『話題休閑・小さな召喚師2後』




アメルは兄代わりの双子・ロッカとリューグの提案に戸惑う。
「でも……」
何時もは穏やかなロッカでさえ同意しているのが、アメルには信じられない。

二人の兄はアメルの今後と己達のこれからを話し合っていた。
身の振り方や行動の仕方を。

ロッカがアメルと行動を共にし、リューグが一人残って戦ったアグラ爺さんを捜す。
互いに連絡が取れない場所に居たら、ギブソンかミモザに伝言を頼む事。

シンプルといえばシンプルだ。
それでも双子の出来る精一杯を詰め込んだ、シンプルな提案である。

「アメルが不安に思うのは分るよ? でも僕はリューグの気持ちも尊重したい」

アメルの身を案じながら『バカ兄貴が護ってやりゃいーじゃねぇかよ』なんて。

素っ気無い口調で遠まわしに、自分がアグラ爺さんを捜しに行くと名乗り出たリューグ。
弟の天邪鬼に苦笑しつつ、護るべきものの為に動くリューグをロッカは頼もしいと思った。

「バカ兄貴の割には物分りがいいじゃねぇかよ」
ロッカが弟の成長を喜ぶ顔は、横で見ていて恥ずかしい。
思わずリューグは憎まれ口を叩いた。

「リューグ! 喧嘩別れをしたいわけじゃないんだよ、僕は」
口調程は怒っていない。
どちらかというと、弟の照れ隠しの憎まれ口に呆れた様子でロッカはリューグを宥める。
「はっ」
対するリューグはロッカの態度が気に入らないのか、そっぽを向いた。

「でも、一人じゃ危険だわ。あたし……リューグにもしもの事があったら……」
両手を握り締めてアメルは俯いた。

脳裏をよぎるのは己が居たばかりに、巻き添えで殺されたレルムの村の人々。
これ以上誰かを犠牲にしたくない。
アメルは願っている。

「心配は要らないよ。リューグは自分の力不足を解消するために、暫くは さん達と一緒に修行するって。 さんもカノンさんも良いって言ってくれてる」

リューグを案じてのロッカの発言から、取っ組み合いの喧嘩へ発展したこの双子。

通り掛ったガウムに喧嘩を止められて。
事情を聞いた が提案してきた。

暫くリューグと行動を共にし、互いに必要な部分を補い合おうと。
地理や情勢に疎い 達と、未熟な己の腕を嘆くリューグ。
間に入ってくれるカノンの存在もあったので、ロッカは申し出に甘える事にした。

現実を見て、アメルを護る兄の役割を果たす為に。
自分達の力を過信しないで、でも譲れない部分を譲ってしまわない為に戦うと。
弟と誓ったのだ。

「そうなんだ……よかった」
両手で頬を押さえてアメルは幸せそうに笑う。

リューグが一人復讐に走ってしまうのではないか。
アメルはずっと不安だった。

でも一緒に 達が行動してくれるなら、必ずリューグを止めてくれる。
リューグが居なくなるのは寂しいけれど、不安は無い。
だから嬉しいとアメルは思う。

「ああ、本当に」
幼少期から団体行動が苦手で。
人一倍優しいのに不器用な行動と言動で相手に気持ちが伝わらない。
そんなリューグを心配していたロッカも、心の底から安堵。

「……」
褒められているんだか、貶されているんだか。
アメルとロッカの考えるところの、リューグ像はかなり偏っている。

不服そうに目を細めたリューグだが、これ以上突っかかっても時間の無駄だと考え沈黙した。

「……本当はね、あたし。 さんに嫌われてるのかと思ったの」
一頻りロッカと笑い合った後、アメルがポツリと洩らす。
ロッカとリューグは揃って首を傾げる。

「会って間もないのもあったし、マグナさんが責めて泣かせたっていうのもあったんだけど。
避けられてたし、一緒の屋敷に居るのに話した回数も少ないし。だから……嫌われてるのかと思ってた」

カノンやガウムとは散々顔をつき合わせている。

なのに、 と会う事は少ない。

他のメンバーを見ているとそうでもないので。
自分だけが避けられているのかと、ロッカもリューグも自分も。
嫌われてしまったのではないかと、アメルは気に病んでいた。

厄介者はこちらで、向こうはギブソン達の正式な客人なのだから。

「それは違うよ。 なりにアメルに気を使っていたんだ。マグナのアレは抜きにしても、心配してる。
アメルが悪夢から早く立ち直れるようにって……自分の言い方は直接的だから、アメルの気分を害するんじゃないかと。気を使っていたよ」

アメルの頭をそっと撫でてロッカが首を横に振る。

リューグの身柄について提案された時。
自嘲気味に笑いながら は非礼を詫びていた。

心を傷つけられたアメルを、自分の言葉で傷つけたくない、と。

「僕達よりも幼いのに、とても優しくて強い子だね。 を見ていると僕もしっかりしなくちゃな、そう思えてくるんだ」

一本筋を通す部分だとか、引き際を弁えている所だとか。

とても自分より幼いとは思えない の行動・言動。
比較しての己が恥ずかしくなってくる。

良い意味での起爆剤となってくれた に、ロッカはとても感謝していた。

さんはとても温かい感じがする。マグナさんやトリスさんに感じたのと同じで懐かしい。初対面とは思えないの。
優しくて……この空みたいに、大きくて綺麗で見守ってくれる。上手く言えないけど、そんな感じがするの。時々胸が苦しくなって泣きそうにもなる。なんでだろう?」

だからアメルは と話がしたかった。
この懐かしさを訴える気持ちの原因を突き止めたくて。
アメルは正直に感じたままを告げる。

「そうね……例えるなら、お母さんかな? わたしはお母さんの事覚えていないけれど、でもきっとお母さんに感じる気持ちに近いと思う」

年下の女の子(ミモザから聞いた)相手に感じる感情じゃないけれど。
コレが一番当て嵌まる気がしてアメルは兄代わり二人へ言葉を付け加えた。


を男の子だと勘違いしている、兄二人。
とりあえずアメルが に対して恋愛感情を抱いてないと悟り安堵のため息。

アメルとしてもこれ以上追求されると変なことまで口走ってしまいそうなので喋るのを止める。
双方、ちょっとした勘違いを抱え別れる事になるのだが、三人の誰もが互いの勘違いには気がつかなかった。



Created by DreamEditor                       次へ
 やっと双子が分解(し、失礼!)これから別行動っぽくなっていきます。ブラウザバックプリーズ