『断罪の剣5』




達がヘイゼルを撃退している間に、無事スカーレルとヤードを救出したアティ達。
やアズリアと合流したが。

、お説教なら後にしなよ」
顔を見るなり はウィルに釘を刺されて。
「気持ちは分るぜ? だが後だ、ハリセンは。姫らしく奥ゆかしくしとけよ」
カイルには訳のわからない宥められ方をされ。
「今は控えてください、 さん!!」
捨てられた子犬の瞳をしたアティに懇願されては としてもハリセンを引っ込めざるを得ない。

渋々ハリセンをサモナイト石へ戻した の姿に、スカーレルとヤードが手を取り合って互いの無事を喜び合う。
なんとも失礼な態度である。
後で違う形で仕置きをしようと は固く誓うのだった。

「まぁ、ほどほどにね?」
の感情を察したアルディラが困った顔で笑って諭す。
「まあ良い。汝等が元気ならその分最前線でアティを護って貰えば良いのだからな?」
両頬を河豚のように膨らませ が口をへの字に曲げる。

まずお目にかかれない拗ねる にミスミが声を殺して笑い、キュウマに咎められ。
クノンは無表情のままメモを取り出しゼルフィルドは何故か の自身の画像撮影機能でデータに収めていた。

 我がどれだけ心配したと思っておるのだ!!!
 死相は出ておらなかったが……。
 音色は乱れ顔も生来の気(き)が失せておったのだぞ!!
 ……死ななくとも酷い怪我を負えばどれだけ辛いか。
 分らぬ二人ではないだろう。

は地団太を踏みそれから深呼吸を一つする。
戦いは続行中で無色が目と鼻の先に居るのだ。
彼等が立ち去るまで不用意に乱し不利を招いてもいけない。

「は?」
盛大に剥れた の嫌味に、疲れ果ててボロボロのヤードは薄っすら口を開いて固まる。
何を言われたのか分らないほど、一瞬惚けた顔をした。
「えーっと、 ? やっぱり怒ってる」
と抱擁を交わそうとしたスカーレルが、一人怒っている に近づけず。
両手を広げた格好で恐る恐る へこう喋りかけた。

「知らぬ。私怨で奇襲をかける元気があるならさっさと行け!!」
頬を膨らませプイっとそっぽを向いた の頭をヤッファが撫でて、目だけでアティに合図を送る。
マルルゥとベルフラウが癇癪を起こした時に備えさり気なく の両隣を陣取った。
ウィルは剣を手にアティの傍らに立ち、最前線が務まる面々、ヴァルセルドやアズリア、ギャレオ、カイルと共に敵の戦力分析を始める。
各人が出来る事を最大限に行い戦う。
アティが願ったとおりの形が出来上がってきていた。

和やか? なアティ達とはまた別に、オルドレイクも冷静に状況を見定め自分の考えを実行に映そうとしていた。
「同志イスラよ、出来るな」
怪我を負ったツェリーヌ・ビジュ・ヘイゼルを見向きもしない。
オルドレイクは傍らに控えるイスラへ告げた。
「はい、オルドレイク様」
相変わらずイスラは恭しくオルドレイクへ接する。
表面上の礼儀正しさは目を見張るものの、それがイスラにとって利益になるのだろうか。
弟の従順な姿にアズリアは表情を曇らせた。

「……わしも出よう」
これまで無関心を貫いていたウィゼルが、何故かイスラへの手助けを表明する。
「僕の力では不足ですか? それとも助太刀でしょうか? ウィゼル様」
イスラの漆黒の瞳が探るようにウィゼルを見据えた。

無色の手先としてオルドレイクに屈しておかなければならないイスラにとって。
ウィゼルの言葉は時に何もかもを見透かされているようで引っかかる。

「保険だ」
ウィゼルは短く言い捨ててイスラの隣に立ち、向かってくるアティ達へ構えてみせるのだった。


こうして始まる第二ラウンド。
背後で成り行きを見守る に狙い済ませて飛ばされる小さなサモナイト石の欠片。
意図的に飛ばされ靴先に転がった欠片を手にした は、眉根を寄せ唇をきつく噛み締めた。

 ……まさか、イスラの放つ音は重なるというのか。
 可能性がゼロでない故、油断は禁物だが。
 何故、何故かように剣は主を絶望の淵へ落とし込むのだ……。
 矢張り、遺跡が求める部品として剣が主を選んでおるからなのか?
 だから壊れやすい柔らかな心を持った者が主に選ばれるのか。
 だとしたら悪趣味だな、遺跡のハイネルは。

考えながら は中堅処を護るヤッファの援護射撃を行う。
スカーレルがヤッファの斜め前方に回りこみ鋭く斬り込む。

「行くわよ!!」
ベルフラウが赤いサモナイト石を手にノロイを召喚。
防御の高い兵士に憑依させ、攻撃力と防御力を奪う。
合間を縫ってマルルゥが『フローラルアロー』で敵兵を眠らせていく。
眠りに強い兵はヤッファとスカーレルの判断によって早々に倒されていた。

 肌を刺激するチリチリした魔力の波動はイスラから発せられておる。
 避けられぬのか?
 避けようとせぬのか。
 イスラ……汝が我に問いかけた『譲れない願い』とはこの事なのか?
  あの時の汝の瞳の輝きは誰にも負けぬ強さを秘めておった。
 願いの為に全てを懸けると言った汝の本心は今何処にある。

後方支援に徹する であったが、胸奥に波打つ嫌な予感が確実に迫ってきている。

凄腕の用心棒であるウィゼルもアルディラが放った召喚術、ミスミ・スバルが繰り出す風刃と雷に屈した。
戦闘を離脱したウィゼルを横目にイスラはアティ達の集中攻撃を受け倒れかけ、体から禍々しい赤い光を発する。

考えるよりも先に は動き出していた。
驚く後方支援組、マルルゥ、ベルフラウの脇をすり抜け小高い丘から身を躍らせる。
跳躍し落下する速度を生かし は手にした短剣をイスラの手にした剣目掛け振り下ろした。

 ガキッ。

の構えた短剣をイスラは紅の暴君で受け止め弾き返す。
攻撃が防がれたのは予想済みで、 は特に顔色を変えず空中で一回転して着地した。

、君は分かっているようだね?」
何故か続けて攻撃を行おうとしない に、イスラは満面の笑みを浮かべる。

赤い光が四散した後のイオスはまるで抜刀したアティと同じ姿。
長く伸びた白い髪と怪しく輝く紅い瞳。
手にした赤い剣はイスラの何かを受け輝きを増す。
イスラの背後には金色の小さな輪が無数浮遊していてイスラの魔力を高めていた。

「もう一つの封印の剣、か。よりによって汝を主に選ぶとはな。オルドレイクが余裕の態度を貫いておるのも。たった今、理解したぞ」
は喋りながら短剣を懐に仕舞った。
最初の一撃で紅の暴君を通してのイスラの力量が測れた以上、無駄な攻撃を繰り返したりはしない。

 我の『力』をすれば砕けぬ相手ではない。
 だが……犠牲が大きすぎる。

には、腰に下げた道具袋に混ざったサモナイト石の欠片が、一層重たく感じられた。

「君自身の力を込めれば、僕を倒す事が出来る。この場にいる全員の命を道連れにね……お優しい君にはそんな事出来ないだろう?」
イスラが足を前へと踏み出す。
そんなイオスに気圧されて等いないのに は一歩後退して間合いを取った。

の行動が意図してと悟ったイオスはうっとりした微笑を へ向ける。
何かを促すように、蕩けるような笑みを湛えて。

「となると、僕を倒せるのは同じ剣の主である貴女だけだ、アティ」
以前のイスラ相手なら誰もがつられて笑うだろう。
蕩ける笑みを顔に貼り付けてイスラは紅の暴君の剣先をアティへ突きつける。

「イスラ……どうして!?」
アズリアが血を吐くような叫び声を上げてイスラに問いかけた。

苦しみから逃れる手段として無色に渡ったイスラを責める気などない。
ただ、憎しみをぶつけるなら自分だけで良いではないか!?
無色が初めて島に足を踏み入れたあの日の夜。
自分を殺しに来たイスラの言葉がアズリアの胸を攻め立てて止まない。

だからこそ、アズリアはアティと を巻き込みたくはなかった。
心優しきあの二人の心をイスラの欲望の渦へ。

「分らないのかな? 姉さんには」
真っ直ぐアティ目掛け走り抜けたイスラはアズリアへ目線すら寄越さない。
アティも応じて抜刀する。
軍人としての直感がアティの頭に警鐘を鳴らしたのだ。

「はああぁぁああ」
アティは本気で斬りかかってくるイスラの攻撃を受け止め気合を入れる。

油断すれば自分が打ち負かされる勢いを持ったイスラが、何故か嬉しそうな顔をして自分と を盗み見ているが。

疑問を直接イスラに問い質す前にイスラが攻撃の手を僅かに緩める。
ギチギチ鳴り響く剣の押し合いは僅差でアティが勝利を収め、肩慣らしを終えたイスラは大人しく引き下がった。
拍子抜けする位にあっさりと。

「次が最後だよ」
人を小馬鹿にした顔で嘲るオルドレイクの後を歩くイスラは、一言、そう残して去っていく。
イスラが過ぎ去った後、なんとも後味の悪い沈黙だけがアティ達に残された。



Created by DreamEditor                       次へ
 イスラ抜刀するの巻。神の力で砕こうと思えば剣は砕けますけど余波で島くらいは吹き飛ぶんです。
 だから主人公は途中で攻撃をやめてしまいました。ブラウザバックプリーズ