合流したウィルはまずは召喚術で後方支援。
ペンタ君を召喚し爆発を誘発しながら前方へ移動し、最前列で戦う姉に合流する。

「ベル、有難う」
すれ違い様ウィルは万感の想いを込めて姉に感謝の気持ちを伝えた。
戦況を見極め大人しく後方に下がる姉が、珍しく頬を染め照れてはにかみ笑う。


アティは果てしなき蒼の助けを借りアズリア、ギャレオ、ビジュ、ウィルと共に最前線に陣取る。
オルドレイクが放つ憑依召喚術に備えミスミがスバルと共にその背後を守り、キュウマとヤッファは左右に散って手傷を負った兵を仕留めて回った。

「証明、してみせたいわよね」
「うん! してみせるよ。 の、友達の為に」
最後尾に下がったベルフラウの無意識の呟きを拾って、ソノラが満面の笑みを浮かべる。

ソノラの銃弾が居合い抜きの体勢を取ったウィゼルの足元にめり込み。
続けてベルフラウの指示を受けたオニビがウィゼルへ炎を吐き出した。

息つく間もなくアルディラがエレキメデスを召喚して攻撃。
電気を帯びたロレイラルの召喚獣がウィゼルに牙を剥く。

ウィゼルの防御ラインを突破したアズリアは真っ直ぐツェリーヌに踊りかかり、ギャレオもツェリーヌに攻撃を仕掛ける。
アティは果てしなき蒼を振るいオルドレイク相手に一歩も引かない。

ウィルは途中からこの三人の回復役に回っていた。





 女が来てから戦況が変わった。
 自分も死ぬのだろうか? 分らない。
 自分を取り巻く黒い霧は一寸先さえ見せてはくれない。

 あの得体の知れない生物が自分にかけた呪(まじな)いは一向に効果を発揮せず。
 のうのうと自分は生き延びていて。

「アタック! ヒット」
考えていたヘイゼルの耳に届く機械兵士の声。
「……」

 ヒュン。

本来は自分の頭目掛けて撃ち放たれた銃弾。

流れる動作で右に避け、ヘイゼルは耳脇を掠めていった銃弾が壁面に命中する音を聞く。
遺跡の最深部近くに位置する識幹の間、上部ではオルドレイクの怒声とツェリーヌの悲鳴が響いている。

 潮時なのかもしれない、何もかもが。
 特に感慨深くもなく。ただただ無為な日々がまた繰り返されるのだ。
 何かが変わると期待していた自分が馬鹿馬鹿しい。

 彼女なら変えてくれるかもしれないと、僅かに期待したのも事実である。
 とびきり強くてオルドレイクにも無色にも怯まない。
 類稀なる魔力を誇りながら腕っ節もある。
 何故か自分を気にかけてくれていて温泉まで浸からせた人物。
 鮮烈な蒼を脳裏に浮かべヘイゼルは頭を僅かに振った。

 らしくもない。
 何を期待するというのか。
 この世界に、この自分に、得体の知れないあの美少女に。

撤収の合図を待ちながら何故か本気で攻撃してこない機械兵士の銃弾をかわすヘイゼル。
やがてオルドレイクの撤収の声が聞え無色の派閥兵達が次々と撤退していく。

敵の勝ち鬨の声を聞きながら踵を返そうとして、ヘイゼルは額に鈍い痛みを感じあっという間に意識が闇へと引きずり込まれていった。

倒れたきりピクリとも動かないヘイゼルを不審に感じた配下が近づき、様子を窺う。

「……」
仮にも自身の上司である。
無言でヘイゼルを見下ろし血色を確かめ脈を取った。

白くなっていくヘイゼルの顔色を見遣り暗殺者は立ち上がる。
脈はない、身体も死後硬直が始まってきていた。

死んでしまったら上司であっても用なしだ。

その様な世界で彼等は存在している。

物陰に隠れた白テコ姿のイオスが見守る中、暗殺者はヘイゼルの死亡をしかと確かめ撤収していったのだった。

「ミャミャ」
周完全にうち捨てられたヘイゼルだけとなった周囲を確かめ、イオスが手で合図を送る。
すると背後から二つの影が、細身の影とゴツイ影が現れた。
「流石です、 様。呪いとみせかけ彼女だけを仮死状態にし無色から引き剥がすとは」
医療道具一式手にしたクノンがイオスの背後から現れ感心して呟く。
「ミッション、再開シマス」
ヴァルセルドが担架を担いでいて肩からソレを下ろしながら頭部を光らせる。

クノンはイオスと一緒にヘイゼルへ近づき、彼女の仮死状態を確認してからヴァルセルドと共に担架で彼女の身柄を運んでいく。

「しかし……意味ある事なのでしょうか? 無色の派閥の敵兵を助けるなんて」
「ミャ」
クノンは少々懐疑的にヘイゼル救出を手伝っている。
生真面目で 信奉者らしいクノンの言葉にイオスは手短にヘイゼルの立場を明かした。

「そうですか。 様のお知り合いだったのですね」
イオスの返事に漸く腑に落ちた、そんな態度でクノンは呟き担架の端を手で持つ。
「ミッションコンプリートッ」
担架の端を手に持ったヴァルセルドの誇らしげな宣言が、遺跡内部で場違いに響き渡ったのだった。



Created by DreamEditor                       次へ
 やっぱり省かれ気味の戦闘シーン。心情描写をグダグダ書いていたら……。ブラウザバックプリーズ