『断罪の剣3』




帝国兵とアズリアの処遇を話し合ってから、クノンに連絡を取り、入院中のギャレオを脅迫。
アティ達の戦列に加える。

は一通りの仕事を終えメイメイの店に足を向けた。
怪訝そうなアズリア・ギャレオと何かを諦めた顔のウィル、ベルフラウ。
それからフレイズ、ヴァルセルドと共に。

「頑張るのだぞ? 死なない程度にな」
女神の微笑をアズリア・ギャレオに与え、メイメイに開いてもらった無限界廊に問答無用で落とし込む。
アズリア達は悲鳴を上げる暇も無く無限界廊へ消えて行った。

「兄上も共に向かった故心配は要らぬな。メイメイ、後を任せたぞ」
メイメイを待機させ、 は時間を無駄にしない為に急ぎ足で集いの泉から姿を消す。
「はいはーい♪ お酒が待ってるんだもんねぇ〜、任せて頂戴♪」
酒の一文字を瞳に浮かび上がらせたメイメイは上機嫌で を送り出してくれる。

アズリア・ギャレオ曰く『これでアティ達に勝てなかった理由が分かった』等と言わしめた地獄の訓練は初日から二日間。
新入りを鍛える理由で続けられた。

その間 は狼煙の種類をキュウマ・ミスミ・ソノラと相談し、三小隊の部隊長となった兵と打ち合わせ。
狼煙の上げ方、伝達に使う召喚獣の扱い。
多岐に渡る訓練を繰り返しなんとか様にもなってきて。
アティだけが漠然とした喪失感を味わっていた。

「なんだか申し訳ないです」
目の前に差し出される本日のお茶菓子は果物のゼリー。
アティは萎れた調子でこう会話を切り出した。
「? 何がだ?」
恒例となりつつあるカイル海賊船でのお茶会。
はお茶菓子が乗った皿を全員に配って回りながらアティへ問い返す。

「全部 さんに手伝って貰って。私は自分の事を考えるだけで精一杯で……」
ナウバの実入りのゼリーを間近にしてもアティの表情は優れない。

青空とは対照的なアティの凹み具合にソノラとヤードが一瞬お茶の準備の手を止めた。
誰もアティを責めたりしないだろう。
剣の主として翻弄されたアティは今こそ休息が必要だ。
これからも戦いが続くのだし中心はアティなのだから。
気遣いが余計な重荷になってしまったかとソノラは考え、ヤードは困った顔になるだけ。

「気にするなよ、先生。 には誰にも敵わないさ。決して先生の力不足じゃない、それだけは確かだぜ」
カイルが一瞬眉を顰め、直ぐに何時ものカイルの顔に戻って。
海の男流にアティの背中を力強く叩きアティの湿度が高い考えを笑い飛ばす。

責任感が強いからカイルも一時は に対して奇妙な敵愾心は感じた。
感じたが、同時に馬鹿らしいと感じる自分も居た。
アティはまだ気付いていないものの、 はアティが考えるほど偉大じゃない。
単純に好き嫌いが激しいだけなのだ。

「そうよ〜。アタシもカイルの意見に賛成だわ。どんなに頑張っても は剣の主になれない、主は先生。
そして無色が狙うのはやっぱり先生な訳でしょう? だったら雑務はこっちに任せておいて先生は休んでおいて貰わないと」

すっかり紅茶を入れる係りが定着したスカーレルも即座に発言する。

「そうだぞ、アティ。我が凄く見えるのは経験があるからだ。五千歳と少しの時間が与えた経験と知識だ……アティはまだ二十年と少し。差があるのは当然であろう」
カイルとスカーレルのフォローに感謝しながら、
「分かってはいるんです、ただ」
の慰めにより一層暗い顔をしてアティは下を向いてしまった。
「もどかしいのか。人事とは思えないな」
特に用もないのに人型を取ったイオスがアティの背後から唐突に声をかける。
気配を殺したイオスの行動にアティは椅子の上で飛び上がり胸を押さえた。

「帝国軍人の気質なのか? イオス」
胸を押さえるアティに目線だけで謝って、 は顔色一つ変えずに背後のイオスへ問い返す。
イオスを筆頭とした帝国軍人経験者はどこか頑固だ。
頑固で真っ直ぐで信念を貫く強さと背中合わせに脆さを持つ。

 アティは頑張りすぎておる。
 皆の笑顔を護りたいと願う汝の気持ちと音は美しく、耳に心地良い。
 だが……このままで本当に良いのだろうか?

 アティの気持ちが空回りしてしまったら。

 それにもう一つの封印の剣の動向も分らぬ。
 ましてアティを執拗に求めておった遺跡が沈黙しておる。
 怪しい……無色に態の良い部品でも新たに見つけたのか。
 あの狡猾な性格をした遺跡が黙しておるのだからな。

目だけを動かし遺跡の方角を眺め、 は目の前の茶会に意識を戻す。
「否定したいところだけど、アティも僕と似ている。アズリアもギャレオもそうだからな。共通の気質なのかもしれない」
イオスは苦笑し長めの前髪を払いのける。
ちゃっかり の隣の席を陣取って自分のお茶を優雅に飲み始めたイオスにスカーレルが殺気混じりの視線を送って。
呆れたソノラにため息をつかれる始末だ。

スカーレルはお茶を淹れ終わると自分は を挟んで隣に無理矢理席を確保してイオスを横目で睨む。

「君は軍人としての経験が在るから、だから誰かを守れる力があると考えている。間違いではないし、人として素晴らしい考えだとは思う。けど間違えてはいけない」
視線で射殺す勢いのスカーレルは視界から削除。
イオスはアティを見据え同じ群経験者としての立場から言葉を紡ぐ。
アティも相手が元同業者なので心持ち真剣に話を聞く姿勢を取る。

「何から誰を護るのか、を。人が一人で出来る事なんてたかが知れてるさ。最終的に誰を護りたいのか考えておかないとね」
昔の反省から来るイオスの言葉に全員が各々の『護りたい誰か』を思い描く。

「でも! 私は皆の笑顔を護りたいんです。争うなんて本当は……」
アティは沈黙を破り膝の上で握り締めた拳に力を込める。

取捨選択して誰かだけを護っていくなんてアティには耐えられない。
命はあるだけで素晴らしいから。
生きていれば必ず何かを掴めるから。
命の重みに差はない筈だ。

両親を失い不遇を経験したアティだからこそ、皆の為にここまで奔走できるのだろう。

「そうか、そんな考えもあるかもしれない。良いんじゃないかな」
持論に反論を持ち出されたイオス。
嫌な顔一つせず逆にアティの主張を肯定した。

人の数だけ考えがあり、考えを踏まえての行動がある。
誰かの利益と利益が衝突するのも当たり前で誰かが貧乏くじを引く事もあるだろう。
メルギトスとの戦いを経て と親交を深めるにつれイオスの視野は広がっていった。

「アティが望み実行し、現にアズリアとギャレオは助かっておる。最初は諍いのあったカイル達とはかけがえのない仲間となっておる。
アルディラや護人達とも真の友となれた。アティが頑張ったからだ、そうであろう?」
は小首を傾げアティ自身の努力で築き上げた功績を改めて音に出す。

謙虚に物事を受け止めすぎるアティは卑屈になりすぎである。
カイル達だってアルディラ達だってアティの成しえた事の重大さは十二分に理解していた。
ただアティ本人の自覚が薄い。

「そうだよ! 先生、気にしすぎ。アタシも の言う通りだと思う。
先生が頑張ったからアズリアだって説得に応じてくれたんだし、アルディラ達だって納得してくれたんだよ。そうでしょう?」
素早く反応するのがソノラ。アティにニッコリ笑顔を向ける。

「ああ、先生一人で頑張らせたからな。この先は俺達も少しは力になれるよう頑張るからな!! 遠慮なく腹を割って話し合おうぜ、ちょくちょくな」
カイルは紅茶を一気に飲み干しお代わりを注ぎ、アティを励ます。

「ええ、わたしもアティさんには深く感謝しています。剣の主が貴女で本当に良かったと思っています。帝国や無色に剣が渡ってしまったら……考えると、正直ぞっとしますよ」
会話の成り行きを見守っていたヤードも控え目ながらアティを勇気付ける。

「すみません、私が駄々を捏ねたみたいで」
羞恥に頬を染め俯いたアティの丸まった背中を は軽く一回、叩いて励ました。

「構わぬ。言葉にして不安や不満は率直に申して欲しい。我はアティの友でありたいと願っておるからな? 近頃元気のないヤードとスカーレルも、だぞ」
少し浮上したアティの心境を察し、 は話題の矛先を挙動不審が目立つ二人へ向ける。

 音が乱れておる。
 無色に属しておったヤードは兎も角。
 スカーレルまでもが尖った音を以て何かを企てておるようだ。

 無茶をせねばよいが……因果の鎖がヤードとスカーレルを捉えて放さぬ。

 新たな火種になるか? それとも。
 我も相手が禿となれば悠長に考えてもおれぬのだがな。
 責は負わねばならぬだろう。

勝手に話題だけを放り投げて自分は思考の淵へ沈んでいく

「へ? スカーレルとヤード、元気がないの??」
スプーンでゼリーを掬い上げソノラが動きを止めた。
「え、いやぁね! アタシは何時も通りよ?」
スカーレルは一瞬目を見開くと、常のスカーレルの『顔』でスカーレル『らしい』笑顔を浮かべて笑い転げる。
手をヒラヒラ左右に振るスカーレルに元気が足りないようには見えない。
「元気がないわけじゃないですよ、 さん」
ヤードも取り繕うように慌てて言い募る。
スカーレルと違ってヤードは少し怪しい。
「寧ろ元気よ、アタシとヤードは」
愛想笑いを浮かべるスカーレルへ は深く追求する事無く「そうか」等と。
素っ気無く返事を返しそれ以降は通常のお茶会が行われた。



Created by DreamEditor                       次へ
 オリジナル捏造で突っ走っております。
 まぁ主人公が介入するとどうしても話の流れが微妙に変わってしまうんですけどね(苦笑)ブラウザバックプリーズ