『縛鎖を断つもの4』




マグナの前に立ち はマグナを、虚ろな蒼に近い紫の瞳を見上げる。
「汝の願いは分っている」
微笑を浮かべ がマグナの手を掴み取った。

「羨ましく、妬ましかったのだろう? 我が。汝が想像もつかぬ力を以て敵を撃破していく我が憎かったのだろう。
汝が欲した全てを持っていた我が、疎ましかったのだろう」

こんな風に、あの時のバノッサはトウヤとハヤトを見ていたのだろうか。

つらつら考えていた へマグナの片手が伸び。
の圧し折れそうな細い首へマグナが片手を添えた。

「マグナ殿!! 目を覚ますでござるよ!!」
居合い抜きで影が放った召喚術を真っ二つに斬り、カザミネがマグナの名を呼ぶ。

カザミネの願いを嘲笑うかのよう。
マグナは に掴まれていたもう片方も の首に当てる。

「ゲイルの素体になる事は出来ぬが。汝が我の存在を許容できなければ、消せば良い。汝が望むなら我は抵抗せぬ」

慈愛に満ちた眼差しをマグナへ向け、マグナの閉ざされた心に届くように。
は動揺の色も浮かべずマグナの成すがまま。
マグナは首にかけた手に力を込めた。

「何してるの!! 、抵抗してよ!! マグナ……目を覚ましてぇ!」
ルウは自分で出せる精一杯の大声を発し、 とマグナの名を呼ぶ。

その間も懐から取り出した水晶を媒介として聖母プラーマを召喚し、前線で戦うシャムロックとユエルを癒している。

強まるマグナの手の力、呼吸が荒くなる
無抵抗の に仲間達が二人の名を叫んだ。

「神ノ余裕カ……オ望ミ通リ殺シテヤル」
凄みのある表情を浮かべ の首をマグナは絞める。

殺意の篭るマグナの瞳には相変わらず何時もの澄んだ瞳の色が無い。
鈍く濁った眼を血走らせてマグナは更に手へと力を込めた。
下方で影と戦う誰かの悲鳴が重なり合って響きあう。

 マグナよ、汝そこまでは腐ってはおるまい?
 早く目覚めよ。
 嫉妬如きで相手を殺す等、汝には出来ぬ。
 あの美しい音を出す、魂を持った汝にはな。

数分? いや、数十秒だろうか。
長く永遠に続くかと思った悪夢の光景は、マグナの異変で幕を閉じた。

小刻みに震えだすマグナの腕。

「い……やだ……、いやだ……」
ガタガタ身体を震わせるマグナが の首から手を離す。

目尻一杯に涙を溜めたマグナは数歩後退した。

「嫌だ! 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だぁああぁぁぁ」
マグナは地面に膝を付き、両手で頭を押さえ激しく上半身を左右に振る。

絶叫するマグナとマグナと重なって見える黒い影。
静かに見守っていた は無色のサモナイト石を素早く取り出し召喚した。

「人一人の命を奪うとは覚悟の居る事なのだ。汝は心底お人好しの性格をしている癖に、捻ようとするから無理が出る。目を覚まさぬか!!」

先程のしおらしさが嘘のよう。
凛々しさを取り戻した が、ソレを使って容赦なくマグナの後頭部を叩(はたき)き倒す。

 ばっちこーん。

聴覚を刺激する痛い音。
高々と周囲に木霊し、誰も彼もが戦う手を思わず休めた。

「い、痛い……」
情けなく呻くマグナと、マグナから弾き出された黒い影。

閉じた瞼から飛び散る星と、頭にジワジワと広がる鈍痛。
一気に目が覚めたがもう少し優しく起こして欲しかったと、マグナは を恨めしそうに見上げる。

「お陰でハッキリ目覚められたであろう?」
マグナへ手を差し出し、 は平然と言い切った。

汝等は孤児だった。トリスと二人支えあって生きてきた。それはそれで素晴らしい。大儀だっただろう。
だがそれは過去で、今とはまったく異なる。今の汝には支えてくれる仲間が大勢おるではないか」

小首を傾げて が言えばマグナは眉根を寄せる。

「召喚術ならファミィやミニス、ルウやギブソン、ミモザ、カイナ。トリスとネスティを頼らずとも、腕を磨けるだろう。
剣術ならフォルテにカザミネ、シャムロック。基礎を学んだ先達達に再度鍛えなおしてもらえば良い」

の台詞にユエルが爪を振りかざし「ユエルだって訓練の相手になれるよ〜」と激しく自己主張。
パッフェルとレナードの失笑を買っている。

「少しは周囲を頼れ。頼る事は罪ではない。頼れる仲間がいて支えてくれるというのは、とても幸運な事なのだ。分らぬ汝ではないだろうに」

が指摘すればマグナは目を丸くして、考えもしなかった『仲間に教えてもらう』行為を己の中で考えてみた。

きっと皆は嫌な顔一つせずに、寧ろ喜んで教えてくれるだろう。
想像してマグナは悪くないな、と思う。

「何事も最初から完璧になど執り行えぬ。だから誰もが過ちを犯し、傷つき、それでも譲れない矜持を抱えるからこそ生きる。
その姿を愚かだと思うか? 過ちを認め、悲劇を繰り返さぬよう努める事こそが、最優先ではないのか?」

「そうだな……俺、一人で走っていて、一人で戦っている気になってたかもしれない」

の手を借りるのは男が廃る。

よりかは自分は大人なのだ。
精神年齢は考慮外としても。

マグナは自力で立ち上がってから、差し出されたままの の手を握り返した。

「ごめん、本当にごめんな。俺、 に八つ当たりしてた。 だし、俺は俺なのに。なんか みたいにならなきゃいけないって思って、焦って、苛々してた」
「けっ! ニンゲン! お前みたいなヒヨッコが みたいになれる訳ねーだろよ」

はにかみ へ謝罪するマグナに横槍を入れたバルレルが、ルウの肘鉄によって地面へと沈む。
素直に謝るマグナの謝罪を は満面の笑みを以てして受け入れた。

「処でマグナの先祖よ、ゲイルに固執しまたリィンバウムに戦火を齎すのか? 子孫の苦悩を増やし、罪人の烙印をこれでもかという程に押すのか?」

子孫の身体から弾き飛ばされた主犯格?
挑発的に薄く笑って問いかける はちょっぴり凶悪チックで。
影はたじろぐ。

「それもちょっと違う。俺の先祖はメルギトスに復讐したかったみたいなんだ。ネスの先祖とクレスメントを傷つけたメルギトス。
メルギトスを野放しにすればリィンバウムに危機が訪れるだろう? それを防ぎたかったみたい、なんだ」

の貫禄に怯える影。
マグナという寄り代を失い、気まずさ大爆発といった雰囲気か。

身を縮込ませる影を咄嗟に庇い、マグナにしては論理立った言い訳を口に出した。

「成る程な……ならば安心してあの世へ旅立てるよう、我等の実力を特と見るが良い。ゲイルを出せ、我等が粉砕してやるぞ」
はハリセン片手にとんでもない要求を突きつける。

呆気に取られるメンバーを他所に、 の威圧に耐え切れなくなった影が遺跡へ働きかけゲイルを召喚した。

さんは良くても、わたし達が持ちません!!」
遺跡から飛び出したゲイルの攻撃を剣で受け止め、シャムロックが悲鳴をあげる。
「おい! 俺等を勝手に巻き込む、な!!」
へ文句を言いつつバルレルが槍でゲイルを貫き。
それでも稼動するゲイルの脇腹へレナードとパッフェルが銃弾を打ち込む。

「行くぞ、マグナ」
「ああ」
紫色のサモナイト石を取り出し、 がマグナを促す。
マグナは が手に持つサモナイト石へ自分の手を載せた。

召喚術発動の眩い光が遺跡を照らし出し、サプレスの霊竜・レヴァティーンが出現し羽を羽ばたかせる。

「あわわわ、に、逃げるわよ」
サプレスを知るから余計にレヴァティーンの凄さが分る。
ルウが絶叫してレナードの上着の裾をグイグイ引っ張った。

ルウの本能が一刻も早い避難をとルウに働きかけている。

「言われなくとも逃げるさ。ユエル、シャムロック、パッフェル、バルレル、カザミネ。あっちへ避難だ」
慌てふためくルウとは対照的。
異世界ドッキリ生活には慣れたレナードが、顎先で遺跡から程よく離れた木と岩の陰を示す。

レナードの指示にメンバーは頷き、カザミネが最後尾を担う形で素早く移動を開始。

「えーっと…… ?」

つい の言葉に反応して魔力を込めたが、レヴァティーンは誰が召喚したのか?

分らないマグナが困った顔で に助けを求める。

「我は導入部分を手伝ったに過ぎぬ。マグナ、汝の魔力で召喚されたレヴァティーンが指示を待っておるぞ。早く何か言ってやれ」

悪戯の成功した顔で がマグナの脇腹を狙って突く。
の思わぬ攻撃? に、奇妙な顔になったマグナはおずおずとレヴァティーンを見上げ。

「えーっと、あの機械悪魔を攻撃?」
なんて。
及び腰の疑問系で攻撃命令を出した。

マグナの言葉を受け、レヴァティーンが全身を淡い紫の光で満たし始める。

 矢張りマグナも大層な魔力を身体に秘めておる。
 我が目に狂いはなかったわ。

なんだかんだ言って世情に疎いマグナ一行。

マグナ自身の問題は片付いても、今後を考えれば問題山積。
彼等には一層強くなってもらう必要がある。

考えた の頭上を、レヴァティーンが発した光線が通り過ぎていく。

ゲイルはレヴァティーンの一撃で全て沈黙。
一瞬で全てが片付いてしまう。

マグナが意見を求め背後の先祖を振り返るも、彼等はレヴァティーンの光によりとっくに昇天した後だった。



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 マグナも一応は気持ちに区切りを。ってこんなオチですみません。ブラウザバックプリーズ