『話題休閑・絶望の先へと2後』



トライドラから撤退の意思を が示せば、難色を示すのがリューグ。
問答無用でカノンとアカネに沈められた哀れなリューグを運び、向かう先はファナン。

未だ意識の戻らないリューグは宿に放置され。
アカネはサイジェントへ戻り、カノンとガウムはシオンの屋台へ情報入手に出掛け。
は太陽輝く下にある青い海原をなんとはなしに眺めていた。

「……あの?」
海を眺める へ遠慮がちにかけられる少年の声。

が目だけを動かせば、上品そうな空気を漂わせた少年が砂浜に立っている。
一目で上物だと分る衣服を身に着けた少年は少し驚いたように を見て瞬きをした。

「神がそんなに珍しいか? 蒼の派閥の召喚師よ」
蒼の派閥のトレードマークバツ印。
少年から感じる魔力も半端でない事から、彼は間違いなく青の派閥の召喚師。

しかも外見年齢を裏切る実年齢を持つ大物だろう。
判断し素っ気無く応じた の態度に少年は言葉を失った。

「……我に誤魔化しは効かぬぞ」
顔は海を向いたまま。
気のない の付け加えた台詞に少年は苦笑する。
「みたいですね」
困った顔をして少年は の隣へ腰掛けた。
「僕の名はエクス。貴女が察した通り蒼の派閥の召喚師です」
少年は自ら名を名乗り へ向かって深々と頭を垂れる。

エクスなりの敬意の払い方を邪険にもせず。
かといって歓迎もせず。

は行為だけを黙って受け入れた。

「真理探究という名目の上の牢獄、か。全てを丸く治めることが無理だとは分っておるが、遣り口があざとすぎぬか? 一年前と良い、今回と良い」
具体的な名詞は出さない。
の遠まわしの痛烈な皮肉にエクスは僅かに目を伏せる。

 サイジェントでは誓約者となった兄上達の捕獲。
 そしてゼラムでは強大な潜在能力を持つマグナ達の追放。
 孤児だとトリスは申しておったが、本当は違うのか?

 ネスティとて人であって人ではないのに、蒼の派閥に従属しておる。
 深い理由がるとしか、蒼の派閥が腹に一物抱えているとしか思えぬだろう。

エクスの反応を見逃さず は内心だけで毒を吐く。

「人は貴女が思っているほど潔いモノではありません。感情がある以上、強大な力には恐れを抱き危惧します」

嘘はついても相手は神だ。
無駄でもあるし得にもならない。

エクスは己の立場からではなく、個として考えを述べる。
の皮肉は蒼の派閥全体へ向けられたものだが、エクスとしては自分の気持を先に理解して欲しかった。
警戒を解かず がエクスの視線を捉え、軽く顎をしゃくりあげて話の先を催促する。

「臆病だと言われてしまえばそれまででしょう。ですが僕達は召喚術が齎す益不利益も知っています。
危険要素があると分っていながら、簡単に何もかもを受け入れる訳にはいかないのです」

エクス自身現在の彼等への処遇は卑怯だと自覚はしている。

だが、危険要素が高い彼等を野放図にする訳にもいかないのだ。
過去を繰り返さない為にも。

真摯に告げたエクスの言葉を なりに噛み締めているようだ。

顎に手を当てて熟考している。それ以上を言わずに黙り込んだエクスと考え込む
二人の耳に届くのは砂浜に寄せては返す波の音。
遠くから海鳥が互いに鳴き交わす声も聞え穏やかな海辺を演出する。

 危険要素。
 孤児なのに高い潜在能力を有していたマグナとトリス。

 籠の鳥のように育ちながら、マグナ達と追放されたネスティ。

 彼等が危険要素?

 得にマグナとトリスが無自覚な危険要素とは一体何なのだ?

 あの森でネスティが苦しんでいたのと関係があるのだろうな。

エクスの言い分も分る。
互いに信じる拠り所が違うと主張しただけでは、何の解決にもならない事も は知っていた。

「汝にも護るべきものがあり、護る為に動いているのは理解した。だがそれを理由に彼等を監視する理由にはならない。
彼等の心は迷子になってしまっているのに。それこそ危険要素が高まるのではないのか?」
薄く笑う の皮肉は見えない棘となってエクスを襲う。

瞠目するエクスと唇の端だけを持ち上げて唇に笑みを浮かべる

「もう森に到達したぞ、彼等は。あそこに彼等のルーツがあるのだろう? 蒼の派閥が好ましくないと思うルーツが。
だが大きな流れは彼等をソコへと呼び寄せ、大きな渦へと巻き込むだろう」
エクスが森の単語に反応して顔色を変えた。

 成る程な。
 カマをかけたら見事に大当たりときたか……。

 マグナが懐かしさを感じたという、ろうらー、という言葉。

 森の悪魔が発したという事は、以前に悪魔とマグナの血筋が戦ったと想定できる。
 エクスの反応を見れば、それを蒼の派閥が知っている可能性は高い。

「身近な者を救えず、平和を満喫するのは我の性に合わなくてな。汝等派閥には迷惑を掛けないと誓おう。彼等の身柄我が預かる」

 だから口出しするな。

言外に言い捨てて はエクスに一つ案を提示する。

「全ての責任を貴女が負うと?」

 たかだか新米召喚師達を護る為だけに?

エクスの顔に彼の感情がまざまざと浮かび上がった。
嫌味を言われたと思えば予想だにない提案をされる。
のマイペースに翻弄されエクスは驚いてばかりだ。

「そうだ。もし彼等の行為で世界に危機が訪れるというのなら、我が全ての力を以てしてそれを防ごう。後の処罰は汝等で好きに行うが良い」
にとっては不思議な事ではない。
淡々とエクスの問いかけに肯定を示す。

知らぬ存ぜぬを貫くのは容易いけれど、絆の強さを深さを輝きを教えてくれたリィンバウムの為に。
限定的な人助けではあるが、行動を起こそうと はとうに腹を括っていた。

「どうしてそこまで世話を焼くんですか? 彼等の」
エクスは軽い混乱に陥りつつも、駄目元で再度 へ問いを放つ。
俄には信じられない申し出である。

「彼等が持っている本質は純粋で真っ直ぐだ。その本質を我は信じておるだけだ、深い意味はない。
余計なお節介は異界の兄上や姉上達の専売特許でな? どうやら我にもそれが感染したらしい」

喉奥で笑いを噛み殺し、 は平然とエクスへ言い切ったのだった。



Created by DreamEditor                       次へ
 これは3へもちょっぴり影響する小話。分かった人は凄い!! 
 主人公はエクスが嫌いって訳じゃありません。あくまでも非難しているのは派閥の保守的な体質なので。
 しかもエクスが総帥だとも知らないです(爆笑)ブラウザバックプリーズ