『確かな想い2』



リューグがアメル達に再合流する事で話はまとまり、後はその方法。

「心当たりがある故、その人物の話に合わせておけ。一応アメルを捜してこのファナンまでやって来たことにしておけば良い。アグラバインへはこちらで連絡を取っておく」
ファナンの裏路地。
の心当たりの人物との待ち合わせ前に がこう切り出した。
「ああ、助かる」
リューグとしてもアメル達にこれまでの行動を詮索はされたくない。
の申し出は有難かった。
「ボク達がしてきた事は、その時が来るまで内緒にしておいてくださいね」
釘を刺すカノンの瞳は笑っておらず、背後からは説明不能な黒いものが噴出している。
顔だけで笑うカノンは末恐ろしい。
「……ああ、勿論だ」
逆らってはいけない(リューグに逆らうつもりはない)。
本能が警鐘を鳴らす中、リューグは少々時間を置いてからカノンへ返事を返した。

「キュ」

 気をつけて!

と、行動で示したガウムの耳を何度か撫でてリューグはやって来たシオンと共に、あかなべ二号店がある方角へ姿を消す。

「アグラバインの決心がついたか」
シオンとリューグの姿が完全に視野から消えて、初めて はカノンへ本音を零す。
「ええ、マグナさん達は再びあの森へ向かうのでしょうね。アメルさんの秘密も森に隠されていそうですし」
情報を総合すればアメルが狙われる理由もおぼろげに浮かんでくる。

ただ、勝手が違う地域で推測だけで動くのは危険だ。
十二分に知っているからこそカノンの明言はしない。
互いに目線を合わせ淡く笑った瞬間、聞き覚えのある声が複数。
裏路地で重なり合う。

「「!?」」
カノンと は目配せを交わし声の発生源へ駆け出す。
ガウムも即座に定位置の の頭上に飛び乗った。


細い道が続き、比較的高い建物が所狭しと並ぶファナンの裏路地。
首輪を押さえて苦しげに呻くユエルと、ユエルの主らしき召喚師の卑下た笑み。
歯軋りするモーリンとミニス。
怒りに目が据わったマグナ&トリス。
それから何故か場違いに佇むパッフェルの姿がそこにあった。

「……悪人面だな」
「まんま悪人面ですね」
耳に飛び込んでくる会話を聞いて、ユエルの召喚主・カラウスの人相を評する とカノン。

サイジェントのツッコミ組が居たら確実に『や! そういう場合じゃないって!』なんて的確にツッコんでくれるのだろうが。
彼等はここにはおらず、 とカノン、マイペース炸裂である。

「ユエル、悪い奴を倒す手伝いだって聞いたから、だから……なのに、こいつは嘘つきだった! ユエルを騙した」
涙を眦一杯に溜めて告白するユエルのこれまでの境遇。

マグナの剣を握る手に力が篭り、トリスも無意識に己の魔力を高めた。
モーリンは早くも臨戦態勢、ファイティングポーズを決めている。

「何にも知らないユエルを使って悪事を働くなんて! 貴方、最低よ!」
ミニスが杖代わりの箒の先をカラウスへ向け、怒声をあげた。

外道召喚師・カラウスはユエルをよからぬ企みに使っていたらしい。

「オルフルは機動力・攻撃力に優れたメイトルパの召喚獣だと聞いた。リィンバウムに疎いユエルを暗殺に利用したのか。悪事の王道を走るとは芸がない」
は不愉快に瞳を眇めカラウスを一瞥した。

戦いが始まり、ユエルを盾にカラウスはじりじり後退する。
マグナ達の力量では、メンバー不足も含めてカラウス捕獲は無理だ。

「ユエルの精神的なフォローはマグナ達へ任せよう。我等はあ奴を捕獲する」
物陰から物陰へ。
元々狭い一本道が続く裏路地からの逃走経路は限られる。
小さな声でしっかりと宣言し、 は移動を開始した。


数分もしないうちにユエルの盛大な鳴き声と、誰かがその場から走り去る音が響く。
は顔色一つ変えずにカノンへ頷く。
カノンは小柄な の身体を抱えると、 を空高く飛ばした。

裏路地の建物三階部分。
どの路地にも物干しロープが吊るされていて、 はそのロープを掴んでカラウスを待つ。

「ひひひ、ユエルの損失は痛いが命拾いしたぜ」
神経質な立ち振る舞いと同じ、神経質な笑い声。
立てながらカラウスは路地を駆け抜ける。

甘ちゃんの召喚師達は今頃ユエルにかかりっきりで、己を追うどころではない筈だ。
勝利を確信してほくそえんだカラウスの頭上。
黒い塊が空を切って落下し、カラウスの利き腕を狙い済まして打ち抜いた。

「ひぎゃあああぁ」
焼け付く感覚を覚える腕。
痛みに感覚を麻痺させ、路地に両膝を着きカラウスは叫ぶ。

「ヒトの命など脆く呆気ない。己に邪魔となるヒトの命を売る者がいたならば、さぞや高く買い取るのだろうな?」
銃口の先でカラウスの肩を押し、仰向けにカラウスを転がし。
は冷ややかな笑みを湛えて苦痛に呻くカラウスを見下ろした。

「さぞオルフルは使いやすかっただろう。暗殺にはな」
銃でで撃ち抜いた腕を靴底でしっかりと押さえ、 は淡々と言葉を紡ぐ。

が心底怒っているとだけ察したカラウスは恐怖に身体を凍りつかせる。
それだけ の身体から放たれる殺気はカラウスの本能を怯えさせていた。

「天に唾をすれば何れ己に還る。リィンバウムが全て正義のみで構成されておるとも申さぬ。暗殺を生業とするなとも申さぬ。しかし己の野望に無関係な者を巻き込むな」
カラウスの全身を貫く、 が醸し出す冷たいオーラ。

単身、カラウスを負って来たパッフェルも思いがけない人物の活躍に思わず足を止める。

「いつユエルが暗殺をしたいと申した? 闇で生きると汝に誓ったのだ? 呼び出せば召喚獣は道具等と汝がほざくには百年早いわ。己の器を知れ」

 バシュッ。

の構えた銃がカラウスのこめかみの数ミリ先を貫いた。
恐怖体験のどん底。
躊躇いを感じない の行動にカラウスは口から泡を吐いて失神。

「暗殺業を請け負う割に度胸が無いな、この召喚師」
「はぁ……みたい、ですねぇ」
鮮やかな の戦いぶり(脅しぶり?)に毒気を抜かれたパッフェルが、間抜けた相槌を打ちカラウスの顔を見下ろす。

表立てマグナ達を助けるつもりがなかった は、これ幸いとパッフェルにカラウスを押し付け。
早々に裏路地を立ち去ったのであった。





蕎麦屋の大将・シオンの機転で無事アメル達と合流できたリューグ。
アグラバインからの呼び出しを一行に説明し、一路レルムの村を目指す事となった。

その途中の平原で、お約束のように黒の旅団が襲ってきて……。

「はぁ」
リューグが最前列へ出て全員を護る体勢を取ったまでは良かった。
そこまでは。

その後、イオスの姿を見るなりマグナが飛び出し現在へと至っている。

口汚く互いを罵るマグナとイオスの幼稚な姿にリューグは肩の力を抜いて静観体勢。
力んで二人を見守るだけ体力の無駄だ。

「あんなに怒りやすかったリューグが、達観してる! 凄いわ」
斧を地面へ突き刺し、その柄部分に手を掛け楽な姿勢をリューグが取る。
リューグの姿を見てアメルは感激に瞳を潤ませた。
「ああ。あんなにキレ易かったリューグが何もしないなんて! リューグは一回りも二回りも大きくなったんだな」
感慨深く、リューグの双子の兄ロッカもアメルの意見に同意する。

当の二人は素直な賞賛を成長したリューグへ向けているのだろう。
何故か言葉に棘があるのだが。

「なぁ、メガネ……あいつ等、本当にあの赤毛を褒めてんのかよ」
流石のバルレルも肩を震わせるリューグを気の毒に感じ、思わず傍らのネスティへ話題を振る。
ネスティは曖昧に笑ってバルレルの話から逃げた。

「離れていて正解だろうさ、あれじゃぁな」
銃を片手で構えたレナードが苦笑し、モーリンも額に手を当てて首を横に振っている。

「気の毒のような、家族愛に溢れているような……微妙ですね」
「う〜ん、あれでも家族愛だと思うのよ」
一連の会話を聞いていたカイナが小首を傾げ、ケイナも顔を引き攣らせつつフォローの言葉を入れた。

「それにしても、熱心に何を取り合ってんだ? イオスとマグナは」
戦いムードはすっかりお流れ。気がそがれたフォルテは地面に座り込み、何かを取り合うイオスとマグナへ顔を合わせる。
「小さな袋みたいなものね」
額に手をあて日除けをしたルウが目を凝らし、マグナとイオスが持っている小さな物の正体を言い当てた。

「うわ〜、お宝かもしれないですよ♪」
パッフェルが喜び浮かれた声で反応し、銃口の狙いをきっちりイオスへ向ける。
「ないない、絶対にない」
裏手つきでミニスがツッコみ、トリスはドキドキしながら兄の奮闘を見守っていた。



Created by DreamEditor                       次へ
 微妙に虐げられる子、リューグ(爆笑)
 漸くリューグも合流し落ち着き?? あるメンバーが揃い?? つつあるマグナ一行。
 次はいよいよ例のアレです(笑)ブラウザバックプリーズ