『護衛獣への道 (幕間6)』



何故かハサハとミニス。
両手に花? 状態のイスラはにやにや笑う に怪訝な眼差しを向け。
ミモザとギブソンと名乗ったコンビ? 俗に表現するならカップル。
に大きく息を吐き出す。

『僕で遊ぶのは控えて欲しいんだよ、平穏、って単語を知っていて欲しいな』
夕暮れ時のサイジェント、アレク川。
巨大な川の向こう岸に沈む太陽がオレンジ色の雲や大気を伴って夜の帳を運んでくる。
基本的に騒がしい性質(たち)ではないイスラが一人になりたいと願っても許されるだろう。
フラットでの騒動を省みれば。

「我は平穏という単語は知っておるぞ。馬鹿にしておるのか? イスラ」
『違うよ、 実践も込みで知っておいて欲しいって意味さ』
口先を尖らせた にピシャリと言ってのけるイスラの機嫌は余り良くない。

物怖じせずに に言葉を投げかける。
普段からイスラはこんな調子だと聞かされているミモザは腕組みをして小さく笑い。
ギブソンはやれやれと頭(かぶり)を振った。

の護衛召喚獣っていうから、マグナみたいなタイプを考えたのよね。でも会ってみたら全然違うし、でも、 の護衛召喚獣としては『らしいな』って思ったの」
イスラ自身での魔力の実体化を強請り、手を繋いだミニスが目を輝かせてミモザへ喋る。
薄い金色のミニスの髪が夕焼けを浴びて赤く綺麗に染まっていた。

「みたいねぇ。 を尊ばない点では少し驚いちゃったけど、これはこれで良いと思うわ。総帥が楽しそうに話していたのも頷けるし」
ミモザは手際よくバスケットから荷物を取り出しながら、相槌を打つ。

島が『鍋(宴会)』なら、聖王都組は『ピクニック』なんだそうだ。
新しい仲間と触れ合う為の行事とやらは。

ミモザの発案で『大人のピクニック(夜のピクニック)』が提案され、何故かマグナを除いた面子がアレク川に集まっている。

黒焦げになったマグナが「雷……」と呻いていた映像をイスラは早々に記憶から消去していた。
無論、ハサハの「(にやり)」笑いの映像も。

ユエルは遊びつかれて夢の国へ旅立ってしまい、起すのも可哀相だったので留守番だ。

基本的に『大人のピクニック』なので、ミニスやハサハも参加しなくて良い。
だが二人は無理矢理眠気を吹き飛ばしてピクニックへ参加していた。


「君が珍しくて仕方がないんだろう。慣れればあそこまで騒がなくなるから、辛抱してもらえると助かるよ」
ギブソンが苦虫を潰した顔でイスラに耳打ちする。

完全に面白がっているミモザとミニスの魂胆を見抜けているからだ。
イスラはわざとらしく笑みを作って『分ってます』なんて当たり障りのない返答を返す。

その間に女性陣がピクニックに必要なお弁当と飲み物を広げ、月明かりが輝きを増す川岸での不可思議なピクニックがスタートした。

「それで? お姉さんとしては興味津々なんだけど……。 の護衛召喚獣になったボクは世界観が変わった?」
ミモザが持参したお酒。
名も無き世界で言う果実種(ワイン)に近いソレ。
赤い液体が入ったグラスを左右に揺らしながら、世間話をする風な軽い口調でミモザがイスラへ話を振る。
ほろ酔い状態だと暗にイスラへ示しながら。

『良くも悪くもね。僕は僕にしかなれないと理解したから』
イスラは務めて真面目にミモザへ応えた。

イスラはミモザの考えが手に取るように分る。
自分だって、自分にとって大切な人に護衛召喚獣が……普通の護衛召喚獣ではない存在が増えたら。
こうやって探りを入れるだろう。
ミモザ程堂々と探るかどうかは分らないけれど。

「へぇ?  の持ってるご威光って奴を、羨ましいとか考えちゃったりするのかと思ったけど? 魅力的じゃない? 女神様のお力っていうのは」
を敬わないのなら、彼女の力を目当てに。
と、考えられないわけでもない。

界の狭間の結界を守護する名も無き世界の女神。
彼女の力を利用すれば世界を牛耳ることだって可能なのだ。

あらゆる可能性を考慮して、敢えてミモザは意地悪く質問を重ねる。

『冗談は程ほどにして欲しいな。 。僕は僕。それで良いんじゃないかな?
考え方なんて、誰に強制されるものでもないだろう?
影響は受けるだろうけどね。
はバノッサにベッタリの甘えん坊で居ればいい。どの道僕には無関係だ。僕には とは違う僕の道がある筈だから』

音をつけるならバッサリだろうか。
身も蓋も、ついでにフォローもなくイスラは持論を展開する。

の力を利用する?
論外だ、論外。
何が悲しくてあの暴走女神の力を借りなくてはいけないのだ。
彼女の力を借なければならない危機にはまだ直面していない。
そんな面倒事に首を突っ込む気は、イスラには、ない。

持論という程大層なものでもないが、自分が考えている事を相手に伝える為の会話は必要だ。

「確かにね。おしとやかな なんて想像つかないわ〜。暴れてる なら鮮明に思い描けるんだけどねぇ」
ミモザは瞳をキラキラと悪戯っ子の様に光らせながらイスラの言葉尻に乗る。
久しぶりに会う の変わりのなさは予想済み。
ただ手紙であった の護衛召喚獣は中々どうして。
に対して対等で自然体で、自分の煽りに対しても冷静ではないか。

面白いわ。
実に面白いわ。

等とミモザは考えている。

「ミモザ! 我は礼儀は弁えておるぞ。イスラ! 我は甘えん坊などではない」
頬を河豚のように膨らませた は頭から湯気を吐きそうな勢いで憤った。
しかしさり気にイスラに図星を尽かれて頬がうっすら赤い。
実の兄姉達にも甘やかされているらしく、 は『甘えん坊』体質だ。
本人にも多少の自覚はあるらしい。

って相変わらず天然だよね。論点がズレてるし」
ミニスがしたり顔で一人『うんうん』なんてもったいぶった態度で首を縦に振る。
その合間もきっちりリプレママの手料理を摘み上げるのを忘れない。

「(すりすり)」
ハサハは我関せず?  の膝枕で丸くなって幸せに蕩けながら、 の腿に頬を摺り寄せている。
マグナが目撃したら憤死間違いなしの光景である。

夜もサイジェントの街を包み込み始めた時刻、少々の眠気もある筈だ。
トロンとした半眼のハサハの頭が眠そうに上下に揺れている。
そのハサハの頭を が優しく撫でているのだから、ハサハが眠気に陥落するのも時間の問題だろう。

らしくて良いじゃないか」
ギブソンは の暴走癖に関しては達観があるらしい。
慣れきった態度で、らしいの一言で片付けてしまう。

『あの鈍さが改善される日が来るのか微妙だね。当分、その日が来る事は無さそうだけど。 の守護者がアレだからね』

なんせ守りは鉄壁の『セルボルト兄姉ズ、オマケの誓約者ズ』だ。
自分が を護る以前の問題として、強力な守護者が に居る。
の鈍さを改善しようと に近づく前に殲滅されるのがオチだろう。

イスラも同意しながらさり気に毒を吐く。

「守護者の力は偉大よね。偉大を通り越して恐怖?」
遠まわしのイスラの嫌味にミニスが悪ノリして調子付く。
そんなミニスを目線だけで嗜め、ミモザは手にした辛目のチーズパンを千切って口に放り込む。

の世界で云う『唐辛子』なるものに近い香辛料が含まれたチーズを入れて焼いたパンだ。
辛党には好まれているが、お子様には少々キツイ一品である。
数分前に好奇心丸出しで口に入れたミニスが盛大に咽ていた。

「イスラは苦労しそうだな。いや、もう散々している様だね。 がああだから、気長に行くしかないと理解しているとは思うが」
ギブソンが一人になったイスラに労いの言葉をかける。

ミモザの標的が に変わり、 を楽しそうに構い倒し始めた。
ミニスも加わり女三人寄ると姦しいを具現化している。

『云われるまでもないよ。君達と違って僕は静かと平和を好んでいるんだ。
面白おかしい人生というのも、独裁者というのも、一種の選択肢だろうけど。僕の中にそれ等の選択肢はない。
それに僕はもう死んでる。
死者が生者の世界に干渉する事は絶対にあってはならない。とも考えてるよ』
イスラは改めてギブソンにも自身の意向を伝えた。

無い腹を探られ続けるほど不愉快なものは無い。
イスラが喋った直後、女性達の笑い声がドッと響く。
無邪気に笑う とミモザとミニス。
ハサハは垂れた耳から察するに眠ってしまったようだ。

「すまなかった」
ギブソンは素直に頭を下げ、己とミモザの非礼を率直に詫びる。

以前の、サイジェントの街へ来て 達と知り合うまでは。
到底できなかったこの行動。
すっかり丸くなったと評判のギブソンは柔軟な思考を持った大人へと日々成長している。

『お互い様さ。僕だって君達の立場なら同じことをしてる』
特に気を悪くした顔もせず、イスラは平静でギブソンの謝罪を受け入れた。
「後は彼女がどう判断するか、か」

見た目は聖女、中身は……。

の、某天使の生まれ変わりの少女の横顔を思い浮かべながら、ギブソンはひとりごちるたのだった。

ギブソンの杞憂が現実に変わるのも、当人達が知らないだけでそう遠くない話なのである。




Created by DreamEditor                       次へ
という訳で次回のお話はついに聖女様が降臨(違)します。しかもサイジェントではなく、別場所で。
皆さんなら簡単に想像つきますよね(爆笑)
イスラ VS 聖女様!? 風になりますのでお楽しみに〜。
ブラウザバックプリーズ