『知の略奪者2』




そ知らぬ顔してマグナ達を尾行。
というより、エルジンとエスガルドの了承を得て、ちゃっかり付いて来たアメル・ハサハ・バルレル、そして

「バルレルよ、悪魔は皆あのようにツメが甘いのか? 己からベラベラ要らぬ事を喋りおる。口にチャックをつける術を知らぬのか」

頼んでもいないのにベラベラ喋る、レイム・ガレアノ・ビーニャ・キュラー。

人間の血を奪い、血液中に流れる血識を奪う手法。
それによって召喚術を学んだと問いかけもしないうちから吐露した彼等。

余程の阿呆か、自負があるのか。

茶番劇を眺め は傍らのバルレルへ問いかける。

「あいつ等に自信があるからだろーよ。ニンゲンは俺ら悪魔から見れば弱っちい生き物だからな。殺して血識とやらを手に入れる腹積もりだろ」

腕組みしたバルレルが周囲の目(主にミモザ・アメル・ハサハ・マグナ)を気にしつつ、小声で へ返事を返す。

「それにしても召喚師の身体を乗っ取るなんて、驚きだ」
同じく の傍らに陣取るギブソンがご丁寧に研究ノートにレイムの話を認める。

研究熱心なのか、危機的状況を理解していないのか。
それとも悪魔に勝てる自信がるのか。

ギブソンがノートを纏め、ミモザがギブソンの誤字を指摘する長閑な空気。

背後から感じてマグナとエスガルドはため息をつく。

「ミモザお姉ちゃんも、ギブソンお兄ちゃんも相変わらずだな〜」

銃を構えたエルジンも呑気に笑っている。
が、悪魔三体を従えるデグレアの召喚師、レイムを前にボケている場合ではない。
筈だ。

「ふむ、ではこの場合一番狙われるのはネスか??」

真剣に考えて が発言すれば、言われた当人がギョッとして手にしたサモナイト石を取り落とす。
アメルは表面上無邪気さを装い を振り返った。

「どうして? 
「ネスは一族の記憶を代々受け継いでおる。ならば様々な知識を持っていると考えても差し支えはあるまい。
だとしたらネスを庇いつつレイム等を撃破するのが妥当であろう」

振り返った姿勢のままのアメルへ は答える。

その瞬間、居心地が悪そうに隣に立っていたバルレルがついにキレた。

「オメーはアホか!!!!」
口から泡でも吹きそうな勢いで を怒鳴り飛ばす。

バルレルの剣幕に驚き、 とアメルは揃って口を噤む。
何かを言いかけたエルジンもバルレルは一睨みで黙らせる。

「年齢と知識が比例すんなら、自分の寿命を考えた事あんのかよ!? あぁ? しかもオメーは名も無き世界の神だろうが!!
この面子の中で一番血識を盗まれたら拙いのはオメーなんだよ。アイツの魔手を名も無き世界へ招き入れるつもりか」

頭から湯気でも出せるんじゃないかと思う、バルレルのキレっぷり。

余りにも見事で、トリスさえも己の護衛獣を宥められず。
呆然と肩を怒らせるバルレルを見遣った。

「……鋭いな、バルレル」

流されないのが大物の証。
ギブソンが新たにペンを走らせ、ミモザは腕組みしバルレルの頭をぽんぽんと二回。
軽く叩いて の柔らかい頬を両手で押さえた。

「確かに、バルレルの言う通りよ。わたし達の都合でハヤト達の世界を危険に曝す訳にもいかないわ」
両頬を押さえられた が口を動かすけれど、ミモザの押さえがあるので言葉にならない。

ニンマリ笑うミモザにギブソンは僅かに首を竦ませ、仕方がないなといった態でノートを閉じた。

どのような悪魔でも油断ならないのはギブソンが一番知っている。
そろそろ頼もしい後輩達の成長を観察していないで、手助けに入らなければいけない。
ミモザの意味ありげな視線の意図する部分を悟り、ギブソンは杖を取り出す。

「マグナ、アメル、トリス?  が大好きな、名も無き世界のお兄さんに好印象を持たれたいなら、頑張んなさい。
は見張っておいてあげるから♪ あ、したいならネスティもバルレルもハサハも参加していいのよ〜」

ミモザの眼鏡の奥の瞳がキラーン、なんて擬音つきで輝く。

静かに投下される爆弾を他所にエスガルドは動きの止まった悪鬼を倒し。
エルジンもまたサモナイト石を片手にエスガルドをフォロー。

ミモザに名指しされた三人がどう動くかなんて、想像しなくても分かる。

真剣に戦い始めるエルジンの隣で、名指しされた面々がなんだか大義名分を得た侍のように。
基、水を得た魚のように。
これまでのまったりした空気を払拭してシリアスモード展開。
悪魔もなんのその的な空気を持って戦い始めた。

「……フィモマ(ミモザ)」
意味不明瞭となりそうな言葉を使って はミモザを呼ぶ。

恨みがましい の視線を受けミモザはニッコリと笑う。

「だって仕方ないじゃない? バルレルの言った事は正論でしょう? 
それにねぇ? 貴女に何かあったら、わたし達命が幾つ会っても足りない目に遭うのは確実だもの。自分の命を守ってもバチは当たらないと思うんだけど……反論は?」

緑の瞳を煌かせて へ問いかけるミモザ。
は口先を尖らせ『うーうー』唸ったきり大人しくなった。

 そ、それは。
 バルレルが正しいとは分かるが!!!
 我は友を護る為に戦ってはならぬというのか???
 これではサイジェントに帰ったカノンとガウムに顔向けできなくなるではないか。
 バノッサ兄上になんと伝えれば良いのだ。

蚊帳の外は好きじゃない。
神としての力を所構わず振りまく事は出来なくとも、己の培った力で大切な仲間を助ける事は出来る。

やっと心からの笑顔を向けてくれるようになった、マグナ・トリス・ネスティ。

同性の大切な友達と考えてくれるアメル。

異界のトモダチの危機を助けたいと が考えるのは自然の流れなのだ。

 むぅ。
 我はゲイルの素体に最適だとは言われたが。
 血識を得られそうだとは言われておらぬぞ。
 ……しかし、この空気では我が戦うのは無理か。

マグナを筆頭に、バルレル、トリス、ネスティ、アメル、ハサハが雪崩れ込む屋敷の地下室広間。

トリスは器用さを生かし敵の攻撃を避け、主に攻撃主体の召喚術を。
ネスティとアメルはタイミングを見て攻撃・回復の召喚術を使い分ける。

バルレルは、遠距離攻撃のできるハサハの招雷に助けられ、次々と敵を倒していく。

エルジンとエスガルドがギブソンと協力し、ガレアノ・ビーニャ・キュラーの力を削ぎつつマグナにトドメを任せ。

地下室広間の奥に佇むレイムへと迫っていた。

 しかし、音が乱れておらぬな。
 バルレルの音を聴いていて思うのだが、悪魔であっても感情はある。
 魂はある。
 それ故、魂が奏でる音色は聞くに堪えなくとも流れ出でるものなのだ。
 レイムという悪魔、勝機でもあるのか音が露ほども乱れておらぬ。

逆に冷笑さえ湛えてマグナの剣を己の細身の剣で受け止めるレイム。
愉しくて愉しくて仕方がない。
こんな雰囲気さえ滲ませ、マグナ達の怒涛の攻撃を受け流す。

 裏がある、のだろうな。
 この場ではバルレルしか知らぬ、マグナの遺跡での不審な行動。
 トリスに聞かせる訳にもゆかぬし、有耶無耶で済ませてきたが。

 マグナを遺跡に誘き出し、クレスメントの先祖の霊を刺激したのは……。

ミモザにしっかりと背後から抱き締められた状態で、威厳も何もないが。
は最奥から涼やかな表情を崩さないレイムの顔を見据える。

「……」
薄菫色のレイムの瞳が の黒い瞳とかち合う。

 ヒトは愚かで美しいわたし達の道具なのです。
 何故、貴女は加担するのですか?


を品定めするレイムの瞳が へ語りかける。
顔色一つ変えず はレイムの視線を跳ね返した。

 人を下等だと考える汝が遥かに嘆かわしい。
 それに我を馬鹿にするでない。
 汝のその瞳は我を道具としてしか見ておらぬではないか。
 大方、豊穣の天使アルミネのようにゲイルの素体として我を使いたいのであろう。


にレイムの暗示は効かない。
冷ややかに手痛く切り返した の返答を咀嚼し、レイムは手にした剣を自ら捨てた。

取り出した竪琴をかき鳴らし始めたレイムに、マグナ達は当惑し一時攻撃の手を休める。
すると倒れた筈のガレアノ・ビーニャ・キュラーが立ち上がり姿を変え始めた。

「そろそろお遊びはやめにしましょう。さあ、ここで我等の糧となってもらいます」
優雅に腕を振り上げたレイムを囲む凶悪な瘴気を放つ三体の悪魔。

 召喚師に憑依し、召喚術を行使する以上。
 あ奴等はある程度のレベルの悪魔だという事だな。
 瘴気は我やエスガルド・バルレルには効かぬが、人の身には辛いであろう。

「アメル!! 天使の羽の輝きを翳せ」
胸を押さえて苦しみ始めるミモザ達を一瞥し、酷く冷静に はアメルへ指示を出す。

アメルはトリスを抱きかかえながら に言われるがまま、己の羽を掲げ力を込めた。

「て、天使の力……」
本来の姿のガレアノが怯えた様子で怯み、その隙を縫ってエスガルドがエルジンとマグナを担ぎ上げる。
「イヤァァ」
ビーニャもアメルが放つ輝きから逃れるよう物陰に隠れ、ギブソンがハサハを抱きかかえ走り出した。

バルレルは槍でキュラーを威嚇しつつ、アメルの立つ場所まで後退。
トリスに肩を貸して出口に向かい移動し始める。


「……ふ、足掻きますね。神ともあろう存在が、ああも地道に頑張るとは滑稽な」

召喚師実体事件の真相は掴んだ。
全面的な争いを避け、撤退していくマグナ達。

の背中を、余裕を持って見送りレイムは冷笑を湛えながら皮肉を口に出す。

レイムの背後に控える三体の悪魔達は黙ってレイムの呟きを聞いていた。




Created by DreamEditor                       次へ
 レイムさん余裕綽々〜。一応ある程度の策があるからなんですけどね。
 バルレルも当面は距離を保ちつつ主人公と接するも、トリスとは違った意味で主人公を大切にする、のかなぁ?
 今回はミモザ女史の作戦勝ち(笑)ブラウザバックプリーズ