『話題休閑・処刑台の騎士2後』




ローウェン砦で欲望の儘に暴れ、敵味方構わず負傷者を出した女召喚師。

名をビーニャというらしい。

ビーニャの置き土産?
召喚され打ち捨てられた魔獣達をあやしつつ、 は砦の惨状に深々と息を吐き出す。
階段部分に座る の上の段にカノンが座っている。

「意に沿わぬ任務と意に沿わぬ責。全てを背負うつもりなのか」

言い訳もせず無言で去って行ったルヴァイドを筆頭とする黒の旅団。
名も知らぬ一般兵達は の豪胆さに惹かれたか、感謝の眼差しを送った者まで居た。

カノンの機転で気絶中させられたリューグと、 の頭上で魔獣へ不機嫌そうに雄叫びを上げるガウム。
周囲に散らばるのは非業の死を遂げた騎士達。
は再び戻った青い空を見上げてもう一度ため息をつく。

 ルヴァイド……恐らくは知らずに、何も知らずに動いておるのだろうな。
 本質を知ったならルヴァイドとて考えを改めるだろうに。
 その確たる証が無いのが口惜しい。

脳髄にこびり付くレイムの音無き嘲笑。
蘇ってきて は魔獣を撫でる手を止め、下唇を噛み締めた。

眉を顰める の表情に魔獣が訝しげに の手のひらを舐める。

「大丈夫だ。二重誓約の原理を会得した我が汝等をメイトルパへと送ろう。案ずる事はない……そして汝等もだ。あるべき魂の流れに我が返そう」

魔獣の背後に立つ陽炎のような人影達。
の放つ神々しい光に惹かれ集まっている。

神である だからこそ視える騎士達の魂。

語りかければ影は濃く薄く濃度を変え、 の言葉を歓迎するように腰を折る仕草をした。

「異界の神である我が出来る精一杯だ、感謝しなくとも良い。汝等を助けられぬ我を許してくれ」

不甲斐無い話だが神というのはかくも不便で不合理な存在だ。
護りを本質に持つ の出来る範囲も当然限定される。

地球の神は見守る、を主とし不用意にヒトへは干渉しない。
異界だからこそ も多少の干渉をエルゴによって許され、こうして動けているのだ。

「しかし我に新たな家族と家を与えてくれたこの世界。無碍にしたくもなくば、見捨てておくのも我の性分に合わぬ。
万人を助けられぬ狭義な神であるが、我は己の矜持を曲げるつもりは毛の先程も無い。すまぬな、我の自己満足につき合わせて」
硬い表情を緩め穏やかに微笑み魂達へ謝罪する

頭上のガウムは の頭を撫でる様に何度か身体を動かした。

サイジェントでの大義名分とは違い今回は完全に の我儘で始まった人助け。
誰も彼をも救う等という大層な行動は起こせない。
不甲斐無さを嘆く の歯痒さを知るガウムとしては、少しでもその気持ちを軽減したくて。
の頭で身体を動かす。

「案ずるなガウム。我の立場を客観的に再認識しておるだけだ。我の制約は多いが、だからといって匙を投げるつもりは無い」

は瞼を閉じ己の力を、封印を解く。

溢れ出す蒼い光と満ちる清浄な気。
温かく心地良いゆりかごのような柔らかい空気。
が羽を動かせば の力が込められた風が巻き起こり、血生臭い砦の空気が払拭されていった。

「新しき命となった時も、汝達が誇り高き気持ちを失わぬように我は願おう。志半ばにして死んでしまい、その瞬間生まれた恨み辛みはここへ捨て置くが良い」

蒼い羽が数枚上昇する風に乗って空を舞い、騎士の魂達を天高く導いていった。

彼等全員が全ての闇の気持ちを砦へ残し昇天するのを見届け。
黙って を見守っていたカノンへ口を開く。

「最初から誰もが悪人だった訳でもあるまい。こ奴等とて扱う主がアレでは、人を襲う魔獣としてしか生きられぬ。
黒の旅団も、操る黒幕が腹黒ければ自然と行動が悪となる。黒の旅団の行動を擁護出来ぬが、気になるのだ」

無意識に揺れる の蒼い羽にじゃれ付く魔獣と、羽を死守するガウム。
一見微笑ましい攻防を他所に は頬に手を当てる。

「デグレアは召喚師の存在を軽んじ、疎んじていた筈でしたね。ギブソンさんとミモザさんがそう言ってました」
羽を巡る攻防を笑って見守りカノンは に相槌を返す。

「そうなのだ。デグレアに召喚師が居っても不思議はないが、アレはヒトではない。ヒトに成りすました異形の者。
聖王国を打ち砕く力を手にする為とはいえ、旧王国は自国の軍事都市にヒトではない者の介入を許すであろうか」

ルヴァイドを観察していれば答えは否。
自国の軍人として、騎士として誇り高く、人としての己に強い信念を抱いている。

恐らくはビーニャがヒトではない事も分っていないのだろう。
知らないで駒として扱われる黒の旅団。

「常套手段をビーニャ達が使うのなら、黒の旅団の末路は見えておる」
形の良い親指の爪を噛み、 は頬を膨らませた。

使えるギリギリまでルヴァイド達を使い、マグナ達を翻弄し。
その間に自分達は体制を整え欲する何かを手に入れる。
時間稼ぎの捨て駒としては持って来いの集団、それが黒の旅団である事は明白。

「……多分、バノッサさんの時と同じですね」
固い口調でカノンが黒の旅団の将来を口に出す。
は頬を膨らませたまま軽く頷いた。

 あの魔力の高さと態度を見れば一目瞭然。
 ビーニャの背後には誰かが居り、恐らくソレは同じ波動を放つレイム。
 ヒトを見下し下等だと決め付ける言動から判断しても。

 黒の旅団はあ奴等にとって捨て駒。
 マグナ達を翻弄する為の隠れ蓑にすぎぬ。

威嚇合戦を続けた魔獣ガウム双方が息切れを起こしつつ。
それでも定位置を巡って未だ争っている。
飛び交う鳴き声を聞き流し はつらつら考えた。

「諭し道を正してやりたいのは山々だが、今は無駄だな。背後の正体がヒトでないとしか断言できぬ以上、焦って策を練るのは愚の骨頂よ。考えを元に戻そうか」

現時点でルヴァイド達をどれだけ案じても、対策は練りようがない。
冷たいかもしれないが、彼等が道を誤らないよう願い。

本来のマグナの補助を行うのが妥当だと は判断する。

「次にあのヒトではない連中がマグナ達への罠を張るとしたら、それは只一つ」
は立ち上がり全ての羽を広げある一方を見据えた。

「砦の管理者が存在する都市トライドラ。そこで罠を張り上手くいけばアメルさんを生け捕りに出来ます。
このローウェン砦陥落の事実を、マグナさん達はトライドラへ伝えに行くでしょうから」

カノンも立ち上がり と同じ方角。
トライドラが存在する場所へ目線を映す。

そんな中、シリアスするどころではないガウムが、今迄で一番不機嫌な唸り声を発した。



Created by DreamEditor                       次へ
 リューグがとんでもない扱いですけど、好きですよ、リューグ……。ブラウザバックプリーズ