『縛鎖を断つもの3』




留守番を任されたカノン達の見送りを受け、空を悠然と舞うメイトルパの召喚獣。
本来ならば超攻撃的な性格な筈。

が、現在は を乗せて意気揚々という雰囲気である。

「ゲルニカの使い方、間違ってない?」
サプレス以外は専門外だけど知識はある。
ルウが破天荒な の荒業に早くもツッコんでいた。

鋭いかと思えば大雑把な面を見せる の性格がルウには掴めない。

「そうか? 喜んで乗せてくれているぞ」
ゲルニカの硬い皮膚に手を当て、 が撫で撫ですればゲルニカは喜びの咆哮を放つ。

「大丈夫だよ、ルウ。ゲルニカは喜んでいるもん。ユエルだって風を切ってビューってするの楽しくて好き!」
小さな身体に反比例する大きな肝っ玉。
ユエルも風に靡く髪を押さえ、はしゃいで尾尻を何度も振っている。

「空の散歩なんて滅多に出来ない事ですから、楽しいですねぇ」
「眼下に広がる中央エルバレスタの景色は、真に広大で雄大。爽快な眺めで御座るな」
「まぁ、慣れれば楽しいかもな」
大人組、パッフェル→カザミネ→レナードの順にされる発言も余裕が含まれていて。

「……結構、高く飛んでいるんですね……うう」
唯一、非常に高い所が苦手なのか。
ゲルニカの背と相性が悪いのか。

青ざめるシャムロックを除いては全員平然としている。

自発的に付いて来たバルレルは胡坐を掻いて座り込み、我関せずを貫いていて一連の会話には不参加。

「なら、いいけど」
天然箱入り。
つい最近まで外界との接触が低かったルウも、仲間からの苦情が無いので『まぁいっか』という感じで会話を打ち切る。

出来る限り高速でアルミネスの森へ向かって飛ぶゲルニカ。
数分もしないうちにゲルニカはアルミネスの森結界手前に舞い降りた。

「ユエル、いっちばーんっ」

 とう。

なんて擬音つきでユエルがゲルニカから飛び降りる。

「元気ですねぇ〜」
微笑ましくユエルを見下ろしながら、パッフェルも手馴れた動作で地面へ着地。
カザミネ・シャムロック・レナード・バルレルも経験があるのか難なく地面へ降りて。
尻込みするルウの手首を掴み最後に が地面へダイブ。

「……我の結界を天使の羽ですり抜けたな。森の中央からマグナの気配が感じられる」
自身で張った結界の手前で が森を睨み静かに口を開く。

全員が森の悪魔兵を脳裏に浮かべ無意識に唾を飲み込む。
緊張という感情を浮かべた彼等に は微苦笑した。

 それにしても、マグナと共にあるあの気配。
 レイムに酷似しておるが、ほんの僅かに違う気配も持っておる。
 この目で確かめるしかあるまい。

本当にマグナを助けられるか、実は五分五分。
を拒絶しなかったバノッサと違い、明らかに拒絶したマグナの心にどれだけ の、マグナを想う仲間の気持ちが届くかは未知数で。
も結構緊張していたりする。

「悪魔兵は我が前回恐怖心を与えておいた故、心配は要らぬ。行(ゆ)くぞ」

 己の不安を感じさせてはいけない。

表面上は常と変わらない口調で合図を送り、 は森の結界を解いた。

鬱蒼と生い茂る木々の間から覗く悪魔兵の殺気に満ちた瞳。
全身に浴びて 以外のメンバーは一瞬怯むも、歩き出した に遅れまいと歩き出す。
が前述した通り、悪魔兵は の存在に恐怖し、慄き、遠巻きに彼等を見守るだけで手出しはしてこない。

「一体どんな戦いをしてたんだ、あの子は」

青天の霹靂。
前回の森の探索を回想しなおしてもそのギャップは広がるばかり。

悪魔兵の意外な行動についついシャムロックが本音を吐露する。

「鬼神の如き戦いでござろうよ。 殿の強さは半端ではござらんからな」
の強さを知るカザミネはしたり顔。
対して驚きもせずにシャムロックへ答えた。

堂々と森を突き進む 達と手が出せない悪魔兵。

ルウやレナードが時折方向を修正し、大した手間もかからず件の遺跡へと到達。
遺跡周囲には、オイルと血の混じった液体を垂れ流すゲイルの残骸がちらほら転がっていた。

「内部に入るにはトリスかマグナの力が必要だったみたいです。遺跡へ攻撃してみたんですけど、わたし達の一撃はどれも無効でした」
足元に転がる残骸を器用に避けて歩きパッフェルが にあの時を話す。
「しかも、あの時は遺跡を下手に刺激ちしまってな。警報が鳴ったかと思ったら、ゲイルが飛び出してきてコレだ」
レナードはゲイルの残骸を靴先で突いて、口からタバコの煙を吐き出した。
「拙者の居合いも、ミニス殿の召喚術もこの建物には効果が無かった。 殿、どうするでござるか?」
入り口は一つもない召喚実験施設。
見遣ってカザミネが を振り返る。

建物を観察していた は両耳のピアスを指で弄り熟考を始めた。

 クレスメントの声と魔力に反応して開く扉。
 そして内部からはマグナの気配。+オマケ。
 内部に入るのが不可能なら取り出せば良い。

 少々手荒だが構わぬだろう。

小さく笑って は己の魔力を一気に解放する。

普段ピアスや装身具に溜め込んだ の魔力は遺跡を取り囲み、内部のシステムを刺激。
神の魔力に満たされた遺跡は が狙ったとおり反応を示した。

「……」
虚ろな瞳を持ったマグナが遺跡内部から突如現れる。

 移動装置が備わった施設か。
 敵襲に備え、予め登録された者しか内部に入れぬようなっておったのだな。
 そしてマグナ……何に憑依(と)りつかれておる。

静かに額へと青筋浮かべる と対照的。
残りのメンバーはマグナの異変に眉を顰めた。

「フム、新シイ素体ニ最適ナ存在ダ」
マグナの口を借りてソレが唐突に口を開く。
視線を へ向け興味深そうに、どこか愉しそうに。

マグナが発言すれば、彼の背後に次々と黒い靄状の人影が複数浮かび上がる。

「「!?」」
ルウが、バルレルが目を見開く。

を実験材料として、ゲイルを作成するのに最良だと評価したマグナ。
漂う空気が当人ではないから、本意でないのは分かる。

けれど聞くに耐えない暴言なのは確かだ。

レナードが銃を忍ばせた上着の内側へ手を差し入れ、シャムロックも自然な動作で腰から下げた剣の柄に手を置く。

「クレスメント一族よ。召喚兵器・ゲイル、即ち、アルミネを投入した汝等はメルギトスと相打ちとなった。戦いは過去のもので既に白黒ついておる。
その汝等が新たに戦いを始めようとするのは何故だ」

マグナが持つのと同じ魔力の波動。
漂わせる過去のクレスメント達。

とりわけマグナに憑依(と)り付いた存在は目を細め小さく舌打ちした。

「ソレガ間違イナノダ。我々ヲ葬リ去ッタノハ人間デハナイ。あいつダ。我等ガあいつノ要求ヲ拒ンダカラダ。あいつハ、マダりぃんばうむヲ狙ッテイル。戦ウ理由ガアル」
言いながらマグナは を指差す。

するとマグナの背後に控えていた影達は 達を包囲し取り囲んだ。

 あいつとはメルギトスの事。
 なんらかの取引がクレスメントとメルギトスの間にあったという訳か?
 しかし交渉は決裂し、クレスメントはメルギトスに殺された……?

ユエルが威嚇の唸り声を上げ爪を振りかざす。
バルレルも槍を手に交戦の構え。

パッフェル、レナードも銃口を影へ向け を護るよう円陣を組んだ。

「だからといって子孫の身体を乗っ取って良いとでも? 思い上がりも甚だしいわ」
淡々と怒る の瞳に宿る殺気。
見取ってマグナは高らかに笑った。

「神ガ我等ヲ脅ストウイノカ? 生憎ダッタナ、神ヨ。我等ノ手ハ既ニ罪デ汚レテイル」
肩を揺らして笑うマグナの姿に、 がキレる。

 それは汝等の事であってマグナの事ではないだろう。

 この世界に『罪を憎んで人を憎まず』といった名言はないのか!!

 ええい!
 親と子供のパーソナリティは別物だろうが。
 小賢しい屁理屈を捏ねおって。

心の弱ったマグナに付け入り身体を乗っ取り、終わりの見えない戦いを続けようとするクレスメントの一族。
止むに止まれぬ理由がありそうだったが、その身勝手さを許せるほど は物分りが良い神ではない。

「影に物理攻撃が聞くかは分らぬが、パッフェル・レナード、ルウを護ってやれ。
バルレル、いざとなったら汝がサプレスの魔力を取り込み奴等を無力化しろ。
ユエル・シャムロック油断するな」

告げて は単身、遺跡の前に佇むマグナへ足を踏み出した。

!? マグナはマグナじゃないんだよ! 危ないよ」
ユエルが の行動に驚き、大声を張り上げる。

他のメンバーも同じ事を同時に考えたので、ユエルの叫びは彼等の気持の代弁でもあった。

「そうかもしれぬが、我は決めたのだ。余計なお節介を焼き、マグナのコンプレックスを刺激してしまった……それに対する責任を取ると」

振り返らず答え、一人でマグナに歩み寄る
マグナに憑依(と)りついた誰かは、唇の端を持ち上げニヤニヤ笑っている。

「責任って、あの諍いの責任をなんでお前が取るんだよ」
溜まらずバルレルも へ怒鳴った。

勝手にマグナが憤って八つ当たりしただけ。
レルムの村に居なかった が村の悲劇の責を負う必要などない。

全てを知るからこそ理不尽だと思う。

はそんなバルレルの訴えを無視した。


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 原作にはない展開? でお送りしています。
 んで今頃はトリスが復活。完全ではないけれど、アメルとネスに叱咤激励を受けてます。
 マグナの運命やいかに!? ブラウザバックプリーズ