『断罪の剣4』




お茶会の翌日。
風雷の郷を襲撃してきた無色の情報を聞きつけ、ヴァルセルドとアズリア、ギャレオと共に戦場へ足を運んだ

「ヤードとスカーレルに対し元気がないと申したが我の失言だったか。元気に奇襲をかけるとは、やりおるな」
オルドレイクの前に仁王立ちして睨みつけるヤードの勇姿に はボケをかます。
「そうなのか?」
意外にボケ属性のアズリアが の台詞を真に受け、慌てたソノラに何かを耳打ちされている。

その間もヤードはかつての師であったオルドレイクの非道を暴いていく。
昔、ヤードとスカーレルが暮らしていた村で召喚術の実験を行い、村人を犠牲にし。
生き残ったヤードとスカーレルを無色の手先として育成したオルドレイクの非道を。

「禿め……昔から性根は曲がっておったようだな」
口内で は呟き盛大に舌打ちしたところで、ヤードがオルドレイクの召喚術に圧され吹き飛ばされた。

胸を張って嫌味たっぷりに笑うオルドレイクの懐に岩陰に潜んでいたスカーレルが短剣を振りかざすも、ウィゼルに見抜かれ奇襲は泡と消える。
地面に膝を付き傷を手で押さえるスカーレルと、魔力を失いグッタリしているヤード。
トドメを刺さずにアティ達がノコノコ助けに来るのを眺めるオルドレイク。

全員の立ち位置を確かめ は瞳孔を細めた。

「ソノラ、ヘイゼル達暗殺集団は我に任せよとアティへ伝えてくれ。ソノラ達は心置きなくヤード達を助けツェリーヌとビジュ+その周囲を撃破。頼んだぞ」
は背後にソノラを庇いつつ伝言を頼んだ。

ヤードに駆け寄ろうと必死のアティを止めるウィル。
激怒するベルフラウと、戦闘態勢を整えるカイル、ミスミ、キュウマ、スバル。
後方からは連絡を受けたアルディラとクノンがこちらへ走ってくるのが見える。

「任せておいて!!」
銃の安全装置を外したソノラがヴァルセルドの影から飛び出し、アティ達が固まって立っている丘の麓目掛けて全力疾走。
途中、ヘイゼルの手下の投具がソノラの身体を襲うが、ソノラは身をくねらせて器用に投具を避けた。

「さぁ、参るか。ヴァルセルド、アズリア、ギャレオ」
ポニーテールに結った髪を揺らし が右手に握り締めた銃を高々と掲げる。
「了解シマシタ、隊長」
ヴァルセルドの頭部電子システムが光を宿し命令をインプット。
流れる動作で銃口をヘイゼルへセットした。

「自分は」
「アズリアと汝はセットだ。互いの戦いの癖が分っておる者同士、連携できるであろう」
口を開きかけたギャレオを一言で黙らせ、 は銃を降ろし立て続けに五発発射。
小高い丘の下の部分、物陰に隠れるヘイゼルだけを狙って重点的に撃つ。

「ふふ、 に助けられた命でもある。付き合うぞ」
腰から下げた長剣を抜き放ったアズリアも余裕の笑み。

あの地獄の特訓を潜り抜けた影響か。
無色の卑劣な罠に落ちて自分を喪失していたアズリアからは想像もつかない、輝いた顔。
ギャレオも細かい切り傷をこさえているが体力は取り戻している。
以前は苦虫を潰した険しい顔も、今は の暴走に対する苦笑いへと変化。
ギャレオなりにこの島での争いに対する認識を纏めたのだろう。

少々の迷いは持ちつつも、以前の己に対する気持ちは吹っ切っているようだ。

の攻撃を全てかわしたヘイゼルを中心とした暗殺者集団が狙いを に定める

「喰らえ!!」
音もなく歩み寄り短剣を繰り出すマフラーが目印の暗殺者。
気配を察したアズリアが得意の先制攻撃を放ち、敵が半身を捻ったところで背後に回ったギャレオが拳を繰り出す。
「破ァ!」
渾身の力が篭ったギャレオの拳は敵の顎を砕き、数メートル先に身体を吹き飛ばした。
「アタック、ヒット」
ギャレオとアズリアの連携の間を縫ってヴァルセルドが銃を打ち込む。

アズリアににじり寄っていた暗殺者が肩を打ちぬかれ地面に膝を付く。
敵の窮状を見逃す ではなく、短剣に魔力を込めて相手を痺れさせれば他所ではアズリアが……。

ある種の精鋭戦闘集団と化した 達は魔神の如き強さを発揮していた。

相手がどれだけ強くともヘイゼルを頭(かしら)とした集団は怯まない。
集団でアズリアとギャレオを取り囲み、攻撃しては素早く離れを繰り返し、ヘイゼル自身が の前に立ち塞がる。

「………」
目の前の獲物を狩るだけ。
人らしい感情を消された暗殺者達がアズリアとギャレオの四方に立ち への援護を封じた。

アズリアとギャレオの能力が高くても多勢に無勢、数の多さに徐々に押され始めてしまう。
数十分も戦っていれば消耗激しいのはアズリアとギャレオで、回復するタイミングも逸してしまっていた。

「行くですよ〜」
間の抜けた掛け声がしたと同時に、召喚術発動時に放たれる独特の光がアズリアとギャレオを包み込む。
光の方へ顔を上げたアズリアの瞳に飛び込んでくるのは、緑の服を身に着けた花の妖精。
目が合うと、妖精……マルルゥは得意げに腰に手を当てて踏ん反り返った。
その子供じみた態度にアズリアは失笑し軽く頷き、意識を目の前の敵へ向ける。

「おらよっ……っと」
絶え間なくアズリアとギャレオに襲い掛かる刃の嵐。
防ぐだけで手一杯のギャレオの耳に届くのは怠け者の亜人の声。
面倒臭そうに言ったヤッファは槍先で暗殺者の短剣の刃先を受け止め、剣を弾き飛ばした。

「すまん」
ギャレオが武具で他の暗殺者の剣先を受け止め、豪快な蹴りを相手の足に決めたポーズでヤッファに礼を言う。

「構わねぇさ。ここでアンタ等を助けておかないと五月蝿いからな、あいつは」
ヤッファは肩を竦め顎先で を示せば、ギャレオはなんともいえない顔になって深々とため息をついたのだった。

そんな彼等とは別に とヘイゼルの一騎打ちは熾烈を極める。
銃の攻撃はアクションが大きすぎて高確率でヘイゼルに交わされる。
は途中から銃と召喚術を併用して攻撃していた。


 矢張りな。
 蒼の派閥専属の隠密となるまで、召喚術を自身で手繰った経験はないらしい。
 ならば召喚術に対する防御は物理的な防御より脆い筈。


「召喚!!」
銃を威嚇発砲し、ヴァルセルドの援護射撃を受けたタイミングで は召喚術を発動。
シルターンから呼ばれた鬼将軍ゴウセツが刃の数撃をヘイゼルへ。
ヴァルセルドの銃を短剣で受け止めダメージを散らしたヘイゼルは体制を整える間もなくゴウセツの刃を受け地へ伏した。
はヘイゼルの懐へ飛び込み足払いをかけ、ヘイゼルを仰向けに転がして左足を腹へ押し込む。
前回と同じく全ては一瞬の勝負、であった。

「死ぬのは怖くないわ。殺せば良いでしょう? 貴女の方が私より強いのだから」
追い詰められても悲壮感は漂ってこない。
感情を持たないヘイゼルの瞳が を捉える。

応じて は唇の端を持ち上げシニカルに微笑みヘイゼルの額に銃口を押し付けた。

「ヘイゼル、汝は勘違いをしておる」
銃口の先をヘイゼルの額へきつく押し当てた が囁く。
当然 の左足はヘイゼルの腹の上で、彼女の身動きを封じた儘だ。

「簡単に殺すと我が思っておるのか? 死ぬ事は汝にとって、現(うつつ)の己から目を逸らせるまたとない機会。その好機を我が与えてやる義理が何処にある」
には分る。
逃げ場のないヘイゼルが願うのは死という安息の逃げ場。
無色から効率的に逃げるには誰かを殺して生き続けるか、強大な敵の刃に掛かって己が死ぬか。

「な……私は、敵だわ。ここで生かしておいたって……」
腹にめり込む の靴底がヘイゼルの痛覚を刺激する中。
僅かな動揺だけを顔に浮かべたヘイゼルは、まるでバケモノでも見る目つきで を見上げた。

「いつでも倒せる小物を今殺すつもりはない。だからこれは汝にとっては非常に屈辱的な我の呪(まじな)いだ」
は嫣然と微笑み動けないヘイゼルの額に指を押し当てた。

神が持つ、加護の力の一部をヘイゼルへと流し込む。
以前に行ったカノンへの加護は互いに了解しあったものだったので抵抗は少ない。
バノッサもあの当時はカノンには心を開いていたので、抵抗なしに の加護を受け止められたのだ。


 実質的には我の加護だが、ヘイゼルは未来の己を知らぬからな。
 受け止められず身体に呪(まじな)いを施されたと勘違いするに違いない。
 我の手の上できちんと踊れよ? ヘイゼル。
 汝が求める未来の為に。


蒼い光がヘイゼルの額に吸い込まれ、ヘイゼルの身体は陸に上がった魚のように激しく痙攣した。
無理矢理加護の力を植えつけられた為で実質のダメージはない。
が、身体を上下に痙攣させるヘイゼルの姿は周囲に恐怖しか与えないのも事実で。

「……こ、怖いです〜!! アオハネさん」
背筋を這い上がる悪寒は止めようもなく。
のオルドレイクも真っ青の非道を目撃してしまったマルルゥが歯をガチガチ鳴らす。
が放つ殺気に当てられマルルゥの体感気温が一気に下がった。

「俺等よりも無色よりも、 の方が悪役に適してるな。あれじゃぁ」
怯えるマルルゥの頭を二度撫でてやってヤッファは気だるげに頭を掻く。

その間も槍を装備したヤッファは間接攻撃を行っているし、マルルゥも潤沢な魔力を生かしてアズリアとギャレオ、ヴァルセルドの怪我を瞬時に癒して回っている。

様は悪役ではありません」
そんな中、耳ざとくメイトルパコンビのヒソヒソ話を聞いていたクノン。
憮然とした表情でインジェクスを召喚し毒撃を敵へ与えながら一人憤慨。
鼻を小さく鳴らしたのだった。



Created by DreamEditor                       次へ
 主人公に加護の力を貰ったヘイゼルさんの末路は……物語の最後の方で明らかになります(笑)
 しかし主人公やりたい放題ですね。ブラウザバックプリーズ