『護衛獣への道!? フラット編』


黒いオーラが噴出しているフラットの居間。
「処置ナシよね。 が来るのを待つしかないわ」
諦め顔のフィズが小声で。
「それにしても久しぶりだよな〜。キール兄ちゃんがアレだけキレるのって」
フィズと顔を突き合わせアルバが呟き。
「どーしてそうフツーの顔できるの!? フィズもアルバも」
同じく顔を突き合わせてるアカネが場違いな関心をして。
カシスから乾いた笑みを贈られる。

居間の隅っこで語り合う、フィズ・アルバ・アカネ・カシス。

居間の中央にはキールが座っており、黒いオーラの発生源は彼だ。
バノッサがキールの真正面に座る。
仏頂面ながら次男の予想を裏切らないキレ具合に内心は頭が痛いだろう。
カノンはニコニコ笑いながらキールとバノッサに紅茶を注いでいる。

トウヤとクラレットは、サイジェントへ、リィンバウムへやって来るだろうハヤト達を迎えにアレク川まで出向いている最中。で不在であった。

通夜よりも重い空気が漂うフラットの居間を明るくする人物はまだ到着する気配を見せていない。
カシスは何度もフラットの玄関に視線を走らせて帰宅しない末妹へ懇願するのだった。

 早くお姉様(わたし)を助けて!! 

と。





同時刻。
アレク川に到達したクラレットは を見つけるなり疾走し、姿こそは本来に近いが髪と瞳の色を黒くした少女・妹へ抱きつく。
外見年齢など在って無きに等しい だが、一応は周囲の年齢に合わせて外見年齢は年々徐々に上げている。

「無事でよかったわ、
ぎゅーっと を抱き締めて幸せに浸るクラレット。
因みにハヤトと半透明ながら存在をアピールするイスラは無視。
クラレットに抱きつかれて はクラレットを抱き返し、ニッコリ微笑んだ。

「俺はオマケにすらならないんだな……」
挨拶もされないハヤトは頬を引きつらせてぼやく。

「そんなことないわ!! ハヤトが居なかったら と気軽に会えなくなるじゃない。わたしにとっては大切な仲間よ」
論点が大いに外れた……。というよりかは。
明らかに のオマケ以下だと言外に含ませたクラレットの力説に誓約者達の顔が強張る。

「………」
ゆっくりした動作で頭を左右に振りトウヤがハヤトの肩を叩く。
「オマケ以下か」

 絆ってなんだろう?
 仲間って何だろう?

久しぶりに虚ろな瞳で空を眺めぐっと涙を堪える大学生。
ハヤトの態度に が眉を八の字に曲げて困った顔をする。

『……ある意味、 がこうなった原点があるんだね。ココには』
クラレットの態度が序の口とは分らないイスラ。
クラレットの勢いに少々圧倒されつつも第一声を発する。

「ああ。貴方が の護衛召喚獣になったイスラさんね? 初めまして。わたしは の姉でクラレット=セルボルトと申します。彼はもう一人の誓約者でトウヤ」
穏やかに微笑むクラレット。

しかしながら笑みから醸し出される黒さは隠しきれていない。
元より隠すつもり等ないのだろう。
を抱き締める腕の力を弱めイスラの方へ体の位置を正す。

「よろしく、イスラ」
クラレットに紹介されトウヤも間をおいてからイスラに言った。

『初めまして、 のお姉さん。それから誓約者殿』
応じてイスラも真っ黒いオーラを滲ませ、満面の笑みを持ってクラレットへ挨拶を返す。

トウヤとハヤトは思わず の手首を掴み間に挟み互いに手を取って怯える。

「流石は元無色の派閥に所属していた者同士。相通ずるモノでもあるのだろうか?」
互いに怖気づかないクラレットとイスラ。
両者の食えない笑みを観察して初めて が口を開く。が、観察点がズレていた。

「や。そーゆう問題じゃ……無色!?」
妹のボケに律儀にツッコみかけ。
ハヤトは の零した重大発言に叫ぶ。

今日のハヤトは叫ばされっぱなしである。

「詳しい話を全員にする為にハヤト達を迎えに来たんだよ。凡そはバノッサから聞いてるけどね? の口から聞きたがる人も居るだろう?」
困惑顔のハヤトにトウヤが事情を説明した。

と同じタイミングでサイジェントに戻ったバノッサだが、サイジェントでは三日が経過しており。
カノンを筆頭としたセルボルトに関わりのある人間は大層心配したのだ。

無愛想ながら筋は通すバノッサが無断で姿を消したりするだろうか?

そんな事はしないバノッサが消えて三日目。
突然還ってきたバノッサは主要な仲間を集め今回の事件を語って聞かせたのだ。
体調を崩してベッドと友達状態だったトウヤの不調の原因も含めて。

「羨ましい事に、バノッサお兄様は に召喚されたのよ。一緒に過去の遺跡がある島に行っていたんですって」
笑みと黒さを一割り増ししてクラレットが口を挟む。
「さよか」
どこか遠い目をして相槌を打つハヤト。

興味深い の兄姉達。
早くも個性的な面々の会話を目の当たりにしてイスラは面白い。
等と感じつつ注意深く彼等を観察する。

に愛される幸運な彼等の本質を見極めるために。

「ではここで話していても埒が明かぬな? キール兄上やカシス姉上を待たせては悪い。フラットで良いのか?」
クラレットに が問いかけた。
「ええ。バノッサお兄様もカノン君も待ってます。帰りましょう」
トウヤとハヤトに挟まれていた を手招きしてクラレットが手を繋ぐ。

トウヤとハヤトが何かを言いたそうに口を開きかけ、互いに苦笑いを浮かべ肩を竦め合う。
不思議と穏やかな空気が流れる彼等の行動にイスラが口を挟む余地は無かった。





こうしてクラレットと手を繋ぎ、 はフラットへと『帰宅』した。

フラットの居間に入ればフィズとアルバとアカネが安堵して胸に手を当て。
に駆け寄ろうとしたカシスがクラレットの牽制にあって涙目になる。
常どおりの風景が展開され……。
やって来たハヤトに気付いたバノッサが視線をハヤトへ向けた。

「無事だったか」
「お陰さまでな」
バノッサなりの労わりの言葉にハヤトが曖昧に笑って答える。

何より視界に入る真っ黒黒すけ(キール)が気になって仕方ない。
事情とやらを聞いたからこそあの状態なのだろうが。

一体過去の島とやらで何があったのか。察するに余りある光景である。

「ブツブツブツブツ………」
ブラックホールでも発生する勢いで黒い何かを放出し、呪詛の言葉を撒き散らすキールの姿。
少々危ない空気も混ざっている感も否めない。
無色の派閥の乱を治めた直後のキールに逆戻りした、キールの雰囲気に居間が支配されていた。

「キール兄上?」
の一言にキールは素晴らしい反応速度で顔を上げ。
物憂げな顔をして椅子を蹴り倒し へ駆け出し抱き締める。
この一連の行動はクラレットと同じだ。

、本当に済まない。まさかアイツが昔からああだったなんて……」
沈痛な面差しを浮かべて謝罪するキールと、つい数秒前までの真っ黒状態のキール。
とてもじゃないが同一人物は考えられない変わり身の早さである。

「禿がああだったのはキール兄上のせいではない」
クラレットにしたようにキールの背に手を回して抱き締め返して。
はキールを勇気づけるように微笑を浮かべた。

「そうです。キールお兄様の落ち度は何一つありません。アレがああだったのは元からでしょう? キールお兄様」
クラレットも穏やかに……目には剣呑な光を宿した顔で笑い、キールの言葉を否定する。
全てはアレのせいなのだと。

「く、黒すぎる」
を迂回して発生される真っ黒オーラにカシスが呻きながら率直な感想を述べる。
実の妹のカシスもあの中へ混ざるには相当な勇気を必要とするらしい。
緩和剤として座り続けるバノッサの偉大さを痛感できる図である。

「二倍比だな」
「あはははは」
しみじみ喋ったハヤトと乾いた笑い声しか漏らせないトウヤ。

の存在に掻き消されるハヤトであるが、ハヤト自身が気にしていないらしい。

本当に を取り巻く彼等の個性には驚嘆させられる。
イスラもすっかり存在を忘れ去られた状態で兄姉ズの暴走を傍観する。

「で、この自己紹介すらさせて貰えないのが の護衛召喚獣ね? あ、わたしはフィズっていうの。この孤児院フラットで暮らす子供その1」
佇むイスラを気の毒そうに眺めてフィズが話題を変える。
「モナティー辺りが泣き喚きそうだな。ますたぁ〜はモナティーだけのますたぁ〜ですのっ!! ってさ。俺はアルバ。フィズと同じくこのフラットで暮らす子供その2」
アルバがニカッと笑って腕組みした。
「うんうん。簡単に想像できるよね。あたしはアカネ。サイジェントの薬屋で働く可愛いアルバイトだよ」
が戻ってきて一安心。
アカネも人懐こい笑みを浮かべて何度も首を縦に振る。

「彼はイスラ。元帝国軍の人間、で良いのかな?」
トウヤがフィズとアルバとアカネにイスラを紹介した。
バノッサからの情報なので本人に確認をとるようイスラの顔色を窺いながら。

『そういう事になるね。宜しく、フィズ、アルバ、アカネ』
自分が元帝国軍人なのも事実である。

時を越えた現代で姉がどのように過ごしているか。
気になるが今は彼等を『識る』事が重要だ。

気持ちを切り替えイスラはフィズとアルバとアカネに愛想良く笑ってみせた。




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地球のENDでハヤトがサイジェントへ道を開いた直後のフラットです。一部の兄&姉の暴走にイスラも霞む(笑)ブラウザバックプリーズ