『ひとつの答え6』




ウィルの告白に衝撃を受けるアティ。
苦笑した、なんだか一気に大人びたウィルに「答えは今じゃなくて良いですよ」なんて言われて。
益々立つ瀬がなかったりする。

更に怒涛の勢いでソノラにこれまでの の行動の謎を語られ。

飽和寸前のアティだったが、何故かカイルにお茶を淹れて貰ってティーブレイクして。
についてダラダラ語っていたら……何かを閃いたウィルが行動を起す。

凛々しさ倍増のウィルを黙って見送ってくれるのは良い。

アティは思う。

何故だかしたり顔の海賊兄妹に『狼に襲われないよう気をつけて』と言われなくてはいけないのか?
無色の兵士が跋扈(ばっこ)する島で狼に気をつけるも何もないだろう。

等と考えるアティは矢張り何処までいっても鈍いのかもしれない。



こうしてアティ、今はウィルに手を引かれてメイメイの店へ向かっている。

ウィル曰く『あの店主なら何か知っているかもしれない』との事。
メイメイの店で聞いたのは、 の事情を知ったスバルがビジュをお供にやって来て。
アティに元気を出して貰おうと剣の復活を模索していた、その事実。

心配されて嬉しいやら恥ずかしいやら。

復活したボケボケ先生にウィルは一抹の不安を覚えつつ、アティと共にスバルとビジュを探していた。


風吹きすさぶ崖付近からスバルの声がする。
全力疾走し始めるアティに、遅れてついていくウィル。
二人の目に飛び込んできたのは土下座するスバルと、スバルの前に立つウィゼルの姿であった。

「スバル!!!」
ウィルが叫んでスバルの直ぐ近くまで駆け寄り長剣の柄に手を掛ける。

「ウィル、これはオイラなりのけじめなんだ!! 勝手に碧の賢帝を持った先生をアテにしてたオイラなりの。
先生一人ばかりを戦わせないって言ってたのに、口先だけで!! オイラは何も出来なかった……でも、今日からは違う!!」
両手のひらの地面を握り、スバルは顔をウィゼルから外さずにウィルへ怒鳴った。

「お願いだ!! 敵の用心棒であるアンタに頼むのは筋違いだって分ってる。でも……魔剣を鍛えられるのはアンタだけだ。
この通りだ。先生に新しい剣を、皆と絆を結ぶ、先生の為の剣を鍛えてくれっ」

敵に頭を下げるのは嫌だ。
それ以上に誰かの力を頼りにしていた自分が情けない。

キュウマの参戦を眺め、母親の戦いを間近に、そして自らも島の為に武器を取ったつもりだったのに。
何時の間にか腰が引けている己がいる。
だからけじめをつけるのだ、気弱に駆り立てられた己を戒めるべく。

敵に、アティに元気を取り戻してもらう為の剣を頼む。

「………」
突風に煽られても立ち姿から漂うのは無。
相変わらず隙が一つもないウィゼルの顔色から彼の感情を推し測る術はない。

「スバル……」
友が見せる男としての矜持。
察したウィルも剣の柄から手を外し、自分もスバルに倣って土下座した。

スバルが一瞬目を丸くしてから、照れたように耳を紅く染めて俯き再度ウィゼルへ土下座する。
ウィルは黙って頭をウィゼルに下げていた。

「あ、あの、ビジュさん?」
熱い友情劇にホロリとして、そんな場合じゃないと頭を左右に振り。
アティは静観し続けるビジュの名を呼んだ。
自分も土下座に加わるべきだろうかと悩みながら。

「ああ、先生は黙ってみてろよ。流石は鬼の大将の息子だ。将たる片鱗が出てやがるぜ。腹の立つ事にマルティーニの小僧もな」
ビジュはウィゼルの動きに目を光らせ、それからアティへ答えた。

「でも、本当なら私がお願いするべきなんじゃないかと」
おずおずとアティが意見するも、ウィルとスバルの気迫に遠慮して一歩が踏み出せないでいる。
アティの心情が手に取るように分るビジュは人の悪い笑みを浮かべた。

「だろうな。そうしなきゃ、ウィゼルのおっさんは頼まれてくれねぇと思うぜ」
上着のポケットに両手を突っ込んだビジュは心持ち猫背の姿勢で付け加える。
「だったら!!」
熱血メーター一気に上昇。
アティが気色ばんで一歩踏み出すも、ビジュが差し出した腕に阻まれ歩みを止める。

「きちんと断られなきゃ駄目だろーが。鬼の小僧も、マルティーニの小僧も。そうやって挫折を知れば……図太く成れるだろうさ。色々と、な」
アティが抗議の声を発するよりも早くビジュが口を開く。

「俺は俺の生き方しか知らねぇんだよ。先生、アンタがアンタの生き方しか知らねぇのと一緒でな? 俺は相手を労わり護る接し方はしない」

出来損ないの集まりだといわれ続けたアズリアの部隊。
一員であったビジュも当然軍人としては落ち零れレベルを保持していた。
劣等感が無かった訳じゃない。
あの時の恐怖を忘れたわけじゃない。

ただ は生に足掻くビジュを否定しなかった。

寧ろ人として然るべき本能を備えた素晴らしい意見だと褒め称える。
恐ろしく真面目な顔で。

はぐれの化け物の考えることは分らない。
感じたビジュだが不思議と気分は悪くならなかった。

「断る」
暫しの沈黙の後、ウィゼルは断言した。
弾かれて顔を上げるスバルと、尚、額を地面に押し付けて土下座し続けるウィル。

「この通りだ」
断られてもスバルはめげず、再度頭を地面に押し付け深々と下げる。

つま先から頭の頂点まで駆け抜ける怒りの炎を身体の裡に無理矢理押さえ込んで。
キュウマ辺りが目撃したら口から泡を吹いて卒倒しそうだ。

スバルの精神面での成長を喜び、成長速度に驚いて我を失うだろう。

「断る、お前等が頼んでくるのは筋違いだ」
ウィゼルは拒否の意思を示しアティへ視線を送る。
アティは深く息を吸い込み吐き出して歩き出した。
今度はビジュもアティを止めたりはしない。

「御願いします、剣を鍛えなおしてください。この通りです」
深々と頭を下げたアティにウィゼルは口元だけで笑った。




一向はウィゼルを加え再びメイメイの店へ戻る。
剣を鍛え直すにあたり必要な人材、ウィルを残しアティは答を探しに歩き出した。

ビジュはスバルを伴って一足先にベルフラウと合流すると言う。

スバルはアティのなんだか元気の出た様子にニンマリ笑って、黙ってウィルの肩を叩き去っていった。
オイラなりの出来るだけをしてくる、なんて宣言付きで。


「うーん、なんだか……」
始まりの浜辺。
ベルフラウと共に漂着した浜辺に到着したアティは、揺れる波間を前に複雑な気持ちで本音を零した。

「何がなんだか、なんだ?」
「ア、アズリア!?」
アティのぼやきをしっかり拾った第三者、アズリアの呼びかけにアティは飛び上がって驚く。

碧の賢帝を砕かれたショックで引き篭もって三日。
その間にアティの勘は随分と鈍ったらしい。
アズリアの気配にまったく気付けなかった自分にさり気なく凹み、アティは曖昧な笑みを浮かべる。

「その笑い方が本当のアティの笑みなのだろうな。本当は島に来て、剣の主にさせられて。ずっと戸惑っていたんだろう? 生徒の手前言い出せずにな。
イスラの暴挙で剣が砕かれるまでずっと隠してきた」

敵対していた時はお互いに極限で、アティの心情まで見抜けなかった。
任務を帯びていたアズリアは私情を捨て去っていたからだ。
命が助かり新たな、いや、真の敵が姿を現した今なら分る。
アティがどれだけ迷い悩み心細かったのか。

「バレバレですか?」
長い長い年月を経て漸く対等に話し合えるようになった憧れの人物。
友達になれたアズリアにアティはアッサリ己の気弱を認める。

「バレるもなにもな……私も自身の未熟さを改めて痛感して、嫌悪しているところだ。イスラと向き合えなかった私。生徒と向き合えなかったアティ。
現実から目を逸らして決着を急いだ私。碧の賢帝の力に頼って無茶をしたアティ。どっちもどっちだ」
自戒の意味あいが強いアズリアの返答。
イスラとの決着がついていない現状でアズリアは努めて冷静さを保っている。
自分の不甲斐無さで誰かを傷つけない為に。

「笑えない、ですよね」
アズリアらしいなぁ。
なんて心の片隅で考えながらアティは相槌を打った。

「それよりも笑えないのが一人居るだろう? 未だにメソメソ泣いているらしいが」

アティはもう大丈夫。
心配で顔を見に来たが、アティは本来の顔色を取り戻し瞳は益々輝いている。

恋の効果なのか。
仲間の効果なのか。

アズリアはどっちだろうと考えつつも、時は一刻を争う事態でもあるので話題を変えた。

「…… さんは、 は。私達が考えるほど強いオンナノコじゃないんですよね、きっと。力があっても、寿命が違っても、種族が違っても。
誓約者になったお兄さん達を助けたくて一緒に居たくて。ただそれだけだったのに」
ソノラから聞いてアティは自分の短慮を深く呪った。
ウィルの告白が頭の中から吹っ飛んでしまうくらい衝撃も受けた。

「遺跡が の兄の命を脅かしている、か。それでも は遺跡を手っ取り早く壊しはしなかった。
ハイネル、だったか? 島の礎を築いた召喚師の願いを受け皆を守った。護人も剣の主も、敵である私達でさえも」

ファリエル……霊体となって現世を漂うあの少女が自ら語った の秘密。
発破を掛けたアズリアだったが、こうもすんなり の秘密を聞けるとは思っておらず。
またその内容に胸痛めた。
身内を失うかもしれない辛さはアズリアの身にも染みている。

「誰にも不安を言えないのに戦って。痛いです、 の気持ちは」
アティもアズリアの空気につられ、悲しそうに眉根を寄せた。
「お前もだ。何の為に戦うのか本当はもう分っているのだろう? 答を与えたくて、アティの頼りになる彼氏が帰りを待っているんじゃないか」
「ウ、ウィル君はそんなんじゃありませんっ!!」
揶揄とも茶化しともとれるアズリアの台詞にアティは敏感に反応する。
「私は彼氏がウィルだとは言ってないぞ」
してやったり。
アズリアは相変わらず単純思考のアティに不敵な笑みを付け加えながらこう指摘した。

「ア、アズリア〜!!!! 意地悪しないで下さい〜」
顔を真っ赤にしてアティは恨みがましい目線でアズリアを睨みつける。
「ふふふふ、アティ、そうやって自然体で居ろ。無理はするな」
待っている。
最後にアズリアはアティに告げてカイルの海賊船の方角へ姿を消した。



Created by DreamEditor                       次へ
 急いで詰め込みすぎてます。ころころ場面が変わって非常に読みづらいかもしれません。すみません。
 でも長いんだよ!! この話(自分でキレる・苦笑)入れたい事を遠慮なくブッコんだらこうなってしまいました。
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