『はぐれ者たちの島2』




集いの泉。

リィンバウムを取り巻く四つの世界から召喚され、島ごと遺棄されたはぐれ達の取りまとめ役『護人』が会合を開く場所。

そこへ やアティ達はキュウマとヤッファによって連れてこられた。

泉に設置された屋根つきの東屋。

ロレイラルとサプレスの護人が既に揃っていて、滞りなく会合は開かれる。

船を襲った嵐によって辿り着いた島、そこは人間に心を閉ざす『はぐれ』達の島だった。

衝撃の事実にアティを始めとする、島への漂着者達は不安の表情を隠せない。
素っ気無い言葉を吐いて去っていく護人達。
引き止める術は無く、落胆するアティ達と想像通りの展開に呆れ返る

「……じゃぁな、俺は一応ユクレスへ戻るが。くれぐれも、面倒は起こすなよ」
くれぐれも、の部分を強調し、ヤッファは残る へ言い捨て去って行った。

「ふむ、まずは改めて自己紹介でもするか?」
海賊といっても異文化コミュニケーションは苦手らしい。
が気を取り直して提案すればアティ達は驚いた様子で を見る。

「えっと…… 、だったよね?  はアタシ達のコト嫌ってないの? その、 もはぐれなんでしょう?」
大人しく座っていた海賊の少女、カイル一家の頭領・カイルの妹分。
ソノラが瞳を曇らせて を見据える。
はパチパチと瞬きを繰り返し怪訝そうな表情を作った。

「友になるのに生まれが確かだという証が必要なのか? 我はリィンバウムのスラム育ち故、あまりそのようなモノには詳しくないのだが。
先程も申したが、サイジェントのスラムに兄と住んでおる。血の繋がった兄ではないがな、他にも姉が居(お)る」
一々全員を説明するとややこしく、どこでセルボルトへ繋がるかも分からない。
適当に家族を紹介する に、頭の上のイオスは一人苦笑い。

この説明をカシスとハヤトが聞いたなら盛大に剥れるだろうと考えて。

「スラム育ち、ですか……」
アティが薄っすら口を開き、信じられないといった態で を凝視する。

気品溢れる仕草と口調と動作。
何処をとってもどっかの貴族か何かと思えそうなのに。
ともすれば自慢げに、自分をスラム育ちだと言ってのけて胸を張る。
の堂々とした態度はとても眩しい。

「追い剥ぎは十八番だぞ」
ニカッと笑う の豪快な発言に全員が呆気に取られる。

「はぁ……意外、ですね……」
ヤードは言葉少なく返事を返した。

召喚術の勉強をしたヤードだから分かるのだが、彼女は普通の『はぐれ』ではない。
発する魔力も、漂う空気も何もかも。
一介の召喚師風情が軽々しく召喚出来るレベルでもない。

召喚獣も高位になればなる程、気位も高くそれ相応の付き合いが必要だ。な
のに目の前の彼女は平然と言う。
追い剥ぎが得意だと。

「生きていくのに綺麗事は無用。生活の為と言い訳をしても、結局は己と家族が食べていくには致し方の無い事。
正義の味方を気取るつもりも無い。やってる事は汝等とそうそう変わりが無かっただろうな」
の淡々とした語りは、事実だけをカイル達へ伝える。

「どーりで強いわけだ。黙ってりゃ、どっかのお嬢様みたいだけどな。過去形という事は今は違うのか?」
海賊の頭領という身分は伊達ではない。
の言葉を細部まで聞き、察したカイルが後頭部を何度か擦ってから へ問いかけた。

「追い剥ぎは街の安全を保つ為に野盗限定で行っておるぞ。他は普通に畑を耕したり、色々な手伝いで生計を立てておるが。兄上も同じだ」
はカイルの疑問に答えを与えた。

年々穏やかになり行くサイジェントの街。
イムランの胃痛持ちは相変わらずでも、全ての仲間達はそれぞれに役割を見つけ働いている。

「あら、更生しちゃったの?」

鳥居前の戦いに参加していなかった、カイル一家の相談役。
スカーレル。
男なのに女の言葉を使うが、それもフェイクかもしれない。

発する空気は夜のものに近く、 には何故かパッフェルを連想させる空気を持った人物であった。

スカーレルが揶揄するように へ単語を投げかける。

「ふふふ、文字通りな」
も含み笑いを零しながらスカーレルへ挑発的に笑ってみせた。

「……か」
その笑みを見たスカーレル、俯いて肩を震わせ一言。
「か?」
ヤードがスカーレルの言葉を復唱し。
「……かわ」
更にスカーレル、俯いたままで今度は二言。
「かわ?」
今度はソノラがスカーレルの言葉を反芻する。

「……かわいい!!!! カイル、カイル!! アタシこの子気に入っちゃったv すっごく可愛いじゃない♪」
スカーレルが目にも留まらぬ機敏な動きで腕に を捉え、ぐりぐりぐり。
頬擦りして を愛で始める。
キョトンとした顔の の頭上で嘆息するイオス。
カイル一家はアティも含めてどこか遠い目をした。

「また始まったか……」

スカーレルの悪い癖? 可愛い、でも一癖ある子がスキ!! という、性質。
何処でも遺憾なく発揮されるソレはこの島でも有効らしい。

カイルは に頬擦りするスカーレルに聞かれないよう小声でぼやく。

「私の時と同じなんですね」
アティも『ほぅ』なんてため息混じりに肩を落とす。

砂浜で目を覚まし、ベルフラウを発見。一夜を過ごした後に再会? した、船を襲った海賊達。
アティもスカーレルの『気に入っちゃったv』なんていう発言で、カイル一家の客分となる事が決定しただけに。
なんとも表し難い複雑な気持ちになるのだ。

「ミャミャーミャ」
暫く様子を窺っていたイオスが、このままでは埒があかないと主張を始める。

「おお、そうであったな。この白ネコはイオス、我の知り合いだ。それはそうとアティ、汝等が無事だという事はウィルに伝えておく。
明日汝等の船に邪魔する故、そのように計らっておいてはもらえぬか? カイルの船には姉がおるのだろう? ウィルの」

が残ったのはウィルの問題を解決する為。
彼なりに家庭教師と姉の安否は気になるところであろう。

告げた にアティは弾かれたように顔を上げる。

恥ずかしながら に切り出されるまで、島の成り立ちに思考を奪われ、ウィルの事をすっかり忘れていた。

「あ、はい。すみません、 さん」
「このような時は『有難う』であろう? アティ。それから我に『さん』付けは要らぬぞ。それが汝の人への呼称ならば咎めぬが」
頭を下げかけるアティを制する の方が外見はどうあれ、随分大人びている。

って格好良いかも〜」
外見を裏切る の竹を割ったような性格にソノラが関心した声で呟いた。

「あら、可愛い格好良いじゃない?」
「「……」」
ウキウキしながら発言するスカーレルを誰も止められやしない。
ヤードとカイルは同意を求めるスカーレルからそっと目線を逸らした。

「アティ。護人を説得しに行くぞ。汝は島の者達と知り合いになりたいのであろう? 我もヤッファ以外とは面識がない故、良い機会だ。さあ、誰に会いに行く?」
はスカーレルの腕から脱出して脱線する話を元の道筋へ戻す。

アティの不服そうな表情と彼女の音色から判断してカマをかければ。

「わたしは……ロレイラルの護人、アルディラさんが気になりました。凄く寂しそうな瞳を持ったあの人が」
見事に大当たり。
アティは護人の一人の名を上げ伏目がちになる。

「融機人のようだったな、彼女は。ネスと一緒で一見理知的実は情熱型でないと良いが。では参ろうか」

冷静な者ほど激昂すれば思わぬ行動に出る。
ネスティの行動を知るからこそアルディラも近いのではないかと は思う。

だがアティが気に入ったならまたそれも一興だ。

 ハイネル、アティに剣の一つを託すとは。
 まぁ、纏う空気と抜けた部分が汝等は似ている……魂の叫びも近しい。
 良からぬ方へ転がらぬと良いが、ハイネルのように。

一見のほほんとした空気を持っていても、心の奥底にある闇の感情までは隠せない。
それが剣との共鳴を呼んでいることも。
まだアティは知らないのだ。

「はい!」
アティは元気良く頷いた。

なんだか少女の傍は安心できて胸の奥から力が湧いてくる。

「汝等はしっかり留守番しておれよ」
一歩足を踏み出し、徐に背後を振り返った が人差し指を立ててカイル達へ指示を出す。
仲間でもないのに が発言すると、尤もだと感じるから不思議だ。

の頼みなら! 船でしっかり留守番しておくわv」
スカーレルは喜々として へ手を振り語尾にハートマークを散らす。

幾ら仲間で同じ海賊といえどこれだけは見たくない。

謂わんばかりにカイルが速攻で顔を横へ向ける。
ばっちり目撃してしまったヤードは精神力でスカーレルを視界から遮断した。

「や、船は元々アタシ達の船だし……」
ぎこちなく笑ってソノラが裏手でスカーレルへ突っ込みを入れたのだった。



Created by DreamEditor                       次へ
 主人公が最初に落とした獲物はスカーレル(爆笑)
 や、実はスカーレルも好きですよ、格好良い人ですよね〜。ブラウザバックプリーズ