『話題休閑・はぐれ者たちの島3後』


もう疲れた、寝る。
寝かせてくれ。

哀愁漂うヤッファを小屋へ送り返し はウィルと共に儀式に挑む。

当初の予定から大幅に遅れてしまったが、ウィルとテコの誓約の儀式を行う為だ。

ヤッファからもぎ取った(奪った?)緑のサモナイト石をウィルの手に握らせ、バノッサと 、イオスは緊張に身体を強張らせるウィルを見守る。

「良いか? 召喚術は諸刃の剣。己の力量が足りなければ召喚獣の暴走を招き、力量があっても使い道を誤れば大切な人を傷つけてしまう。
召喚術を使う時は心落ち着かせ、それだけに集中せよ」

ウィルに最後のレクチャーをした が、ウィルから一歩下がりウィルへ誓約の儀式を行うように促す。
遠巻きに見詰めるバノッサは腕組みしたまま無言。

「焦らないようにな」
「頑張ってくださいです!! ボウシさん!!」
無言で居られないイオスとマルルゥが思わずウィルを励ました。
二人が声を上げると にジロリと睨まれる。

「外野は黙っておれ」
口を挟むなと言外に含ませ はもう一歩後ろへ下がった。

ウィルは緊張で渇く口を開きか細い声音で から教わった誓約の呪文を唱え何度かやってみた魔力の開放を試みる。

緑のサモナイト石から溢れ出る緑の光。
光はウィルとその前に立つテコを包み込み、夜のユクレス村を数秒間だけ明るく照らし鎮まる。

「ミャ〜ミャ♪」
 テコが一際弾んだ調子で鳴きウィルの周囲をピョンピョン飛び跳ねた。

『無事終わったな』
バノッサがここで漸く口を開き、顎先でウィルの手の中のサモナイト石に刻まれた刻印を示す。

マルルゥはウィルへ飛びつきウィルも嬉しそうにテコを眺めマルルゥを受け止める。
イオスは魔力切れで白いテコ姿へ戻り興奮したウィルに囚われ情けない悲鳴をあげた。

は「先に帰っておるぞ」と捨て置きバノッサと小屋へ戻る。


誓約の儀式成功、その興奮から暫く彼等は外で騒いでいるであろう。
その間に小屋へやって来た誰かに会っておかなければならない。
人一倍勘の鋭いバノッサと、バノッサ以上の鋭さを持つ

小屋で を待ち構える『誰か』が誰なのかを確かめるべく現在の家へと戻って行く。

小屋の入り口を開き、 の自室へ真っ直ぐ向かえばそこには と似たような青い光を放つ少女が。
窓から月を眺めベッドに腰掛けていた。

「……汝はファルゼンか?」
は少女をつま先から頭まで二回、眺めてから確信を持った問いかけを放つ。

上流階級者が見につける衣服。
気配はサプレス。
そして何より人の気配もする。
既に身体を失った魂魄が何らかの形でこちらへ留まっている。

これが、 が今の少女から読み取れる全て。

少女は何かを知っている風でもあるが。

『気配は同じだな』
バノッサも現在の姿は少女と似たようなモノ。
対して驚いた風もなく、少女から感じた気配が先程のサプレスの護人と同じだと発言する。

『あ……あの、ごめんなさい。勝手にお邪魔しちゃって』
ベッドの上に座っていた少女は申し訳なさそうにこちらを見て頭を下げた。

「構わぬ。用があったのだろう? ウィル達はまだ戻ってこぬ故、汝に時間があるようなら話を聞かせてはもらえぬか?」
は小さいテーブルとセットの木の椅子を引っ張り出し、少女の前に置き座る。

『話という程じゃないんですけど……わたしは、ファリエル。ファルゼンの姿はわたしの魔力を消費しない為と……それから』
ファリエルと名乗った少女は言いかけて、口を閉ざす。
キッと唇を引き結ぶファリエルは直ぐに とバノッサへ笑いかけた。

『さっきは有難う御座いました。危ないところを助けてもらって……あんな風に助けてくれるなんて思ってもいなかったから』

陰りを見せるファリエルの瞳。

揺れ動く彼女の気持ちを案じつつ、触れて欲しくない様子なので は追求せずに首を横に振る。

「喚起の門を通じて召喚された我は、どちらかと言えば島側のモノだ。それにどう見ても帝国の連中に非があったのは明らか。ならば助けるのは当然汝等の方であろう」
は気付かぬ振りでファリエルの感謝の言葉に自分の意見を述べた。

少し驚いた風に口篭ったファリエルは安心したようにもう一度笑う。

『それでも嬉しくて……それに、凄く素敵なお兄さんが居るんだな〜って思ったら。なんだか羨ましくなっちゃって。あの姿だと喋りづらいからこっちの格好で来たの』
小さく舌を出すファリエルの仕草に、 とバノッサは表情を穏やかにする。

彼女なりに抱えた何かはあるようだが。
取りあえず自分達を仲間と認めこの姿を見せてくれた事は嬉しい。
互いを信じる気持ちが何より強い力を生む。

それを とバノッサは知っているから。

「我の自慢の兄上だ。先程も申したが血は繋がっておらぬ。我が名も無き世界から事故で召喚され、ちょっとした揉め事が合った後に我の兄上になってくれたのだ。
サイジェントのスラムで共に暮らしておる」
無色の派閥の乱、を『ちょっとした揉め事』で片付ける
相変わらずの妹にバノッサは の髪を乱暴に乱し、続けてファリエルの前髪も乱した。

『兄貴がいたのか?』
『あ……えっと……』
詰問口調というより、世間話をする雰囲気でファリエルに尋ねる。
バノッサの問いに、ファリエルは気まずそうに目を左右に泳がせ項垂れた。

「言いたくなくば良い。ファリエルが話したい時に話してくれれば良い、我は友を困らせる真似をする程子供ではない。兄上もだ」
は真摯にファリエルへ伝える。

ヤッファも、キュウマもアルディラも、そしてファルゼン=ファリエルも。
心に何かを抱えてそれで島を守っている。
色濃くなる護人達の過去の影。今
敢えて暴く必要はない。

当人達が嫌がろうといずれ白日の元に曝されてしまうのだ。
ハイネルが に教えた事が正しいのなら。

『ごめんなさい』
しゅんとしたファリエルの手を取って は元気付けるよう、何度か力強く彼女の手を握っては力を抜く。
を繰り返す。

「構わぬ。誰にだって簡単に言い出せぬ秘密を幾つか持っているものだ。我だってそうかもしれぬ、そうでないかもしれぬ」
は言いながら動かないハヤトの姿を思い出し、身震いした。

ハヤトとトウヤを救う為に乗り込んだ過去の楽園・過去の戦い。
事情を話せないのは だって同じである。
ファリエル一人を責められない。

…… って優しいよね。なんだか久しぶりに同じ歳くらいの女の子と話せて、緊張してるかも。こんな機会があるとは思わなかったから』
ファリエルは自分の手を握る の手を逆に握り返した。

些か興奮しているらしく、口早に喋る。
笑い合う少女二人をバノッサは黙って見守っていた。

ファリエルが思ったよりも普通の少女だった事から に害はないと判断し、自分はだんまりを決め込む。

「これからは幾らでもあるだろう? これきり最後、ではあるまい?」
『勿論よ! わたしは と友達になりたい。もっと色々なお喋りをしてみたい』
集いの泉で出会ってから本当は喋ってみたくて仕方がなかった。
きっかけが得られ、ファリエルは己の幸運に内心だけでキャーッと叫び声を上げる。

「ならば問題なかろう」
話はそれでお終い。
音に出さず他の言葉で は代用する。

ファリエルは本当に嬉しくて気持ちを隠さず最初より砕けた様子で肩の力を抜いていた。

『うん。有難う、
ファリエルはすっかり寛ぎ、ベッドの上で足をブラブラさせ歳相応の少女らしい行動を取り始める。
も椅子から真正面のベッドに座りファリエルの横顔を覗き込む。

「それはこちらの台詞だ。我の行動を信用し、姿を見せてくれた事深く感謝する」
の生真面目な『有難う』
ファリエルは自分が見た の色が見たままだったと確信し何度も頷く。

サプレスの力を得たファリエルだから見える魂の色。
は美しく輝く蒼き尊き光。
何もかもを優しく包み込む空と海を思わせる深い深い輝きはファリエルの心を深く打つ。
純粋な輝きを放つ だからこそファリエルはもう一度会いたいと願い、考え。

心配性の副官の目を盗みこうして来たのだ。

『わたしがサプレスの護人だからかもしれないけど、 の魂って凄く綺麗なの。上手く表現できないんだけど、綺麗過ぎて涙が出そうな位。
わたしの副官。天使のフレイズが を見たら倒れちゃうかも』

クスクス笑って茶化すファリエルと小首を傾げる

「大袈裟だ、ファリエル」
『大袈裟じゃないわ! きっと倒れるわよ〜』
歳相応に笑い合う とファリエル。

果たしてファリエルの予言通り、 と相対したフレイズが危うく腰を抜かしかけるのだが。
それはもう少し先の話で、フレイズがバノッサにも驚くのだが。
矢張りそれももう少し先の話なのであった。



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 次に主人公が落としたのはファリエルでしたv 護人の友達ゲットです〜。ブラウザバックプリーズ