『卑怯者3』




テコの呼んだ隕石が見えた瞬間、動いたのは とビジュ。
ウィルを護るべく走り出す と、イスラを救出すべく走り出すビジュ。

我に返ったアズリアが指揮を執ろうと口を開きかけた瞬間、奇妙な風が巻き起こった。

「うわあ」
一人の帝国軍兵が悲鳴を挙げその場で硬直する。

意思を持ったような風は帝国軍の兵士に纏わりつき身体を拘束・自由を奪っていく。

「これは母上の風だ!!」
スバルは真っ赤に泣きはらした瞳を擦って空を見上げた。
渦巻く風はスバルが知る母の気性そのままに荒々しく何処か優しい。

「うむ、ならわしらは逃げるぞ。戦いの足手まといになってはならん」
ゲンジは動きが止まった帝国兵達を眺め、郷がある方角を指差す。
ウィルとイスラの攻防を見守っていた郷人達はゲンジの言葉に頷きあった。

「はいな!! ウチが先頭を努めます、早うこっちへ!!」
次にオウキーニがゲンジの意図を察し、自分達を包囲していた、今は動けない帝国兵の脇を自ら率先して通り抜けていく。

オウキーニの行動に触発されてにっちもさっちも行かなかった郷人達はさしたる混乱もなく、郷へと逃げていった。

「見事な時間稼ぎだったぞ、アティ、ウィル。待たせたのう」
風を纏い鳥居前に姿を現す美丈夫。
長刀構える姿も凛々しく、その瞳に宿るは純粋な怒り。

感じ取りヤッファは額に手を当てキュウマは頬を引き攣らせた。

「ミ、ミスミさま!?」
ヤードが目を白黒させていると、ミスミは長刀を構えた姿でニンマリ笑う。

無反応なのはファルゼンくらいで誰もがミスミの登場に少なからず驚いていた。

はサプレスの聖母プラーマを呼び出しウィルの治療中ながら、得意そうなミスミを遠目に確認して唸る。
やる気満々のミスミ、助けてもらった以上参戦は断れなさそうだ。

 ミスミ……戦いたくてうずうずしておったのだな。
 キュウマの萎れ様から容易に分かるわ。
 にしてもウィルもアティも無茶をしおる……。
 だがこのような無茶、我は嫌いではないぞ。
 今は休んでおれ。

雨で冷えていたウィルの身体は怪我のショックから更に冷たく、傷口付近だけがじんわり熱を持っている。
の召喚したプラーマによって傷を癒されたウィルは起き上がろうとして、続けざまに から放たれるセイレーヌで撃沈。

「アティ、汝も眠っておれ。後できつく仕置きするからな」
「え? あ、ちょ、 ……」
呆然とするアティにも はセイレーヌを召喚。
アティに言い訳する時間も与えず撃沈した。

アティとしては に訴えたい事もあったろうに、 はスルー。

「スカーレル、ヤード、ウィルとアティの守りを頼んだ。アルディラも召喚術を使いこの二人を守ってやって欲しい。残りはミスミと合流。帝国軍にはお帰り願おうではないか」
の呼びかけに戦闘組が腕を振り上げ満面の笑みを湛えた。

ウィルだけがアティを心配していたわけじゃない。
人質の事なんて、自分達の命なんて気にしないで飛び掛ってやりたかった。
イスラに、アズリアに、帝国兵に。
しなかったのはアティの気持ちとウィルの気持ちを理解できたから。
だから歯痒い気持ちを抑えて我慢してきたのだ。

ミスミの登場で一気に戦局が動き、自分達も戦える。
理解した瞬間、彼等の心に闘志が駆け抜けた。

護りたい者を守りたいと願う闘志である。

「アタシに任せて頂戴、 v ヤードも頑張るって」
ヤードの首に腕を回し、ギリギリ締め上げたスカーレルが黄色い声を上げる。
「ええ、分かったわ」
アルディラは何か言いたそうにスカーレルを見るがヤード救出は瞬時に断念したようだ。
サモナイト石を手にして頷き返す。

「白南風の鬼姫・ミスミ! 参るぞ」
長刀を一閃、雄雄しく名乗りを上げてミスミは背後に下がったイスラとビジュを睨む。
手前には風の呪縛を逃れた少数の帝国兵がイスラとビジュを護るよう陣形を整えていた。

「ミスミ様!! 一人で単独行動は」
泡を食ったキュウマが最前線に立つミスミへ訴える。

「キュウマ、喋る暇があるなら走れ。行くぞ、ベルフラウ・ソノラ。あの邪魔な浮遊岩を撃破。毒の呪符が貼ってあるモノから優先せよ」
はキュウマの背に蹴りを入れ、自分は懐から銃を出しミスミへ狙いを定めた帝国狙撃兵へ威嚇発砲を行う。

前のめりにコケたキュウマは泥に汚れた姿でミスミへ一目散。
慌てて刀を抜き放ち、ミスミの援護に入る。

「「了解」」
ソノラとベルフラウはハモって応じ、それぞれ銃と弓を取り出した。

本来あの浮遊岩は侵入者避けに設置されたモノ。
帝国が人質を取った際神社の高台まで占領したので当然 達は下方から攻撃を行う事になる。
要は 達の進軍には邪魔なのだ。

設置し直すであろうキュウマを少々気の毒に感じつつ、ソノラとベルフラウは手際よく浮遊岩を破壊していった。
最前線ではミスミが噂に違わない兵振りを発揮する。

「これで終いじゃ!!」
長刀、というリーチの長さを生かして突き出される一撃に帝国兵は反撃が出来ない。

ミスミの背後を護るキュウマが移動力を活かしミスミが怯ませた帝国兵へさらに一撃を加え、追いついたカイルとファルゼンがミスミの両脇から飛び出しトドメを刺す。

「結局こうなるってワケか」
タマヒポを召喚し力のある剣を持った帝国兵へ毒のプレゼント。
緑のサモナイト石を掴んだヤッファが片眉を持ち上げる。

「ウィルの行動は我の予想範囲外だ。ミスミが来るとも思わなかったぞ」
最後尾から最前列手前まで移動してきた が、心外と言わんばかりに横目でヤッファをねめるけた。
ヤッファは の反論に頭を掻き掻き、応えずに何度目かになるタマヒポを召喚し始める。

「そうよねぇ〜、子供だけど、ウィルも男なのよねぇ〜♪ にゃはははははは♪」
メイメイは腰から下げた酒入り瓢箪の中身を煽り、ノロイを召喚。
階段部分で密集している帝国兵に釘が次々に打ち込まれていく。

野太い悲鳴が轟き渡る神社をバックにメイメイはニッコリ微笑み再度ノロイを召喚。
帝国側に回復する暇を与えない。

「にゃははは♪ 一仕事の後の一杯は格別だわ〜」
上機嫌で酒を飲み召喚術を放つメイメイは生き生きしている。
ヤッファと はメイメイの独り言を聞かなかったことにして最前線へと歩を進めていった。

「とっておきだよ」
ソノラも遠方からインジェクスを召喚。
遠くて銃攻撃が届かない敵にも、毒の罠は仕掛けられる。

ソノラが狙った帝国兵は軒並み毒に犯されジワジワと体力を奪われてしまう。
召喚術には不慣れなカイル一家もアティや の助けもあり、召喚術についての基礎知識を見につけ戦いに応用できる程度にはなっていた。

「いくわよ、オニビ」
ベルフラウも相棒のオニビへ指示を出し、炎の一撃を帝国兵へ与える。
小さいながら浮遊できるオニビは空を舞い帝国兵の隙を付いては炎を吐き出した。

「出てらっしゃい〜」
スカーレルも負けてはいない。
近寄ってくる帝国兵をセイレーヌで夢の国へご招待。

その間にヤードがタケシーで帝国兵を麻痺させて、アルディラが強力なロレイラルの召喚術で敵に決定打を与える。

全て遠距離攻撃で行っている見事な連携だ。

漸く最前列に躍り出た はビジュをヤッファとキュウマに任せ、自身はミスミと共にイスラへ迫る。
鳥居前での静かなる攻防が幕を開けた。

「見せてあげるよ」
鳥居前、下方に位置する を見下ろすイスラ。
軽薄な笑みを湛えたイスラがシャインセイバーを召喚。
光に包まれた剣はイスラの狙い、 へ向け真っ直ぐに飛ぶ。

「甘い!」
構えもせず佇む 目掛け飛ぶ光の剣はミスミが放った召喚術、シシコマよって防がれ互いの召喚術はぶつかり合い効果は相殺される。
衝撃波が消え去るか去らないか、のうちに は紫色のサモナイト石を手にソレを召喚した。

「我が呼びかけに応じよ」

紫色の光の中から現れるのはパラ・ダリオ。
不気味な薄暗い煙を巻き上げ、その瞳が怪しく動きイスラを捉える。

イスラが身構える時間も与えずパラ・ダリオは悠遠の呪縛を放ってサプレスへ戻っていった。

の召喚術での一撃は実は物理攻撃より強力である。
神の魔力によって召喚された召喚獣の攻撃は、普通の召喚師が呼ぶ同じ召喚獣の攻撃よりも強い。

パラ・ダリオ程の高位の召喚獣ともなればダメージは計り知れない。

「くっ………」
さしものイスラもかなりのダメージを負ったようだ。
腕や足、所々に切り傷を作り立っていられなくなってその場で膝を折る。

「今回の作戦、まぁまぁ及第点といったモノだが……身内を困らせるでない。諜報部員なら心得よ」
イスラの真正面に立ち、背後をミスミに任せた が小さな声でイスラへ言った。
碧の賢帝を手にしたアズリアは複雑な顔色を浮かべ戦況を見守っている。

「ふ、あははは、あははははは♪」
可笑しくて可笑しくて堪らない。
そんな風にイスラは笑い出した。



Created by DreamEditor                       次へ
 ミスミ推参!! 実際のゲームでもミスミ様は大活躍。スバルとの協力召喚は威力絶大。
 お祓いも出来るし風の攻撃も出来るし。

 ソノラは文中と同じくインジェクスを装備。毒攻撃を召喚ではメインに使ってました。
 アルディラさんは電池マンを。すごい高確率で相手が痺れる(痺れを防止するアイテム持ちには駄目だけど)
 モナ、流石だよ……。と思ってしまいました。

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